全銀河宇宙大戦 決戦前夜
“敵”の総攻撃に対して、龍族の戦いが始まる。
4-4-⑤ 全銀河宇宙大戦 決戦前夜
“敵”の大艦隊が銀河腕に近づいてきていた。暗黒宙域の外縁部に到達。このまま銀河腕に入られては、拡散され、様々な星系や星域が“敵”の襲撃を受けることになろう。“敵”を迎撃するための最後の最後の防衛線はすぐそこに見えるほどの距離であった。
“敵”の艦隊は球体にツノが付いている形状である。球体一つにツノ一つの一番シンプルな艦が駆逐艦に相当すると思っていい。そしてツノが増えるにつれ、巡洋艦や戦艦クラスと認識され、球体も巨大化していく。大戦艦クラスになると丸まった針鼠のようになり、ツノの数は数えきれないほどとなる。
そのツノを持つ艦隊が雲霞のごとく前進していく。これまで例がない数であり、進撃速度であった。それゆえ“妖精”たちは“シュコン”の前触れと判断したわけである。巨大な雲霞はデブリをものともせず衝突を繰り返し、小惑星はそのまま飲み込む勢いで進む。最初に到達する星系は龍族の一番端に位置する太陽系である。すでに全住民の避難は完了している。自分たちの生まれ故郷がなくなるやもしれぬ状況を、移送される各船団のモニターで見守っていることであろう。
この“敵”の大艦隊に左フックの一撃を与えるのが、シヴァイの作戦である。そして“敵”をそのまま右手に押し込んでいく。銀河の端には【虎】【九尾】【犬神】などが待ち構えていた、押し込まれてきた“敵”に総攻撃を加える手はずなのだ。
だが、本当に【龍】と【猫】【鎧獣】で“敵”の大艦隊に一撃を加え、あまつさえ狙った宙域に押し込んでいくことは可能であろうか。もしも“敵”艦隊に押し切られてしまえば、【龍】の星系は全て“敵”の蹂躙を受けることになる。
作戦会議で龍族の筆頭将ヨンガンはシヴァイに尋ねた。
「押し込めなかったら、どうなるのでしょうか、シヴァイ閣下。」
シヴァイは言った。
「龍族は滅亡し、猫族、鎧獣族も後に続きます。そして後ろに回り込まれて銀河宇宙は生命のない空間になるのでしょうね。」
今、戦いが始まる。
龍族第一艦隊旗艦、総旗艦のアフマルガから発令が飛ぶ。龍族全艦隊の出撃である。赤と青が並進し、黄、緑が予定の位置に動く。はずであるが…
第2艦隊旗艦、リュトゥーガの艦隊司令がつぶやく。
「シヴァイ殿がおっしゃった通りだな。」
青族の進撃速度が早い。赤と足並みを揃える気配が全くない。
龍族の近年の戦果はほとんど、いや全てが赤の龍族のものである。青族の龍たちは思うところがあったであろう。「我らも戦えば」と。そのはやる気持ちに加えて、青族の族長アズラックは赤族の立てた作戦を素直に受け入れる気持ちに乏しい。自分のやりようが通じると考えている。
青族艦隊の独走に気がついた赤族の各艦隊からリュトゥーに連絡が集まる。赤族の先陣を切る第2艦隊、第13艦隊に速度を上げよという要請さえある。彼らも気がせいている。しかし第13艦隊、シヴァイガの司令官は軽く肯くだけであった。そして第2艦隊に連絡を入れる。
「リュトゥー司令、作戦Aは実行不可能になりそうだね。作戦Bに移行。よろしいでしょうか。」
第2艦隊より返信が届く。
「承知いたしました。第1艦隊への報告後、赤族全艦隊に作戦Bへの移行を連絡、徹底いたします。」
青族の暴走傾向は予想済みであった。それに対しての作戦案も赤族の会議で了承済みである。
「後衛の猫・鎧獣には13艦隊から連絡します。」
シヴァイは再度リュトゥーに連絡し、赤族は全艦隊の艦形をかえていった。そのスムーズな艦隊移動にシヴァイは納得する。
「うん、これなら作戦を無事に進められそうだね。」
かつてはリュトゥーが占めていた副官席には女性が座っていた。鮮やかな赤いロングヘアーを制帽に押し込めた姿はシヴァイガのクルーには新鮮である。第5艦隊司令イピオスの娘、アソオスである。彼女はシヴァイの言葉を継いだ。
「本当に司令官閣下は先を読まれるのですね。リュトゥー閣下からお聞きしてはいましたが…。」
「なんとなく、だよ。そうなるんじゃないかなと思っていた程度。」
シヴァイの目はアソオスにではなく、無限の宇宙の闇を見続けていた。
青族艦隊旗艦アズラクガでは青族の族長が声を枯らしていた。
「もっと早くだ。赤族より先に“敵”艦隊に遭遇し、これを撃滅するのだ。急げ、急げ、急げ。」
その指揮に忠実に従う青族全15艦隊。赤族よりもやや多めである。彼ら自身も青族総司令官と同じ思いであった。先陣は兵の勲章。今こそ青族の勇敢ぶりを全銀河宇宙軍にしらしめようと意気軒昂である。青族の太い矢は一直線に“敵”艦隊に進んでいた。
『青族ノ先頭艦隊ガ、“敵”ト接触。戦闘ガ開始サレマシタ。』
シヴァイの頭上に現れた“妖精”銀髪がつぶやくように告げる。シヴァイガの戦闘艦橋のクルーにはおなじみの景色である。
「ん。こっちもそろそろ戦闘準備。」
シヴァイも独り言のようにアソオスに告げる。彼女は復唱し、戦闘艦橋のみならず、全艦員が緊張を高めた。リュトゥーガより連絡が入る。すごくイヤそうにシヴァイは立ち上がり、全艦隊に戦闘開始を告げる。
「我が艦隊は青族にやや遅れて戦闘宙域に突入する。大切なのは速さではなく、殴る強さと殴り続けることである。赤族のみなさん、いつもと同じように戦えば必ず勝ちます。アフマール閣下に栄光を!」
相変わらず緊張感のない演説である。が、それが赤族にとっては頼もしいものとなっている。リュトゥー始め、全艦隊の将帥も兵士も深く肯いた。我々は勝てる、と。そう思わせる信頼感がシヴァイには備わっていた。
青族の先頭艦隊は交戦状態に入っていた。突き進んだ勢いそのままに“敵”艦隊に攻撃を加える。亜高速で突っ込んでくる艦隊に反撃は難しい。“敵”艦隊は次々にツノを失い、球状の本隊も破壊され沈んでいく。その調子の良さにアズラックは驚喜する。
「見ろ、我が艦隊の強さを。赤族だけが龍ではないわ。」
青族はホットケーキを切り込むナイフのように、“敵”艦隊の中央部に進んでいく。しかしそれでも“敵”全艦隊の1/10にも届かない範囲での優勢状態であった。進撃が段々と止められていく。
ホットケーキの中央に届く前にナイフは止まる。周囲の“敵”艦隊より“スズメバチ”や“クマバチ”が出撃してくる。艦載機戦では“敵”の方が圧倒的に優位なのである。青龍の戦艦が次々に侵入を許す。戦艦内で暴れ回り、自爆する“スズメバチ”。巨大な爆弾をぶつけては去っていく“クマバチ”に青族艦隊はなすすべがない。これまで銀河宇宙軍が負けてきたパターンをそのままなぞっていく。
机の上に両手を置こう。右手の方は左手よりもかなり上に進んでいる。しかし、完全に包囲されて、青い右手は現在ぼっこぼこに叩かれている。その包囲は分厚く、青い右手には簡単には近づけそうもない。しかし右手は全龍族の半数近い戦力である。見殺しには出来ない。遅れて攻撃を開始する左手、赤の龍族の戦法はどのようなものか。黄龍と緑龍の動きは?
全銀河宇宙軍が、各星の住民が、赤の龍の動きに注目していた。その熱さと重さをいっこうに感じていないように、シヴァイは右手をあげ、一言
「戦闘開始。」
全銀河宇宙大戦はこうして始まった。
日本は宇宙人に侵略されました。その宇宙は大変です。
ご訪問ありがとうございます。
いよいよ宇宙艦隊戦が始まりました。戦闘の場面が続きます。あのアニメや、あの小説に一歩でも近づけるよう頑張って考えていきたいと思います。




