日々の訓練②
ちょっとだけ、残酷描写が入ります。苦手な方は今回はとばしてくださっても本筋には影響いたしません。
3-9-⑤ 日々の訓練②
バレー部とバスケ部の練習。傍目には「ボール拾い」だけにしか見えない。でも、ハードな訓練のあとだ。くたくたの身体にさらにムチを打って、バスケ部は三セット、バレー部は五セットの練習を行い、やっと一日の訓練を終えた。
「…わかりません。この練習は訓練のひとつですよね。」
村上さんが福田さんに尋ねる。いつもクールな表情に疑問符が浮かんでいる。福田さんはさっきのクイズもどきで答えが出ないことに満足な表情だ。
「王塚くんは?」
「同じくです。球拾いの練習にしか見えません。」
「正解。」
福田さんはつぶやいた。その顔からは笑顔が失せていた。
「王塚くん、きみがもしもボール拾いさせられたら、一回にいくつ持てるかな。」
「…3つくらいです。」
両手に一つずつ、いや両脇に一つずつ抱え、そのボール同士でもう一つを支える、よくある姿勢だ。それならばしたこともある。でも先ほどバレー部やバスケ部がしていたような、一回に四つも五つも、器用な人は六つも積み上げて運んでいた。あれは僕には無理だ。
「普通、そうだよな。でも、それが命だったら?」
「あ…」
村上さんが小さくつぶやいた。何かに気づいたのだろう。残念ながら、僕は何もひらめかない。
「バレーボールなら、握力強いヤツは片手でひょいと持ち上げられる。でもバスケットボールなら無理。もっと重いものならば、なおさらだ。」「
もっと重いもの…?僕の謎はまだ解けない。それがわかっているようで福田さんは話を続ける。
「でも、戦闘服ならば“妖精”が手のひらを粘着化させて、ひょいひょい持ち上げさせてくれる。そして腰や背中も粘着化させれば、そこにくっつけていける。何をって…。」
「首、ですね。」
村上さんがぽつりと答えた。その表情にはいつにもまして笑顔はない。
「うん。俺たちバレー部とバスケ部の一番の仕事は、“首だけでも集めて回ること”だ。」
命とはそういうことか。
「宇宙人は言った『我が軍は龍族です、特に再生医療には秀でています。首だけでも持ち帰れれば半年以内に本人の元の身体が取り戻せます』って。」
「そうらしいですね。だから“スーツ”も特に頭部の保護はぶ厚いと聞きました。目には見えないけれど身体の保護の数倍とかって。」
「うん、それどころか、最悪の最悪の事態には、スーツ自身が首を切り離して、戦場から離れた位置に飛んでいかせることもあるとか。」
想像するだけでいやな光景だ。傷だらけの身体から、首だけが射出されるのか。ジオ○グみたいなロボットならいいけど、生身でそれをされるかと思うと…。
「そうなるときには、意識不明だろうからなぁ。でも、なおさら拾ってあげないと。半年後には元通りになるって、すごい科学力があるのだったら、なんとしても連れ帰らないとね。」
「その練習だったんですか…。僕には想像もつきませんでした。すみませんでした。」
「バレー部とバスケ部のみなさんには頭が下がります。」
僕たち二人は殊勝に頭を下げた。主将に殊勝に…、じゃなくて福田さんはまだ微笑まなかった。声をひそめてさらに続けた。
「今日はしていないけど、上半身だけが生き残っているのに、“妖精”が切り離していなかったらどうする?」
頭だけでも全身のかなりの重量を占めていると聞いたことがある。上半身となると、全体重の半分以上かな。
「俺たちが、首を切り取るんだって。その首を腰や背中に大量にくくりつけて、回収車に戻る。」
うわぁ。首刈り族って、そういう意味ですか。
「野球サッカー陸上なんかは、足を生かして移動しながらの射撃担当。柔道など格闘系やラグビーなんかは接近しての組み討って押さえ込む。剣道やテニス、バド、卓球は接近しての剣攻撃。」
運動部の、各部ごとの役割分担だ。僕たちは戦闘時に部活単位で呼んだり呼ばれたりする。確かにわかりやすくて指示を間違いようがない。センパイの言うこともよく聞くし…。
「弓道や射撃部、山岳部なんかは狙撃班。バスケ部は足もあるから、後ろからの援護も兼ねているが、バレー部は一応、って程度の戦力だからな。」
「そんなことはないですよ。」
「いや、わかっているって。戦場を駆け巡って、首を集めて回って衛生兵に手渡すのは重要な役割だ。
その仕事には誇りがもてる。」
僕と村上さんは同時に肯いた。
「そういうことだ、アドバイザーのお二人さん。だから序盤ならバレー部も…。」
その瞬間、携帯端末“妖精”の着信音が鳴り響いた。三人とも同じ音。ということは支部かエリアマネージャーからの一斉連絡だ。三人はほぼ同時に各自の画面を見つめた。
ところが、支部どころか、日本本部からの一斉送信だった。音声と文字が同時に走り始める。
『太陽系近辺にて、“敵”の哨戒機発見。“敵”補給艦または偵察艦の接近の可能性大。全隊員は今後“妖精”の必携といつでも出撃できる準備の維持を継続せよ。繰り返す…』
三人は順に目を合わせた。そして誰からともなく、肯く。
「あー家で、ゆっくり風呂にも入れないか。」
さすが主将、余裕があるようで、軽い口調だ。
「それくらいは大丈夫だと思いますよ。」
「急いで回復室で身体を休めて、帰宅しましょう。」
いよいよ戦闘が始まるかも知れない。でも僕の心は静かに、でも熱く燃え始めていた。“敵”に家族や友人を殺されて、エサにさせるなんて絶対に阻んでやる。そのために訓練をしているし、力強い先輩や仲間達もいる。
同じ思いだったのか、村上さんもつぶやいた。
「絶対に負けない。」
僕たちの戦いがいよいよ始まる。
日本は宇宙人に侵略されました。そして、戦います。
今回もお読み下さり、ありがとうございます。
“賭け”に負けそうで、二日に一回のペースになりそうです(泣)
そうなっても密度は二倍以上がんばりますので、よろしくお願いいたします。




