ちょっとだけ未来の一場面 その②-2
決戦です。
序章②-2 ちょっとだけ未来の一場面 その②-2
虎が息絶える寸前に、目の前に龍の姿を認めたら、何を思うであろう。助けが来た、よりも先に我が目を疑うのではないだろうか。ノモゥダベトは信じられない思いで、その光景を見た。そして情報担当者の声を聞いた。
「【龍族】艦隊です、援軍です!」
旗艦「ノモゥダベト」の戦闘艦橋だけでなく、旗下の艦艇の全員も大声で吠えた。歓喜の声を。
「司令、無人爆雷艦隊ワープ開始しました。本艦以下、全艦隊もすぐにワープいたします。」
副官リュトゥーの言葉にシヴァイは肯く。虎族のノモゥダベトを失うことは銀河宇宙軍全体にとって大きな損失であるだけでなく、彼が位置しているのはこの戦いの要の場である。今からの戦いはとてつもない大きさを持つ。それを理解している戦闘艦橋のメンバーは固唾をのんで総司令官の指示を待った。「いつも通りの作戦です。そして、いつも通り勝ちましょう。」
まったくあせりのない、それこそいつも通りの飄々とした態度と言葉遣い。それが龍族全艦隊の全員に放送される。画面で見ている者も、音声だけの者も、大きな安心感を抱いた。
小さく苦笑いをしてリュトゥーは大声を張り上げた。
「全艦、ワープ突入。ワープ先は爆炎の中だぞ。」
龍族艦隊が出撃する。
おにぎりに例えれば、真ん中の具の部分(作者は鮭が好き)が虎族の若虎ノモゥダベトの「白虎隊」である。“敵”の艦隊はそちらに向けて総攻撃を仕掛けている。しかし、海苔の部分は外側への警戒もあり、艦首を外縁部に向けている。その海苔と具の中間部分に、龍族の先行艦隊がワープアウトした。
いつもの無人艦隊であり、その戦艦たちはワープアウト寸前に自爆を開始していく。この宇宙空間かワープ中の異次元か、その爆発はどちらで起こったのか不明であるが、爆発物を満載した爆雷艦隊の連続爆発は“敵”の艦隊に損害を与える。“敵”艦隊も連鎖爆発を引き起こす。それを避けようとすれば、距離を取るしかない。海苔部分と具の部分の距離が広がる。
その爆発の中心部にさらにワープアウトする大艦隊。“敵”はさらに距離を広げる。が、二度目のワープアウトは龍族の艦隊そのものであった。距離を取る“敵”の艦船の艦尾に向けて、全艦一斉砲撃を開始した。
「“敵”艦隊、崩れていきます。」
「攻撃の手をゆるめるな。数は相手の方が圧倒的だ。このチャンスに沈めておけ。」
「虎族艦隊を回収。我が艦隊の中央部へ!」
“敵”艦隊が回頭をを終える前に、一隻でも多く、一発でも多く、主砲が焼け付くことも気にせず撃ちまくる龍族艦隊。“敵”艦隊はみるみる数を減らす。しかし攻撃の手を止めない。
「いつも通りだぞ、“角”を失えば敵艦は撤退する。回頭した艦船は“角”へ集中攻撃。」
司令官の言葉を真似て、リュトゥーが強調する。“スズメバチ”“クマバチ”が出撃する前、出撃した後でも“角”を失わせれば敵艦は退く。それは混乱の輪を広げる意味でも効果的なのだ。
「司令官閣下、ノモゥダベト様から直接通信です。」
小さめの画面に、虎族の若虎の顔が映る。さすがに疲れが見えるが、満面の笑顔である。
「龍族艦隊司令、シヴァイです。ノモゥ閣下、ご無事で何よりでした。」
「シヴァイ殿、深く感謝する。」
短く、しかし心からの言葉を述べ、頭を下げるノモゥダベト。その映像を見たうちの幾人かは心の中でつぶやいた。
(あの有名な猛将が龍族に頭を下げた。うちのシヴァイ閣下についていくと、信じられないものを何度も見てしまうなぁ。)
旗艦「ノモゥダベト」は当然のように最後尾であった。部下を全て逃してから自艦を撤退させたわけである。ノモゥダベトから通信があったということは、救出は終わったことを意味する。
「ノモゥ閣下、虎族艦隊と合流されるまでは一休みを。」
龍族の族長代行でもあるリュトゥーがノモゥダベトとこれからの打ち合わせを始める。それを横目にシヴァイは“敵”艦隊を見つめ続ける。一度拡散した“敵”艦隊が再集結を始めている。数は龍族と虎族残存艦を合わせても、まだまだ数倍はいる。
「“八岐大蛇”準備はいいか?」
参謀の一人が答えるより早く、肩上空間の“妖精”が答えた。
『問題ナシデス。イツデモ発射可能と“ヤマタ”ノ妖精ガ告ゲテイマス。』
その常にない反応にシヴァイは一瞬の疑問を抱いた。
(“妖精”も興奮しているのか?彼らにも感情があるのかな。)
心の中とは別に、“妖精”の返事に深く肯いたシヴァイは次の命令を下す。
「さぁ、まだ我が軍のターンだ。第2のステージ準備せよ。」
ノモゥダベトとの打ち合わせを終えたリュトゥー、参謀群、情報官、通信員の表情が再度緊張する。
「“八岐大蛇”、発射準備完了。」
「八門のうち、四門同時斉射。残り四門も発射準備は終えておけ。」
「“ヤマタ”から返信、いつでもOKです。」
シヴァイが狙撃ポイントを伝える。“敵”艦隊の中心部よりやや下、を指示。そして
「“ヤマタ”、ハード砲発射せよ。」
「ハード砲、発射!!!!!!!!」
メインスクリーンの自動光量調整機能が全力を発揮する。恒星の爆発に匹敵する光が【龍族】巨大戦艦“八岐大蛇”から発射されたのだ。
材料以外は、純日本製の最新鋭戦艦。その巨大な八門の主砲の半分が轟音を上げ、その音よりも、いや光よりも早く、“敵”艦隊に命中する。
爆炎爆炎轟音爆音爆炎轟音悲鳴爆炎爆炎絶叫爆光爆炎爆炎死爆炎悲鳴絶叫死炎上爆炎爆炎爆炎轟音轟音悲鳴爆炎爆炎絶叫爆光爆炎・死…。
“敵”艦隊の半数は一瞬で消滅し、残りも数瞬遅れて爆発していった。それに巻き込まれ連鎖爆発が引き続く。半死半生で生き残った“敵”艦は龍と虎の艦隊から見て、平面で上方向に爆発に巻き込まれないよう避難していく。
「艦底部に攻撃手段は少ない。敵艦隊に追い打ちをかけろ!」
「主砲連続発射、魚雷、撃ちまくれ!!」
「“八岐大蛇”主砲、冷却を急げ。」
部下達の声を聞きながら、指揮官席に腰を下ろすシヴァイ。背もたれに全体重を掛ける。疑似重力下、足が疲れるわけはないが、精神的に疲れが一気にでるのか。その顔は天を仰いだ。
補給を終えたのか、虎族の艦船までが攻撃に参加し始めている。彼らにとっては大切な仲間の敵討ちでもある。その砲撃は龍族艦隊よりも激しく熱く見えた。
そして、“敵”艦隊は撤退していった。
この宙域は守り通せたのである。ノモゥダベトが奮戦し、シヴァイが援護しとどめを刺した。
龍族も、虎族も、両手を突き上げ、歓喜の咆哮をあげた。近くの戦友と肩を抱き合い、握手する姿は地球人と変わりなかった。虎族艦から次々と礼を述べる通信が届き、通信担当だけが、てんてこ舞いであったが。
疲れを隠そうともしないシヴァイの横にリュトゥーが移動する。
“八岐大蛇”完成までの道のりとその運用を思考するのにシヴァイの全精力は投入されていた。それを一番知っている者はリュトゥーであり、今日の勝利を一番確信していたのも彼であった。シヴァイ自身以上にシヴァイを信じていたリュトゥーである。
「提督、お見事でした。“八岐大蛇”の戦果おめでとうございます。」
「私の手柄じゃないよ。大阪の中小企業のアイデアを東京の中小企業が実現化し、日本全ての大企業が工場をフル回転してくれた。全部、日本の力だよ。」
「“ニホン”おそるべし、です。」
リュトゥーは思った。この人が龍族に、銀河宇宙軍にいてくれて良かった。そして日本人に感謝、と。
日本は宇宙人に侵略されました。
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