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全銀河宇宙大戦 決戦開始④

宇宙での戦いは、まだまだ続いていた。

4-4-⑨  全銀河宇宙大戦 決戦開始④


 ズガーーーーン。大きな音と共に、すごい振動が伝わる。シートベルトが肩に食い込むほどの衝撃。思わず「うっ」と声がもれてしまう。

 宇宙空間が無音だ、なんて誰が言ったのか。うそばっかり。戦艦の中は常にうるさい。エンジンの音は絶えず響いているし、主砲やミサイルを撃つ音も響き渡る。“敵”の攻撃を受けたら、艦内すべてに揺れが伝わるし、悲鳴がどこからか聞こえる。

 私以外の四人はこの部署に長いはずなのに、彼女たちの口からも絶えず声がもれている。泣き言やグチをこぼさないのは、さすがアシュバス様の艦だけのことはあるなーと感心していたのも束の間のことだった。

「全艦発進。プレゼントの用意はいいかい。」

 アシュバス様のこの一言から、戦闘が始まった。巨大な岩石、そう、戦艦自身と同じサイズの岩石をぶら下げて(宇宙に上下はないけれど)全速航行は艦に負担をかけているようで、軋む音が途切れなく続いた。このままじゃ艦がばらばらになる…?と思う頃、切り離し命令が出て、艦は身軽になったけれど、そのあと爆音や衝撃波が、がんがん伝わってくるようになった。そのたびに、戦闘艦橋から指令が来る。

「ダメージコントロール」

「はい、四番消火開始、13通路隔壁降ろします。」

 基本、乗務員がいない箇所はダメージを受けたら密封していく。人がいる箇所に被弾した場合は…極力その人の移動を待ってからパージするけれど、間に合わないこともある。一人の命で艦全体を危機に陥らせるわけにはいかない。冷酷な決定を下す場所。それがここ応急監視制御室の役割。この戦艦アシュバスガの痛覚神経みたいなもの。痛いところに痛み止めですませるか、包帯を巻くのか、…切り捨てるか、を即座に決定し実行するのが私たちの役割。掌帆班員に修理に向かってもらうこともあるけれど、戦闘中はそんな余裕も少ない。隔壁を閉鎖し、水やゲルで充填して終わらせることがも多い。そこに人がいませんように…。

 岩石を切り離した戦艦アシュバスガは高機動戦闘を開始している。艦の慣性制御が間に合わないほど私たちは振り回されている。この荒々しく、素早い動きはアシュバス様ご自身が操艦されているのかもしれない。そして、アシュバスガのポジションは常に最前線。被弾も多い。巨大なアシュバスガは装甲も厚いので、今のところ人がいる部署にまで被弾は受けていないが、絶対安全とは言い切れない。今回の戦いはかなり危険なものと戦闘開始前におっしゃっていた。この応急監視制御室は戦闘艦橋のすぐ下の比較的安全な場所に位置しているけれど、何があるかわからない。

 ドドーーン。グシャーン。また被弾した音が聞こえる。でもアシュバスガは強い子。敵弾を弾いてくれている。猫族最強の戦艦。猫族で一番大切な方が指揮する艦。私たちは負けられない。アシュバス様のために、必死で働くのみ。

 ……どれくらいの時間が経ったかわからない。高機動する戦艦の慣性重力に耐えきれず、私は何度も吐瀉した。戦闘強化服のヘルメットは即座に汚物を吸引し、メット内をクリーンにしてくれる。口の中に薬剤を注いでくれて、一瞬はスッとするけれど、それが何十回も続くと、もう吐いているのかいないのかわからなくなってきた。衝撃の度に締め付けるシートベルトで、お肌は赤くボロボロになっていると思う。自慢の毛並みは台無しだろうなー。

 私の目の前のスクリーンに映る、艦内位置を示している図は赤い箇所が増えてきた。黄色になっていないところを探す方が難しい。酸素をカットした黒い箇所もあちこちに出来ている。掌帆員や保安部員が廊下を駆け回って保全に努めてくれているけれど、間に合わず隔壁を降ろしてパージした箇所も増えていく一方だ。巻き添えがでないよう、私たちも声を枯らして放送を続けている。

 その、私たちの仕事部屋の至近に衝撃が走った。大きい!応急監視員全員が悲鳴をあげた。もちろん私も「にゃーーーー」と無意識に絶叫していた。室内が赤い色に切り替わる。

「監視室、大丈夫か。機能は生きているか。」

 戦闘艦橋のチーフからの声だ。リーダーが応えている。人員に被害はないが…え、これ何の音?私は艦内カメラを操作した。

 そこに写っているのは“スズメバチ”だった。

 「“敵”確認。乗り込まれています。スズメバチ一機。」

“敵”の艦載機なのか、それとも“敵”自身なのか不明な物体。わかっているのはヤツは戦艦に入り込んで、戦闘員を食べまくること。もしくはエンジン近くにまで入り込んで自爆する厄介な存在であること。そのスズメバチが…隣の隣に入り込んでいる。

 ヤツの背後の装甲板はギザギザに破れ果て、宇宙空間が覗いて見える。そこから艦内の物資が吸い出されている。慌てて操作盤をたたいてバンドエイドを破れ目に貼り付ける。これで空気の放出は治まるはずだ。しかし…

 スズメバチが、艦内カメラをにらんだ。こちらが見えているわけはないのに、私はゾッとなった。アイツは来る。隣の部屋を一気に突き破った。硬いアギトが一撃で壁をぶち破る…もう隣の部屋に入り込んでいる。消化剤や応急板などの倉庫で暴れ狂っている。私たちは悲鳴をあげたかったが、声を押し殺した。 ドアから出て、左に走って、上…は戦闘艦橋だからダメ。そっちに誘導なんてしちゃいけない。下に降りていけば、最悪着いてこられても戦闘スーツの保安部隊が来てくれるはず…と脳は考えているのだけれど、足が動かない。出口のドアはスズメバチに近い側にある。アイツに近寄りたくない。頭からかじられて、あいつのお腹に収まりたくなんかない。その本能が理性を押しつける。そして恐怖が腰を抜かして、足を痺れさせてしまっている。

 先輩たちもヒッヒッっと声を押し殺して泣いている。私の両頬も気がつけばびしょ濡れだ。

 ガキーン、バキ、バキ、ガンガン。この部屋の壁にすごい音が加えられている。1本の筋が入った。その筋があっという間に枝分かれしていく。ああ、向こう側から押し込んでいるのだろう、壁がこちらがわにたわんでいる。私たちの期待もむなしく、隣の部屋とのしきりの壁はもろもろと崩れ落ちた。その向こうに、緑色に光る目のスズメバチ。

 近寄って来る。スズメバチが…5mはある巨体がゆっくりとこちらに歩んでいる。

 もう、私たちに出来ることはひとつしかなかった。

「にゃーーーーーーーーーーにゃにゃにゃにゃーーーーーーーーーーーーにゃーーー」

 命がけで泣き続けた。この鳴き声が届きますように・・・・


う、宇宙は危険でいっぱいです~。イヤだ死にたくない死にたくない。

ご訪問ありがとうございます。

雪で大変な地域の方、がんばってください。

ご感想が一件増えていたのがとてもうれしかったです。

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