日本が宇宙人に侵略されたら、こうなった
UFOからの怪光線、爆破する高層ビル群、出動する自衛隊。日本各地は火の海に包まれ、人々は逃げ惑う。
そういうのは、全然起きません。今のところは。
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衝撃の演説から数ヶ月後。
会場には日本中の各方面隊・地方隊・各エリアから主立った自衛官が集まっていた。または集められていた。通常任務に支障のないよう、急なシフト変更など現場はかなり混乱したであろう。それでも参加が必要な自衛隊員は数えきれず、広大な場所が用意されていた。当日のこの様子は各駐屯地などにリアルタイムで映像が流される予定になっている。全ての自衛隊員に聞いてもらう必要があるからである。それでもなお、この場に集まった、集められた者たちは、今後の自衛隊の存続について話を聞き、考えるために日本中から参集していた。
防衛省において防衛大臣や各幕僚長、その他要人への説明は既に終えており、順次お達しが下りてきているはずであるが、この集まりは日本を侵略・制圧した宇宙人側より持ちかけられたものであり、拒否する理由は考えられなかった。
自衛隊側からの失言や言葉尻をとらえて自衛隊にペナルティを与える可能性も考えられなくはないが、既に圧倒的な科学力と武力で自衛隊と米軍基地を無力化した相手がそのような姑息な手段に訴えるとも考えがたく、陸・海・空、の組織は訝しがりながらも参加者を選考した。
白を基調に銀のラインの制服数人が、会場入りをした。あの日以来、日本中の誰もが知るところとなった宇宙人スタイルであり、恐怖こそ与えないが、謎の存在であることに変わりはない。表面的には日本国そのものや日本人に被害は発生していないが、今後どうなるか予想がつかず、訊ねることも出来ない相手である。彼らの存在に気づいた日本人は口をつぐみ、ただ眺めているしか出来なかった。
「ここって、同人誌や自作の立体作品の展示即売会に使われるところじゃないの?」
その宇宙人たちの最高司令官は、思ったより狭い控え室に入るなり、会場の各所の映像カメラを見ながらつぶやいた。その疑問に答えられる宇宙人がいるはずもなく、仕方なく副官が答える。日本占領以前から調査を担当してきた彼をもってしても、未知の内容はある。とくに趣味嗜好については難しい。
「地球人や日本人の風習にはくわしくないのですが。一番集まりやすく、多人数を収容できる会場となると選択肢はあまりなかったそうです。消去法でここに決定したそうです。」
「まぁ、何かコトあれば、すぐに所轄に戻り、任務に行けるところとなると、沖縄や北海道は距離的につらいよね。」
「まぁ沖縄は米軍基地の撤収作業で大変で、それどころではないでしょう。」
実際には、“何かコト”が起こることなどあり得ないのであるが。
日本侵略の間、米軍基地の兵士たちは在日米軍司令以下、全員がぐっすりと寝込んでしまっていた。どのような科学を用いたのか、冷凍睡眠のように生命維持レベルを下げ、目が覚めた瞬間も体感時間では数秒といった感じだったらしい。
宇宙人と日本政府の話し合いが全て終わったあと、米軍基地の目覚めた兵士たちは、それぞれの基地やキャンプにいた宇宙人たちに説明を聞くことになった。武装解除も求めない宇宙人とアメリカ人のファーストコンタクトは様々な映画とはかなり異なっていただろう。
アメリカ人たちは、以下のような説明を聞かされた。
①現在日本国内におけるアメリカ軍の所有する“移動手段”は陸・海・空の全備品全てエンジンがかからない状態になっている。(航空機は着陸後、艦船は入港後、無事を確認した瞬間、停止効果が発動したため、トラブルはほぼ皆無であった。)
②アメリカ軍の所有する携行武器は全て操作不能もしくは火薬が燃焼しない状態にしてある。火器がダメならばナイフで、という考えを持った勇者がいたとしても、すみやかに睡眠作用が再開されることとなる。
(関連してであるが、日本国内におけるテロリストやスパイ活動協力者なども、この作戦開始と同時に眠り続けている。“日本への敵意”が心理面に存在すればスイッチが入る。)
③眠りこけている間は冷凍睡眠状態に類似した状態であった。万一副作用など感じる場合はすぐに申し出てほしい。昏睡時に発生した擦り傷などのケガについては容赦してほしい。
④今後、第5空軍や第7艦隊は許可無く日本の領空領海内に侵入することを禁止する。日本の領海・領空に侵入した場合、即座に機関停止や睡眠効果が発動してしまう。なお米軍が行ってきた日本周辺諸外国への役割は以後日本における宇宙軍が引き継ぐ。その件に関する情報は要請があれば逐一連絡をする。
⑤一ヶ月以内に米軍基地内のアメリカ人は兵士も家族も全てアメリカ合衆国に帰国してもらう。任務としてではなく、観光や帰化を希望する場合は最大限の配慮を行う。
ようするに、「宇宙人にとって在日米軍の無力化は簡単です。日本から出て行ってね。」ということである。
ちなみに記録はされなかったが、「アメリカ本土や世界各国の米軍基地も容易に睡眠状態や機関停止状態にすることが可能だよ。」「携行火器だけでなくICBMや核も使用不能に出来ちゃうよ。」と言われてしまった在日米軍司令が本国にどのように伝えたかは不明である。
大統領から日本首相への強い抗議があったことは間違いない。しかし日本政府も宇宙人に支配されているため、如何ともしがたく、結局のところ、在日米軍基地は言われたとおり1ヶ月で日本から撤収することとなった。
その後、宇宙人から大統領へ直接メッセージが届けられた。
「明治維新以降の、アメリカ合衆国の日本への対応は全肯定も全否定も出来ない善悪両面が存在している。アメリカ合衆国と日本の今後の関係作りをもって、宇宙よりの科学技術や資源を共有できるか判断していくこととする。」
アメリカ軍の日本からの撤収と同時に、日本の四方の海には巨大な宇宙船がいくつも着水し、領空侵犯機や領海侵犯船舶に機関停止現象をプレゼントしていった。
日本領空や領海に近づくと不調が発生し、離れるとすぐに復旧するため、大きな事故こそ起きていないが、周辺各国のストレスのメモリは最大限に振り切れていた。
目が覚めた各国大使館員たちは母国から矢のような催促を受けたが、宇宙人との交渉に有効な手持ちのカードは一切無く、日本政府に苦情を言う以上の行動は起こせなかった。また極秘活動に従事する職員たちが次々に意識不明の状態で運び込まれ、その活動の代理を任命したとたん眠りについてしまうため、人的損害は拡充する一方で、どの大使館も混乱の極みであった。
民間の航空機や船舶、ルールを守っている漁船などには一切の超常現象は発生せず、同乗している不審者だけが昏睡状態で病院送りになっていった。
純粋な報道記者や観光旅行客は日本国内のどこにでも行くことが出来たが、宇宙人による侵略・占領前と占領後では政治経済文化面全てにおいて一切の悪化が感じられず、先進科学の活用で無駄な議論や調査研究、官僚制の悪癖などが払拭されてしまったことに憧れを持たれるほどであった。
ただし、あまりにも無意味と思われる日本の現状は宇宙人たちより変更命令が発せられた。エネルギーの無駄遣いなど環境問題。一部のためとしか思えない建設作業。存在意義の感じられないマスコミ報道。税収や裁判などの制度も、圧倒的な科学力を導入することで新しい日本が作られていった。(副作用のない完璧な自白剤ひとつでどれほどの変革が起こったことか。)矛盾点の指摘できない法改正も次々と進められていった。
スポーツや映像、音楽など趣味や芸術に関しては行き過ぎのない限り特に指示がなかった。侵略以後は一斉に自主規制が行われたが、次第に以前と同様の状況に戻っていった。(ただしゲーム類に関しては実は監視のあったことが後に判明する)厳しくなったのは自然破壊につながる行動やネット環境に関することが多かった。(インターネットの使用についても後日判明した重要なことがらがあった。)
日本政府の活動については占領時のまま継続を許された。ただし厳しい監視は行われ幾つかの指示も矢継ぎ早に下された。
日本人や日本の国土の明確化については強硬な命令が出された。領土問題や拉致被害者事案。在日○○人問題や不法滞在者関連は日本政府だけでなく諸外国にも政治干渉が強く行われた。テロリストやその予備軍、スパイ活動の協力者などが昏睡状態(正確には仮死状態)で発見されて、続々と隔離されていった。他国より資金導入を受けていた幾つかのマスコミ企業は消滅させられ、報道の大変革が実施された。
日本国内の悪意無き外国人はきちんと帰化申請の後、○○系日本人となった。これまで不法滞在であっても日本に好意を抱き真面目に就業していた外国人には日本国籍を用意し、彼らの適正に合わせた再就職が進められていった。宇宙先進技術の使用で仕事が一気になくなり、一時は暇をもて余していた地方公共団体はこれらの作業で一気に多忙となったが、結果としては税収以外に様々な好転が見られることとなった。
日本国内の産業の変化は大きかった。車やテレビ、スマホやケータイ、パソコンなど精密電子機器を作ってきた大企業は、事業別に宇宙人より直接、謎の部品の製造依頼をされていった。宇宙人から製作依頼には、機密内容も多いため国内のみに新しい工場が立地され、新産業が興されたことで労働環境は一変した。その過程で開示が許可された先進技術は、精密機器だけでなく白物家電や材料工学も向上させ、許された範囲で外国への輸出も許可された。
工業だけでなく農業や漁業、畜産業、林業など第一次産業にも変化が見られた。宇宙人に日本国内の自然環境を悪化させず、自給率100%以上を目指すよう強く命令された結果、農業漁業従事者の強制増員策や優遇策が前面に押し出された。
ニートや新規国籍取得者など新工業に適正がない者は好待遇で第一次産業に従事することとなった。以前から第一次産業に携わっていた経験者たちには最優遇措置を得て、これまた先進科学の活用で新たな第一次産業は右肩上がりの成果が現れていった。
日本の環境を悪化させず、必要な資源やエネルギーは宇宙から取り寄せることで景気が好転すれば生活も充実していくことになり、サービス業や福祉関係も向上していった。
その頃から「宇宙人による日本の再鎖国」という言葉がちらほら見られるようになった。日本人は生活が悪化していかないため気にしていなかったが、世界は常に日本の様子をうかがい、その変化に一喜一憂する状況が続いていた。
軍事バランスは日米の話し合いで以前と大きな変更は表面上見られなかったが、経済分野においては日本が丸々ずぼっと抜けた一面や、今後参入がありえる分野は先行きが不透明となり、諸外国は苦々しくそれを見つめていた。
(※このあたりはもっと時間をかけて、後日、記す予定である。)
石油を始め様々な資源を日本が輸入しなくなったことで資源の産出国は収入を大きく減じていき不満を大きくしていった。今後は食料品の日本への輸出も減少が確実であり、その予測だけで世界の経済バランスは大きく変動した。
日本からの輸出物、特に工業製品は格段の変化が見られて常に品薄状態であった。産業スパイを送り込んだり、自国に技術供与を要求する国々も現れてきたが、宇宙人が少し恫喝も見せれば、引き下がる他はなかった。各国の人工衛星の操作を支配され、原発や核兵器を遠隔コントロール可能と言われてしまった某国は大きな政変を引き起こすこととなり、周辺国と紛争も多発した。
宇宙人の日本侵略を「ああ、我が国でなくて良かった」と当初は安堵した世界の各国であったが、日本の変化を見るにつれ、少しずつ羨みとやっかみが頭をもたげていった。蚊帳の外に置かれた世界各国はまず情報を欲した。日本政府は限られた情報しか与えられていなかったため、諸外国は宇宙人との直接交渉を求めたが、悪意の持ち主は日本に入国することさえ出来なかった。
宇宙船の電話やFAX、メール番号は電話帳に記載されていなかったため、各国大使館から直接日本各地の着陸した宇宙船に駆けつける状況が発生した。
圧倒的な軍事力と科学力を目の当たりにして(アメリカ合衆国でさえ恐れたのだから)「日本にではなく、宇宙人に頭をさげるのだ」と次々に会談や面談を求めて宇宙船の周囲でスピーカーを使って哀願口調で要望を伝えたのであるが、それに対する宇宙人の返答は
「もう少し待っててね。」
というものであった。
強大な軍事力の差を考えれば、これまで日本に対したようなゴリ押しが出来ない国がほとんどであり、宇宙人の支配した日本への対応は少しずつ変わってきた。従来の日本蔑視や反日教育による悪感情や領土問題や拉致被害者問題、食文化に関わる反対活動なども目に見えて小さくなっていった。どの国からも日本政府に対して「善処します」という反応が見られるようになってきた。
つづく
もっと専門知識があれば、リアルな数字を入れたり、特殊な用語が挿入できるのでしょうが、ごめんなさい。
読んでくれた方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございます。




