クアール
宇宙人の戦闘力はどれくらいでしょうか。サイヤ人は例外ですが…
3-8-②
日本のお巡りさんが携行している拳銃とは異なり、人を“殺す”もしくは“壊す”目的で作られた銃。それが密輸品であろうが、大使館経由であろうが、銃弾が体内に撃ち込まれてしまえば、どうしようもない。当たり所によっては“即死”である。
人数は千人前後、いや、もっと多いであろう。半数は銃ではなくて短剣の類を忍ばせているとはいえ、五百以上の銃弾が集中すれば、どのような対応が出来るであろうか。
集中すれば、であるが。
ほとんどの拳銃は、引き金から数cmの箇所で切断されていった。
そして拳銃の持ち手はそのときの衝撃で、全員が手首の骨を砕かれ、腕を抱えて座り込んでいく。あきらかに日本語ではない悲鳴が響き渡る。そして数秒ごとにその絶叫は大きくなっていく。
短刀やその他の凶器を持った男たちも、同じかそれ以上の悲惨な有様であった。内懐に一瞬で入られた後、その凶器で自らの腹部を刺されたり、頭部を強打されていったのだ。ブラックジャックなど身体の内側を壊す凶器はそっくりそのまま、持ち主の体内を破壊するように動線を変更され、肉を切り裂く凶器は持ち主自身の身体のどこかを切断し、赤色に色づけていく。
戦闘開始から五分たたないうちに、千人以上の暴力担当者たちが、地面でのたうつ羽目となったのであった。
『猫カフェ、ねっころび』の店員が青い顔でシヴァイたちに近づいてきた。猫たちに囲まれ、ごろごろの合唱に夢中のメンバーの中で、護衛官たちから既に連絡を受けていたリュトゥーだけが理由を知っていた。
「お客様、申し訳ありません。外の方からお電話が入っています…。」
外、という単語に反応して、全員が窓の外を見る。不思議なことに店内の接待猫たちもつられて首を回し、そしてにゃーと悲鳴を上げて、慌てて逃げ散った。
一見、ごく普通の何かのデモ行進のようであった。プラカードを持つ者。手に小旗を持つ者。額にハチマキを巻いたり、数人で横断幕を持つなど、そんなありふれたデモ行進が丁度店の前にさしかかったところである。いや戦闘集団はすでに通り過ぎるところであった。
しかし、その瞬間、デモ隊の全員が『猫カフェ、ねっころび』の店内をを見つめ、足を止めて懐やポケットに手を差し入れる。顔つきは全員が・・威嚇、いや立派な殺意がありありだ。
リュトゥーがシヴァイの耳元で囁く。
「閣下、護衛官たちに一掃させてよろしいでしょうか。」
「まぁ、話だけでも聞いてみるわ。」
いつも通りの飄々とした様子で、店内のこじゃれた電話に向かい、受話器を受け取る。
「はい、お待たせしました。こちらは宇宙人ですよ。」
電話の向こうの男は無表情のようであった。デモ隊のどこかにいるのか、離れた場所から見ているのか。シヴァイの冗談口を気にも掛けずに話を続ける。
「そのふざけ態度は本物のようだな。腹立たしいが、手短に要求を伝える。今、店の前には千人以上の人間が集まっている。全員がお前たち宇宙人の我が国への対応に納得がいかない男たちだ・・・・。意味はわかるな。大人しくついて来い。そうすれば危害は与えない。」
受話器についているグルグルコードのからまりを元通りにほどきながらシヴァイはつぶやく。
「あなた、日本語上手ですね。隣国の言語で概念が伝わってきていますが、とても正しい日本語に訳されています。仕事変えた方がいいんじゃないですか?」
電話の向こうの動揺が沈黙を通じて伝わった。
「うるさい。言うとおりにしろ。全員、手を挙げて店から出てこい。」
電話口からリュトゥーを見ると、すでに軽く片腕を持ち上げている。それを下げた瞬間、装甲戦闘服の能力で、周囲の木々や壁に完全に擬態していた護衛官たちが攻撃を開始するであろう。地球上の全ての戦車砲の直撃を受け止めるスーツ相手に拳銃や短刀が通じるかどうか。
しかし、その腕は振り下ろせなかった。
「リュトゥー、ダメ。あなたたちが攻撃をすると火の気が立つ。あの子たちは火のにおいが染みついたら、この家が嫌いになるにゃ。」
アシュバスが厳しくリュトゥーに命じる。他の艦隊とは言え、司令長官である。その命令には逆らえない。
アシュバスは自分が連れてきた女の子たちに向かって言った。
「サーニからサーベ、外に出て全員の戦闘力を奪いなさい。アッワルは入り口で待機。」
「了解」
全員の返答にまったくのズレがなく、たった一人の返事のように聞こえた。そして、次の瞬間には座っていた全員の姿が見えなくなった。
カーニバルが始まった。
カーニバルは終わった。五分も保たずに、千人以上が何一つ出来ずに地面に突っ伏し、蠢くだけである。
「猫族の動きは速いと聞いていたけれど、クロックアップみたいだね。この眼鏡してなかったら、何もわからなかったと思う。」
「うんうん。もっとほめたげてにゃ。」
アシュバス自身が先ほどまでの猫たちのようにシヴァイにまとわりついている。その様子に安心してか店の奥から猫たちが顔を出す。さすが好奇心いっぱいの生き物である。
「この子たちも肉食だろうから、多少の血のにおいは大丈夫だろうけどね。誰一人発砲させずに終わらせた、うちの娘たちエライエライ。」
何かに遠慮してであろうか、いつもより微かに、陽炎のような雰囲気で“妖精”銀髪がシヴァイの肩口に現れる。それを見るなり、手でちょっかいをかけるアシュバス。しかし銀髪は反対側に一瞬で移動する。猫じゃらしと猫のようである。
『彼女タチ猫族、クワール族ノ戦闘スピードハ亜光速ニ近イ。宇宙空間デモアル程度ノ時間ハ活動ガ出来ル生命力ト卓越シタ知能ハ銀河宇宙軍デモ上位種族デアル。コノ結果は当然デアル。』
それだけ告げると銀髪はかき消えた。“妖精”にも苦手はあるようである。そのアシュバス自身も“妖精”は苦手なようで、にらむような目つきをしている。
「アイツを見ると、跳びかかりたくなるのよねー。」
さきほどアッワルと呼ばれた女性護衛官たちのリーダーがアシュバスに近づいた。即座に彼女の周囲に集まる店内の猫たち。自分たちを守ってくれたと感じ取ったのであろうか。
「アシュバス様、一人の爪折れもなく戦闘は終了しました。リーダーらしき男だけは、ケガをさせず気絶にとどめています。いかがなさいますか。何かを自白させるなら…。」
アシュバスは無言でシヴァイに目を向ける。すでに一匹の子猫を抱いているシヴァイはそのまま立ち上がった。
「店員さん、救急車、大量に呼んであげて。リュトゥー、この店の人たちや猫ちゃんたちを驚かせたと思うから、多めに支払うように。アシュバス様、外のバカな連中は放っておいてかまいませんので次の所に行きましょう。」
「お、また楽しいところに連れて行ってくれるにゃ。みんな行くぞ。」
リュトゥー一人置いて、全員が店を出る。入り口まで見送ってくれる猫たちに別れを惜しむアシュバスたち。追いついてきたリュトゥー(と見えない護衛たち)にシヴァイは告げる。
「リュトゥー、お礼も兼ねて、あのデパートでお嬢さんたちに服でも買ってあげなさい。アクセでも何でもOK。アシュバス様、買い物に疲れた頃、私は戻って参りますので、しばらく別行動お願いします。」
「ふうん。何かあるのね。まぁいいわ。再会したら、またいいところに連れて行ってね。」
「合点承知の助。」
「何それ。返事?」
全員の?顔を尻目に、シヴァイは雑踏に消えていった。
アシュバスは顔の前あたりで軽く手を振り、その仕草の途中で何かをつかみ取った。
(私たちのご先祖だけでなく、敵のご先祖みたいなのまで居る星か。これはよーく調べないとね。虎姫や獅子王を出し抜ける何かが得られるかもにゃー。くくくく。)
アシュバスの片手には虫の死骸が掴まれていた。
日本は宇宙人に侵略されています。
今回もお読みいただいた方、ありがとうございました。
小説だけでは伝わりにくいので、現在、とあるものをつくっております。素人の手慰みですが、完成をお待ち下さい。




