フー・スーの受難③
銀河宇宙軍のなかでも最強クラスの虎族。その諜報員フー・スーの日本での諜報活動は苦難の連続のようです。
4-5-③ フー・スーの受難③
銀河宇宙軍虎族親衛隊の影、それだけがフー・スーの肩書きである。
彼女は虎族の中では小柄である。大きめの猫族と言われると納得されることも多い。幼少期はそれが屈辱であり、それを糧として自分を磨いた。様々な格闘技や、戦略戦術に努力を重ねた。そして、自身が最も秀でている分野に気がついた。諜報である。情報を集め、推察し、さらに深部に至る。後のことを考えて、任務以外にも広くアンテナを張っておく。その能力は絶大であった。
「テキサス・フライドチキン。素晴らしく美味な鶏肉を提供する商店であった。機会あれば、ぜひ姫様にもご賞味いただこう。きっと気に入って下さるはずだ。」
店内のほとんどのメニューを平らげたフー・スーは不思議なことに途中から他の客に次々と握手を求められ、最後には観客と店員全員から拍手と歓声を受けた。
「フードファイターだ」
「次の収録の練習かな」
などと意味のわからない言葉も聞かれたが、諜報活動を疑う概念伝達はなかったので気にしなかった。ただ「サインをください」の要請には痕跡を残すため、かたく断ったが、気分は悪くなかった。
(肉球を押してやるくらいはしても良かったかな。球紋は消してあることだし…。)
そのご機嫌の彼女の前に現れたのは、夜にもかかわらず明るい店々のなかでも一際電飾の派手な店であった。何より彼女の目を引いたのは店の名前である。
「青い潜水艦…なんだと!軍事兵器を商う店がこんなに堂々と?」
彼女の常識では店の看板とは、商う商材が書かれているはずである。肉を商うなら肉屋。魚を売るならば魚屋。武器の店、防具の店、それぞれがその商材と簡略化された絵が描かれている、それが看板である。しかし目の前の看板には“潜水艦”とあり、簡単な波の線とその下に船の絵が描かれている。どうみても潜水艦を商っているとしか思えない。
その店から出てくる者は一般市民にしか思えない。店の前からのぞき見ても、軍服や大商人が出入りしている様子はない。さらに、恐るべき言葉が聞かれたのだ。
「いらっしゃいませ。」
バレたのか。私が軍属ということが、この人の良さそうな店員には一目でわかるのか!服装はこの星の標準タイプにしているはずである。テキサス・フライドチキンでも服装に疑念を持つ存在はまったく見られなかった。それをこの眼鏡をかけ、やや太り気味の、どう見ても非戦闘員にしか思えない者が見破るのか…。フー・スーの心は千々に乱れた。
憔悴した顔でフー・スーは言われるまま店内に入った。ここで逃げ出したりすれば官警などを呼ばれることにもなり得る。それは困る。目立たぬよう、そしてなるべく早めに退店することを決め、フー・スーは足を進めた。が、その目にはさらに恐るべき光景が広がっていた。
(こ、これは…賭博場ではないか。)
店員も、客も、一般市民に見えていたが、全て偽装であったのか。目の前に繰り広げられる景色は一対一でカードを持ち、必死で戦う男達の様子である。概念伝達でも作戦を練る者、勝利を誇る者、負けた悔しさ…いや概念伝達などしなくとも、天を仰ぎ、溜息を漏らす者もおおいではないか。ここは上流階級しか入れない、賭博場であったのだ。
(きっと、優勝者には潜水艦が与えられるのだ。彼らは自分の軍営の兵站を強化するため、必死で戦っているのだ。うむ、あの店員は私から発する軍属だという何かのしるしを読み取ったのか。)
おそるべき星の民である。未だかつて、諜報員と見破られたことのない自分を一目で看破する者が一般市民であろうわけがない。やはり彼は超一流のドアマンであったのだ。ふりかえり、もう一度入り口の店員の表情を見る。半分寝ぼけ眼に見えるが、あの目の奥は通り過ぎる人混みから優良な客を選りすぐっているのであろう。あっさりと見破られた自分を恥じたが、相手の力量は素直に認めるフー・スーであった。彼女は高給賭博場に一歩足を進めた。カードを握りしめた男達と戦う決意が徐々に高まってきた…。
日本は宇宙人に侵略されています。そのためカードバトルは推奨される遊びになっています。
今回もご訪問ありがとうございます。
賭けに負けて、2日に一回の投稿となりました。とほほ。
しかし「お気に入り登録」が増えたり、ポイントが入ったら、その日は投稿OKとなりました。毎日投稿できるよう、がんばって少しでも良い作品を書きたいと思います。




