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評価

通知表をもらうのはイヤなものですが、謎の成績表はもっとイヤだと思います。

3-7-②

「みなさん、10日間ごくろうさまでした。各自、自室の私物などお忘れなきようご注意下さい。また端末機“妖精”は出口にて係員にお渡し下さい・・・。」


 大規模スーパーイヲンの地下巨大ゲームセンターでの戦いの終了を告げるアナウンスだ。正直、1週間目あたりはつらかった。外の空気を吸いに行くのは許されていたが、いつまでも終わることのない画面での戦闘は目だけでなく精神的にも負担が大きかった。しかし…

「いやはぁ。楽しかったねぇ。由香里ちゃんと瞬くんのおかげで、いっぱい稼げたし。おかげで欲しかった筆や紙がようけ買えるわ。ほんま、おおきに。」

背中をぽん、ではなく、ドンと疲れて思わずよろめいてしまった。

「伊庭さん、思いっきり関西弁になってますよ。」

「ええねん、仲の良くなったら気にしないねん。」

有名高校の書道部部長は、内に入ると気取りのないタイプだった。後ろで僕と同じように疲れ気味の顔色の村上さんの方が距離感を感じる。

「普通に時給換算した“バイト代金”だけでも結構な金額もらえるのに二人と組んでからの勝率ポイントはかなりの額になったわ。夏休みの恒例アルバイトをせんでもええわぁ。卒業旅行の費用分も十分かも。」

 推薦で大学進学が決まっている人はセリフが違うなぁ。僕が3年のときはどうなんだろう。

 そんなことをぼーっと考えていたら、“妖精”から音が響いた。僕だけでなく、村上さんも伊庭さんも“妖精”を取り出す。

「【地下5階会議室に来て下さい。】だって。二人のは?」

「同じやね。」

「僕のも同じ文章…行きますか。」 

他の人の流れとは異なる方向へ向かう。僕たち3人以外にも数人がエレベーターに乗り込んだ。次のエレベーター待ちも含めて、せいぜい10数人くらいだろうか。

 エレベーターの中は沈黙する。が、視線はさまよう。一人どう見ても中学生、それも1年生としか見えない子もいる。顔つきは賢そうだ。育ちも良さそうで、僕とは大違い…なんてことを考えているとドアが開いた。壁に【会議室→】の貼り紙。全員でぞろぞろと歩く。

 会議室に入って驚いた。なんか本格的な作戦室という雰囲気。巨大な日本地図と数え切れないほどのモニター画面。後ろの壁には世界地図も…中学の修学旅行で行った、日本赤十字の本部ビルの情報室をもっと実践的にした感じだ。実践的…ってどういう意味だ?

「どこにでも自由にお座り下さい。」

自衛隊の制服を着た、キリッとしたお姉さんにそう言われて、僕たちは適当に座った。僕と村上さんが並んで座り、村上さんの横に伊庭さん。今気がついたけど、やはり女の子は少ない。この二人を除くと3にん、いや4人だけか。

「みなさんの“妖精”にあなたたちの評価が表示されます。しばらくごらん下さい。」

全員が“妖精”を開く。僕自身は、【C = B = A】となっている。Cの部分をタップすると【大部隊運用】と表示され、その理由がこれまでの戦績から記されている。

大部隊のときは攻撃始めるのが遅いのか。確かにこちらから戦闘開始ってほとんどしていないなぁ。中隊規模だとちゃっちゃと戦わないといけないと思うからBなのだろうか。そして生き残るために必死になる小部隊はAですか。“妖精”にまでチキン野郎と評価されたようで、悲しいやら納得やら。泣こうかな。

「由香里ちゃんの見せてーな。」

伊庭さんのささやき声が聞こえる。村上さんは気にもせず、広げた画面をひざの上に乗せた。僕の目もついそちらへ向いてしまう。彼女の“妖精”評価は【A = B = C】あぁ、これも納得。準備万端にして即断即決、電撃作戦が彼女の持ち味。チーム戦に一緒に戦い始めて、しみじみと実感した。1年生から文化部連合の会計担当として生徒会執行部や先生方とやり合っているのは伊達じゃない。自軍の弱った箇所にあっという間に補充をする速さはすごかった。目が8つくらい付いてるのかも、と休憩時に言ったら「ヤツメウナギかぃ。」となぜか伊庭さんにビンタされたっけ。

 伊庭さんは【B = A = B 】か。伊庭さんの提案通り、3人でチームを組んだのが良い結果を生んだことに納得のいく評価だ。攻守に満遍なく、とはいかず、どこかにミスが出る伊庭さんはフォローがあれば積極果敢に打って出て、好結果を残す。思い切りの良さは書道で培えるのだろうか、とこれまでの人生を少し反省した僕である。


『私の勘だけど、このあとチーム戦がある気がするの。自由に選べるなら、3人でチーム組まない?』

『3人とは限りませんよ。』

『攻撃型の私と二人のうち、どちらかと組んでもメリットは大きいと思うの。ましてや3人チームならもっと効果があると思うわ。どう?考えてみて。』

 

 彼女の予想通り、後半の日程はコンビプレー、チームプレーでのシミュレーションゲームになった。処理するタスクがこれまでより一気に増加し、戦況の変化も秒単位のリアルタイムバトルに。

 3人で休憩時に相談したり、自分の特性を心がけることで、切り抜けられたり、好成績が残せたのは事実だろう。


「ちなみに、会場にいたほとんどの方がD評価に至らず、この会議室にまでたどり着けませんでした。」

 自衛隊のお姉さんの口調は優しいが、内容は辛辣である。あちこちで、自画自賛のつぶやきが聞こえてきた。

「この中で最高位はオールAです。自衛隊の戦技、戦略テストを受けてもかなりの好成績を修めるでしょう。また個人よりチームプレイで傑出した成果を発揮された方もいます。どちらにしろここにいるみなさんは選ばれたと思って下さい。」

 高級な椅子の背もたれに全体重を預け、目を瞑る。3人で休憩時に何度か出た話題。それをこのお姉さんが口にするような予感がする。


『これ、ただのゲームじゃないよね。』

『高額のバイト料(嘘)と戦績ポイントで高給。それと引き替えに厳重な守秘義務。』

 最初の食事時にくどいほど念を押された【家族・友人・恋人にも絶対に秘密厳守】の言葉。それを破った場合は警察行き、というセリフはマジ顔だった。僕たちは、単なるアルバイトを1週間しているだけなのだそうな。

『このゲームが終わったら…。』

『次は実戦ですかね。』

 

 日本人のみんなが忘れようとしている、表面上は気にしていない事実。日本は宇宙人に侵略されたということ。自衛隊も在日米軍も何一つ出来ずに、政府丸ごと宇宙人の支配を受け入れたということ。

 宇宙人はカエル型でもなく、町のよろづ屋に倒せる相手ではなく、ウイルスにも音楽にも負けなかった。

 彼らは日本をあっさりと侵略してしまい、抵抗すら一切させなかった存在。現在の地球上では無敵。

 僕たちは、これから一体何をさせられるのだろうか。

今回もお読みいただき、ありがとうございます。

読み手のみなさんが退屈しないよう心がけておりますが、どうしても谷間が出来てスミマセン。あとオタクネタも迷っています。次回以降、暴走したらすみません。

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