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ブスはダメなの?(完)

この章は、ひとまず、これで終わりです。

4-2-④ ブスはダメなの?(完)


 私は気がついたら走り出していた。あの日以来だった。そして、生協の裏の人がいないところ、人が来ないところに行って泣いた。声が出た。一生懸命押し殺したけれど、涙も声も止まらなかった。

 そうよね、私なんかが・・・でも・・ちょっとだけ期待して・・でも私なんかが・・・

 頭の中がぐるぐるしていた。

 気がついたら電車に乗っていた。きちんと変える方向。それが不思議だった。また涙が流れてきた。

 家に帰り着くと、幸い誰もいなかった。座り込んで部屋で泣いた。抱きしめたクマのぬいぐるみの表面の色が変わっていく。また声が出てきた。

 悲しい。

母が帰ってきてからは、声を止められた。なんで出来るんだろう。「夕ご飯よ」には「体調悪い」と布団の中から返事をした。身体が壊れちゃったみたいに涙がとまらない。上を向きで泣いていたら涙が耳から滴のように落ちていった。そんなこと考えながら、あの言葉を繰り返していた。

「つきあってはいないと思う。」

そうよね。そうなのよね。涙が、涙が…。


 翌日、早めに目が覚めた。お弁当を一つだけ作った。いつもより30分以上早い電車に乗る。

 彼がいつも待ってくれている場所の前を通り過ぎるとき、心が痛かった。でも涙はでなかった。バスターミナルでバスを待っているとき、ひと筋だけ流れたけれど。

 まだ誰もいない大学の教室。こんなに広かったんだ。こんなに寒かったんだ。

 1時間目の授業が終わった。釜ちゃんが近寄ってきた。

「さおりちゃん、昨日大丈夫だった?いきなり走り出したから。メールも帰ってこなかったから体調悪いのかなって…もう治った?」

 彼女には気づかれていないようで安心した。適当ないいわけで誤魔化す。私は嘘つきだ。もう涙はでなかった。ふっきれたのかな。それとも時間がたつとまた苦しくなるのかな。頭の片隅でそんなこと考えた。

「日野くんも来てないみたいだね…部屋で死んでないかな。」

「まさか。」

「そうよね、最近は愛妻弁当食べてるし。」

 彼女の冗談がとても痛かった。言葉は重いことを初めて実感した。


 日野くんは、4時間目が終わっても登校してこなかった。

「本当に病気かな。」

 また同じ講義になったとき、釜ちゃんの一言。その瞬間、頭の中をよぎった。

(まさか)

 今度は釜ちゃんにちゃんと断って、私は走り出した。バス停へ。そして駅前へ。


 日野くんがいつもの場所で待っていた。車の中から手を振ってくる。

 なんで、なんで、なんで・・・・・


 車のドアを開ける。いつものように横に座る。もう泣き出していた。

「えっ、どうしたの?ち、ちょっと・・・」

 彼のあわてた声。そして彼は頭をなでてくれた。気持ちいい。涙がひいていく。

 どれくらい、そうしていたのか、やっと顔を話すことが出来た。

「ご、ごめんなさい。あのね…。」

「ちょっと移動するね。」

 私の言葉を聞かず、彼は車を動かした。車は川沿いの駐車場に止まった。バーベキューする客もいない。私たち二人だけだった。

「さて。だいじょうぶ?釜谷さんが昨日『いきなり走り出した』って。病気かなって心配してたんだよ。」

 主語はどっちなんだろう。

「ごめんね。ずっと待っていてくれたの。」

「うん、体調悪いのかなって。そうだったらメールも悪いと思って。ぼーっと待ってたよ。」

 うん、そういう人。この人のそういうさりげない優しさに私は心惹かれただけ。彼がどう思っていようと、関係ない。

 やっと一区切り付けた。そう思ったとき、彼のお腹から音がした。

「ごめん、昨日の晩ご飯から食べていなくって。」

 カバンからお弁当箱を取り出す。彼に渡す。

「えっ、一つだけ?」

 彼は私の顔を正面から見つめた。

「やっぱり体調悪いの?それなのに作ってきてくれたの?」

「ううん、違うの…。いいから食べて。」

「なんか、食べづらいなぁ。でもいただきます。」

 車の中でも手を合わせて“いただきます”をする彼。私はその食べている顔を横から見つめていた。

そうよね。これで十分しあわせ。私の横にいてくれる、それだけで温かくなれる。それ以上は…

 また涙が流れてきた。慌てて拭く。彼に気づかれちゃいけない。でも、止まらない。

「えっ、どうしたの、ちょっと、大丈夫?」

「ううん、気に、気にしないで…」

 気がついたら、また彼の胸で泣いていた。長い時間、長い時間が過ぎた。頭の上から声がおりてきた。

「あのさ、昨日ヘンなヤツに言われたんだ。」

 私の時間が止まった。イヤ、言わないで。それ以上はやめて。でも声に出せない。

「俺に対して、藤井さんとつきあっているのかって。」

 彼は独り言のように続ける。

「どう考えても、藤井さんが俺につきあってくれているのにね。餓死しそうなとき、お弁当くれたり

クラスに男子がいないから、相手してくれているのに。」

 えっ、

「思わず言っちゃたよ。俺がつきあってもらっている立場だって。そしたら、そいつらポカーンとしてさ。思わず爆笑しちゃった。そしたら急に立ち去ってさ。どこのコースのヤツか知らないけど何だったんだろうね。」

 なで続けてくれている彼の手が温かい。私はバカだ。バカだ。また涙が出てきた。でも今度の涙は違う。

 うれしい。そんなこと言ってくれるなんて。そんなこと言ってくれる人がいるなんて。そんなこと言ってくれる人が目の前にいるなんて。

 また、長い時間が流れた。私はやっと彼の胸から顔を話すことが出来た。

「ごめんね、服を汚しちゃった。」

「女の子の涙で汚れたなんて、思う男はいないと思うよ。それも、こんないい子の涙でね。」

 この人はなんで、こんなことが言えるのだろう。また涙が、涙が出そうになる。

 彼は真っ正面から私の顔を見続けた。我慢しなきゃ。彼の言葉をきちんと、正面から受け止めるために。つきあってくれるなんて思わない。友達でいい。それで私には十分だから。

「ここで告白すれば完璧なんだろうなぁ」

 えっ、

「でも、告白できないんだ。」

 そうよね。こんなブス相手に。でもいいの、友達で十分だから。私からのお願いはそれだけだから。

彼の顔はにっこりと、でも真面目な顔つきだった。


「これから、戦いが始まるんだ。俺はそれに参加しなきゃいけないんだ。それが終わったら、ちゃんと告白するから。待っててくれるかい?」

 

 えっ、えっ、どういうこと。待っててって、何を。

「藤井さんはとてもいい子だから、つきあってほしいけど。どうしても避けられない戦いが待っている。

まずは、それにつきあってくれるかな。」

 ああ、そういう意味なのね。うん、どこにでもつきあってあげる。

「それが終わったら、違う意味でつきあってほしいな。」

ええええええ…


「一緒に、宇宙にいこう。きみと新しい世界に行きたい。つきあってくれる?」


 今、私の前に、広がっているのは真っ黒い空間。でも数え切れない光がまたたいている。彼は純白に銀色の服装で、厳しい顔で隣の人と話し込んでいる。彼とは少し距離ができて、少し寂しい。でも休みのときは一緒にお弁当を食べたりしてる。昔のようにたわいない会話は変わらない。そして温かさも変わらない。

 彼が、こちらにフワっと飛んでくる。ほとんど無重力だからひとっとび。通り過ぎるかと思っていたら、私の肩をポンと叩いてくれた。

「さおりちゃん、お昼に行こうか。」

「うん。」

「今日のおかずは何かな?」



 日本は宇宙人に侵略されました。最高の宇宙人に。



今回もお読み頂き、ありがとうございました。

みなさんに良いクリスマスが来ますように。

メリークリスマス!!

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