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戦闘員の日常2

日本の小さな町での平凡な日常です。

5-6-2  戦闘員の日常2


 オレは打ち込み作業に没頭し、時間を忘れていた。するとこの支部で一番偉い人が声をかけてくれた。

「戦闘員222号」

「はいっ。」

 オレはすぐさま立ち上がった。今回はそんな番号か、と思う間もなく。毎回適当なんだよなー。しかし南部さまは気にもかけずに命令を下した。

「新たな任務を申しつける。現在の任務はキリの良いところで終了させよ。」

「承知しました。」

 オレは数分間作業を継続し、PCのシャットダウンにカーソルを合わせた。宇宙人の“妖精”ならば言葉どころか思っただけで終了するのだそうだが、ここではまだまだパソコンが大切である。きちんと電源オフを確認し、スイッチを切る。

「南部さま、新たな任務とは?」

「この書類を怪人バットに届けたい。ついてはA駅前の『こうもり保育園A駅支店』に持っていき、バットに届くよう依頼してほしい。」

…要は、逓送ですか。郵便費を節約するため、支店から本店への配送便に同封してくれと頼むわけだ。しかし、世界征服の文書を業務便と一緒に送るのっていくら経費削減のためとはいえ、どうなのか…高校生のオレには少し疑問だ。

「内容は玄関マットの値上げについてだ。重要文書なので間違いなくな。」

世界征服関係ではなかったかー。しかし、玄関マットの洗浄や交換も我が支部の重要な収入源である。確かに重要文書だ。それが証拠に無言の事務員さんはともかく、クジコさんも今の会話に口を挟まない。ドクター西上も改造人間制作費が向上するからだろう。うんうんと肯いている。ん?改造人間は制作か、それとも製作か、と疑問がよぎる。これも“妖精”持ちなら即座に解決するのだろうなぁ。

「それでは、戦闘員222号は本日の業務を終了し、帰宅いたします。途中こうもり保育園に立ち寄り、重要文書を依頼いたします。」

 オレがそう告げると南部さまが立ち上がった。他の支部員も即座に立ち上がる。無論オレも起立したままだ。

「全てはゾッカーのために。」

「「全てはゾッカーのために。」」

「ゾッカーの栄光をあまねく世界に!」

「「ゾッカーの栄光をあまねく世界に!!」」

「ありがとうございました。」

いつも思うが、南部さまの最後の一言はいらないんじゃないかなー。オレは自転車をこぎながら、それをいつ言うか考え始めていた。


『こうもり保育園』に到着した。受付のお兄さんに挨拶をする。いつも爽やかな人である。彼も世界征服分野の一員なのでちょっと安心する。

「すみません。これいつも通りバットさ…小森社長に逓送お願いします。」

受付のお兄さんに微笑まれた。仕方ないミスじゃないか。

「いつもご苦労様。アルバイトなのにこんな時間まで大変だね。」

 22時になるかならないか。普通の高校生には夜だけど、この保育園を利用する人にとっては、子供を受け取る一番盛りの時間帯だ。このあと家に帰って、やっと親子の時間になるのだと思えば、社会の大変さが伝わってくる。それで保育室の入り口あたりには幾人もの人だかりが出来ている。夜のお仕事の人たち…飲食業や塾の先生、看護師さん、その他色々な職種の方たちが大切な小さな子供をあずけ、この時間に受け取りに来るのだ。

 夜の9時を過ぎると、子供たちはおやすみタイムになる。無論、眠らずに親の帰りを待つ子もいるが、ほとんどの子は熟睡中に起こされるか、そのまま抱いて運ばれていく。むずがって泣く子もいるが、オレはその子供を受け取る親たちの様子が大好きだ。疲れ切った顔の人も、元気いっぱいの人も、子供たちには最高の笑顔で戻ってくる。学校ではけっして学べない、人の顔であり、社会の、家族の一面だからだ。

 その中の、少しケバいけど綺麗なお姉さんに声をかけられた。若いけれど顔なじみのお母さんである。

「あら、マット屋さんのバイトくん。久し振りねぇ~」

「ショウくんのお母さんでしたっけ。ごぶさたしています。」

「相変わらずカタいわねー。早く成人して、ウチのお店に来てね。」

 いつものように、たわいない会話を続ける。オレはけっこう、この時間が好きだ。色々な人たちと何も考えずに話すことが出来る瞬間。この人たちの大切な時間を守りたい。…バットさんの素晴らしいお仕事を守る。…えーと、世界征服はそれと矛盾しないよな。そうかな?

 そのとき、保育園の外から騒ぎが沸き起こった。子供を抱いたお父さんが慌てて再び入り口に飛び込み、ドアを締める。受付のお兄さんが立ち上がり、即座に鍵を閉める。オレも急いで入り口から外を覗いた。

「何事ですか?」

オレの問いに答えたのは、3才くらいの子を抱き、泣き出すのをあやしつけるお父さんだった。

「高校生に、数人の黒服が襲いかかった。わけがわからん。」

ガラス越しに外を眺めていた受付さんがあとを継ぐ。

「“妖精”持ちを襲っている。あいつら“妖精狩り”だ。」

 後半は小声で囁かれたが、その言い回しは一般人にはわからない内容のはずである。

 “妖精”、それは宇宙人によってもたらされた、現在の地球では作り得ない高度な文明の産物である。超高性能な小型コンピューターの機能を持っている。そして“敵”との遭遇時には神経や筋肉を高速化、強力化して使用者の能力を一気に引き上げる。また同時に戦術と戦闘の支援も適切に行う。そして何よりも驚異なのは周囲の自然物、人工物から元素を吸収し、武器や装甲を形成して、装甲強化服を身に纏った民間戦闘員を一瞬で作り上げることである。一部では空中元素固定装置と呼ばれているその機能は、宇宙空間でも可能なそうだ…。もはや何でもあり、である。

 その“妖精”は日本人を“敵”から守るために自衛隊や警官だけでなく、高校生や大学生にも支給されている。希望者や適格者に、で始まったはずだが現在ではかなりの数が配備されているはずだ。自衛隊の働きは当たり前の事とされているが、民間戦闘員の活躍も顕著である。実際“妖精”の力はかなりのものなのだ。

 その“妖精”は人間相手には基本的には作動しないようなっている。犯罪や誤作動防止のためだそうである。“敵”と戦うためだけの最高・最強のアイテムというところだろう。しかし日本以外の国からは垂涎の元である。軍事活用すれば、は勿論のことだが、現在は世界各地に頻繁に“敵”が、“虫”が、落下してくるのである。一度出現すれば数百人数千人を食べ、掠う“虫”の脅威は計り知れない。その恐怖に怯えている国々にとって、平和を維持している日本や親日国は許せない存在なのであろう。日本と親日国の戦闘員に配備されている“妖精”は、反日国やそれに類する国にとっては欲しくて仕方がない品なのである。“妖精狩り”はそうした国々の特務隊員のことである。彼らにも言い分はあるだろうが、これまでの反日行為を思い返せば…むにゃむにゃ。

 以上は、ゾッカーの一員であるから、オレも知らされた内容であるが、一般人にはただの暴漢と高校生のトラブルにしか見えないであろう。それに巻き込まれないように幼児を抱えた父親が、保育園に駆け戻ってきたわけである。受付さんとオレは親子を背後に回し、奥の部屋に行くよう指示した。他の親子連れにも保育室から出てこないよう大声をかける。しかし、オレは見てしまった。

 窓の外では乱暴が行われていた。女子をかばう男子高校生が殴られ、蹴り倒される。その上着は奪われ、“妖精”がありはしないかとビリビリに引きちぎられる。悲鳴を上げる女の子たちも羽交い締めにされ、ブレザーを剥ぎ取られ、破られていく。あいつらは“妖精”のありかを知らないのか!

 クジコさんにいつも「捨てろ」と言われているアレが沸き上がった。オレは受付さんに告げる。

「オレが出て行ったら、すぐにドアを締めて鍵をかけて下さい。」

「ちょっと、キミ…。」

 その目は(危ないからよせ)と(正体がばれるようなことはするな)のどちらだったのだろう。アレが沸き上がったオレにはもう関係なかった。

 そのとき、オレは正義感に満ちた、悪の組織の戦闘員として、戦うことを決めたのだった。  

 つづく。



 日本は宇宙人に侵略されました。今、悪いのは地球人ですが。


今回もご訪問ありがとうございます。

「お気に入り」登録して下さる方が。また一人増えました。とてもうれしいことです。「お気に入り」や「ポイント」してくださった方々、これからして下さる方々、感謝感謝でございます。

お礼に、至急続き書きます~ペコリ

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