妖神の影③
噴水池から現れた魚人と巨体のダゴン。俊とフー・スーはどうなるのか。
5-3-③ 妖神の影③
その石塔は出現したときから異様だった。周囲に冷気をまき散らし、何よりも目を背けたくなる妖気に包まれている。ダゴンと一緒に出現したから目立たなかったが、単独だったらそれだけで“恐怖”であった。
勇気を持ってその石塔に目を投じれば、表面に模様が刻まれているのがわかる。烏賊か蛸に似たたくさんの触手。しかし烏賊や蛸には巨大な顔は付いていない。ましてやその目が光っている。金属や宝石をはめ込んでいるわけでもないのに、石の奥から光が漏れている。その光は希望や明るさをもたらさない。闇の光であった。
ダゴンと一緒に現れ、膨大な冷気を吹き出したのはその石塔だ。ダゴンじゃない。僕の脳が囁く。“妖精”パンダ先生からではない。僕の頭の奥があの石塔を壊せと命じる。そしてそれを二人の部長に伝える。
「部長さんたち、あの石塔を二人で壊して下さい。」
「お、おう。」
「わかった、行くぞ!」
二人の乗るヤクトルはふわりと宙に浮かび、次に一直線に石塔に近寄った。そして銃撃を重ねる。さすが両キャプテン、狙いは正確だ。
石塔にヒビが入る。その瞬間、魚人たちが悲鳴を上げた。いや、巨大なダゴンさえも大声で苦痛の声をもらしている。その周囲を飛び交うバレー部とバスケ部のみんなが攻撃をためらうほどの苦しみようだった。しかし、ヤクトルたちは即座に攻撃を再開する。
「チャンスは最大限に生かせ!バスケでもバレーでも試合のときと同じだ。」
どちらかのキャプテンの声に部員たちは反応した。ダゴンに砲撃が集中する。ヤクトルの左右の腕のような機関砲が連射される。
「よく訓練されている。見事な物だ。」
となりでフー・スーさんがつぶやいた。一応訂正しておく。
「僕たちは民間人ですよ。訓練は受けていますけど。」
「そうなのか。なおさらすごいな。」
その言葉の瞬間、二人のキャプテンは石塔を完全にへし折った。さて、どうなる?
轟音が響き渡る。水煙が立ち上がり、上空を飛んでいるヤクトルたちもその水を浴びる。僕たちにもかかったが、熱さや痛さは感じない。
『安心しろ。分析の結果、ただの水だ。』
思った瞬間には答えを出してくれている。“妖精”パンダ先生はアンサー・トウカーか。ほんとにすごい。
水煙が消え去ったとき、あれだけいた魚人も、そして巨大なダゴンも全てが消え失せていた。まるで手品のように。壊れ尽くした噴水池とあちこちに残る魚人の体液、それだけが戦いの後を物語っていた。勝った、と思っていいのかな。
ヤクトルが僕たちの周囲に降りてきた。みんなが口々に今の怪異について感想を述べ合う。
「“敵”じゃないよな。」
「虫、以外がいるのかもしれないぜ。」
「どう見てもゴ○ラかウル○ラマンの怪獣だったじゃん。」
しばらく興奮おさまらず、騒いでいたけれど、キャプテン二人が解散を告げ、ヤクトルは自転車に変形していく。それに跨り、帰宅する部員たち。僕は一人一人に助けに来てくれたお礼を言った。全員が「何言ってンだ」とか「借りを返せよ」とか軽く返してくれて本当にうれしかった。
フー・スーさんがまたつぶやいた。
「よい部下たちだ。」
それを聞いた福田さんが反論する。
「部下なんかじゃないですよ。えーと、自衛隊は違いますが。」
「俺たちは仲間です。もしくは友達かな。」
大串さんも答えた。二人はキャプテンだけど、本当にそう思っているのだろう。だからみんなこの人たちについていくのだろう。
フー・スーさんは絶句しているようだった。
僕ももう少し話そうと思う。
「彼らの誰かがピンチになったら、僕も駆けつけると思います。命令じゃなくて…やっぱり仲間だからかな。」
フー・スーさんは独り言のように言った。
「この星の人間は…人はそんなふうにまで成長できるものなのか。我々と違いすぎる…。」
このとき彼女は思っていたのだろうか。宇宙人=銀河宇宙同盟の星々と地球の違いを。あるいは日本との違いを。僕は僕で、初めて他の星に行ってみたいと感じた。龍族、虎族、他にもあるのだろうか。宇宙は広いのだ、と心底わかった気がした。
そう、フー・スーは初めて知りたいと思ったのだ。任務や諜報活動で調べるのではなく、この星のことを、人々のことを自分で知りたいと。虎族も龍族も成し遂げていない“高み”に辿り着いているかも知れない、この星の人間のことを知りたいと思った。
日本は宇宙人に侵略されました。
今回も読みに来ていただき、ありがとうございます。
あっちもこっちも大変な状況になってきています。しばらく戦闘場面が続くと思います。作者の好みをお許し下さい。




