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戦闘前日

日本は宇宙人に侵略されました。そのため、宇宙の情勢に組み込まれていきます。そして、その日が近づいてきました。

4-6 戦闘前日


 我々の地球の所属する太陽系は、銀河系の中では端っこの方、田舎者のポジションである。同じような局部銀河群にはアンドロメダ銀河やさんかく座銀河がある。また数多くの矮小銀河もある。銀河系に最も近いのは、おおいぬ座矮小銀河である。そのおおいぬ座にて、“敵”の艦隊が確認された。

「おおいぬ座のハビタブルゾーン(HZ=生命居住可能領域)には、いくつか生命が誕生している惑星があります。そのうちの一つに、“敵”の偵察艦隊と補給艦隊が確認されました。」

「“敵”の艦隊は、この銀河系、太陽系に近づいてくるのでしょうか。」

「まだ、わかりません。偵察艦隊が足を伸ばすことは十分に考えられます。また補給艦隊も分枝艦隊を広げることもあります。さらに、偵察や補給艦隊の中に、命令系統を逸脱し、独自に行動する“はぐれ”艦隊が生じている場合もあります。」

「ふむ…。地球防衛の準備を始めた方がいいな。緊急龍族会議に出席された総司令官閣下や族長代行殿の残された指示通りの準備を始めよう。」

「猫族艦隊へはどう連絡いたしましょうか。」

「ご好意で地球周辺にいてくださっているのだ。説明し、かなうならば大気圏内での迎撃まではお願いしてはどうかな。」

「では、その方向で依頼してみます。」


 地球上、日本。都心部からやや外れた某地方。とある高校の昼休み。

「そうか、アドバイザーにもまだ、その程度の情報だけか。」

「はい。地球にまで来るかも知れない、来ないかも知れない。“敵”の中心艦隊の進撃コースからは大幅にそれているそうですが…。来るとしたら、近日中だそうです。」

「何千光年であっても、ひとっ飛び、ってスゴイ科学力ですよね。私みたいな女子にはついていけません。」

「村上さんは理系だろ。男子でも無理だよ。」

 一緒に昼食を取っていた、三年生数名が立ち上がる。

「じゃあ、各部のミーティングに行くわ。またな。」

「本番になったら、期待しているぞ。」

「それじゃあ、また。」  

それらのあいさつに、二人はペコリと頭を下げた。その二人に一人の女子が近寄る。

「…なんか、俊クンも由香里ちゃんも遠くの人になった感じ…。」

 同じ部の石尾さんだ。眼鏡を拭きながら、話を続ける。

「私たち文化部や帰宅部でも、一部攻撃班に所属した子もいるけど。私は応援部隊だからね。なんか雲の上にいっちゃったみたい。」

「応援部隊も大切な仕事じゃないか。避難誘導や消火活動の練習もけっこうハードだし。」

「それに、あんなゴツイ先輩方と対等に話しているし。」

 僕の言葉を全然聞いていないのは相変わらずだ。どこが雲の上なんだか。

「人には向き不向きがあるだけよ」

 僕に向いているとは思えないが…。村上さん自身は自分が戦いに向いていると思っているのだろうか。

 

 その夜、携帯端末“妖精”だけは手放さず、夕食をとっていたとき、父がぽつりとつぶやいた。  

「死ぬんじゃないぞ。」

「うん。」

 短い一言だったけど、父の気持ちは伝わった。何も言わない母や姉も同じ目をしている。父は今度は母と姉の方を向いて語った。

「職場でそれが起こったら、お前らのそばにすぐには戻れないと思う。俊も任務がある。二人とも慎重に行動するんだぞ。」

「わかってるって。この数日は大学も休みになるし。私は自宅待機組だから、お母さんとこの家を護っているわ。」

 姉が明るく答えたが、父は真顔で

「家なんてどうでもいいからな。まずは身の安全だぞ。」

 と続けた。日頃は無口な方の父からこんな風に話し始めるなんて、ちょっと意外だった。

「父さんな、なんか不思議な感じがするんだ。21世紀に入ったことがな…。」

 僕たち三人は聞き流せない気がして、父の言葉を待った。

「1990年代で世界が一度滅んだような、そんなことを思うときがある。何だったかひどい病気が大流行して、人が人でなくなっていって…。だから今回の宇宙人騒ぎも夢の続きのような気分もある。」

「90年代って、テレビでバブル時代とかいうあの頃のこと?」

「…いや、いい。家族が全員生き残る、それが一番大切な現実だ。みんながんばろうな。」

 まったくだ。いつもは実感したことないけど、家族全員で夕食を食べたり、順にお風呂に入ったりする。そんな当たり前の生活を守るために、僕は僕の役割を果たそうと思った。


「シヴァイとリュトゥーはまだ当分帰れなさそうだにゃ。」

猫族艦隊の司令官、アシュバスが自身の副官に尋ねた。

「そのようですにゃ。龍族の者の話では会議はなかなか進展していないようですにゃ。」

 その副官の言葉にアシュバスは少しひっかかる。

「その情報、どうやって手に入れたにゃ?」

 まだ緊張していない証拠に、二人とも語尾が日常的である。

「え、あの…その…龍族の者と個人的に親しくなりまして…。はぁ。」

 アシュバスは獲物を捕らえた猫のような満足な顔つきになった。

「なおさら、“敵”が来たら活躍しないといけないにゃあ~。」

 赤面した副官にほほえみかけると、アシュバスは表情を切り替えた。そして指示を下す。

「偵察艦を増援にゃ。この太陽系に近寄らせないためにも、戦闘するなら隣の銀河が都合良い。情報を密にして、緊急発進の態勢を維持。また龍族艦隊との連係も再確認するにゃ。」

「了解しました。」

 副官だけでなく、戦闘艦橋の全員が拝礼を行う。全員がネコ喫茶店での顔つきとはまるで異なる“肉食獣”の表情であり、アシュバスはその様子に満足した。


 しかし、“敵”のはぐれ艦隊が我々の太陽系に潜り込んだのは、そのすぐ後のことであった。

今回もご訪問とご一読、ありがとうございます。


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