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ちょっとだけ未来の一場面 その②

“敵”との戦いは、地球上だけでなく、この銀河系の中心部でもくりひろげられています。

序章②  ちょっとだけ未来の一場面 その②


 銀河宇宙軍、全軍が奮戦していた。しかし、最多数を誇る【九尾】は全艦隊の四割以上を失っていた。また最強という呼び名の通り、最前線で大量の“敵”を屠っている【犬神】は、幾人かの将を失い、将兵は涙を流しながら突撃を繰り返していた。

 そして、その傷の大きさは虎族の長、虎姫にも襲いかかってきた。


「た、大変です。“白虎艦隊”から応援要請あり。“敵”の大艦隊三個に包囲されています!!」

虎族の中で、双璧と呼ばれる猛将の若虎、ノモゥダベトからの応援要請など、これまで一度たりとなかった。いや誰一人、想像さえしなかった状況である。

 自軍艦隊の数倍の“敵”一個艦隊、その三倍に包囲されては、戦術や精強での挽回は困難である。(運動会で騎馬戦の経験のある者はわかるであろう。)虎姫様を護る近衛隊「虎壮兵」に匹敵すると言われる「白虎隊」がその命を散らしていく。それは、若く猛々しい猛虎が、全身を毒虫に包まれ、その針で失血し、毒液を注入されていくようであった。

 いつものように、軍配を引きちぎった虎姫は、耳を疑う報告をした通信員に吠えかかろうとした。しかし内容が内容である。怒鳴り散らす間もおしい。そう判断できる器量の持ち主でもある。内心はあわてふためきつつも、努めて冷静に指令を下す。

「近衛艦隊の半数を送れ。ノモゥダベト艦隊を救出せよ!」

「それでは旗艦艦隊が脆弱になります。」

 反射的に言葉を返した参謀群の一人がいた。すぐさま、彼は【虎姫様】の眼光を直視することになる。虎姫の気迫に吹き飛ばされた彼は、大戦艦“ネムル・アミーラの戦闘艦橋の壁面をめり込ませることになり、衛生兵に収容されていった。

 参謀群の別の者数名が、慌てて、幾つかの近衛艦隊を指名し、急速発進させていく。ここも戦場なのである。虎姫様の眼光はその牙に勝る。その切っ先は“敵”だけでなく、愚かな部下にも向けられるのだ。

 その慌ただしい雰囲気をさらに緊迫させる情報が届く。戦況分析官が悲鳴を上げる。

「ノモゥダベト艦隊、完全に包囲されました!! 艦影見えず。通信不能とのこと。」

 戦闘艦橋は沈黙に包まれた。その沈黙を破ったのは、軍配が床に落ちる金属音であった。

 虎姫の従兵のみならず、「虎壮兵」たちも初めて見る光景であった。


 龍族旗艦「シヴァイガ」の戦闘艦橋。【龍族】の総司令官は、その片手を天に向かって突き上げた。しかし、ドラ○ンボールの登場人物のように、気を貯める間もなく、いっぱいに広げたその手のひらは扇のようにすぐに振り下ろされた。 

「旗艦艦隊出陣。」

 総司令官の無言の指示を副官が言語化し、戦闘艦橋の全員が復唱あるいは指令伝達を行う。

【龍族】は矢のように一直線に戦場を駆ける。

「リュトゥー、三角のおにぎりの右下をかじる。…中身の具は絶対に食べるなよ。」

 通訳でなく、概念が副官に的確に伝わり、リュトゥーは細かい指示を参謀群に振り分ける。それを聞きながら、シヴァイは“銀髪”に話しかけた。

「“八岐大蛇”ほんとうに、大丈夫だよね。」


『理論的ニハ危険性ハ少ナイデス。シカシ、アナタノ用法ハ常ニ予想外。ワカリマセン。』



 三方向から“敵”の大艦隊に包み込まれた虎族の猛将、ノモゥダベト艦隊は残存艦が三割にまで落ち込んでいた。さらに数秒ごとに戦艦が沈んでいく。猛き兵も、老兵も、新兵も、メディックの女性兵も戦艦一隻が沈むごとに数百の命が失われていく。

「さすがに、終わりか。虎姫様にもう一度お会いしたかったがな。」

 常ならば、部下の艦を救出に向かい、眼前の敵艦を一撃に下すノモゥダベトの口から小さなつぶやきが漏れた。しかし、可聴域で発せられたのは真逆の言葉であった。

「まだ、まだだ。猛虎の顎で、“敵”を喰い千切れ! まだまだ喰い足らんわ。」

 大将は、弱った姿を見せてはいけない。部下に、“敵”にいつまでも胸を張り、背筋を伸ばし続けなければいけないのだ。血の涙を流しながら、唇を噛みながら、それが出来る者だけが戦場で立ち続けられる。その姿に部下達はついていき、命を賭けられるのだ。事実、旗艦“ノモゥダベト”の戦闘艦橋は一刻たりとも戦意を失わず、今の言葉に奮い立った。部下の指揮をけっして下げない、名将は全てそうである。

 

しかし、若き虎の艦隊は残り少ない。このままでは砂時計の砂が落ちきる前に終える運命であった。


 宇宙は真紅に包まれています。

今回も読みに来て下さった方、ありがとうございます。

序章が真ん中に来るという、わけのわからない構成ですみません。

次回の投稿は、この戦いの続きの予定です。


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