ケフェウス座の戦い①
再度、宇宙艦隊戦です。
4-1 ①
ケフェウス座のデルタ星近辺。ようするに銀河の端っこ。
無音の宇宙で、視覚的に大爆発が続く。一つの輝きでいったい幾つの命が失われるのだろう。命そのものは“敵”も同じであるはずなのに、互いに血を流し合い、命を奪い合う。
大戦艦“ネムル・アミーラ”の戦闘艦橋の艦外情報員が、総司令官に大声で告げる。
「姫様…、いや総司令官閣下、青虎、緑虎、銀虎、の各艦隊、壊滅中。戦闘継続不可能です。」
「…ちぃ。三艦隊に即時撤退命令発令。最上位使命は“生き帰れ”。以上。」
言い終えるなり、彼女は豪華絢爛、いや戦場には装飾過多と言いたいほどの身なりをかまわず、力強く地団駄を踏む。周囲の目を一切気にせず、三度、戦闘艦橋の床を蹴って、ようやく彼女は落ち着いた。…に、見えたが、その代償に【ネムル・アミーラの床は、外装甲より厚い】と兵たちが冗談で言う、その床が三カ所、えぐれていた。
(今回の姫様の荒れよう、大層なものだぞ。)
(このあと余程のことがない限り。無事に帰還できても…)
(ぶるぶる、おー、怖い。あの噂のせいかなぁ)
(勝っても、三艦隊の損失は大きいよなぁ。)
戦闘艦橋の荒武者たちは、戦闘艦橋の中央で腕組みをして立つ総司令官様を直視しないよう、情報モニターや通信機器に必死で目や手を巡らす。常日頃は意気軒昂、筋骨隆々の彼らは一人で数十人を同時に相手に出来ると噂される「虎壮兵」の精鋭である。それゆえ、虎族全艦隊総旗艦「ネムル・アミーラ」の戦闘艦橋で各々の役割を務めているわけであるが、その彼らをして恐れる存在が中央でハリケーンのように、猛り狂っている。台風と同じく、こちらに来ませんようにと祈るしかない存在、それが彼らの誇る最強の司令官、虎姫様である。
虎姫様と呼ばれる彼女の逆鱗(…虎にウロコがあるのか?)に触れて、その爪でコロリと首を落とされた者の数は幾百人か数え切れない。歴戦の「虎壮兵」どころか、あの獅子王すら一目置く、犬神の中央精鋭兵ですら“一咬み”で倒したという伝説の虎姫様。残念ながら美女ではないが、その存在感は銀河宇宙軍で一、二を争う。大本営の長老たちも、「虎姫様」と敬称を付けるのは、親の七光りなどではない。
情報担当だけでなく、参謀たちも手と目を必死で使いこなしている。彼らの周辺には様々な形の“妖精”が飛び交っているのだが、猫族の習性も忘れて、一人たりとも猫パンチを繰り出さない。
「“敵”の新型“スズメバチ”第三波が来ます。本艦隊の最前衛艦隊の後退により、本艦周辺にも“スズメバチ”の来襲の可能性あり。」
「作戦通り、第二層、第三層の八個艦隊で迎撃準備。第四層および中央艦隊は再加速用意。」
「二、三、四層の全空母および航空巡洋艦はすべての戦闘機を射出。後衛艦隊は……」
虎姫が怒り猛っている間にも戦況は刻一刻と変わっていく。戦闘前の作戦会議で参謀群と“妖精”群が予想した全戦闘状況の想定に適う瞬間と、誰一人予想しなかった場面、そして死ぬか生きるかという本人しか知り得ない一瞬が銀河の果てで繰り広げられる。
虎姫は手に持った軍配を、気がつけば折り曲げ、引きちぎっていた。軍配の柄の部分の宇宙最鋼金属が熱々ピザのチーズのように(あるいは、伸ばしランナーのように)細く、細く伸びている様子に気づき、彼女は後ろに放り捨てた。騒がしい戦闘艦橋の中に金属音が響き渡るが、誰一人、何も言わない。(つっこめない!)従兵が慌ててその軍配を回収していく。そして次の新しい軍配を箱から取り出し、恭しく虎姫様に捧げ渡す。描かれた緻密な紋様“向かい合う虎”の金色がむなしく光る。
そう、虎姫の心の中は、戦闘艦橋の床を蹴りえぐっても、全く冷めていなかった。
(猫族のあのマーキング臭い娘が、二個艦隊、実際は一個艦隊で大戦果をあげたっていうのに、この私が
『なんとか撃退しました』
なんて、キバが全部抜けたって、言えやしないわ。この“虫”どもを一匹残らず焼き尽くさずには帰れないのよっ。)
二本目の軍配が、コンビニの“練り飴”のように、長く長く伸びていく。従兵はダッシュで虎姫の背後に回収に向かった。
【金属護美箱】を両手でかかえながら。
宇宙人に侵略された日本は平和ですが、宇宙は大変です。
今回もお読みいただいた方、本当にありがとうございます。
病院で、風邪をもらったようです。
年末のお忙しい時期とは思いますが、またお暇なときおこしいただけるとうれしく思います。




