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異世界の勇者はお犬様(短め)

作者: 小林久奈

天空には神族が、地下には魔族が、そして地上には人族が暮らす世界・フィーリシア大陸。

お互いが他の種族の世界に干渉しないことで争いを避け、三世界は長く平和だった。


しかし、そんな平和はある日脆く崩れ去る。

地下の世界を治める魔族の王・魔王が下僕の魔族を地上に放ち侵略を開始したのだ。

力のない人族はなすすべもなく魔族によって全てを奪われていく。


争いを好まない種族の神族は、そんな地上の姿を天空から見ていた。

決して他種族の世界に降りてはいけないという戒律があったため

神族は人族を助けることは出来なかったが、ひとつの予言を人族に与えた。


『フィーリシア大陸を救うため、異世界から勇者が現れる。』


神族の予言を受け取ったのは、大陸東のバレッサ王国にある大神殿で働く神官たち全員。

予言の言葉は瞬く間に国中に広がり国王や国民達が大神殿に集まった。

そしてバレッサ国王と神官たちが見守る中、大神殿に天空から眩い光の柱が降り注いだ。


勇者の降臨


誰もがそう思い光の柱を見つめた。やがて光の柱は細くなりひとつの影が現れる。

光の柱から現れた勇者に人々は歓喜の声を上げた。誰もが勇者様!と叫び跪く。

その光景を目の当たりにした異世界から来た勇者は、驚いた表情を浮かべ固まっていた。


「よくおいで下さいました勇者様。私はこの大神殿の神官のハーユと申します。」


未だ固まったままの異世界の勇者に、神官がずいっと前に出て話し始めた。


「今、我らが住まう大陸フィーリシアは魔王に攻め込まれ危機的状況にございます。

どうか魔王を倒し、この大陸に平和を取り戻して下さい。」


神官ハーユの真剣な話に少し落ち着きを取り戻した勇者はゆっくりと口を開いた。


「ワン?」


異世界から光の柱によってやってきた勇者は、こげ茶色の毛並をもった中型犬だった。


「あぁ、突然のことで混乱するのはわかります。しかし、我々には時間がないのです。」

「ワンワン!(訳:待て待て!確かに混乱してるけど、これはおかしいだろ!?)」

「もちろん協力は惜しみません。装備も仲間もこちらでご用意致しました。」

「ワウー・・・(訳:そうじゃなくて・・・)」

「旅に不慣れな者もおりますが、必ずや勇者様の役に立つことでしょう。」

「ワン!(訳:話を聞けー!・・・っても言葉は通じないか・・・)」

「何のお話を聞けばよろしいのですか?勇者様」

「ギャン!?(訳:言葉通じるのかよ!?いや、助かるからいいけど)」


勇者としてやってきた犬が発している言葉は犬の鳴き声そのものだったが

その場にいる全員がその言葉を理解していた。


「ワンワン(訳:勇者って普通人間がなるもんだろ?なんで俺が勇者なんだよ。)」

「神族が予言しました。この大陸を救うために異世界から勇者が現れると・・・

そして今、あなたはこの世界にやってきました。つまりあなたが勇者なのです!」

「ワン(訳:俺は犬だぞ?)」

「存じておりますが?」

「ワンワンワン(訳:知っててその態度かよ!おかしいって思わないのか?)」

「いいえ?」

「クーン・・・(訳:思ってくれよ・・・)」


がっくりと肩を落とすように異世界からやってきた犬は体を伏せた。


「あぁ、大事なことを忘れておりました。勇者様のお名前を教えてください。」

「ワンワン(訳:俺の名前?俺はルドルフだ。)」


犬がそう名乗ると、跪いたままの国民たちがルドルフの名前を様付けで呼びだす。

それだけでも彼らと犬のルドルフの言葉が通じていることが証明できていた。


神官ハーユが下がり、代わりに王冠をかぶり高価なマントをつけた厳格な男が前に出た。


「勇者ルドルフよ。このバレッサ王国国王としてそなたに装備と仲間を授ける。」

「わぅー・・・(訳:勇者とか、普通は俺のご主人とかがなるもんじゃ・・・)」


ルドルフのそんな言葉も届かず、三人の男女がルドルフの前にやってくる。

一人目は鎧を着た筋肉質の男だった。


「俺の名前はローラン、戦士だ。戦いなら任せてくれ!」

「ワンワン(訳:お前は犬が勇者ってことに疑問はないのか?)」

「俺は戦えればそれでいいからな。腕が鳴るぜ!」

「ワウ・・・(訳:脳筋・・・)」


二人目は黒いローブと帽子をかぶった女だった。


「私はリーティエンド。見たとおり魔法使いよ。」

「ワンワン(訳:俺は犬だぞ?犬が勇者とかおかしいと思わないのか?)」

「・・・別にいいんじゃない?」

「ワン・・・(訳:興味なしか・・・)」


三人目は白いローブに杖を握り締めている女だった。


「あ、あの・・・わた、し、マリアナ・・・です。そ、僧侶で、す・・・」

「ワンワンワン(訳:お前は一番まともそうだな。勇者が犬っていうのをどう思う?)」

「・・・えっと・・・その、す、素敵だと、思います・・・」

「ワウ・・・(訳:駄目だ・・・まともなやつがいない・・・)」


全員の自己紹介が終わると、国王は大げさにマントを翻してルドルフに告げた。


「さぁ、今こそ仲間と共に旅立ち魔王を倒すのだ!我々は勇者ルドルフを信じているぞ!」

「「「おぉー!勇者様ばんざーい!」」」


ルドルフと三人の男女は大観衆に見送られながら大神殿を後にした。


そして彼らは旅立つ、魔王を倒しフィーリシア大陸を取り戻すために。

今ここに、勇者ルドルフと仲間たちの戦いが始まる!!




「ワオーン!(訳:どうしてこうなったー!)」


ルドルフの遠吠えは空に響きわたったが、それを気にするものは誰もいなかった。



読んでいただきありがとうございます。


連載版書きました。

こちらとは雰囲気が少し変わりますが、よかったらどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 犬が犬のまま話が進むのは、結構斬新な所だと思います。 [気になる点] 連載にするにしろ、しないにしろ、最後のしめるところは、もう少し煽り文を入れたほうが良かったかなっと思います。 あと…
2014/11/08 22:21 退会済み
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