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某国のとある建物のある部屋で

日本が宇宙人に支配されたら、日本人は困りますが、外国の人はどう思うでしょうか。そういうことを考えると、物語が進みません。日本のあちこちだけでなく、世界のあちこちで、事件が起こると思うのですが。

2-4

「日本…いや銀河日本か、どちらでもいいが、あの国は一体どうなっているのだ!」

 

重厚な机と椅子。それに相応しい部屋中の装飾品。壁を飾る巨大な油絵は中学生の美術の教科書に載っているはずだ。

左右には黒で統一されたSPが気配を消して控えている。部屋の外の廊下にも数人が待機している。

この部屋に相応しくないのは現在激高している人物と、対面のソファに座る二人の感情だけである。

「はい、情報が高度に統制されているというか…。先ほども説明いたしましたように、現地の情報収集担当者は、ほとんどが意識を失い、各地の病院に収容されました。命に別状はないということで問題なく我が国と親しい病院に転院させましたが、目覚める気配はありません。」

「しかも我が国の者だけでなく、日本人の熱意ある協力者たちも次々と入院したとの連絡が入っております。彼らは転院させてはいませんが…この時期に謎の意識不明状態となったことで、公安などの監視対象になったと判断できます。」


 ガリガリに痩せた禿頭の男とでっぷりと貫禄のある男、二人とも部下には尊大な態度と一目でわかる人相であるが、現在はハンカチで冷や汗を拭いながら、か細い声で答えている。正面の男の権力はそれほど巨大なのである。

その男はゆっくりと葉巻の吸い口をカットして咥えた。SPが音もなく近づき、一挙動で火をつけ、すっと引き下がる。

「仕方なく、日本に好意を持ち日本に長期滞在している我が国の者や、当方の正体を知らずに情報を売買しているマスコミ関係者などから集めた情報ですので、確実ではありませんが、複数の経路から得られた信憑性に富む内容から報告いたします。」

「うむ、それでよい。情報は鮮度が一番だ。」

「は、ありがとうございます。まず、銀河日本は宇宙人に侵略されたと全国民に放送されました。」

「あの巫山戯た放送だな。録画は見た。バカにしておる。」

 男はいまいましげに、葉巻を灰皿に押しつける。一本数千円の葉巻は苛立ちをその身で引き受け、短い命を終えた。

 太った方の男は、その怒りが自分向けでないことを確認し、安心して話を続ける。自分の立場もあの葉巻とそう変わらないと思いながら。

「その前後に我が国だけでなく、各国の諜報員と大使館員が意識不明に陥りました。大使館員は演説終了後に目を覚ましましたが、どの国の大使館にも、全身白銀の宇宙人が待機していて、日本侵略が完了した状況を説明しました。抗おうとした一部の大使館付きの護衛官が、再び意識不明状態にされた以外の被害者や死傷者は日本国内に一人もいません。ほとんどの大使や公使は冷静に状況を受け入れ、言われた内容をそのまま本国に伝えたそうです。」

 太った男はチラと隣に目をやった。本国のことはお前が言えという露骨なサイン。

「あ、はい。わ、我が国の空軍、海軍は通常の偵察行動の準備や、アメリカ海軍の常にない航路変更などに気づき、いかような対応も可能なように迅速に準備を進めておりました。しかし…。」

「待て、アメリカ軍の妙な動きに気づいたのは良いとして、宇宙人のあの巨大な球体船は察知していたのか。」

 二本目の葉巻を準備しながら、中央の男が尋ねる。権力者としてでなく、個人的な興味の強い質問のようであるが、SPの目の光も微妙に変化した。宇宙人、の力を知りたがらない者はいない証拠である。

「は、残念ながら、軍事衛星からも、我が国各地の超長距離レーダー網からも、一切報告ありませんでした。宇宙から飛来したのではなく、日本の上空や各地の海に唐突に出現した、と記録にあります。」

「具体的には、あのUFOはいくつ日本に出現したのだ。」

痩せた男もハンカチで頬を拭う時間が増えてきた。うかつな返答をすれば、その瞬間に地位を失うのだ、機嫌を損ねないよう、自分の責任でないように答えなくてはならない。

「残念ながら、正確な数はつかめていません。目には見えるのですが、写真や動画などには映らないもの、逆にまったく存在が関知されないのに、とある場所から続々と宇宙人が現れる様子が見られるなど、圧倒的に科学力が異なるようでして…。」

「我が国の戦闘機や潜水艦などで日本に近づいての情報収集は行っていないのか。」

「それが…先ほど申しましたアメリカ軍の異状を察知後、すぐに緊急偵察行動を試みたのですが…。」

 喉が渇いたのか、目の前のミネラルウォーターに手を伸ばす。それを待つくらいの心の余裕がこの部屋の全員にあることは幸いであった。

「すみません。我が国の最新鋭偵察機、実力ある潜水艦を日本に急行させようと発令したのですが、全ての戦闘機、無人偵察機、潜水艦、巡洋艦、どれも機関停止状態で、一機、一隻たりとも発進させることは出来ませんでした。」

 中央の男の目が睨みつけるように変化した。この男はこの地位に辿り着くまで、どれほどのライバルを葬ってきたことか。それを思い出させる表情だった。痩せた男は眼を逸らしながら続ける。

「げ、現在、謎の機関不調現象は起こっていません。数日前のR国との国境紛争に置いても偵察機が活躍しております。国内の陸上部隊の異常現象も全て解消されています。」

「ふん、陸軍もそうだったのか。では、改めて日本に向けて偵察行動をしてみたらどうなのだ。」

「・・ところが、日本に向けて進路設定いたしますと、機械トラブルが発生いたします。日本とは違う方面に向けて出航し、後に日本に進路を向けた途端にエンジンから出火をした艦船もありました。全く、どういう原理なのか。我が国の科学者に至急研究を命じましたが、まだとてもとても…。」

 中央の男は視線を再び太った方に向けた。

「では日本国内の様子を続けなさい。」

「はい。これまで親日的であった我が国同胞や日頃から費用を融通していたマスコミ関係者などによると、宇宙人は基本的に行政は現状維持でよい、と告げたそうです。現に総理大臣が国民に向けて安全を宣言し、官僚も体制を維持しています。今後の政策などは宇宙人から幾つかの変更を言われているそうですが…。」

「宇宙人はどんなことを命令したのだ。」

「それが…国民の精細な掌握、食糧自給率の向上、産業改革など、幾つもあるのですが宇宙人からの命令にしては穏当なものが多く、日本国民も現在は不満無く安心しているようです。国内に関しては、当面は大きな変革はしないのではないかと思われます。」

「国内に関しては、だと? 国外に、我が国などには何かを始めようというのか。」

 太った男も目の前の冷水に手を伸ばした。しかし、先ほどとは違い、

「早く言え、この愚か者が。」

 強烈な怒鳴り声がたたきつけられた。その後もこの部屋が完璧な防音設備を備えているのはこのためかと思わせるほどの罵声が響く。SPは慣れているようだが、座って居る二人は母親に叱られた子供のように身体をびくつかせる。 

「し、失礼しました。まだ十分に確認出来ていない情報ではありますが、日本、いや銀河日本は、諸外国の大使館員等を通じて、国交の再設定を行うように外務省に命じたそうであります。」

「国交の再設定?なんだそれは…。次は世界中を支配するつもりか。」

 一国のトップだけあって、先ほどの怒りはすぐに引っ込め、冷静に思考する様子が見えた。

「それが…あのふざけた宣言にもありましたように、世界征服などは一切しないと繰り返した上で、一部の国とは友好的、それも破格の好待遇を約束しているそうです。」

「ワシは何も聞いていないぞ。」

「残念ながら、我が国の大使館員はまだ呼ばれてもいません。ですが情報収集にいくつかの大使や公使に尋ねてみたところ、早めに呼ばれた国ほど、とてつもない好条件で、日本、いや銀河日本との今後の交流を依頼されたとか。」

「好条件とは、なんだ?」

「それが、満面の笑みで、『それは言えません。我が国は新しい日本と仲良くしたいので』と。どこの大使館員も答えてくれないそうです。」

 灰皿や花瓶、数冊の本と未決済の書類が、男の片腕でなぎ払われた。それらは分厚い絨毯のおかげでで割れることはなかったが、派手な音を奏でた。しかし、その音よりも、歯ぎしりの方が耳に残る。凄まじい怒りだ。国際競争において、自分がないがしろにされたことは、この男のこれまでの人生を否定したに等しい。宇宙人め、なんてことを…。

 続けて聞こえた声は地獄の底から聞こえるような気がして、ソファの二人は視線を下に向けるしかなかった。

「宇宙人め、何をしようとしている。世界を支える我が国を無視するのはなぜか。なぜなのだ!!くそったれ!!」

 平らになった机を両のこぶしで殴り続ける、自国の最高責任者を、室内の二人は怯えながら、二人はごく冷静に見つめ続けた。



「司令官閣下、以上が○国の…総理大臣への報告の映像です。日本語に翻訳しておきましたが、一部間違いがあるやもしれません。」

「いや、おもしろかったわ。ありがとう。」

 作戦司令室に比べれば狭い。が、それでも学校の教室二つ分ほどの私室の立体画面が、一つの国の機密情報を映し終えた。映されていた黒っぽい室内映像と真逆の、どこを見ても白を基調とした柔らかい色使いは、まるで病院のようである。

 その中央で、やや黄色みを帯びた椅子座り向かい合っている二人は、銀河日本の最高責任者と次席の二人である。

「ただし、、ジークくん、この星では、最高責任者の名称は国によって違っているんだ。あの国は総理大臣とか首相とは言わない。」

 目を細めて、グラスを口にする。

「はぁ。難しいですね。この日本も天皇陛下と総理大臣と二つの名称がありますが、世界各国、国を代表する人物の肩書きが幾つも異なっていて、混乱はないのですか。」

 彼も飲み物を口にするが、ほんの少量。 

「名称以前に政治が混乱しているからねぇ。いつまでたっても、民族や宗教で戦争が絶えない星だもの。」

 二人が手にする飲み物は白色ではない。黒に近い茶色。

「それでは、この星をさらに混乱させる第二段階に入ります。」

「よろしく。僕はしばらく休ませてもらって、趣味に走るので。」

 いまだ司令官閣下としか自称しない、銀河日本のトップはグラスの中身を飲み干し、満足した。

「では、失礼します。」

「ん、おつかれさま。」

 壁の一面が音もなく開き、副官が退出する、に見えたが。立ち止まり振り返る。

「忘れていました。司令官閣下、一言だけ。」

「え、何かあったっけ。」

 常にない副官の厳しい視線に、少し慌てる。

「失礼ですが、次から私にはその飲み物はやめて下さい。味覚、栄養素、共に好みません。」

 ずるっと、わざとらしく椅子から落ちかけてみせる司令官。

「了解。ドクター○ッパーは、ジークの口には合わないのですね。覚えておきましょう。」

「失礼いたします。良い夜を。」

室内はしばし静寂に包まれた。しかし、

「くくっくくくっ。あんな顔初めて見た。次はキュウリ味のアレを出してやろうか。」


宇宙人による日本の支配は着実に進んでいた。


読んで下さった方、ありがとうございます。あなたにとって大切な、お時間をいただくわけですから、なるべく不快感や、苛立ちが発生しないように努力いたしています。ちょっとでも楽しんでいただけたら、またお時間を分けていただきたく思います。ありがとうございました。

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