赤の龍の間
“敵”の総攻撃が“妖精”に告げられた。銀河宇宙軍はどう戦うのか。龍族の運命は。シヴァイの頭脳が龍族とその民のためにフル回転を始める。
4-4-④ 赤の龍の間
龍族は、四つの支族から構成されている。それぞれの支族の中には細かな分類があるのだが、全ての龍から進化した人々は青龍(水龍)、赤龍(炎龍)、黄龍(光龍)、緑龍(風龍)のどれかに所属している。
その赤龍族の族長の宮殿にて、重要な集まりが行われようとしている。
出席者は族長であるアフマール。まだ少年と言っていい年頃である。不幸な事故で全身の八割を失ったが、龍族の強靱な再生能力とそれを発展させた科学力、そして本人が持ち合わせていた幸運により半身以上の復活がかなっていた。
アフマールが不在の間の族長代行、リュトゥー。整った容貌と長身で目を惹く存在である。能力は全般的に秀でている。族長代行を決める際には誰一人反対者がいなかったことでそれを証明している。
この二人が最前面に座り、それと向き合う形で、十一人が席に着いている。鍛えられた者たちで広大なテーブルが狭く感じられる。
一番末席に座るのは龍族ではない人物、シヴァイである。近年の龍族いや赤龍の勝利は、ほとんど彼の頭脳から生まれ出たと言える。赤龍の代表である十将全員が今では彼の作戦指揮に納得し、赤龍の勝利に貢献してきた。しかし、シヴァイ自身は功績を誇ることなく、その人柄も周囲に認められる一因である。
「先頃行われた、銀河宇宙軍総族長会議の内容を伝える。」
赤龍十将とシヴァイを順に眺めたあと、龍族族長であるアフマールは切り出した。青、緑、黄のそれぞれの支族長には既に伝えてあるが、十将たちは今日のこの日までを不安に過ごしてきた。
“敵”の『総攻撃』が予想されるのだ。それも龍族支配下星系に向けて。自分たちの星に。
暗黒宙域から、この銀河系にかけての様々な宙域で戦いが繰り広げられてきた。幾つもの星の住民が喰らわれ、掠われ、星々の生き物が消えていった。“敵”は惑星だけでなく、恒星の熱量までも奪っていく。残されるのは灰のようになった星の残骸だけであった。
無論、幾つもの抵抗が様々な部族により繰り広げられた。しかし、ほとんどが敗北に終わった。
銀河宇宙軍は戦うことよりも星系の住民を待避させることを作戦の中心とするようになってきた。【九尾】や【犬神】以外の部族は“敵”に数で劣り、破壊力で砕かれ、他の星系に逃げることしか出来なかったのである。
シヴァイの登場までは。
彼の奇抜な作戦は赤龍の族長の命を救い、“敵”に一矢を報いた。赤龍の軍は“敵”と互角に渡り合い、隣接した星系の猫族や鎧獣族は幾度も協力し“敵”を追い払った。【九尾】【犬神】のように数で圧倒するのではない戦い方は他の部族にも希望を与えた。
が、それゆえ“敵”は龍族に進路を向けるのではないか、そう口にする民も多かった。彼らは予言者ではなかったが、敵の出現は徐々に龍族の星系に近づき、“妖精”たちは警告を発した。
『“敵”ハ龍族星系ヘト、シュコンヲ延バシテイルト思ワレル。シュコン、ソレハ“敵”ノ中心ソノモノデアル。』
『ソッコン、フクコン、ヨリモ巨大ナ“敵”ノ影響ガ龍族星系ヘト雪崩コンデ行ク。総攻撃ト予想スル。』
“妖精”たちはデータを正確に告げるだけである。彼らの特性上、指示を下したり責任を取ることはない。“妖精”たちは明日の天気を告げるように、淡々と龍族の危険を告げたのである。そしてそのことは十将たちにだけは伝わっていた。
それゆえ、銀河宇宙軍は全体としてどう動くのか。龍族を支援してくれるのか。龍族だけでの戦いとなるのか。猫族など他の部族の動向は。
族長会議を起こしたアフマールと随行したリュトゥー以外の十人はこぶしを握り、アフマールの言葉を待った。
「銀河宇宙軍は全力で“敵”の総攻撃に立ち向かうことになった。」
声にならない安堵が全員の口または鼻から漏れた。あからさまに肩を落とし、安心する者もいた。しかし“敵”の総攻撃という前代未聞の状況を思い出し、すぐに緊張を取り戻す。
赤龍の十将はそれぞれ実力の持ち主である。それでも“敵”の強さは圧倒的なのである。銀河宇宙軍全体がまとまっても勝てるのか。龍族を守りきれるのか。そう思うと安堵感は霧消していくのであった。
その雰囲気を読み取ってか、アフマールが話を続ける。
「全員、手元の画面を見てほしい。リュトゥー、ここからは説明を頼む。」
「承知しました。みなさんシヴァイ提督の御発案をごらん下さい。」
十三人全員のすぐ前に画面が浮かび上がり、右隅に見慣れた龍族の星系が描かれる。距離は省略して左上に暗黒宙域のモデル。そこから黒く太い矢印が延びてくる。もちろん龍属星系に向けてである。
「この“敵”の侵攻に対してシヴァイ閣下は“受け流す”という案を立てられました。」
ぎょっと驚きの感情を顔に出した者。理解できず首を傾げる者。ただ目を細める者。十人それぞれが自分なりにまとめようと努力する。が、その間を与えずリュトゥーは続ける。
「“敵”の性質上、龍族の左側、生命の少ない宙域には流れないでしょう。右側、となると虎族や【犬神】の宙域になります。」
そこでシヴァイが尋ねる。
「龍族に“正面から受け止めろ”という意見は出なかったのでしょうか。」
アフマールが微笑みながら答える。
「お前らだけで戦って死ね、と正面切って言う部族長はいなかったね。」
リュトゥーが続ける。
「それを言えば銀河宇宙軍は四分五裂になり各個撃破されるだけ、どこの部族長もそんな愚かな考えは述べられませんでした。」(思ってはいたかもしれませんが)
「リュトゥー提督、シヴァイ閣下の作戦を続けてくれたまえ。」
十将の筆頭、ヨンガンがうながした。リュトゥーは肯き、画面を操作する。黒い矢印は赤い矢印に左から右へと押されていく。
「龍族が“敵”を銀河宇宙軍の中央部へと押し込むのが第一段階です。この作戦には猫族と鎧獣族も協力を確約してくれました。」
「あの二族は信頼できる。」
「うむ。シヴァイ殿の采配下での戦功も数しれんからな。」
そういう声も出たが、それを否定するように筆頭将ヨンガンはシヴァイに尋ねる。
「押し込めなかったら、どうなるのでしょうか、シヴァイ閣下。」
シヴァイの目は細められ、感情は一切読めない。その表情で彼は言った。
「龍族は滅亡し、猫族、鎧獣族も後に続きます。そして後ろに回り込まれて銀河宇宙は生命のない空間になるのでしょうね。」
日本は宇宙人に侵略されました。その宇宙人は大変な状況にあります。
今回も読みに来ていただき、ありがとうございます。
だんだんと大きな戦いの話になりそうですが、日本の片隅の話も忘れずにいてやってください。




