269 【犬神】首都星 柳生道場 (2)
銀河人類の最強種族【犬神】。
その首都星にて、チキュウ人と【犬神】の戦いが始まったのだ。
269 【犬神】首都星 柳生道場 (2)
天光寺道場の帰りに銭湯に立ち寄って汗を流した久良木健人は、師に頼まれた買い物を終えて長屋へと戻った。
【犬神】首都星の中心部のさらに首府、お膝元である。
生き馬の目を抜くと呼ばれる活気があり、同時に【犬神】武士たちが住み暮らす。
この地域は武士と町人が混在する独特の雰囲気があり、健人は気に入っていた。
長屋は、簡単な構造である。
柱や柱同士を支える横木は木製である。障子に似た戸を開けると道路と同じく土を固めたような物質が床になっている。
嗅覚に秀でた【犬神】にとって「密閉」はニオイが籠もることであり、木材や土壌由来の物質で作っているらしい。
草履を脱いで一段上がると、畳に似た植物由来の板間となっている。
日本でも新しい畳は独特の薫りがあるが、時間の経過で失われていく。化学物質のしつこさは【犬神】にはつらいのだろう。
押し入れはあるが、襖はなくて布が天井から垂れているだけ。カーテンのような仕組みもない中身を隠くだけで十分ということ。
健人が借りている一部屋は八畳ほどの広さ。
調度品は、ちゃぶ台が一つと衣紋掛けのみ。他には数冊の本が部屋の片隅に置いてあるくらい。
財布と木剣はいつも携えている。“妖精”である“モップ”を召喚すれば身分証明は不要。
茶碗や急須など土間の一角に申し訳程度に置かれているが来客もないため既にホコリをかぶっている。
手習い師匠の長屋は、その倍程度の広さである。
健人の部屋に比べて本棚や薬棚が置かれているが、それでも簡素な室内である。
師は半分の八畳間で昼間は近所の子供達に読み書き算盤や行儀作法を教え、一部の生徒には午後から剣術などを指南している。
【犬神】本星からみれば辺境の辺境である地球という星から来た曰く付きの人物。
年齢は少年と青年の間ほどであるが、【犬神】将軍家ご息女が連れ帰る途上に遭遇した大規模な戦で武士たちが瞠目した活躍(をしたとは見えないのだが)チキュウ人、久良木健人をこの手習い師匠が預かることになった由縁を健人は全く知らない。尋ねようともしない。
【犬神】星系で暮らしていく一通りのことをここで学ぶように、と金子市之丞に長屋へ案内され、手習い師匠に引き合わされた健人は翌日から師匠の家の内外を掃除し、ご飯を共に外で食べ、子供達が来る頃には教室で待つ暮らしを始めた。
【犬神】は嗅覚で暮らしている。
横断歩道の信号機からして、赤青黄色に相当する「匂い」が表示である。
町中の看板も文字や絵ではなくその店が商う品に相当する「匂い」で客を呼び込んでいる。
飲食物はともかく、着物や道具、金物屋まですべて店先に「匂い」を発している。
それが、チキュウ人の健人にはわからない。
【犬神】の首都星・首府であるため、この地には他星系から出向してきた軍人や役人が数え切れないほどいる。
様々な宇宙規模企業の関係者や事業所や店舗も乱立していて、それらの看板や標識は文字表記や立体物なので見分けがつく。
【犬神】の老舗店舗も近年はピクトグラムを併記して他星から仕事に来た者や物見遊山客の利便を考慮するようになったが、健人の住み暮らす下町はまだまだ「匂い」表示しかないことが多い。
久良木健人や前田綾、橋本京子は、この町では読み書きできない子供のようだ。
“妖精”を使えばそのような不便はたちどころに解消するのだが。
二人の“モップ”と“貴船”は戦術・戦闘支援システム“妖精”の範疇に収まらない存在、らしい。
本来“妖精”は道具であり、携行するものである。
戦闘時には“妖精服”を構成して装着者を支援するアイテムとして認識するのが普通。
ところが久良木健人と前田綾の“妖精”は常に二人から離れることなく、それでいて別の世界にも行き来しているフシがある。
美加姫や金子市之丞は二人の“妖精”について何度となく問いただしたのであるが、健人も綾も深く考えたことがなかった。
「お姫様、カネコさん、この2人は地球でも結構なレベルの“ノンシャラン”野郎と女郎ですから。こいつらを基準にしないで下さいね。」
橋本京子は“妖精”に適応していないため、通訳器を借りているのだが、このニュアンスは【犬神】の姫君にも伝わったようである。
久良木健人は“モップ”を連れて歩きはするが、“妖精”を常用するつもりはない。
ただ、共にいてくれるだけで満足している。
午前中、近所の子供たちと一緒に【犬神】や他星系種族の読み書きを習っている間、“モップ”は隅っこでおとなしく寝ている。
休み時間になると子供達がかまおうとするため、“モップ”は何処かへと立ち去っていて、気がついたら戻ってきている。
午後になると健人は剣術の道場へと移動。さすがに健人のレベルの武練は子供達と一緒には出来ない。
主に天光寺流の道場へ行くのだが、時折は柳生流や小野派一刀流の道場へも招待され、刺激を与え合っている。
地球では「世界征服を企む秘密結社ゾッカー」の戦闘員、兼「日本政府特別警備部隊“ガーディアンズ」であった久良木健人の戦い方は【犬神】の剣術からは想像の埒外であり、【犬神】の好敵手たる【虎族】の戦法とも掛け離れている。
異次元からの侵入者“虫”、その最強種たる“黒胡蜂”を墜とした際の戦闘記録は何度も目にしていたり、共に戦った金子市之丞に話を聞いていても、久良木健人の戦闘方法は毎回毎回「違う」らしい。千変万化ではなくて、「盂方水方、盂園水園」(うほうすいほう、うえんすいえん)の如く、相手の出方で全く定まりがない、とは柳生十兵衛の言。
健人自身は、柳生流で俊英と呼ばれた金子市之丞に基本的な剣術を習ってきた、さらに天光寺流では「抜刀術」、小野派一刀流では「切り落とし突き」そして柳生流では「輪の太刀」など、見るもの聞くもの嗅ぐこと全てが新鮮である。
そして夜は師と共に夕餉をいただき、酒を酌しながら様々な話を教わっている。
久良木健人の手習い師匠の名前は鬼谷子 という。
「そなたの星、チキュウのことは知らないが。【九尾】の古代文明では末子相続が当たり前じゃった。」
未成年の健人は酒を飲まない。彼の湯飲みにあるのは水瓶から汲んできた水である。お茶を入れることすら健人は贅沢に感じている。
鬼谷の湯飲みにあるのは日本ではドブロクと呼ばれる種類の酒である。アルコール度は14から17度、ストロングだなぁ。
「まっし…?」
『親の財産などを末っ子が引き継ぐ仕組みだワン。末子相続は相続時点で家長の意向に沿いやすいため、長子相続におけるような紛争が起こりにくい。日本でも古代出雲族に末子相続の習慣があったとされるし、諏訪地方では昭和戦前、戦後期にも見られた。…相撲部屋は現在も末子相続とも言えるワン。』
“モップ”が、なめらかに助言する。鬼谷は「そうかそうか、やはりなぁ」とつぶやく。
「ふーん。鬼谷先生【九尾】って銀河で最も古く発祥した人類ってこのあいだ習いましたが、みんなキツネなんですか?」
ふぉっふぉっふぉっと鬼谷。
「【九尾】と呼びはするがほとんどは魑魅魍魎じゃな。魑魅は山林の異気から生じ、魍魎はあらゆる自然物から生じたとされる。まぁ人類としては、なんでもありの一番雑駁な種族が【九尾】じゃな。そのテッペンだけがキツネの9姉妹じゃ。」
“モップ”の“妖精”通信をつかえば様々な映像情報や詳細な事柄を健人の脳裏に送り込めるはずである。しかし“モップ”は戦闘時という縛りを固く守っている。健人もそれを気にしていない。必要なときは“モップ”が教えてくれると信じている。
「その【九尾】から臣籍降下した四家のうち1つが【犬神】の祖とされている。九狐の姉たちが順に『不二野原』『弟橘媛』『多比良』『水元』と姓を称することで【九尾】の御門には戻らないと宣言した、その『水元』二十一流のひとつが【犬神】じゃ。今も【九尾】星系の政は『不二野原』『弟橘媛』が多く、武門は『水元』『多比良』が多い・・・とされているがなぁ。」
“モップ”が健人の脳裏で閃く。
【九尾】の九姉妹はその特異な能力ゆえに象徴的な存在とされ、【九尾】を実質的に支配しているのは「藤ノ蔦」一族である。「橘樹」はもう過去の存在とされ政治的な力は有していない。ということは、銀河人類の最高権力者は【九尾】の姉妹ではなく「藤ノ蔦」一族とも言えるのだが、【犬神】としても「藤ノ蔦」一族との関係は繊細な事象であり、特別な存在であるらしい鬼谷も口にしづらいようだ。
と久良木健人は思ったが、これは自分が思考した過程から得られたものではない=“モップ”が教えてくれたんだな、と頷く。
このように久良木健人の夜は更けていく。
【犬神】ご息女の中屋敷、で暮らしている前田綾と橋本京子の暮らしぶりを健人は全く知らない。将軍家の屋敷だから広くて大変だろうなぁ、程度しか考えたことがない。
綾が健人に遊びに来てほしい、頻繁に、しょっちゅう、何度も何度もデートしてほしい と京子の耳に胼胝ができるほど綾が絶叫しているとは想像したこともない。
地球を離れ、違う星での生活は予想以上に刺激的なのだ。
綾が久しぶりに健人と顔を合わせたのは、色気も何も無い柳生道場の幕屋の下である。
周囲には100人近い柳生流や一刀流、天光寺流の剣士たち。
「終わったら晩ご飯一緒にとる=ナイトデートだ終わったら晩ご飯一緒にとる=ナイトデートだ終わったら晩ご飯一緒にとる=ナイトデートだ終わったら晩ご飯一緒にとる=ナイトデートだ終わったら晩ご飯一緒にとる=ナイトデートだ終わったら晩ご飯一緒にとる=ナイトデートだ」
「ん。綾ちゃんコワイ。“妖精”なしでも思考がダダ漏れている。」
【犬神】本星における柳生流の一番道場。
その幕下の広大な敷地は緊張感が占めている。
柳生流の総帥である柳生宗矩が中央、その隣に同じく将軍家剣術指南役を務めた「亡き」はず小野忠明が座している。
反対側には将軍家ご息女美加姫らしき男装の麗人。傍らにいるのが見知った者もいる金子市之丞であるので間違いないはずだ。
道場の上座に近い壁際には次期総帥の柳生三厳と現在の一刀流総帥である神子上源四郎。その横には近年隆盛めざましい天光寺流の当主。
『で、久良木クンと向かい合っている、あのシブいおじさまは誰なの?ハゲは知らないの??』
離れた場所で正座しているはずなのに橋本京子の思考は天光寺輝の脳裏の片隅をツンツンと引っ張る。
『だーれがーハゲじゃああ。これは剃っているだけだと何度も何度も言わせるな!・・・ただものではない、のはわかる。』
将軍家剣術指南役の源四郎と次期指南役の十兵衛から一目置かれている天光寺輝をして知らない人物。
『ふむ。彼の御人の情報は当然、一級防御済だな。…知っている顔つきは…柳生宗矩様だけのようだ。柳生の高弟たちも「誰そ彼」な雰囲気だな。・・・十兵衛殿はご存じかな』
“妖精”通信を無礼にならぬよう小さく細く絞りに絞って尋ねる天光寺。
十兵衛も小声で思考通話を返す。
『見えたのは初めてだ。が話は何度も何度も聞かされている。父上が珍しく酔われた際に、な。』
謹厳実直・方正謹厳で知られる柳生宗矩公でも息子の前では酔った姿を見せるのか、と早くに父を亡くした天光寺は顎を引く。
その天光寺の感慨に気づかないほど十兵衛は静かに興奮している。
『天光寺、言うまでも無く、厳に厳に口外無用のことだぞ。京子殿も同じく。』
ハゲ、信頼されているんだ。そして私も、と京子は嬉しい。
『今は出来ぬが、のちに必ず金打いたす。』
武士が約束を守るときにそれぞれの刀の刃・鍔を打ち合わせる行為である。
『・・・我が父が若き頃、完膚なきほどに打ちのめされた、という人物だろう。』
『な、…。』
感情が表出しかけた天光寺輝は慌てて両目を固くつぶる。【犬神】種族としては鼻息や口臭も漏れぬように息を止め、口も固く閉じた。
『宗矩様ほどの御方が、か?』
『父だけではない。伊賀の忍び達は何十人と斬られたそうだ。』
『あの御方一人にか?』
『一人だけ、“草”が付いていたらしい。十勇士の生き残りという話だ。その二人でホウ家の御孫殿を守り切ったそうな。ホウ家とは全く無縁でありながら当時の尾張柳生一門と伊賀忍群の攻めを受けきり、最後に命ぜられた父上も敵わなかったと、何度聞かされたやら。』
天光寺は目、口、そして鼻を閉ざしたまま仰天している。【九尾】の戦国乱世を終わらせたホウ家は冬の陣と夏の陣で断絶したはず。
孫ということは、後継者であり【犬神】として生残許されざる人物である。
【犬神】が将軍家拝命の前後の頃ならば、まだまだ順わぬ戦国大名や豪族も多かったであろう。
それらを駆集せしめ、聚合させられる存在がいるとわかれば、柳生一門や伊賀忍群をさしむけることも納得する。
そして、それを打ち破ったなどとは、到底納得出来ない。
『強いのねアノおじさん。見た目より年をとっているんだ。』
京子のつぶやきにようやく天光寺は目を開いた。
その時代を推察すれば宗矩公は全盛期の頃であろう。対するあの御仁は今の十兵衛殿や源四郎と同じほどの年齢かもう少し若輩であったかも…
ということは自分と近しい年齢で柳生一門の攻勢を孤剣で防ぎきったのか。
神子上源四郎も小野忠明に尋ねたのであろう。源四郎も表情を出さぬようにしているが、天光寺には驚愕がうっすらと嗅ぎ分けられる。自分も同じ臭いを発していたであろう、と。
その人物がゆっくりと中央へと歩んでいく。
「秋月と申す。久良木健人殿、よろしく一手試合うていただく。」
「はじめまして。久良木健人です。ご指導よろしくお願いいたします。」
【犬神】の小声を交わした二人はその場で身体を回転させて上座の面々へと頭を深々と下げる。
面・胴・小手といった日本ではあたりまえの防具は全く身につけていない。
秋月も久良木健人もどこか共通する茫洋とした顔つき、と前田綾は思った。
その健人は、素人っぽさ全開の剣道着、藍染・刺し子生地にそっくりな服装。
秋月と名乗った人物は上下真っ黒の衣。
上は筒袖。下は袴ではなく洋服のズボンのような形状。太もも辺りが少し膨らんでいる。
綾がつぶやいた。
「ああいうの、学ランっていうんだっけ。キョウちゃんちのアルバムで見た気がする。」
「…それ、ジイちゃんの若い頃の写真だぁ。変形学生服の長ラン短ラン、ボンタンにドカンって呪文を聞いたことある~」
正面に礼。ゆっくりと二人は再度向かい合う。
秋月が構えるのは通常より長めの木刀。対する健人の木刀には鍔と鍔止めが付いてある。
健人はなにゆえか、常にこれを木剣と呼んでいる。
軽く頭を下げ合った後、抜き合わせた木刀と木剣を軽く触れ合わせて「礼」をする。
二人はすっと距離をとる。
道場試合ではこのあとどちらからともなく「円」を描くように移動することが多い。
前後に身体を揺すってタイミングを取り合う前の動作。 それが二人には、ない。
秋月はなんら躊躇うことなく跳び込んで来た。
道場のほぼ全員が八方眼で秋月と健人の全身を見つめていた。ゆえに気づきようがない。
例外は柳生総帥の親子と一刀流の二人。
『『『『 突き と見せているが、違う! 』』』』
秋月の脇がほんの少し開いている。
全力で突くつもりならば脇をそばめ、かつ肘を弛ませているはず。
跳び込んだ先でさらに腕を伸ばして瞬の距離を得るため、必然腕を縮めるのだ。
全身ではなくて、身体の一箇所にまで眼を配り、気づけたのは4人の武芸者のみ。
秋月が狙っていたのは蛇殺剣。
突きと見せかけ、喉元あるいは胸元へ剣先を伸ばす。
相手は、身を躱す、か 刀で打ち払う を選ぶしかない。
秋月の瞬速の体裁きに対し、身体を移動させるよりも剣先を打ち返すを選択する者が圧倒的に多い。
その返す刀に「巻き付かせるように」木刀を合わせる。
秋月は突きながら、柔らかく手首を回転させ、相手の刀の支配を狙う。
うかつな相手が柄を柔らかく握っていれば、巻き込む妙技と遠心力で刀は奪われる。
秋月の刀の回転は吸い込むように対手の刀を奪う。
返す刀どころか、振り回されるか、甚だしければ、刀はすっぽ抜けてと放り去られてしまう。
では、躱すを選べば・・・
秋月の跳び込みの速さに加えて、木刀は通常の倍近くの刀身である。
振りかざされる間合いから逃れるスベはない。
刀で弾かねば胸板を突かれ、弾けば刀を支配され、躱せば回し斬られる。
ワザ自体は単純な原理である。
それが秋月の跳び込みと木刀の長さ、さらに切っ先の速さで対応出来ないワザと化す。
『あれで、柳生の剣士も次々に倒された。一度見れば理解は出来るが、突きと旋回どちらも速い。』
柳生宗矩ほどの人間が、思念を吐露している。
チキュウ人換算すれば20いや30年ほども昔の光景。
何度となく思い出し手に汗をかいた。悪夢を見て寝床から跳ね起きた。
自分が斬られなかったのは、
「見届けて頂き、探索をあきらめてもらうためです。」
と涼やかに言われたあの瞬間が蘇った。何度となく思い出した映像が眼のまで再現された。
いや、もう一人。
天光寺だけは健人の左手を見ていた。
健人の木剣は仕舞われていた。いつの間に?
抜刀術を使うのか。だが、健人の抜刀速度はまだまだ遅い。
天光寺道場で何度か教えた程度。あの腕前では実戦で使うには、未だ無理。
秋月の跳び込みは柳生道場の面々も瞠目する速度。
抜刀術は一度腰を下ろし、膝を伸ばす力と右腕、両方の膂力で加速を得る術。
伸びきった姿勢では間に合わない。
いや。天光寺輝の眼はとらえていた。
健人の左手親指が、木剣の鍔に乗せられていないことに。
鍔のすぐ近く「はばき」辺りを握っていなければ、抜き打ち出来ない、はず。それなのに。
健人の左手は鍔から離れ、さらに後方へ滑らせて刀身の中程辺りを握っている。
木剣を握ったまま、その左手を伸ばす健人。
真剣ならば、剣を抜かずに「鞘」ごと前に突き出したことになる。
健人の木剣の柄がしら、が真っ直ぐに秋月の切っ先へぶつかる。
真剣ならば、秋月の刀は健人の刀の柄に突き刺さったであろう。
ぐい、と秋月の木刀の切っ先を、健人の木剣の柄が振り払った。
「なんと!」
秋月の口元に笑みがこぼれた。気づいた者はいない。
打ち払えば死。避けても死。その秋月の必殺の突き、健人は真っ正面から受けたのだ
『あの剣は外連が過ぎる。が「浮木」と通ずるモノがある。源四郎、其方ならば如何した。』
小野忠明の思念に神子上源四郎は返せなかった。かほどに秋月の太刀は速かった。
それを。
早さのさらに上の速さ。
久良木健人の神速妙技。
間髪おかず次の一手を仕掛けた健人。
健人の日頃の修練を知る柳生門下生は驚いた。
健人の戦い方は「先々の先」「先の先」が多い。
超高速機動の“黒胡蜂”には、それでも後れをとった思いの健人は、道場において「先の先」を仕掛けることを常としていた。
たとえ柳生十兵衛の豪剣を前にしても、一門下生の未熟な剣でも、健人は先手を採った。
健人の次の一手にに秋月六郎太は、再び笑みをこぼした。
「チキュウ人、面白し!」
日本は宇宙人に侵略されました。
健人「柳生道場は広いのですが、壁と屋根はアリマセン。幕府、の幕で出来ています。」
綾 「木上大サーカスってのに行ったことがあるけど似ているよね。パビリオンって感じ。」
京子「大阪で“黒猫”って舞台を大テントで見たことがあるけど、もっと広いわ~」
健人「でも、床は土なんだよね。これが、踏み込んでも蹴っても掘れたりえぐれたりしないんだ。」
綾 「・・・きっと、重いコンダラで固めてあるのよ。お弟子さんがコンダラをゴロゴロと。」
京子「コンダラ、って何?」
綾 「ほら、野球部とかテニス部の子が学校のグランドで引っ張っていたアレよ。重いのよアレ。」
健人「へー。あれって、コンダラっていう名前だったのか。初めて知ったよ。」
綾 「昔のね、野球のアニメで ♪重い~コンダ~ラ、試練の道を~♪ って歌詞があってね…。」
健人「へえ。そうか。うん、そうだな。【犬神】でもどこの星でも、地面を固めるためには重いモノで上から押さないといけないわけだな。」
綾 「この星でも、他の星でも、きっと、コンダラが発明されて、どこの星でも同じように、コンダラが使われているってことよ。同じ人類だもん。そういうところは一緒なのよ。同じ人類だもん。」
健人「なんか、イイ話っぽいなぁ。うんうん、コンダラで感じる人類のつながりかぁ。」
京子「・・・・・・ちがう。あれは整地ローラー。コンダラなんて名前じゃねえよ。」
最後までお読み頂きありがとうございます。
お話はたまっているので、あとは打ち込むだけ、打ち込むだけ、・・・・
平均して6時間で一話です。
お気に入り登録して下さった方がお一人増えたので、近々がんばります。




