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253 【九尾】星系 対決“不可触存在”戦闘編 2

銀河宇宙の果て、【九尾】星系。

【龍族】【猫族】【鎧獣族】の三族艦隊は、新たなる“敵”と対峙していた。



 253 【九尾】星系 対決“不可触存在”戦闘編 2 


 【猫族】の戦艦。

 宇宙戦艦による1対1の機動戦闘では【虎族】戦艦が最強と言われている。

 装甲の厚さと単艦でも濃密な砲撃を繰り出す【虎族】の艦艇は護衛艦級でも接近すれば脅威である。

 対して、銀河宇宙軍で【虎族】に匹敵する【犬神】の艦艇は集団戦闘に長けている。

 敵集団の急所を集中的に波状攻撃する速さと艦隊全体の持久力は銀河最強の名に相応しい。

 長距離攻撃、火力に関しては【龍族】が挙げられ、戦艦の巨大さと数は【鎧獣族】に勝る種族はない。

 では、【猫族】の戦艦の特長は何か。

 短時間のヒット&アウェイ、それも相手が嫌がる箇所への的確な一撃。

 それは宇宙戦艦の性能によるものではなく、操艦する【猫族】乗組員の資質ゆえとされている。

 そして、それこそが三族艦隊総司令シヴァイが【猫族】艦隊司令ショーン・アメに期待しているものだった。


『目に見える“繁茂枝”だけに気を囚われるナ。目に見えない“枝”はヒゲ…ネコの勘を信じろ!』

 白く輝く巨大な枝。

 先端の方がやや細くなっているが、それでも優に偵察艦艇に匹敵する太さ。

 艦載機の攻撃程度では火力が足りない。

(【猫族】の“機捷兵”ならばアノ程度の動きはなんでもナいが…ダメージ、いや“餌”を撒けなくては意味がニャイ)

 【猫族】高速巡洋艦が白く光“繁茂枝”に火力を注ぐ。

 近距離ならば、【猫族】戦艦のビームも強力である。

 加えて強力な高性能火薬を満載した誘導飛翔体も連続発射。

 化学兵器や生物兵器は、この“繁茂枝”あるいは本体と思われる“白く輝く全てを吸収する球体”に有効かどうか不明。

 実験弾頭を偵察部隊は何度も撃ち込んでいる。

 しかし、物量が圧倒的に不足しているためか、“繁茂枝”の吸収速度が早すぎるためか、効果の実証は未確認。

 ゆえに通常のビーム攻撃と火薬ミサイルで攻撃を続けるしかない。

 その全てが“繁茂枝”に吸収されていく。

『第21攻撃隊、離脱するのニャ。』

『第48攻撃隊もおニャじく、後退しますのナ。』

『我が52攻撃隊も…』

『は、離れるのニャー』

 ショーン司令の脳裏に“妖精”通信が次々に注ぎ込まれる。

 顔なじみの艦長たちが無事に離脱していくことに、ショーンは安心した。

 “繁茂枝”は目に見えない細い細い触手も延ばしていると推察されている。

 様々な波長に温度、そして視認、どの手段でも探知できない“あるかどうかもわからない”脅威の網目。

 ショーン司令が怖れているのはそちらの方である。

 見える“敵”から逃げるのは【猫族】には容易いことだ。

 見えない“敵”を見てこい、というのが命令なのだ。

 優秀な【猫族】艦長たちはそれに応え、感知しているようだ。

『撤収の状況をシヴァイ閣下に報告。第4次攻撃艦隊の準備は出来ているか?』

 ショーンの左右に控える参謀官たちが同時に肯く。

『第10次攻撃隊まで準備完了していますのニャ。“ツメは研ぎ終わってる”です。』

 【猫族】の歴史的大戦の有名なセリフである。

『よし。ニャントニアJr提督の故事に倣うぞ。第4次隊、出撃ナ!』


 シヴァイの脳のサイズ表記は地球準拠である。

 三族艦隊と少数の【九尾】艦艇による合同艦隊。

 その本陣の最前衛に位置している【龍族】戦艦“シヴァイガ”。

 その艦長席後ろ上段、司令官席の主は実は困惑しているのだった。

(“白く輝く全てを吸収する球体”…な、長い。それに大きすぎてワケワカラン。横の表記もよくわからん。)

 本体と目されている球体と、そこから数え切れない程、増えていき伸びていく“繁茂枝”の大きさ。あるい範囲。

 反復波状攻撃を続ける【猫族】高速艦艇のおかげで、少しずつ情報が増えてきている。

 ビームあるいは火薬による爆発を吸収する“繁茂枝”は、その瞬間だけは静止。

 その内部に稲妻のように筋が走り、それが消え去るまでは動きを止めている。

 だけど、宇宙空間では、全体のサイズがちっとも体感できないのだ。

 手近な恒星すらもチキュウの太陽の数倍・・・宇宙はおおきすぎる。

 その宇宙で巨大化していく“敵”=“白く輝く全てを吸収する球体”

 シヴァイの“妖精”「銀髪」がサイズ表記から比較例示表記に切り替える。

(ああ、ありがとう。…こ、これは、巨大だ…。何億宇宙kmとか、【猫族】単位ではいつまでもワカランわけだ。)

 東京ドーム○個分、とかTDLの何倍の広さ、あるいは○○県と同じ面積・・・どころではなかった。

 シヴァイの背後に銀色に発光する人型が出現していた。

 少し離れた副官席の人物には見慣れた光景であるが、反対側の人物、【九尾】の蔵人頭・ビャクソーは驚く。

「これが、上位“妖精”ですかコン。」

『ハジメマシテ。【九尾】帝ノ秘書官ドノ。』

 “妖精”は銀河宇宙人類の役職や階級あるいは階梯とは無縁とされている。

 “妖精”が適合した将兵たちでも“妖精”を単なる高性能戦闘支援電子頭脳としか認識していない。

 かなりの上級将校であっても、空間に可視化した“妖精”は“水晶玉”状態しかしらないであろう。

 人あるいは動物の形をした“妖精”は「常に戦場の真っ只中に立つ存在」に多く現れるとされている。

 もしくは、銀河人類の各種族の長クラスとされる存在・・・

(【龍族】が重用しているこのシヴァイは、何故に“妖精”に認められたじゃろうコン。)

 【九尾】の最上級文官、左右・太政大臣に匹敵する政治力の持ち主が何を考えているか。

 そんなこと意に介さず、シヴァイは思考する

 その思考を邪魔しない、ギリギリの小声で副官のアソオスがつぶやく。

「閣下の母星太陽系でいえば木星の直径の倍ほどで、形は投網に似ています。質量は不明。速度は可視“繁茂枝”は【猫族】高速巡洋艦より遅いようですが、【龍・狐】の高速艦艇では危険でしょう。【猫族】艦長たちの勘が正しければ、不可視・触手はもっと早いでしょう。」

 シヴァイの脳裏には立体画像が“銀髪”によって送り込まれている。

 その“銀髪”による圧縮情報を整理するのにアソオスの言葉は役立つ。

 人間は“言語化”することで思考を開始する。あるいは可能になる。

 “言語化”なしに思考することは難しいか、無理である。

『【猫族】は戦場で早々に逃げ出す、という悪口もありますコン。信じて良いのですかなコン。』

 はっ、と顔を上げるシヴァイ。

 【九尾】や【犬神】には【龍族】を蛮族と見る者がまだ多い。

 【猫族】を【虎族】の劣化集団と考える者もまだまだ存在している。

 【鎧獣族】は捕食対象の末裔と見下す種族は少なくない。

 【九尾】の最高級官僚であるビャクソーは、これまで微塵もおもてに出してこなかったが…。

『アシュバス様が選ばれたショーン司令は優秀です。その目を私は信じますよ。』

 シヴァイは穏やかな表情をビャクソーに向ける。

 蔵人の頭はその背後、副官アソオスの冷たい目に気がついた。

 何か思考すれば、彼女の“妖精”が気付く可能性がある。

 ビャクソーは意識を遮断。

 それは老練な彼の能力か、長く政治してきた彼の“妖精”の機能か不明。

『【猫族】第8次攻撃隊、出撃しました。ショーン司令は艦隊全艦の後退を指示。』

『予定よりも“繁茂枝”の成長が早いと判断され、シヴァイ閣下への緊急報告ありました。』

 【猫族】と【龍族】の偵察艦からの情報や通信官への言上が輻輳する。

『報告は不要とショーン司令に送って下さい。』

 “妖精”を使用することは装着者に負担を生じさせる。緊急時でない、あるいは近距離の場合は光速通信が常態である。

『【猫族】が下がった分、偵察網が減ります。無人索敵艇あるいは偵察ポッドを【龍族】艦艇から放出して下さい。』

『間隙を突かれないよう、長距離砲撃艦隊を前に。ただし、撃ったらすぐに後退を厳守。』

『【龍族】は会敵・接敵しても【猫族】よりも速やかに撤退を厳とせよ。』

 参謀官たちも次々に判断し、発令していく。

 全てを艦長や艦隊司令が判断し、命令していては大艦隊は運用できない。

 重要度が下位の案件や、定常の発令などは参謀たちに任せられる。

 無論、シヴァイが突然介入するときがあるが、それは非常事態ということだ。

「まずは、情報の収集です。【九尾】軍は民間人の避難に全力を注いでいたのですから。」

 部下たちに、よりもビャクソーとその周囲の狐たちに聞かせる言葉をシヴァイはつむぐ。

『“敵”の情報を集めよ』

『武器弾薬の補充を密とせよ。【九尾】補給艦への・・・・』

 情報が、発令が、そして戦艦や火力が宇宙を満たしていく。

 その瞬間、シヴァイに滑落感に包まれた。

(あ、呼ばれた・・・)

 瞑目し、座席から少しだけ浮かび上がったシヴァイを見たアソオスは短く声を発した。

『シヴァイ司令は首脳会議に呼集された。皆、気を引き締めて下さい。』


 “妖精”空間。

 シンプルな異空間であるが、見慣れない調度品が目に付く。

 アシュバスの“妖精”部屋とは異なる。

『これはミズクメ様のお部屋でしょうか。』

 “妖精”空間では思考を全て吸い出される。全ての本音が晒される。

『さすがはシヴァイ閣下。慣れておりますね。』

 直衣のうし姿の意識体がひとつ。

『賀茂に弓削、蘆屋と安倍…春日…あっ、日下部…さんでしたっけ?』

『はい(微笑)その通りで御座いまする。他の方々は“九子”様の目と成り散っておりまする。』

 シヴァイの脳裏に“陰陽師”のイメージが湧き出る。このクサカベも最高位の陰陽師の一人の、ハズだ。

『クサカベ殿は警護役ですか。』

『ご明察…ウワサ通りの方ですね。【九尾】は“妖精”とのつきあいが長う御座りますゆえ。けして“敵”を軽視致しません。』

 ・・・これまでの自分は迂闊だっただろうか。三族、あるいは【虎族】との交流で“妖精”空間や通信を疑ったことはなかった。

 シヴァイの思考をよそに、クサカベの意識体が、すっ、と片膝をついた。

 シヴァイも慌てて、クサカベの姿に倣う。

『正面に座るがよい。クサ、は仕事を。』

 軽く首を垂れたクサカベはその意識体を拡散した。見えなくなったが、そこにいることは間違いない。

 シヴァイが、言葉を落とす。

『…今回の“敵”=“白く輝く全てを吸収する球体”は…今のクサカベ殿のようなモノかもしれません。』

 ふむ?と訝しげなミズクメ。

『そこにいるのは間違いない、なれど見えず聞こえず匂わず触れず…あっ、味わいたくは、ありませんね。』

 シヴァイの冗談にミズクメも微笑む。

『五感は役立たずと判断し、【猫族】の第六感を頼ったか。…そなた、【九尾】に似ておる。【犬神】ですら、その発想は出ないぞよ。』

 銀河人類の科学の発展を“妖精”は一気に後押した。

 次々に超科学産物を得た銀河人類は“怪”つまりオカルトを放逐した、とされている。

 オカルト=隠された力、あるいは目で見たり触れて感じることのできない事柄。

 知識と科学と論理は、銀河人類を恒星間航行に導き、超光速航法は幾つもの星系を飛び越えさせ他の種族に遭わせた。

 銀河宇宙から“闇”は失われていった。…ハズだった。

 “敵”そして“虫”の出現までは。

『「は怪力乱神を語らず」という言葉が、私の母星にあります。』

 「怪」は怪異。「力」と剛力。「乱」は無秩序、反乱。そして「神」とは鬼神。人間以外の存在のことである。

 怪力乱神を述べる、あるいは求める者、それは何を求める者であろうか。

『「鬼神を敬してこれを遠ざく」と反対の言葉もあるのですが。』

 シヴァイの概念を正確に受け取ったミズクメは、ほうっと溜め息をもらす。

『チキュウ…【龍族】の辺境のさらに果てにあると聞いたが…いと興味深し。』

 アシュバスと一緒に噂に聞いた“チキュウ”へ遊びに行くミズクメのイメージが広がる。

 ・・・・アシュバスにとってチキュウはあのような星なのか、とシヴァイは微笑む。

 ミズクメに伝わっている「アシュバスのチキュウ」はテーマパークだ。

『ワテはアシュちゃんの意識を感じることが出来る。…いつも、では無いが、今は強く感じている。』

【九尾】と【猫族】の種族を越えた友情、以上の何かをシヴァイは知覚する。

『アシュちゃんも不安を感じている。神経を尖らせるために、そなたもワテも遠ざけ、アシュちゃんはヒゲの先に気を込めている。』

 【猫族】の長、は世襲ではない。学力検査や体力テストで決まるわけでもないらしい。

 シヴァイの想像が読み取られた。

『そうじゃ。【九尾】もジャ。長子相続でも末子でもない。決めるのは能力だけだコン。だからワテとアシュちゃんは仲良しなのだコン。』

 語尾のコン、は興奮のためだろうか。

『・・・・ワープアタック、が近い、のですか?』

 あの“白く輝く全てを吸収する球体”は固体惑星もガス惑星も中心核まで全て吸収していった。

 住民も動植物も鉱石も水も空気もマグマも、だ。

 一定時間は要するものの、恒星ですら中心部の原子核融合ごと、吸収されていった。

 水素もヘリウムもX線も重元素も、超高熱のフレアが立ち昇ったまま、に。


 “白く輝く全てを吸収する球体”末端の“繁茂枝”。あるいは“不可視枝”ならば通常の火力で効果がある…。

 それらは通常攻撃を“餌”として満足するようだ。

 しかし、“繁茂枝”の出発点、球体そのものには何が餌になるであろうか。

『“敵”の通常艦隊に大被害を与えられる“ドラゴン・アタック”ならば、かなりの効果が望めるであろうよ、な?』

『…【龍族】よりも【猫族】の方が、今では秀でています。無人艦を突撃させる「名人」はアスバス陛下ですよ。』

 獣人化できるアシュバスの潜在能力が発揮されたのだろうとシヴァイの思考は断じる。    

『ふむ。“ワープ・アタック”ならば、“白く輝く全てを吸収する球体”の肺腑をエグることが可能であろうかコン…。』

 銀河人類にはそれ以上の攻撃力はない。

 核分裂あるいは核融合による核兵器。

 それすらも宇宙空間あるいは天体規模で見れば、最終兵器にはなり得ない。

 宇宙における最大速度=時間と空間の基準となる物理学における特別な意味を持つ値。それは光速である。

 光速以上の加速そのものをエネルギーに転換する“ワープ・アタック”は人類の最大最後の手段。

 うつむいたシヴァイの脳裏に映像が生まれていく。

 “ワープ・アタック”その後の情景が繰り広げられている。

『し…シヴァイ…そなたは、何を視ている・・・いや、そなたには観えている、のか??』

 不覚にも、ミズクメは予知夢を思い出してしまった。

 アシュバスとシヴァイの最期、を。



 日本は宇宙人に侵略されました。 


最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

見たことも聞いたこともない“敵”それもラスボス・クラス・・・

思いつかない、展開しない、書けない、続かない・・・


それでも、「お気に入り」登録して下さった方がいたおかげで続けられます。

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