フー・スーの受難①
宇宙で戦いが起こる。それは派手な攻撃だけではありません。
影で行われる様々な戦いもあるはずです。
4-5 フー・スーの受難
銀河宇宙軍虎族親衛隊の影、それだけがフー・スーの肩書きである。
彼女は虎族の中では小柄である。大きめの猫族と言われると納得されることも多い。幼少期はそれが屈辱であり、それを糧として自分を磨いた。様々な格闘技や、戦略戦術に努力を重ねた。そして、自身が最も秀でている分野に気がついた。諜報である。情報を集め、推察し、さらに深部に至る。後のことを考えて、任務以外にも広くアンテナを張っておく。その能力は絶大であった。力押しタイプが多い虎族の中で彼女の異才はいつしか虎姫様の目の止まるほどになっていた。さらに重ねられる成功。今や彼女は虎姫様の影として様々な任務を直接任される存在に登りつめていた。
フー・スーは地球という星に降り立った。虎姫様よりの使命を果たすために。彼女は虎族よりの使者として堂々と地球の周囲を巡る龍族の戦艦に到着した。そのあとは「現地視察」という名目で地球に降り立つ。銀河宇宙軍として関わっている「日本」という国に入るまでは簡単な手続きであった。
「しかし、ここからだな。どうやってシヴァイに接近するか…。」
シヴァイに直接会うわけにはいかない。それゆえ、彼に会うことや接近する名目は申請していない。
「ふむ、この国は現在は夜のはずだが…。」
地上への降下シャトルから「日本」の近海に浮かぶ龍族の戦艦に移送された後、彼女は小型機で日本に到着した。乗務員に丁寧に礼を述べ、「この国を観察してきます。」と地表を踏んだフー・スーはその輝きに目を奪われた。
「ここは、王侯貴族の城か?それにしては警備も薄いようだが…。」
目の前には階段がある。が、違和感がある…。
「か、階段が動いている。やはりここは王族の庭園なのか。」
虎族も宇宙戦艦を開発し、外宇宙に進出した知的生命体である。エスカレーター程度の科学技術はすでに過去のものである。しかしそれを日常に活用しているかというと話が違う。日本の歴史で言えば、馬車や牛車を優雅に使用している場面に遭遇したと思ってもらいたい。
「ふむ…。これは少し楽しいな。」
昇って、降りて、昇って、降りて、とエスカレーターの移動感を楽しむ彼女の顔は子供のそれであった。肉体の精強さが優位性である虎族は移動に機械を使うなど考えられない。宇宙における浮遊感とはまた異なる、のんびりとゆるやかな景色の変化や、肌に触れる空気の流れはまことに心地よいものであった。
「さて、この国に慣れるためにも、どこかの店に入るか…食事だな。」
食べ物はその国を象徴する文化である。調理する者や他の食べている者からは文化も知れる。フー・スーの仕事の最初は、その国を知ることである。任務達成の過程でも、逃走でも、知っておいて困ることは絶対にない、国情は調査対象の一つである。
「入り口に老人が直立している。この国はいまだに奴隷を使っている野蛮国なのであろうか。」
彼女の優れた視力は数百m先から、その店に気がついた。他の店にはいない「入り口で出迎える」存在。
「いや、あの服装はかなり整っている。格式の高い店であろう…いや、人ではない?」
その店の入り口にあった、それは石油樹脂から出来ていた。それもかなりの硬度と造形技術を感じさせる品である。遠方からとはいえ、人と見間違うほどの人型の模型。
「これは…穏やかそうな老人を模したものようだが…。」
看板に目をやると、日本の友好国のとある地名が書かれてある。その次は料理名らしいとヘアバンド型の“妖精”が脳に情報をくれる。
「他国の料理を提供する店というわけはか。まずは現地料理を食せねばな…、しかし良い香りがする。」
虎族の優秀な諜報員、フー・スーはフライドチキンの香りに負けた。
今回もご訪問いただき、ありがとうございます。年末年始も、だらだらと少しずつ書き進めていく予定ですので、またお暇なときにお立ち寄り下さい。
さぁ、サンタ狩りの準備じゃあ~。




