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235 決着

虎族星域の戦い。

“敵”の最強種族“黒胡蜂”を阻むことは出来るのか。

 235 決着


 犬神将軍家剣術指南役といえば、誰もが柳生一族を挙げるであろう。

 庶人ならず剣術をかじった者、あるいは剣士であっても柳生以外の名前はほとんど出て来ない。

 それゆえ、小野派一刀流の神子上源四郎は後詰め部隊を率いていた。

 【犬神】将軍家御息女、美加姫の知己を得ていた故にその護衛艦隊に配属されたが、源四郎の立場は冷や飯食い扱いであった。

 そして彼の目の前で【犬神】の誇る「機猟巨兵」隊は全て“黒胡蜂”に1機残らず屠られた。

 後続部隊を出撃を命じつつ、源四郎は“黒胡蜂”に美加姫の御座船安宅丸が沈む姿を思い描いた。

 それほど“黒胡蜂”は圧倒的であった。数百、いや千に至る【犬神】の剣士がものの数分で全て墜ちたのだ。

 “黒胡蜂”の狙いは安宅丸そしてその背後の白虎艦隊のみ。

 の、はずだった。

 だが、2機の「機猟巨兵」が“黒胡蜂”の行く手を阻んだ。

 黒色と茶色の二筋の流れは“黒胡蜂”に幾度も幾度も攻撃を絶やさない。

 緊急出撃準備で大混乱の格納庫の戦況画面から源四郎は目が離せなかった。

「“妖精”、あの動きはなんだ?“ドーベル”の突撃は理解る。だが“アキタ”の戦闘機動は見たことがないぞ。」

 源四郎と戦況画面の中間に浮かび上がった“妖精”は回答に数瞬を必要とした。“妖精”らしからぬことである。

〈〈・・・宇宙空間ニ浮遊スル“でぶり”ヲ蹴ル物理機動デアル。蹴ル瞬間ニ重力制御ヲでぶりニ発生サセ巨大質量物体化シテイル〉〉

 “妖精”との会話は通常脳裏で行われる。その方が言葉に出すよりも早い。

 源四郎の“妖精”が出現し、音声で返答したのは周囲の剣士たちにも伝える必要があると判断したためか。

「そんなワザが可能なのか。見たことも聞いたこともないぞ!」

〈〈通常ノ“妖精”ニハ不可能。〉〉

「では、我々はどう戦えばよいのだっ」

 怒声のように叫びながら、源四郎の目は画面から離れない。

 この瞬間も茶色い量産型「機猟巨兵」が宙を蹴って“黒胡蜂”の背後を取ったからだ。

 しかしそれよりも速く“黒胡蜂”は振り返り、“アキタ”の剣を両手で弾き返す。

 その弾かれた勢いすら利用して、茶色い光は違う角度から“黒胡蜂”に斬りかかる。

 さすがに距離をとる“黒胡蜂”。その瞬間、黒い流れが“黒胡蜂”に飛び込んでくる。

「“ドーベル”の操縦士は…」

〈〈金子市之丞…御息女美加姫ノ護衛“天保六花撰”ノ一人デス〉〉

 何年も前の将軍御前試合が源四郎の脳裏に翻った。

 全く無名だった若い剣士が三連勝という快挙を成したのだった。

 その剣士は柳生一党でも大藩の高名な剣士でもなかったため、源四郎の記憶に深く刻まれた名前だった。

「“アキタ”の侍は誰だ?」

〈〈・・・不明・・・。〉〉

 整備士が全機出撃準備完了の合図を鳴らしたため、戦況画面前の全剣士は各自の「機猟巨兵」へと乗り込んでいく。

 たった2機が“黒胡蜂”の進撃を阻んだのは僥倖である。

 美加姫の大切な御命は我ら後詰め部隊が守らねばならない。


 久良木健人は“黒胡蜂”の背後を背後を狙い続ける。

 だが、ヤツは常に余裕を持って躱す、あるいは打ち払う。

 「機猟巨兵」の関節動力を使っている分、イチノジョウの「機猟巨兵」よりは推進剤の消費は少ないはずだが無限ではない。

 活動限界時間を示すメーターは着実にメモリを減じていく。

(イチさんの機体はもっと減っているよな…でも、手数で押さえ込まないと距離をとられたら…負けだ。)

 急角度に急旋回し続けることで“黒胡蜂”の内懐に入り続けるクラキ機と中距離から急襲するイチノジョウ機の連係で“黒胡蜂”は長距離攻撃という選択肢を採れなくなっている。

 ここまでは狙い通りだ。

「健人殿の動きは将棋の桂馬、拙者の動きは香車。それに対して“黒胡蜂”は飛車・角行が可能な王将だ。」

「盤面を字湯自在に自由自在に動き回られたら止めようがありません。“クロスズメバチ”がそうしたように広範囲にどこから出現するかわからない状況にだけはしてはダメですね。」

 訓練時に想定していたとおりの結果が“黒胡蜂”の出現によって描き出され、【犬神】の侍たちは宇宙の藻屑と化した。

(斬って斬って斬りまくって、コイツを自由に飛ばしちゃいけない)

 久良木健人の意思を「機猟巨兵」は精密に実行する。

 機体制御を行う戦闘支援電脳装置“妖精”は同時に接触する周辺デブリの重力制御も小刻みに切り替える。

 茶色い「機猟巨兵」の動きが単調化しないだけでなく物理領域を超越し始めていることは操縦者である健人も気付いていない。

 そしてイチノジョウ機が一閃する。“黒胡蜂”の肢や羽を損なうには至らなくとも、傷を与えた一撃であった。

 各戦艦から出撃中の艦載機「機猟巨兵」の操縦席から「おおっ」と歓声があがる。

 

 将軍家御座船「安宅丸」の戦闘艦橋も声が沸いた。

「さ、さすがは姫が見込んだ2人ですな。」

 老臣、伊勢三郎の歓喜のつぶやきに美加姫は応えない。

 “黒胡蜂”の超絶的な破壊力を目の当たりにしたばかりなのだ。忠臣たちが千、二千と死んでいる。

「イチ、ケント、なんとしてもソヤツを…」

 姫の独り言のような声が同席している前田綾の耳に届いた。

「なんで、なんで、なんで誰も助けに行かないのよ・・・久良木くんが死んじゃうじゃない!」

 思わず立ち上がり絶叫する綾。隣の京子が必死で押さえつけ、座らせようとするが目が吊り上がった綾はそれを振り解いた。

 両のコブシを固く握りしめた綾は歯を食いしばり、顔面を紅潮させた。

 そして大絶叫する

『みんな、集まれええええええ。そして健人くんを守ってええええええええ。』

 彩の背後に黒煙が立ち上った。いや煙に見える小さな物質は即座に掻き消える。

 宇宙空間の絶対零度や気圧差から内部を守る、宇宙戦艦の装甲板を貫いて、黒い何かが一直線に駆け抜けていった。


『イチさん、本当に来るんですよねっ』

『ああ、白虎将軍ならば拙者たちの意図に気付くはずだ。そして来てくれるっ』

 どちらも機体限界値いっぱいの急加速・急制動の限界機動中である。

 操縦席を守る慣性制御装置やコクピットゼリーでも押さえ切れない衝撃が2人の身体を叩き続けている。

 盤面の勝負では勝ち目がない。“黒胡蜂”の動きを制限し続ける。

 そこにしか勝機はない。

 そして、勝負を決める鬼札は・・・・・外にある。


 白虎艦隊旗艦最前部出撃口。

 8機の「機獣巨兵」が最終整備を突貫で終えていた。

 6機の従兵機「独眼」はその装甲を全て剥ぎ取り、骨だけの姿にしか見えない。

 背部・股間・両肩・両脚の推進器とその固定部分にのみ装甲を残し、重量を最大限に削りきった姿だ。

 隊長機「臥虎」も同じく骸骨のような姿で駐機している。「独眼」との違いは背丈と両刃剣を携えているのみ。

「ノモゥ様、出撃準備出来ました。」

 白虎将軍のすぐ足下で床に膝をつけたのは婚約したばかりのダンヌである。その後ろには彼女とノモゥの従兵が六人。

「よし、今こそ決着をつけん。【虎族】の命運は我らに掛かっている。いざ行かん!!」

 ノモゥの言葉に深く肯いた7人は無言で各機体の操縦席へと浮遊していった。

 ノモゥ自身も愛機フェッダ・インの操縦席に身を躍り込ませる。

 格納庫の全整備士、生き残った【虎族】騎士たち、そして艦内の乗務員達は出撃する8機への敬礼をし続けるのであった。


 健人の機体がデブリを蹴った。

 “黒胡蜂”は跳び込んでくると予測して両手の剣を交差させる。

 だが、“妖精”モップはデブリへの重力制御をカット。

 デブリは単に蹴飛ばされて終わる。

 健人機の位置は変わらず。

 そして健人は“黒胡蜂”に近寄らないまま、刀を振るった。

 いや、振り飛ばした!

 “黒胡蜂”に飛びかかっていく刀…いや、そのすぐ後ろに違うデブリを蹴った健人機が追随している。

 刀と機体が同じ軌跡を突き進んでいく。

 “黒胡蜂”は自分の腹部へと一直線に吸い込まれる刀を打ち払った。

 反対側の肢剣で健人の機体に斬りかかる。

 健人機は跳ねた。

 これまでのように背後へ、ではなくて右へそして左へ。

 攻撃パターンの急変。

 “黒胡蜂”いや“虫”が戸惑うという状況が起こったのは奇跡か必然か。

 その半瞬の隙が健人機を“黒胡蜂”に肉薄させる。

 茶色い「機猟巨兵」は“黒胡蜂”の真ん前に位置取った。

 “黒胡蜂”は腹部を垂直に折り曲げ、“針”を放つ…

 その前に健人機の足爪が蹴りを放った。

(今だ!!!)

 健人が考えた瞬間=い…ま…だ…の「い」が始まる刹那、“妖精”モップは性能限界値を振り絞った。


〈〈〈重力制御開始ッ、“黒胡蜂”ニ最大限界重量ヲ加重スル!!〉〉〉 

 

 「機猟巨兵」の刀と“黒胡蜂”の肢剣との交差では発生させられなかった“妖精”モップの重力制御が、機体の接触により発動した。

 宇宙空間の小さなデブリに「機猟巨兵」の機体重量以上の重力を発生させる制御装置。

 “妖精”モップは重力・慣性制御装置をほぼゼロ時間で起動させられる。

 

“黒胡蜂”の動きが止まった。


 真正面から“黒胡蜂”を抱きしめる健人機。

『健人殿~見事なりいいいい!!!』

 突撃してきたイチノジョウ機は背後から“黒胡蜂”を羽交い締めにする。

 黒い狼が羽根を押さえ込み、茶の狼が胴体を固定する。

 2機と1匹の動きが静止した。


 4機・3機・1機で密着編隊を組んでいたノモゥ隊は一直線に“黒胡蜂”へと飛翔していく。

 編隊は「機獣巨兵」の通常速度の5倍近くまで加速していく。だがその速度に限界まで軽量化した機体が保たない。

 推進器を限界まで振り絞った「独眼」は順に離脱していく。

 最後に「臥虎」2機を残して。

「ノモゥ様!!!!後はお願いしま…・・・」

 ダンヌ機が剥がれ墜ちると同時にノモゥは最終加速を行った。


(ノモゥ閣下、我らごと“虫”を貫いて下され)

(バカな、そなた達のような武勇の士を失うわけにはいかぬ!)

(僕が離れたら、こいつはまた自由に飛び回ります!今しかないんです)



 3枚の駒が密集した盤面に真上から刀を突き刺すが如く、ノモゥ機はその両刃剣を2機と1匹に串刺した。



 ノモゥ・ダベトは両眼から血涙を吹き零しながら、一動作で両刃剣をえぐり込み、全力で振り下ろした。

 頭部を残して左右に両断された2機と1匹はゆっくりと離れていく。

「むんっ」

 ノモゥは剣を真横に振り払い、“黒胡蜂”の頭部を粉々に撃ち砕いた。

 それを見届けたかのように「機猟巨兵」2機の爆発が続けて起こった。

 骸骨のようなフェッダ・インの機体はその輝きに溶け込んでいった。


「なっ、全機停止。・・・・なんという男たちだ…。」

 源四郎の指示が伝わるよりも先に【犬神】艦隊から出撃した「機猟巨兵」部隊は足を止めていた。

 白虎艦隊も全乗務員誰一人声を発する者はいなかった。  


 “敵”大艦隊北天部を攻撃中の海賊女王たち、南天部を攻撃中の【猫族】【龍族】艦隊、その全てが偵察艦からの映像に言葉を失った。


「いやああああああああ!!!!!!!!!!!」

 将軍家御息女御座艦「安宅丸」艦橋の前田綾は絶叫した。



 日本は宇宙人に侵略されました。


長い長い間があきまして申し訳ありません。

4月から、専門学校に通うことになりました。

その準備や何だかんだで3ヶ月。やっと続きを書けるようになりました。

今週末は中間考査なんですけどね・・・




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