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日本が侵略されたのは

宇宙人による日本侵略は、まったりと続いております。

1-4-2


 日本国内は急速に変化したが、古き良きものは保存を推進する宇宙人からの指示が発表、実施され、宇宙人が日本を侵略している実感が薄れていった頃、自衛隊に連絡が入った。「自衛隊員全員に伝えたい内容がある。話せる時期が来たので準備をお願いしたい。」と。


 外圧が消滅したに近い国際状況の中でも黙々と訓練や災害対策を継続していた自衛隊は、即座に了解の返事をし、参加者の選考を終えた。



「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」     

陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊を自衛隊法第3条第1項

 

 

 

「しっかし…まぁ会場の椅子並べを依頼したときに、『きちんと並べてくれるだろう』と期待はしていたのだけれど…実に見事なものだね。」

 

 様々な理由で会場になった幕○メッセ国際展示場の一番大きなホールは整然と椅子が並べられ、階級に応じてか白布長机も設置されていた。壇上にはもちろん日本国旗といつ作ったのか宇宙軍のシンボル旗が並べられていた。その片隅には見事な花器に最高級の技術で生けられたであろう満艦飾の花々が日本の四季をアピールしていた。壇上だけを見れば、「卒業式かな?成人式かな?」と思えないことない。

 しかし、開始30分前には全員が着席し、まったく私語を発しない出席者。厳しい顔つき、身じろぎもしない姿勢、シワひとつ無い制服、ピカピカに磨き上げられた靴などに目を向けると、ワンダーなフェスティバルである。


「今ここに爆弾が落とされたら、とてつもない人材の喪失だなぁ。」

「この星全ての核兵器が落とされても跳ね返す程度に、防備は完璧です。」

 司令官のつぶやきに、副官は冷静に事実で返事をした。


「どこかのライブハウスで、軽くお酒を飲みながら、ってわけにはいかないとは思っていたけどね。この客層だとまたまた盛大にスベる可能性が100%だなぁ。」

 前回の宇宙人としての第一声を少しは反省している様子ではある。

「まぁ司令官はいつものように好き放題に語ってもらってかまいません。軍事や技術的な説明は後半の散会後に幕僚参謀や専門の技術将校が対応いたします。」

「そりゃそうだ。僕自身まだ、あなたたちの科学力や軍事力を全ては理解していないもん。それに・・」

 左手を軽く持ち上げ、手のひらで何か持つような仕草をする。その途端、手のひらの上あたりの空間に“妖精”が現れる。


「この妖精さんたちの力、いや存在自体がまだ全く理解できていない。」

「それは我々も似たようなものです。でも彼らを呼び込んだのは、あなたの…」

銀髪の妖精が目覚める。いつもよりは小さなサイズであっても、すらりとした肢体の美人。


『司令官。オハヨウゴザイマス。』

「おはようございます。妖精さんにお願いですが、出番が来たら呼び出しますので、派手なご登場をお願いします。ジークのワイバーンさんも格好良く登場してほしいのですが…。」

『ハイ、了解シマシタ。』

 いつも通り(ジークって誰ですか、と)微不満顔の副官も妖精を召還する。真っ赤なワイバーンは最小サイズでもピクシーの倍は大きい。

「それでは会場に入りましょうか。」

「はい。」

 二人の妖精は瞬時に不可視になった。



「式次第は一切なし。宇宙人からの話、自衛隊員からの質問、その後専門分野にわかれての打ち合わせ、のみ」

事前に強調しておいたので、壇上に上がるなり、左右の椅子を引きずって中央に移動させる。

 こういうところはパイプ椅子だと思っていたら、結構重い。どこから調達したのやら。副官は優雅に椅子を移動させ、やや後方に着席する。二人の様子を見た、式服の自衛隊員が司会を始めようとしたので、無言で手で制する。

 ツカツカと中央に移動し、マイクの前へ。拍手なんかされたら気恥ずかしいので、いきなり話始める。


「みなさん、こんにちは。宇宙人です。」

 

 予想通り、観客席は無言。自衛隊員全員の厳しい視線は激しさを増した気がする。一カ所に集めたら黒い紙が燃えるかもしれない。

「と、いつもは“宇宙人”と呼称していますが、我々の正式名称は…と言っても、近い日本語に置き換えた場合ですが、『銀河連合宇宙軍第133艦隊司令長官』が私の職名です。」

 少しだけ反応があった。様々な呟きがかろうじて耳に届いてくる。

(あの規模の宇宙船団が100以上あるのか?)(一艦艇にどれほどの人員が…)などなど。


「私自身についてですが、とある事故のため記憶喪失になり、多くのことを覚えていません。ただ、理由はわかりませんが私は彼ら宇宙人に“シヴァイ”と名付けられました。」


 副官は深く深く肯く。

(あなたはそれだけの偉業を達成されたのだから)

 

 宇宙軍内の様子を見ていると、宗教という概念は、かなり薄れているようである。それでも突入の際に兵士それぞれが祈りを呟く様子を見ると「超越者」というイメージはまだありそうである。人型かどうかはわからないが。その程度なので、日常生活では宗教はあまり感じられない。であるが知らない者にシヴァイという名前を出すと敬意を表される場合が多い。どこかの星の何かの物語の主人公ではないかと勝手に思っているのだが。


「もう少し早くみなさんにご挨拶がしたかったのですが、日本国内外のなんだかんだが忙しくて遅くなりました。すみません。」

 会場満席の自衛官たちは皆、私の言葉遣いにとまどっているようである。現在の日本を実効支配している宇宙軍の最高責任者であり、地球世界のパワーバランスを容易に変革させる立場の者にこんな平易な口調は似つかわしくないのだろう。司令長官と名乗っているのだから、もっと尊大な態度や口調を予想して不思議はない。


「今から話す内容は、一応極秘情報に分類されます。しかし日本中の自衛官全員に伝えるため、日本国民や諸外国に情報がもれることも、許容範囲と考えています。細かなデータや大きな案件については後ほど完全にシールドされた別室で、それぞれの担当ごとにお聞き下さい。そちらは完全に極秘事項です。」

 会場を満たす自衛官たちの表情が少しだけ人間らしく戻った。興味や不安、緊張あるいは期待? 皆とても良い顔つきである。選ばれた者は肩の荷も重いだろうが、前へと進む脚力も強いはずだ。


「では、なるべく簡略化して話します。

 ①地球は狙われています。

 ②狙っているのは、我々宇宙人=銀河連合よりも強大な存在です。

 ③地球を守るのは、無理かもしれません。せめて日本だけでも守りたいと思い、日本を占領いたしました。幸い私に、その程度の権限はありました。

 ④日本と日本人を守るため、今から日本を大きく変革させていきます。

⑤まず始めに自衛隊を宇宙軍に組み込みます。陸・海・空はそのまま維持しますが、適正のある人には宇宙軍に移籍してもらいます。

 ここまでで、シンキング・タイムをとりましょうか。」

 小さなざわめきが巨大な大波に育つまで、三〇秒もかからなかった。もういいかな。

「それでは、こちらから指名いたします。座席番号 一〇〇番の方、質問をどうぞ。」

 周囲が注目することで、場所がわかった。おっと、もう一つ言わなければ。

「時間の無駄なので、所属や階級名前は省略して質問内容だけ発言して下さい。」

 時間がない、に触発されたかすぐさま起立して、こちらを注視する。うん、見るからに切れ者という顔つきの三〇~四〇歳中堅どころの自衛官が軽く息を吸う。空中で待機していたマイク機器が彼の頭上に移動する。映像機器もどこかで角度を変えていることだろう。

「では、失礼します。敵、地球を狙っている相手とは、一体何者でしょうか。」

 会場は肯く者の方が多かった。やはりそれが一番気になるだろう。戦闘者集団にふさわしい質問だ。

 こちらも用意していた模範解答を述べよう。

「何者、といわれましたが、人間かどうか…生き物かどうかもわかりません。宇宙規模の災害という説もあります。ただし、直接的に攻撃してくる個体は生物的な形状を備えています。」

 質問者に対して手で着席するよう合図を送る。まだ質問を続けたそうであるが、素直に着席する。さきほどよりは小さめであるが、ざわめきが発生する。

「次、座席番号二〇〇番の方。」

 要領が解ったようで、すぐさま二人目が起立する。三〇〇、四〇〇など切れ目の番号の者は頭を高速回転させているであろう。二〇〇番が口を開く。

「その…敵に対して勝つ方法はあるのでしょうか。」

「とても難しいです。正直に言うと連戦連敗と言わざるを得ません。」

一瞬間を置く。きっと…

「司令官閣下の発言を補足いたします。」

やはり副官が口を挟んだ。すらり、と立ち上がり大観衆に軽く会釈をする。

「私は133軍でシヴァイ司令官閣下の副官を務めています。リュトゥーと申します。」 

再度一礼。会場も一斉に頭を下げる。どう見ても私よりも役者が上である。さすがさすが。

「銀河連合軍は確かに連戦連敗という状況ではありますが、一部の恒星系国家や惑星国家が敵を退けた例は幾つもあります。特にシヴァイ閣下指揮下の133軍は最精鋭として常に最前線で勝利を期待され、それに応えております。」

 もういいよ、と手振りで着席させる。にっこりと微笑むジークの心境が見えて腹立たしい。

「彼を始め、優秀な仲間に恵まれているおかげです。ただし、勝利の定義をどうするかで変わるでしょう。故郷の星を捨てて、他の星系に退却することも勝利に入れて良いか等です。では三〇〇番の方、質問をどうぞ。」

 けっこうな年配と思われる自衛官が起立した。見事な白髪が歴戦を物語っている。ちょっと緊張するなぁ。

「閣下はさきほど“日本だけでも”とおっしゃったが、なぜ日本に限定したのか。それと日本を守ることは可能なのか。」

うーん、二つ質問されたような気もするが…ジークの方を見て確認をする。肯いてくれたか。

「一つ目の質問。なぜ日本か、に対しては。私は元々日本人だったから と答えます。二つ目、日本だけでも守ることは、その答えは、とても難しいとしか言えません。またそれも、今これを聞いている日本中の自衛官だけでなく、日本人全員に一丸となって戦ってもらうことが最低条件となります。」

 これまでで一番大きなざわめきが会場を支配した。

「はい、四〇〇番。」

「あ、えっ、本当に日本人なのですか。」

「朝はご飯と味噌汁じゃないと力が出ません。アニメと時代劇が大好きです。今回象徴天皇制はそのまま残しました、今後も変えるつもりはありません。次、五〇〇番」

 お、クールな顔つきの人が立ち上がった。

「自衛隊は戦力になるのでしょうか。我々はあなたがたに対して全く無力でした。日本国民を戦力に組み入れたとして、あなたたち宇宙軍にすら完敗した自衛隊に何が出来るのでしょうか」 

 会場内が徐々に冷静になる。戦うことに目を向けた途端、切り替わるあたり流石に戦闘集団である。それを見越してこの質問をしたならば、この自衛官はかなり頭が回る人なのだろう。

「日本だけで戦うわけではありません。諸外国も自国を守るため戦うでしょう。そのための協力は我々宇宙軍も厭いません。それでも、一番に期待しているのはこの日本です。理由はこの場では申せませんが、私は故郷を守るという感傷だけで地球に戻ってきたわけではありません。敵と戦うため、勝利のための要因がここ日本にあるから、宇宙人は侵略したのです。」 

 

 このあとの会議内容もこちらの予想通りの展開で進んだ。話したかったことは全て語ることが出来た。選ばれた自衛官たちも日本各地で見ていた者も、後で録画を見た者も、現在は不満や敵意を持つには至っていない。敵については機密事項として曖昧なままで話を進めたが、我々の持つ科学力による最新軍事技術の紹介と会議の途中で姿を現した二人の“妖精”の未知の力に興味を抱き、意識を逸らすことが出来たように思う。敵を恐れるのはまだ後でいいはずだ。

 少しずつ日本は変化していった。仮称として「銀河日本」という表記もされたが、基本的には「日本」のままであった。

 


 こうして日本は宇宙人に侵略されました。

作者の思い込みが多々反映されております。

あくまでも小説、物語、作り話ですので、寛大なお心で読んでいただきますようお願いいたします。

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