250 【犬神】族本星:首都“明日都”
【犬神】族本星 首都“明日都”。
250 【犬神】族本星:首都“明日都”
天に向かってそびえ立つ高層建築物を【犬神】は好まない。
地球と異なり、首都であってもせいぜいが3階建て程度である。
そのため、空は限りなく広く、首都の面積も日本で言えば関東平野全域ほどの広大である。
「・・・この乗り物って、なんでこんなに遅いの?」
「申し訳ござらぬ。首都の内側では使用許可される車が少のうござる。」
夕刻“明日都”は往来が激しい。人の歩みとさして変わらない速度で進む“駕籠”と呼ばれる乗り物。
「我々ならばこの程度の距離は普通に歩んだ方が速いのでござるが…。」
「アンタたちの“普通”は私たちの走るより速いじゃない。それにこんなゾロリとした着物なのよ。」
日頃の橋本京子ならもっと大声でキレているだろう。
だが“駕籠”はおおざっぱな作りである。屋根こそあるが、左右を覆うのは絹布でしかない。
車内で大騒ぎすれば、たちまちその声は漏れ出でる。それを聞いた町民たちは何事かと耳をよせ、即座に噂が広まるであろう。電子瓦版のかっこうのネタになってしまう。
【犬神】の侍は尊敬される存在である。けして恐怖の対象ではない。
尊ばれる為政者の一部が町中で騒動を起こすなど、この星ではありえない。大騒ぎになろう。
【犬神】の親藩中の親藩、酒井家の“駕籠”は注目の的でしずしずと進んでいく。
「キョウちゃん…京子ちゃん、ってば~。ほら、夕陽がきれいだよ。」
御簾をほんの少し巻き上げて、景色を眺めていた綾は橋本京子の袖を引っ張った。
日本、いや地球ならば夕焼け空は茜色が当たり前であるが、この星では不思議なことに紫色に近い。
「…なんで暢気なのかなぁ。綾が久良木に会いたいって言うから、行列で行くはめになったのよー。」
中央に4人がゆったりと乗れる駕籠。その前後に“妖精服”姿の【犬神】侍がびっちりと守っている。
彼ら侍の“妖精服”は戦場用とは異なり式典用の華美な装飾姿の電子迷彩がされていて、珍しがった子供たちがうれしそうに後をついてきたている。
ゆっくりと浮遊して進む駕籠の左右にも覗き込む子供の姿が絶えない。まるでパレードのようだ。
日本では普通の女子高校生にすぎない橋本京子と前田綾は自分たちの処遇に慣れておらず、過剰なVIP待遇に辟易していたが、微笑む子供や町民たちには笑顔で接している。
駕籠が、いや行列が立ち止まる。
“明日都”の中央部には少ないが、町民たちの居住・生活エリアには幾つかもの信号機が存在する。
武士と町民の生活を成り立たせる生活物資の流通は地下道が主であるが、それだけでは足りないのだ。
自分の足で移動するか、浮遊“駕籠”しか存在しない明日都では渋滞は少ないのだが、それでも人と資材搬送用大八車が混在して往来する区域では「信号機」が活用されている。しかし、
「・・・じぇんじぇんワカンナイー。なんで信号が色じゃなくて、匂いなのよー。」
「かほどに明瞭な匂いの変化がキョウコ殿にはお判りナイのでござるか?」
「ハーイ、綾にもちっともわかりません。」
左右に顔を振ってスンスンと鼻を鳴らした綾にも匂いの変化は感じられない。
行列が止まり、進み始めた駕籠。
「信号機」の切り替えは【犬神】にとっては駕籠の中にいても明確らしいのだが。
青はススメ、赤はトマレ。それが地球だけの常識と知ったとき、【猿族】出身の二人は途方に暮れた。
庶民と共に町で暮らしている久良木健人が「信号機」どころか町中至るところの「看板」の匂いまで嗅ぎ分けていると知ったとき、京子は健人を放置して地球への帰還を綾に申し出たのであった。
即座に却下されたのは言うまでもないが。
「なんで、匂いが混ざらないのよー。それに一目でわかる方がいいジャン。」
「色だらけでは目がチカチカするではござらぬか。それに匂いならば数百メット先でも駕籠の内にも知れるでありましょう。」
【犬神】人類とチキュウ人の共存はなかなか難しい。
大気に化石燃料の匂いが広がらないよう、電力さえも最小限にとどめている文化。
チキュウ出身の二人は、なかなか慣れない生活が続いている。
二人の行列が目指しているのは「お玉ヶ池」に在する小さな剣術道場である。
昼間は町民の中で暮らしている久良木健人。彼に久し振りに会いたいと綾が訴え、退屈していた京子がその提案にノッて大騒ぎしたのだ。
二人の預けられている酒井藩の中屋敷は「てんやわんや」となり、急遽行列が仕立てられた。
その「お玉ヶ池」道場は常にない人の数で賑わっている。
全員が旗本・御家人であるため、私語は少ない。それでも人数が人数であるため、ざわめきは結構なものとなる。
「うーむ、この道場に、かほどの人々が集まろうとは…。」
道場主の老人は感極まっている。
のちに「技の千葉(玄武館)、力の斎藤(練兵館)、位の桃井(士学館)」と呼ばれる北辰一刀流も現在は無名の一流派でしかない。
道場主の忠左衛門は剣士よりも馬医者として近所では有名である。その程度の道場なのだ。
裏口から通された久良木の「手習いどころ」の友人、シロ先輩・ポチ先輩・チョビ先輩は甲斐甲斐しくお茶を運んだり、武士たちを空いた場所へと誘導している。
「でも、いつもより多いよね。」
「今日のケントの相手はあのツルピカリンなんだって。あ、イテッ。」
子供らしく口の悪いポチの後頭部を叩いた(←はたいた、です)のは、そのハ…禿頭の人物である。
「誰がツルピカだ。」
昼間の一件であっという間に子供たちと仲良くなった天光寺に3人以外の子供たちも駆け集まる。
「ツルツルのお兄ちゃん、がんばれよ。」
「ケントはああ見えて強いんだぞ。油断するなよ。」
その言葉に深く頷く天光寺である。
落ち着いた所作で彼は道場の一角へと進み出る。
神棚の前に数枚だけ敷かれた畳。道場主千葉忠左衛門を真ん中に、左右に二人の武士が正坐している。
隻眼狼・柳生十兵衛。
獣兵衛あるいは重兵衛とも呼ばれる彼は現在の柳生流最強の剣士であろう。
座するだけで周囲を圧するその風格に、初見の武士たちは「さもありなん」と納得せざるをえない。
その威圧を微風の如く受け流して鎮座している人物。
小野派一刀流、神子上源四郎。
故あって将軍家御指南役を引き受けている彼は十兵衛よりも言動を慎んでいる、とされているが彼の師匠は高慢不遜で知られる人物である。その師匠にさえ“歯に衣を着せぬ”とされる人物だ。
お上(将軍)本人でも手厳しく打ち据えた師匠に対し「切れすぎる刃物は使えない品でござる」と諭したという逸話もある。
傑物二人に挟まれた貧乏道場の主は小さくなっている。
その3人が上座に並び、道場の壁際には数多くの旗本・御家人たちが座して並ぶ。
久良木健人が現れる。途端にざわめきが止む。
道場の入り口で神棚と上座の3人に深く一礼。身を返して見学者一堂にも頭を下げる。
【犬神】の中でも腕に覚えのある旗本・御家人たちも慌てて礼を返す。
久良木健人は最後に天光寺輝に目礼をした。
ニッカリと笑みで返す天光寺。
道場の中心で二人は相対する。
審判役は無用である。いや健人の戦い振りはこの場の誰もが知っている。
なまじの審判では邪魔にしかならない。
「天光寺抜刀流、天光寺輝参る。」
「我流、久良木健人お受けいたす。」
健人の言葉と同時に、彼の背後から小さな輝きが浮き出る。
光球は道場の端っこで固まって座る子供たちの傍らで茶色い長毛犬に形を変ずる。
“妖精”の力を介在させずに戦う、ためである。
両者が立ち上がり、構えをとった。
抜刀術で知られる天光寺輝は鞘付き木刀。やや脇構えで腰を落とした態勢。
久良木健人の構えと得物に道場は小さくざわめいた。
「両手に得物…あれは木刀ではないな。」
「二振りとも脇差しよりは長いが、握りを削った以外はふつうの棒、か?」
左右からのつぶやきに道場主の忠左衛門が答える。
「あれはイチイの木だそうです。健人殿が『よく撓る木がほしい』と話され子供たちと一緒に森で捜されたとか。」
「「しなる…?」」
それは木刀に要求される性能とは異なる。
弓や槍には必須のしなり具合であるが、それが刀に必要な理由を二人はすぐに思いつかない。
高速で左右に跳躍、あるいは高く頭上まで飛ぶ久良木健人流の剣法。その戦い振りは何度も目にした二人にも判じえない。棒にしか見えない得物の使い道は、集まった武士たちにも想像の外である。
直面している天光寺も構えたまま悩んでいる。
(元々、刀の長さを武器とする剣法ではないが…得物を短めにした理由がわからんな)
天光寺は足の親指を曲げる。道場の羽目板の幅の半分ほど、ゆっくりと健人に躙り寄る。
抜刀術はその大仰な跳躍が目をひくが、最も重要なのは間合いである。
居合の理合いは「鞘の中の勝」である。
刀を抜く前、対手の攻撃は当たらずに、自らの“斬れる”と断じる距離と角度。
薄紙一枚の厚さを見極める、見測る「眼力」が勝負の分かれ目となる。
天光寺は間合いに入る・・・・じりり、とふくみ足を進ませる。
相手に気付かれないよう、いや自分でも判別できない短く、長い距離・・・。
「ムッ!」
健人が動いた。
左右に動くと予測していた天光寺、だけでなくその場に居合わせた全員が虚を突かれた。
久良木健人はスルスルスルと後ろへ下がったのだ。にじり寄って作り出した天光寺の努力が無に帰す。
(間合いが読めぬ。ええい、跳び込むか?)
天光寺が決めるより先に、健人の身体が宙を舞った。
身をかがめて高速で回転する健人の姿。
(空中は死地だぞ!)
一度に身を躍らせればもう態勢を変えられない。
「ここは宇宙とは違うぞっ」
落下速度とタイミングを測り、木刀を鞘走らせる天光寺。だが、
「な、なんと!」
高い空中で健人が跳ねた。右、たちまち左、いや、空中なのに後退までする? なぜだ?
虚を突かれた天光寺の目の前、着地しざまに左右から棒が足下へと振り下ろされる。
「ちっ、」
すかさず後方へと跳ね逃げる天光寺。重心が後方へと流れる。
右から迫り来る健人。腰をひねって棒の一撃を木刀で受ける。
「なにっ」
天光寺の木刀は健人の棒を受け止めるどころか弾き返してしまう。
健人は棒を握りしめていなかったのだ。
健人の棒を弾き返そうと込めていた力が“のれんに腕押し”となり、態勢が流れてしまう。
地に伏せた健人は回し蹴りを放つ。慌てて跳び上がって躱す天光寺だが、たたらを踏む。
その“隙”を見逃さず、床板を全力で蹴る健人。
(跳び込んでくるな。今だっ、天光流抜刀術っ!)
狼の如く地を蹴る健人に、それ以上の速度で真正面から突っ込んでいく天光寺。
木刀が鞘走る前の刹那…天光寺の目から健人の姿が消えた。
カラン、と地に倒れる1本の棒が目に焼き付けられ、健人を見失う。
天光寺の顔が ← → と流れる。いない? ↑か!!
天井を見上げた天光寺。
その首筋に健人の右手がトンと押し当てられた。
「そこまで!」
上座から千葉忠左衛門の声が響いた。
壁際で見守っていた武士たちには「目にも止まらぬ」としか表現できない高速度の打ち合いだった。
「跳び込んでくる…と思った瞬間に見失った、のか?」
十兵衛は純粋な剣士である。天光寺の立場になって試合を振り返る。
自分ならばどうしたか、どうするか、を最初に考えてしまうのは兵として避けられない本能だ。
「…敵を見失ったとき、左右に目を巡らすのは動物として当たり前であろう。その瞬間に空を翔けているなど、とは思いつかぬよな…。」
道場の侍たち全ての耳に神子上の声が注がれる。
くたくたっと腰を下ろし「負けた、まけたあ」とつぶやいた天光寺も耳を傾けている。
「最後の瞬間、天光寺が左右を見渡したのは、人として当たり前だ。私もそうしただろう。だが、そこに至る過程を久良木は組み立てていた、そうだな。」
子供たちから手ぬぐいをと水筒を受け取り、天光寺にそれを渡した健人は汗をぬぐって深く肯いた。
「・・・試合開始直後に空中で左右へ身を運んだ動き、あれが“仕込み”であったのか。」
空中で右に左に、そして後ろへと動き回ったことで、天光寺は健人の高速移動を印象づけられた。
目、眼球の移動だけでは追い切れない健人の広範囲への動きが頭に刷り込まれた。
そのため、最後の一撃も左右どちらかに躱されたと考えた天光寺は、首を振って健人の姿を捜した。
首を振る、その一瞬の動きの間。
直進していた健人は棒を地面に突き立て、それを蹴って常より速く、高く飛翔したのだった。
ウサギは全速力のままジグザクに動け、さらに跳ね飛べるという。
健人の片手の棒は、天光寺の常識の外へ跳躍させる道具だったのである。
天光寺の背後に着地したあとの動きは上座からは、緩慢に見えた。
目前で常識外の動きをされた天光寺と、至近で見つめていた武士たちには速すぎて見切れなかった。
「その前に、なぜ空中で左右へ跳び跳ねられたのだ?」
十兵衛の疑問に神子上も道場主も肯き、その目を健人に向ける。
「あー」と口を開きかけて…健人は“妖精”モップを手招きする。
まだ【犬神】の言葉を流暢に操る自信はない。
モップが宙に浮かび上がり、そのまま消滅したとき道場の全ての目が健人に注がれていた。
その視線の熱さを意に介さず、健人は2本の棒を拾っていく。
トン、と跳び上がる、いや飛翔する健人。「おおっ」とドヨメキが湧く。
「【犬神】にもあれほどの脚力の持ち主は稀だな。…柳生と仲良しのお庭番ならあれほど飛べるか?」
「仲良しなんかじゃねえ。隙をうかがうイヤな間柄だ…が、ヤツラにもいないだろう。」
一度着地した健人は、再びゆっくりと跳び上がる。最高到達点で、棒を天井の一角に突き押す。
着地の位置が変わる。
もう一度跳び上がったときは、空中で右へ左へと飛び跳ねて見せた。
「ふはははは。ワシの道場が狭くて低いことを上手く利用したもんじゃなぁ。」
「おおう。」と納得の声が漏れ湧く。全ての武士が空中機動の謎を理解した。
天光寺も「なるほど」と肯いている。
「このせいで、俺は健人の戦い振りを思い出した。コイツのアチコチにとんでもない動きで跳び、跳ねる、“黒胡蜂墜とし”が鮮明に甦った。・・・全て計略であったのか?」
天光寺の問いに健人は小首を傾げる。
「そのあとの地に伏せての足もと狙いも、対手の目を翻弄する作戦と思ったのだが。違うのか?」
神子上の重ねての問いに健人は「うーん」としばし悩む。そう、彼は口が達者ではない。
「…天光寺さんの脚も只者じゃありません。チキュウの熊や猪の筋肉は人の比ではありませんが、テンさんも匹敵します。」
「誰がテンさんだ。俺の目は二つだ。」
【犬神】の本星には熊や猪は存在しない。生存競争の末、家畜にならない生き物は滅ぼしてきたのだ。
“妖精”モップの概念伝達のおかげで、この場の者には熊や猪のイメージが伝わった。
怖ろしい巨獣の脚力は一跳びで接近し、振り回される膂力は凄まじい。
そして、その熊と戦って生き延びてきた久良木健人の生き様も伝わる。
「天光流をそいつら並と評価してくれたのは感謝するが…そうか健人、そなたの戦い振りは俺との戦いだけでなく…」
十兵衛が立ち上がった。
「そうか。左右だけでなく上下への高速移動。そして背後をとってのトドメ。健人オマエの戦いはっ!」
十兵衛の片目が爛々と輝いている。その目が道場主の隣の人物に注がれる。
オマエは気付いたか、と。
神子上源四郎の両眼は十兵衛と逆に細く細く絞られていた。
十兵衛は知っている。本気になった源四郎は両眼の殺気を漏らさぬよう、この顔つきになるのだ。
柳生の剣士20人と相対し、生き残ったあのときの神子上源四郎が、そこにいた。
「久良木健人、次は私だ。」
「いやいやいや。将軍家御指南役は最後だ。次はオレと戦ってもらおう。」
「いいや。指南役が手本をみせねばなるまい。」
道場主を挟んで、眼光がぶつかり合う。
旗本と御家人たちも顔をつきあわせ「おいおいおい、」「こんなこと聞いたことないぞ」「柳生と小野が刀を交えたら大問題だ」と騒ぎ始める。
「ややや、まだ1本しか終えておらぬぞ。天光流の木刀試合は3本勝負と決まっておる。」
「巫山戯るな、ハゲ!」
「うっせえ隻眼ヤロウ。これは剃っていると言ってるだろう。」
「では、この眼帯も訓練用だ。」
トレードマークの鍔眼帯をもぎ取る十兵衛。
「おい、十兵衛。両眼での戦いは宗則どのが禁じたハズであろう。」
【犬神】最強クラスの両名の間で狼狽える道場主。
柳生に学んでいる旗本と、小野派を学ぶ御家人も立ち上がって唾を飛ばし合う。
千葉道場は大騒ぎと化して・・・・
「うるさーーーーーーい! もう予定の時間です。健人くんは私たちと御飯の時間なんですっっつ。」
入り口から入ってきた振り袖姿の女性が大声で静止した。
「うむ。控えあれ。こちらにおわすお方をどなたと心得る。将軍家御息女美加姫ご名代、たんぽぽ姫にあらせられるぞ。一堂の者、頭が高い、頭が高い、控えあれい~。」
へへええ。と平身低頭する一堂。
神子上源四郎と柳生十兵衛だけがポカンと顔を上げている。
「そなたは…酒井家の部屋住み殿、だよなぁ。」
【犬神】の年齢ではまだ仔犬扱いされる人物である。
「小野様、柳生様お久しゅうございます。仰せの通り、和人にござります。久良木健人殿と同じく、名前に“人”がつく所以で美加姫様よりこちらのお二人の付き人を任せられました。今宵はこのあとお食事会の予定でございます。」
剣士二人が顔を見合わせ、その目が健人に向けられる。
その健人は前田綾と遅れて入ってきた橋本京子にピロピロと手を振っている。
シッシッのハンドサインなのだが、二人の女子はいつも通り無視する。
「健人くん、お姫様も待っているから、いそいで水浴びしてきてー。」
「うわ、汗臭クサッ。この匂いは【犬神】でない私でもわかるわー。剣道部のユッキーが言ってた『籠手のニオイ最悪っ』ってやつね。」
女子二人に言われて、慌てて自分の衣服を嗅ぐ【犬神】剣士たち。
そして、女子二人と酒井家家臣に引き連れられて、久良木健人は退場したのだった。
「うーむ。台風のような二人だったな。あれが“チキュウ最凶のジョシコウセイ”という存在か。」
「美加姫様より、“この両名勝手次第お墨付き”を拝領したのも納得…じゃなくて、」
毒気を抜かれたような十兵衛の顔つきが険しくなる。
神子上と天光寺の顔を交互に眺め、遠い目で尋ねる十兵衛。
「あれが“敵”の巨大艦隊を潰滅させた・・・餓者髑髏を召還した“妖精”貴船の持ち主か?」
「「うむ。」」
天光寺輝と神子上源四郎だけではない。
旗本御家人の中にもあの戦場を経験した者が幾人かいるらしく、小声で会話が生まれていく。
「常在戦場。道場であっても“黒胡蜂”を想定して戦う久良木健人も常人ではないが、あのマエダアヤの力は尋常ではござらぬ。」
「3人のチキュウ人の存在を『全ての銀河宇宙軍から秘匿せよ』とおっしゃった美加姫様は慧眼であらせられる。」
気のせいか青ざめて見える二人の剣士の言葉に、十兵衛は記録映像を見たときの恐怖が甦るのだった。
次回【虎族】星系中央宙域、超巨大“敵”艦隊殲滅戦。その最後の情景・・・・が語られる。
日本は宇宙人に侵略されました。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
投稿しても「受け付けられない」事態に混乱中です。
今回は大丈夫でしょうか??




