民間戦闘員 星へ③
虎族の本星で地球人の四人を待ち構えていた出来事とは。
5-5-3 民間戦闘員 星へ③
逃げ惑う人々。立ち向かう人もいるが無力で、そういった人から順にむさぼり食われていく。その悲惨さに地球も虎族の星も違いはない。
僕は戦うことにする。戦闘能力は低い僕でも、それが義務と感じたからだ。
「僕の星には“一宿一飯の恩”という言葉があります。」
「なんだって?」
僕に魚をごちそうしてくれた親父さんは意味がわからないようだった。
「おいしい魚のお礼にがんばります。」
言うなり、僕は巨大カマキリに向かってダッシュした。後ろから「早く逃げろー」と叫ばれたようだが、民間人を守ることに星の違いは関係ない。
「パンダ先生、よろしく。」
「うむ。」
周囲の土中や金属から元素を吸収する。それを首筋やベルト部分のメイン回路が瞬時に組み立て直し、装甲戦闘服が僕の身を纏う。抜いた覚えもないのに僕は片手にビーム銃を握りしめていた。ヤクトルがないから空中戦は出来ないけれど、地に足付けて戦ってやる。
目の前の巨大カマキリは親子連れを狙おうとしていた。傍若無人をこれ以上続けさせてたまるか!
「パンダ先生、目または触角を狙う。修正よろしく。」
「おまえは射撃ヘタじゃからなぁ。」
逆三角の顔の中央辺りを狙う。当てる自信はないので、ビームの収束率を低くして拡散射撃を行う。威力は下がるが、これで当たるはずだ。
親子連れを襲おうとカマを振り上げた瞬間、僕のビームが命中した。巨大カマキリの目がこちらを向く。殺意も驚きも感じ取れない昆虫の目が僕を見据えている。親子連れは右手の細い路地裏に逃げ込んだ。OK、これで心置きなく戦える。
「もう一発くらえ!」
再度巨大カマキリの顔面部をビーム銃で狙撃する。うわぁー避けられた。しかし確実に僕を敵と認識してくれたようで姿勢が戦闘モードになっている。よし、ついてこい!
僕は親子連れが入ったのとは逆の細い路地に駆け込んだ。巨大カマキリはついてくる。左右の建物のレンガをガラガラと落としながら、その歩みを留めようとはしない。広いところだと羽を広げて上から襲われそうだったので、細いところに誘い込んだのだ。レンガで埋まってしまえば好都合なのだが、そこまで幸運ではなかった。身体を一振りしたらレンガは全て落ちてしまう。巨大カマキリがその身を延ばして威嚇した。再度射撃。今度はビームを絞り、巨大な腹部に一撃を与える。0.5mmほどの細いビームが巨大カマキリの腹部を貫通した。わぁいっそう怒りが増したみたい。素振りする両方のカマが真空波をこちらに向けて放射する。跳んで避けたが、当たっていたら身体が砕け散っていただろうなー。怖いので、さらに奥へ。もっと細い路地へ進む。足下に手榴弾を転がしながら…。僕が居た位置に巨大カマキリが移動した瞬間、手榴弾が起爆した。ドーンという腹に響く音が伝わる。足の1本でももげりゃいいが。
…それは無理だったか。巨大カマキリは歩みをとめず、爆煙を突き破って僕の前に現れた。あの程度の火薬量では効果なしかぁ~。巨大なマが僕の首をなぎ払う。しゃがんで避けた。もう一回来る!今度は後ろに転がって避ける。起き上がりざまにビームを連射。これには巨大カマキリも嫌がった。小さくとも体中に穴を開けられるのは痛みを感じるらしい。昆虫ゆえ、その顔に怒りの感情がわき上がることはないが羽根を広げかける仕草は威嚇にしか見えない。その羽根にダメージを与えるよう、手榴弾を今度は上空に放つ。牽制にカマキリの顔面にビームを放ちながら。爆発。僕はまた跳んで避けて、路地の奥へ奥へと。
でも、もうそろそろ限界…。助けて、女神様~
その瞬間、太いビームが一条、巨大カマキリの腹部に吸い込まれていった。先ほどまでの僕の攻撃とは異なる、苦しみの仕草が見られた。
「俊クン、わかりやすい花火、ナイスだったよ。」
狙撃の名手、豊根さんの声がレシーバーから流れる。どこからか射撃してくれたのだ。巨大カマキリは痛みをはらうかのように、身体をのびあがらせ、身をふるわせる。しかしそれは隙を大きくするだけだ。僕も腹部めがけてビームを連射。細いビーム光と太いビーム光が立ちこめるホコリのおかげで明確に見える。連射連射連射…細いビーム光の本数が一挙に増える。さらに援軍か。
「何を一人で戦っているの、このバカ俊!」
「俊クン、下がって。身体を隠しながら攻撃を続行して下さい。」
石尾、伊庭両名の声が心強い。僕は言われたとおり、建物を陰にして攻撃を続行する。巨大カマキリの身体のあちこちから体液が滲み出ている。そしてついに…。豊根さんの太いビーム光が巨大カマキリの神経節を貫いたようだ。カマキリは地に崩れる。しかし断末魔のあばれっぷりで隣の建物が倒壊しそうな勢いだ。
「俊クン、まにゃ、離脱するわよ。」
どこから見ているかわからないが、村上さんの指示に従う。路地の交差点についた途端、建物の倒壊音がズズーンと響きわたった。それを目印にしたのだろうか、どこからともなく虎族の軍服を纏った一団が巨大カマキリの埋もれた辺りに集合する。
あとは、任せてもいいかな・・・。
俊たち地球人五人の行動は空中にある幾つもの監視カメラで全てとらえられていた。虎姫城の最上階の一角で、五人の様子を眺めていた二人は微笑んだ。「一般人を助けようと即座に跳びかかった勇気。細い路地裏に連れ込んだ知恵。仲間の援軍を期待し、それに的確に応えたチームワーク。知恵と勇気と連係どれも一級品じゃな。」
落ち着いた風格の女性は豪奢な服装である。その傍らでひざまずくのは軍服姿のフー・スーであった。無言で肯く。
「しかし、あくまでも戦士としての一級品ではないのか。そなたが褒めるような人材には思えぬが。」
「いえ、彼らの真骨頂は集団戦にこそあります。地球では地上戦でこそ、その才を遺憾なく発揮しております。」
「ふむ。そこまで褒めるか。おもしろい。」
女性は卓上の飲み物で口を潤す。その優雅であるが隙のない身のこなしは、彼女も戦士であることを物語る。
「彼ら五人に艦隊戦を覚えさせ、ぜひとも虎姫様の旗下に加えたく存じます。」
「陰の虎とも思えぬ素直な言い回し。さほどに気に入ったか。虎姫も驚くであろう。」
先代の虎姫、現女王はころころと笑うと、フー・スーに1本の刀を手渡す。
「では、これを褒美に与えよ。彼らが妾に直接に伺候するのはまだ早いが、晩餐会にて王族に面通しは済ましておくがよい。」
「ありがたきお言葉。」
両手で恭しく剣をいただくフー・スー。女王は簡単に宝剣を手渡すと、空を仰いだ。
「今頃、虎姫はどこの宇宙かのぅ。早く彼女に優秀な部下を揃え、銀河を縦横無尽に駆けまわらせたいものよ。」
フー・スーは無言で首を垂れ、心からの恭順の意を示した。
虎族の軍人一団の中から、一人がこちらに向かってきた。赤服のイッセさんだ。彼は僕たち五人を確認すると全身で安堵を示した。こういう身振りは宇宙共通なのだろうか。
「安心しましたよ。王塚さんの姿が見えなくなったと思ったら、すぐにカマキリ騒ぎですから。」
「いやぁ、すみません。屋台にふらふらと入り込んじゃって。」
「もう少しゆっくり服を見たかったなー。」
装甲戦闘服を解除し、僕たち五人は今度こそイッセさんに宿泊所に連れて行かれた。きちんと正装を身につけ、晩餐会のマナーや段取りを頭に入れるのは巨大カマキリと戦うくらい大変な作業だった。
日本は宇宙人に侵略されました。今晩は異星のパーティに出席だそうです。
今回も読みに来ていただき、ありがとうございます。
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