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ブスはダメなの?

日本が、宇宙人に侵略される前の、平和な頃の話です。

4-2-① ブスはダメなの?


 日本に宇宙人が現れる数年前。

 

 私の名前は沙織。「かわいい名前」だとよく言われる。

 この名前、だいっ嫌い。DQネームやキラキラな前の方がずっといい。その方が何倍もいい。

 私は鏡が嫌い。だからなるべく見ないようにしている。出来る限り朝晩の2回だけにしている。

 そう、私の顔はかわいくない。普通でもない。ブス。とてもブス。自分で見たくないだけでなく、誰からもそう言われる、もしくは思われている。間違いない。

 小学生のとき、男子に「鉄球」というアダナを付けられた。工事現場でビルとかを破壊するアレ。

あの鉄球で殴られたような顔面だって言われた。何も言い返せず、授業中に家に向かって走り出した。

自分の部屋で泣き続けた。周囲の男子が全員笑ったから。女子も隠そうとしてたけど、笑ってた。そして何よりも、私自身が言い返せなかった。その通りだと思ってしまったからだ。

 今になっておもうと、その時点で身長が160cm以上あって、男子の全員を見下ろしていた。勉強もいつもほぼ満点の私に対する、やっかみや僻みが原因だとは思うけれど、それ以来私は男子と一言も言葉を交わさなくなった。先生に何度か注意されたけれど、出来なかった、したくなかった。

 中学生になっても、その男子たちは同じ学校にいるわけで私のアダナは変わらなかった。男子に対する拒絶が輪を掛けたようで、女子からも無視されたりもした。勉強だけでなく運動も頑張ったが、いつも孤独だった。運動部はすぐ近くに男子部があるので選ばなかった。小説は大好きでよく読んだが、アニメやマンガは好きになれなかった。登場する女の子がみんなカワイイからだ。ちびまる○ちゃんでさえ、かわいい。私はオタクにもなれなかった。

 成績がよかったので、県内で一番の進学校に入学できたが、なぜかそこにも同じ中学出身の男子がいて、私のアダナは相変わらずだった。そんなに笑えるアダナなの?そんなにぴったりなアダナなの?

私は顔のない世界に生きたかった。進学校だけにさすがに優秀な生徒も多く、女子の中には心も優しい子もいた。そういう子は男子のたわごとを気にせず接してくれたが、私の方が彼女たちに萎縮してしまった。賢くて、優しくて、そしてカワイイ彼女たちの横に並ぶ自分を想像すると、つらかった。

 私は家族と近所の昔からのお馴染みさん以外とは挨拶以外話さない年月を過ごしてきた。先生に対しても。男の先生も、若い先生も、女の先生も…おばあちゃんに近い先生以外とは用件以外話せなかった。 私は遠くの大学に行きたかった。少し離れた場所の高校にも彼らがいたのだ。勉強も頑張った。私のことを誰一人知らない、新しい土地、何も知らない環境で、人生をリセットしたかった。でも、両親は許さなかった。地元の国立大学に行けばいい。成績は十分じゃないか、女の子の一人暮らしなんて、と私の願いに全く耳を貸さなかった。そして、私は同じ高校からたくさん入学する地元の大学に合格した。 ここまで何行かしら。私のこれまでの人生は原稿用紙1枚か2枚でこと足りる。悲惨な人生。誰かとぶつかって、中身が入れかわれるならば、どんな高い階段からでも落ちてやるのに。

 大学の入学式にも、彼らはいた。私の顔を見て「お、あいつもいる。」という顔つき。そして、きっと新しい友達にも私のアダナを告げるのだろう。そして、いっときの笑いを得て、次の楽しい話題に行くに違いない。私の苦しみや悲しみは彼らにとって会話のネタでしかない。

そんな私は今、大学の2時間目が終わり、これから昼食・昼休みだ。入学式から仲良くなれた友人と授業が終わった教室で、お弁当の包みを開いたところだ。(彼女は釜谷さんという。他府県から来た下宿生。しばらくは友人で居られると思う。それが少しでも長いことを祈っている)

 そんな私たちの目の前にヘンな生き物がいた。

「うぉおおお~ 死ぬ~ いや死ねない~ あああ~。」

 机に突っ伏して、両手で腹部を押さえている。そして消え入りそうな声。そういえば、授業中も何度か、この声が聞こえていたような気がする。両手は腹部で、頭部が机の上でゴロゴロのたうっている。

「さおり、アレ大丈夫かな。病気じゃないの?」

 釜谷さんが囁いた。確かに普通じゃない。でも、彼女も男子に気軽に話しかけられるタイプじゃないので、見ていることしかできない。あの男の子は、私の知った顔じゃないし…。

 気がついたら、私は苦しんでいる彼に近づいていた。今思えば信じられない行動だったが、病気の一言で動いてしまったのだと思う。

「ねぇ、大丈夫?盲腸とかじゃないの?保健管理センターの人、呼んできてあげようか。」

それに対する返事は彼の口からではなかった。ぐーーーと空腹を主張する大きな音。

「あ、ありがとう。でも、わかったでしょ~。もうお腹空いて空いて、死にそうなだけです。」

 は?国立大学の、それもピカピカの新棟の3階での言葉と思えず、沈黙してしまった。

 彼は、空きっ腹を忘れるためにか、饒舌に話し続けた。

「いや、バイト料が出る日まで計算大丈夫なはずだったんだけどね。一昨日、車が故障して無一文になっちゃったのよ。ただいま、絶食3日目。」

 この人は何を言っているのだろう。

「車なんて放っておけ、と言いたそうだけど、道の真ん中で止まっちゃったら、レッカー呼ぶしかないじゃん。ものすごい出費だよー。警察にはツケもきかないし…。腹へった~。」

 事情はなんとなくわかった。そして、目の前で餓死される…ことはないだろうけど、可哀想すぎる。気がつけば私は自分の弁当箱を彼に手渡していた。

「じゃあ、これあげる。」

「え、うそ・・・いや、キミもおなかすくでしょ。」

 そんな、涎垂らしそうで、目線が弁当箱と私の顔とラリーしている人に言われても説得力ないわ。

「どうせ私はあとで生協かコンビニで甘いもの買う予定だったから、菓子パンでも買うわ。それより同級生に死なれる方が後味悪いでしょ。はい、全部たべていいから。どうぞおあがりなさい。」

 彼の顔は一瞬で歓喜に満ちあふれた。私は砂漠で遭難者に水をあげたらこんな感じかな、と妄想した。

 私の弁当箱は、ものの5分で空っぽになった。舐めたように、というかプラスチックの葉蘭以外は何一つ、内壁についていたソースすらどうやってか、摂取されていた。

「ごちそうさまでした。」

彼は両手を合わせるなり、弁当箱を持って外に出て行った。あっけにとられる私たち。弁当箱まで食べるわけないし…。

 彼は洗う必要を感じなかった弁当箱と箸をきれいに洗ってきたのだった。葉蘭もない弁当箱を返しながら丁寧にお礼を告げられた。

「ねぇ、私のお弁当もあげよっか。足りないでしょ。」

きょとん、と釜谷さんと私の顔を彼は見比べた。そしてぽつりとつぶやく。

「えーと、藤井さんと釜谷さん。藤井さんは自宅生だけど、釜谷さんは下宿生だったよね。」

あ、自己紹介のとき覚えたんだ。この人記憶力はいいんだな。名前は…ここで初めて私は彼の名前を検索し始めた。彼の名前を思い出すより先に、彼は言った。

「下宿生は栄養が偏って身体壊す子が多いんだってさ。釜谷さんはちゃんと食べなきゃダメだよ。」

「あははははあははは、ひっごめん、ふふふ、あははははは~。」

だめだ。ツボに入ってしまった。きょとんとする二人を置き去りに、それどころか他のお弁当グループに注目されても私は笑い続けてしまった。

「だ、だって…あはは。餓死するって言ってた人が、栄養気にするなんて…あはははあっははは。」

 彼と釜谷さんは顔を見合わせて、そして二人も笑い出した。

「ほんとだね。」

「確かに。ゴメン、えらそうだった。でも藤井さん、そんな笑い方も出来たんだ。」

 え、どういうこと。

「この二週間ほど、釜谷さんとの会話のときも真面目な顔しか見たことなかったから。」

「そうね、私もこんな大笑い初めて見た。日野くん、すっごいよー。」

 そうだ、日野だ、日野わたるって自己紹介した。うん貧乏下宿生って言って、笑いをとってた。気がつくと私の笑いも二人と同じくらいの微笑みに変わっていた。

「うん、藤井さん、そうやって笑う方が似合っているよ。」

彼の言葉にドキリとした。


このときは、日本は宇宙人に侵略されていませんでした。

今回もご訪問いただいた方、ありがとうございます。

いつもと違うなーと思われたかもしれませんが、あと2回ほどで元に戻りますのでお許し下さい。

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