第二次迎撃戦 最後
ダンゴムシたちの群れが蠢いています。彼らをどうやって倒すのか。民間戦闘員の戦いは困難をきわめています。
5-2-⑦ 第二次迎撃戦 最後
O市とT市の間は国道がつないでいる。この国道は細くて、すぐ渋滞になってしまう。そこで数年前から国道の横に少しずつバイパスが作られ、最近全線開通したところである。市内の住宅地横を走る国道。山手の高台を走るバイパス。この道が出来てから、T市の住人はO市やK市に車で行く際には100%バイパスを使うようになった。信号はないし、ほとんど直線の道は速度を上げやすい。(お巡りさんもよくネズミ捕りをしている。)
今、ダンゴムシたちは「金」につられて、T市側バイパス入り口に辿り着くところである。ダンゴムシの群れが坂道をじわじわと登りきったところだ。ヤクトルに金をぶら下げて、ゆっくりと誘導した部員たちの顔色は真っ青である。よく耐えてくれた。
「ダンゴムシ、街側でなく山側の道路にあふれる寸前まで並んでいます。」
ここまで準備は出来た。あと必要なのは最後の一撃だ。
T市の大隊長。村上由香里が立ち上がり、声を放った。
「先頭のダンゴムシから順に攻撃開始!」
「了解しました。」
一斉に敬礼をして走り出す、各運動部の精鋭たち。アドバイザーの僕も最前線に向かって移動する。
先頭あたりの並んでいるダンゴムシに攻撃が開始された。
両手の銃で攻撃を加える者。ヤクトルで空中に浮遊し、上空から砲撃を加える者。様々な銃撃が一斉にダンゴムシに浴びせかけられる。しかしダンゴムシの甲は頑丈だ。貫通しない。微妙な角度の甲によって、銃弾がはじかれている。
「火炎放射器隊到着しました。」
「すぐに攻撃開始。」
でかくても“虫”なんだ。火には恐れいるだろうという作戦だ。なんとしてもこいつらを驚かして、ダンゴにしなくてはならない。しかし…
「効き目が感じられません。ダンゴムシの集団は依然として健在。バイパス最高地点にて蠢いています。」
まにゃの悲鳴が遠くに聞こえる。何か、何かいい方法はないのか。
ダンゴムシの群れが、ばらけはじめる。ここで自由に移動されては作戦失敗だ。次のフェイズにたどり着けず、市内を好き放題に蹂躙されてしまう。失敗した作戦は、作戦なしよりも悲惨な結果につながる。ダンゴムシに強烈な一撃を加えるには、どうしたらいい。
あせりまくっていたそのとき、後方からくっきりとした声がかけられた。
「王塚俊、だったな。助けてもらった礼を返すぞ。」
僕の背後からハスキーな声。魚人と戦ったとき、サーベルタイガーに変身した美人の宇宙人さんだ。今は人間の姿、気の強そうな美人が巨大な銃器を構えている姿は冗談にしか思えない。でも彼女は巨大な砲身を軽々と振り回し、ダンゴムシに狙いを定めた。
「くらいやがれ、この“虫”野郎!!」
侮蔑の言葉と共に、彼女が小脇に抱えたガトリング砲からこぶしサイズの弾丸が連射された。そんなもん、どこで手に入れたんだろう?
彼女はダンゴムシの頭部、甲が地面とすれすれになる、その中央部に狙いをさだめ、連射し続ける!そしてその勢いに押されたようにダンゴムシがゆっくりと丸まっていく。一匹目が丸くなり、坂道を転がり始める。フー・スーさんは二匹目にとりかかる。また見事に丸めた。そして一匹目に続くように転がっていく。成功だ!
フー・スーさんは銃撃を続けながら、大声で僕に向けて叫んだ。
「あの部分が一番デリケートなはずだ。貫通しなくても、衝撃でヤツラはいったん丸くなる。丸くなるだけだがな。」
「いえ、感謝します。砲撃班、狙撃班、ダンゴムシの隠れかけている頭部に攻撃を集中!なんとしても丸くしてください!」
先頭を切って、O市狙撃班リーダーの豊根さんが狙撃を行う。見事に的中。彼女は一射でダンゴムシを丸くした。T市の運動部軍団がバズーカを持ち出して、頭部に攻撃を繰り返す。頭部を守るために次々と丸まっていくダンゴムシたち。そしてヤツラは集団で転がり始めた・・・
今、ヤツラがいる斜面は数km先までゆるやかな下りが続く。その斜面に沿って転がり続けるダンゴムシたち。最初はゆっくり。しかし次第に加速していく。その速度がダンゴムシを元の姿に戻せないほどの勢いになっていく。
「あと3kmで“落とし穴”地点です。」
先回りしてもらっていた格闘部には地対地ミサイルなどをがんがん使って、バイパスをぶった切る巨大な穴を掘ってもらい済みだ。途中で道をそれたら困ると思っていたが、バイパスは直線かゆるやかなカーブが多いため、ダンゴムシたちは一斉に転がり続けている。
「先頭のダンゴムシ、落下します。落下…衝撃で、青緑色の体液がちらばった模様。」
まにゃの現地レポートが生々しく状況を伝えてくれる。情報担当員と言うよりも、むしろ現場実況のアナウンサーだな。
「ある程度、数がたまったら上空より航空燃料を投下する準備はどうか?」
「航空自衛隊基地から大量にもらってきています。」
「了解。散布のタイミングはこちらから連絡します。」
坂の頂点部で砲撃を喰らい、次々にダンゴムシがバイパスを転がっていく。ゴールは巨大な口を開けて待っている落とし穴だ。何十匹、何百匹が落ちようとかまわない巨大な落とし穴を掘ってもらっている。(バイパスは当分使い物にならないだろうなー。イヲンにドライブ行くのが不便になるな…)
ダンゴムシたちは悲鳴を発さない。が次々と落ちていき、下で丸まったり、伸び始めた仲間に上からダイブしていく。ぐしゃ、という音が時折聞かれる。銃撃を跳ね返す甲であっても自分と同じ堅さの重さの仲間が落下してきたら、ヒビくらいは入っているかもしれない。いや少しでも傷ついてくれ。
ダンゴムシがほとんど落とし穴に落ちたとき、村上さんの声が耳元で聞こえた。全員に通話モードだろう。くっきりと文節で区切った話し方だった。
「ジェット燃料の放出開始。続けて点火もします。ダンゴムシたちを一匹のこらず焼き殺します。」
落とし穴の中は焦熱地獄となった。地獄、地獄、地獄は地獄。ダンゴムシたちは悲鳴を発さないが、苦しんでいることはわかる。“敵”とはいえ目を背けたい光景だ。燃焼のいい、航空燃料を次々に補充投下し、ダンゴムシたちを一匹残らず焼き尽くす。
この最後の作戦フェイズになると僕の仕事や隊長さんたちのすることはほとんどない。僕は疲れ切って、座り込んだ。
フー・スーさんが近寄ってきた。僕はまずはお礼を述べる。
「いや、いい。私もお前たちに助けられた。…この作戦を考えたのは俊、お前なのか。」
「はあ、まぁそうです。」
実現可能かどうかは“妖精”パンダ先生に確認してもらったけれど。そのパンダ先生は今どこに?
周囲は“虫”の焼けるすごい悪臭がたちこめている。気温も5~6度上昇したようだ。僕は戦闘服の前を少し開けた。フー・スーさんも同じようにくつろいだ着方にする。やっぱり暑いんだ、宇宙人でも。
「見事な作戦だ。ダンゴムシタイプをあのようにまとめて葬り去るとは。」
「今まではどうしていたんですか?」
「戦車や航空機などの火力で強引に殺していた。住民の居留地の被害はいつも甚大だった。この方法なら…」
二人が話していると、豊根さんが近寄ってきた。彼女は最初から最後までピンポイントの銃撃を加え続けていた。銃の反動で身体が疲れ切っているようだ。彼女も僕の横に座り込んだ。
「市街地や市民への被害はないみたいよ。一匹も道をそれずに落とし穴に一直線。」
「そりゃあ、直線道路に誘導してくれたバレー・バスケ部の功績ですね。」
「ねぇ、なんで“金”で誘導して、そのまま落とし穴に落とさなかったの?」
「ああ。もぞもぞと歩かせて落とし穴に誘導したら、手前で危険を察知して、落下しない気がしたんです。ヤツラもそれくらいの知恵はあるだろうと思って。」
落とし穴に目をやると、巨大な火柱が立ち昇っている。バイパスには、まだ転がっていくダンゴムシたちがいた。ほんの少し可哀想な気分になった。
「この作戦は、私の本星にも送らせてもらおう。どこかの星系にダンゴムシが現れたら役に立ちそうだ。」
「え、お姉さんは宇宙人なんですか。見事な射撃でしたから、そうじゃないかとは思っていたんですが。」
女二人の会話が始まった。内容は銃火器に関してだ。色気のないことこの上ないが、それでも雰囲気が和らいでいく。
いつの間にやら、パンダ先生が僕の肩の上に止まっていた。
「俊、この結果を日本中、いや世界中に報告した。可能なところでは同じ作戦が使われるに違いない。」
「人的、物的被害が少しでも減ればいいですね。」
「不思議なヤツじゃのう。これだけの戦果をあげておいて、興奮が感じられん。」
この作戦前に、大量の魚人やサーベルタイガーに変身するお姉さんを見たせいかな。あんまり関係ないか。
村上隊長が作戦終了を宣言したのは数時間後であり、全員が撤収できたのはさらに二時間後だった。僕は風呂に入ってもとれそうにない全身の臭いのことばかり考えていた。体中に臭い消しをぶっかけたい~。
日本は宇宙人に侵略されました。ダンゴムシ「征服完了」
今回も読みに来ていただき、ありがとうございます。ある意味残酷描写でした。ダンゴムシファンの方にはすみませんでした。
次の“敵”は…まだ全く考えていません。




