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ドラゴンクロニクル  作者: ふぉび子ちゃん
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5/18

ss《リーとヴェリアナ》

「それで、ヴェリアナはどう思うんだい?」

 僕はステーキを一切れ、ナイフに突き刺して持ち上げる。

「さぁ? どっちでもいいわ」

 黒髪の美しい彼女はそう答えながら、優雅にその肉を口の含む。

「どっちでもいい?」

「えぇ、だって私は妹の顔が見たいだけですもの」

 僕は思わず苦笑する。

――変化系統の魔術が大分上達してきたヴェリアナは、もうほぼほぼ人間の姿を写せるようになっていた。

 ただ手が

 手だけはまだ三つ指のままで、彼女はそれを恥ずかしがるようにテーブルの下に隠している。

「ヴェリアナ」

「何?」

 僕は肉をもう一切れ、彼女に食べさせる。

「今年の焔空祭は楽しくなりそうだね」








「ほら、来たよ」

 そう言うとその男、リー・オルゾフは恭しく俺に手を降った。

 隣には薄手の黒いドレスを着た、黒髪で、唇まで黒く塗った女性が座っている。

 あれが――鎖のヴェリアナ

「やぁ、久方ぶりだねリオ君」

 リーは座ったまま俺に握手を求める。

「キスキンは? 来ていないのかしら?」

 俺はリーと適当に握手をして、ヴェリアナの質問を流す。

「要件は伝わってるな?」

 さっさとこんな場、切り上げたい。

「落ち着けリオ君、先ずは座りなよ。僕らだって落ち着けない」

「いや、結構。直ぐに出ていく」

 リーは眉を上げ、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「そう急ぐなリオ、君の分の料理もある」

「キスキンの分もね」

 ヴェリアナが間の手を入れる。

 俺は心の底でため息をつくと、リーと向かい会うようにテーブルに座った。

「このステーキはとても美味しい、食べてみてくれ。君たち財団が手に入れてくれた『魔物』の肉だ。豊潤な肉汁がとても美味なのだがね、如何せん臭みが強い。ウチの料理人が試行錯誤の末になんとか――」

「それよりも仕事の話をしないか?」

 無理やり話を遮ると、流石のリーも怪訝そうな目を覗かせた。

「そんなに僕が嫌いかい?」

「俺の注文は『ホンユ』の情報で、食い物じゃない。それだけだ」

「僕にとっては、肉も情報もそう違いはない。体の一部となるか、思考の一部となるか、その違いしか両者には無い」

「あぁそうかい」

 苛立つ俺を尻目に、彼は肉を一切れ頬張り、美味そうに咀嚼し始める。

「リオ君、人が物を食べるとき、何を基準にしてそれを決定してると思う?」

「は?」

「簡単なクイズだ、人々が食物を選ぶ時、最大の基準は何か?」

「悪いがリー、下らない話に付き合ってる暇は――」

「正解は、『どんな体を作りたいか』それが最大の理由付けとなる」

 そう言って彼は背もたれに寄りかかり、俺へ向けていた視線を少し浮かす。

「つまり僕は魔物のような強い体を作りたくて、こうして魔物を食ってるのだよ」

 さて、リオ君――そう言って彼は薄ら笑いを浮かべる。

「君はどんな思考を作りたくて、『ホンユ』の情報が食べたいのかな?」

 こいつ……やはり何か知ってるな。

 俺から何かを引き出そうとしてやがる。

「リオ君はもっとシンプルな情報ばかり食す人間だった。一体どういう風の吹き回しなのかな……とね?」

「ほっとけ、余計な詮索をするな」

 リーは俺の牽制を鼻で笑うと、再びステーキを切り刻む作業に戻る。

「この肉と一緒でね、ホンユの情報はいささか希少なんだ。誰もが彼女の正体を知りたがり、そして誰もがそれを知らない」

「お前は知ってるのか、リー」

「君こそ。知ってるんじゃないかい?」

 そう言って彼は、ヴェリアナに何かヒソヒソと囁きかける。

 彼女は楽しそうにクスリと笑うと、私をジッと見つめる。

 ヴェリアナ……こいつが、キスキンを……

「三週間程前まで、ホンユはある特殊な訓練に加わっていたの。攻城戦におけるギド連邦の切り札、精鋭部隊『スマイター』の訓練にね」

 ヴェリアナが透き通った声で、唐突に情報を喋り始めた。

「スマイター? ホンユが選ばれたのか?」

 俺は思わず尋ねる。

 スマイター、その名はよく聞く。

 ギド連邦最強の切り札、攻城戦でのエース分隊の名だ。

 かつて一度、ミリーを打ち倒したという伝説もある。

「ヴラグとホンユのペアは、そのスマイターの分隊長候補だったらしいわ。まぁ成竜なんだし、当然と言えば当然の成り行きよね」

 非常に高い戦闘能力と、その結束力を武器に、強引に相手をねじ伏せる分隊。

 優秀な指揮官によって動かされるスマイター達は、時として台風の様に暴れまわり、観客を沸かせる。

「連邦の高官達は大いに沸き立っていた。成竜がスマイターの分隊長を務めるのは、そう伝説の第四期スマイター、カルシナ様の時以来だからね」

 ――あぁ、でも正確には「なりそこない」だったっけ?

 ヴェリアナは嫌味っぽくそう付け足す、リーは大袈裟に笑う。

 俺はそれに辟易しながら、質問を挟む。

「スマイターの訓練は全て極秘なんだろ? 良くそこまで知ってるな」

「普段だったら私も、この段階でこんなに情報持っていない」

「というと?」

「大きな事件があったの。ここから先は全て噂なんだけどね――」そう言ってヴェリアナは得意げに目を細める「――スマイターの訓練が中止になったらしい」

 中止?

「は?」

 中止だと?

「信じられないわよね?」

 スマイターの訓練が中止? 前代未聞だ。

 中止なんて、そんな前例は少なくともこの一世紀もの間、一度も無かった。

「現在訓練場は完全閉鎖。カルシナ様が直々に事態の収束に乗り出してるんだって」

「何があったんだ?」

「殺人があった、そう聞いてる」

「殺……人?」

「教官が一人殺されたとか」

 俺の思考が完全に停止する。

 殺人? 殺人だと!?

 そんな馬鹿な……

「どうして? 何の為に? なぜそんな馬鹿な事を?」

「さぁね。相当惨い殺し方だったそうよ」

 馬鹿な、馬鹿げてる。

 この空の世界で、殺人なんて物はまず起きない。

 何故ならミリー様がいるから。

 ミリー様が、そういった悪しき事象を発生させるような因果は、全て断ち切ってしまうから。

 有り得ない。

 有り得ないんだ。

「噂はいろいろある。教官は生皮を剥がされてたとか、臓器をバラバラにされて瓶詰めにされてたとか、死体の一部が喰われてたとか……」

 俺はいよいよ混乱する。

 何故だ、何故そんな惨い事――

 しかもヴェリアナの口ぶりからは、まだ解決してないように聞こえた。

 何故解決されてない、そもそも何故そんな……

 その時、俺の思考はけたたましい悲鳴と共に旧停止した。

 答えが、恐ろしい答えが――

「どう思う、リオ君?」

 リーが静かに私に尋ねる。

 彼はゆっくりと、フォークに刺さった魔物の肉持ち上げた。



 そう、魔物ならできる。

 ミリーに察知される事なく、殺人を――



「なぁリオ君、君はどう思うんだい?」

 リーが再び尋ねる。

 俺は顔を上げる。

 リーとヴェリアナが氷のように冷え切った瞳で、俺をじっと見つめていた。

「まるで魔物の仕業みたいだと思わないかい?」

 それまでの胡散臭い陽気さの抜けた、突き刺すような口調。

 動悸が激しくなる、嫌な汗が吹き出す、俺は何も答えられない。

「リオ君、君は何故ホンユの情報を求めたのかい?」

 違う、アズラはそんな……

 彼女は殺人なんて……

「君は何を知っているんだい?」

 俺は席を立つ、そして逃げるように出口へ向かう。

「答えろリオ! お前ら財団領は何を逃がした?」


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