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フー・スーの受難⑤

派手な戦闘だけが戦いではありません。町の片隅でも、宇宙に影響する戦いが繰り広げられているのです。

4-5-⑤  フー・スーの受難⑤


 銀河宇宙軍虎族親衛隊の影、それだけがフー・スーの肩書きである。

 彼女は虎族の中では小柄である。大きめの猫族と言われると納得されることも多い。幼少期はそれが屈辱であり、それを糧として自分を磨いた。様々な格闘技や、戦略戦術に努力を重ねた。そして、自身が最も秀でている分野に気がついた。諜報である。情報を集め、推察し、さらに深部に至る。後のことを考えて、任務以外にも広くアンテナを張っておく。その能力は絶大であった。


 フー・スーの地球、いや日本での諜報活動は一週間を過ぎた。

 初日のテキサス・フライドチキンだけでなく、ドス・バーガーやミスター・ドーナットンのメニューを立て続けに制覇し、継いでは牛丼の“良し好きや!”で全メニューの完食をした際には偶然居合わせたテレビ京東の関係者にスカウトされたほどである。

(てれび、というマスメディアに興味はあったが、諜報員としてはさすがに顔バレは不味いと自重した)

 さらに、カードゲーム店だけでなく、ゲームセンターにも出入りするようになり、対戦ゲームやリズムゲームでは上位に名を連ねるほどに成長した。チェーンの居酒屋にも毎夜のごとく暖簾をくぐり、適度な量の酒とつまみをたしなむ。そのあとは漫画喫茶で熟読するかネットゲームにふける・・・・・

 大学生になって、羽目を外せるようになった若僧の通り道を順当に歩んでいるフー・スーである。

 しかし、その晩の漫画喫茶にて事件は起こった。

 フー・スーの“妖精”が自己起動したのだ。


『フー・スーヨよ、一週間ハ国情理解ト容認シテイタガ、ソロソロ真面目ニ働クガイイ』


 その言葉を聞き、慌てるフー・スー。そう、自分は何をしていたのだ。諜報員として、まだ何も成していない。シヴァイとリュトゥーの居所さえ判明していないのだ。このままファーストフード店制覇を続けていてどうなる。(確かにどうにもならんわなぁ)

「わ、悪かった。私の未熟の至り。先生のおっしゃる通りです。」

『先生ニナッタ覚エハナイガ、戦術支援員トシテハ、コレ以上見逃スコトハ出来ナイ。スグニ諜報活動ヲ開始セヨ。』

「はい、わかりました。今すぐ店を出て…。」

 その瞬間、フー・スーの肩は、ガッと掴まれた。

「お姉さん、珍しい物持っているね。それ、見せてくれない?」

 その種類の人間は国籍どころか出身惑星すら違っていても一目でわかる。そう、チンピラという種族であった。三人いや少し離れて、さらに二人いる。10個の瞳が全てフー・スーのすぐ隣で光る“妖精”に注がれていた。

(しまった!)

 フー・スーがカウンターに目を向けると、店員がこそこそとバックルームに引っ込むところであった。きっとあいつが連絡したのだろう。こういう経験に慣れているフー・スーは即座に理解した。そして

(ならば、ここで暴れても差し支えないな。)

 決断は早かった。なぜならチンピラに見えてもこの五人はそれなりの訓練を受けていると一目で理解できたからである。身のこなしが常人とはケタが違う。膨らんだ懐の武器も強力さを大きさで示している。

 手加減は無用の相手だ。そう思った瞬間、フー・スーの身体の一部がみるみる伸びていった。

 爪と牙である。爪の強さと堅さは虎族として当たり前の武器である。さらに、フー・スーには巨大な牙が備わっている。そう、彼女は虎族の中でも稀少種“サーベル・タイガー”であった。

 …数分後。ずたずたに裂けたシートやパソコン、本棚の間には瀕死の四人の姿が見られた。尋問するつもりで意識を断たなかった一人の首根っこを持ち上げる。フー・スーは少しずつ力を入れ、男に尋ねた。

「私が“妖精”持ちであることに付いたのはなぜだ?」

 次に息が出来るレベルから、話せるレベルまで力を緩めてやることも忘れない。そう、彼女は尋問も得意であった。諜報調査には荒事も含まれる。こそこそ覗いたり、聞き耳を立てるだけが諜報員ではない。 

「はぁはぁ、ぜぃ…あ、あんたが宇宙局の支部から頻繁に出てくるから…。マークするように上に言われたんだ。俺は命令に従っただけだ。命だけは助けてくれぃ…。」

「ふん、やっと釣れたか。」

 フー・スーは満面の笑みを浮かべた。派手に目立つ行動と宇宙局への出入りは意図的なものであった。彼女の計画は見事に的中したのだ。(ええっ!)

「で、その“上から”ってのを、くわしく教えてほしいんだけどね。」

フー・スーの美貌で、この口調は恐怖である。男は、がたがた震え始めた。

「そ、そればかりは…。」

 次の瞬間、フー・スーの顔の位置を何かが通過していく。遅れてビュッという音。音速以上の速さで通過した物、それは倒したはずの一人が放った鋭いウロコであった。

 しかし、フー・スーはとっさに避けていた。意識ではなくて勘が身体を動かしたのだ。もしくは人類には持ち得ない肉食獣の第六感とでも言うべきか。

 完全に倒したはずの四人がヌラリと立ち上がる。男たちの全てが魚のような顔になっている。指の間には膜が張り、衣服は今まで水につかっていたかのように濡れそぼっている。

 ガシっ。今の今まで情けない声を出していた男も魚人化していた。

 地球人の数倍はあるフー・スーの膂力を押さえ込み、片腕を押さえつける。先ほど声をかけてきた男だった魚が発音の悪い声を発する。

「ひっかかったな。お姉さん、もう一度言うよ。その“妖精”を見せてほしいねぇ。出来ればいただきたいんだけど…けけけけけけ~。ふっ!」

 フー・スーの頬を高速のウロコがかすめていく。今度は躱せず、フー・スーの片頬がぱっくりと裂け、血が流れ出る。その血は糸のようにではなく、平面で流れ落ちていく。

(こいつら、ただ者じゃない。地球人にこのような戦闘力の持ち主がいたとは…不覚。)


 フー・スーの運命やいかに!!


日本は宇宙人に侵略されました。その宇宙人がピンチです。

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