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国連会議 その3

宇宙人は地球人に友好的であってほしいものですが、そうでない場合はどうすればいいのでしょうか。

スケッチをしたり、動画を撮影した程度で逃げ出してくれたらいいのですが。

3-3-③  国際連合本部ビル総会議場


 純白に銀の縁取りをした銀河宇宙軍の制服に身を纏った、外交部のユラケインの合図に合わせて、国連総会議上の左右の大スクリーンが画像を映し始めた。

「それでは、話を続けさせていただきます。“敵”についてです。」

 日本を侵略し、在日米軍を撤収させて世界の軍事バランスを大きく変動させた存在である宇宙人自身が敵そのものではないのか、そう思う各国大使も少なくなかった。特に日本と領土や領海で問題を抱える4カ国の大使と随員たちの中には血走った目で壇上の美少女を見つめる者さえいた。

 美少女ではあっても、縦に割れた瞳を持ち、コンクリートを打ち砕く尾を持つユラケインはそれらの視線に気づいても一顧だにしなかった。これから見せる現実は、この星の色々なものを打ち砕くであろうから。

「では、しばらく映像をごらん下さい。」

 青空の下、高層ビルが建ち並ぶかなりの大都市の映像が流れ始めた。そのビル群のデザインはこの地球のものではあり得ない意匠であり、一目で別の星であると思えた。ユラケインたちの母星かと考えた者もいた。しかし住民たちの表情が大写しになると、彼らは齧歯類、ネズミやリスのような生き物から進化した知的生命体であると即座に理解できた。デザインはかなり異なるが、個人用や集団用の自動車も使われている。それも等間隔で秩序だった流れであることから、地球より進んだシステムと想像できる。幾つかのビルには看板のようなものも認められるが、立体テレビのような映像であり、都市の美観を損ねない配慮も感じられた。地球より進んだ星であろうと国連会議場にいる全員が認める映像であった。

「既にお気づきかと思いますが、この映像の星はあなたたちの星で言えばネズミ類から知的進化を遂げた惑星です。自分たちの発祥の惑星以外に、同じ太陽系内の惑星一つと衛星一つをテラフォーミングし終えていて、太陽系外に有人調査船を何度か打ち上げるレベルの文明状態でした。」

 ユラケインの言葉に合わせて、映像が彼らの宇宙船に切り替わる。数百人が乗り込もうとしている巨大宇宙船は、現在の地球の科学力では到底作り得ない高度な産物である。

「われわれ銀河宇宙軍は、この星の代表に銀河宇宙軍への参加を要請したところでした。それゆえ多くの映像が残っているわけですが…ある日、突然“敵”の侵攻が始まったのです。」

 地球で言えば防犯カメラのようなものであろうか、前半よりは画像も悪い状況の映像が始まった。ビルを貫いて、地表に落下する隕石。海に落着し、津波を引き起こす隕石の群れ。

 燃えさかる都市部の隕石は次々に割れていき、その中から大量の“昆虫類”が現れる。海からは巨大な“甲殻類”が島々へ大陸へと上陸し、その体内から幼生体のような同型の“甲殻類”を吐きだしていく。“昆虫類”や“甲殻類”はこの星の住民よりも一回り大きく、それぞれの持つ武器=鋏や鎌、あるいは針や毒液で次々に殺戮を行い、その死体を捕食したり、体内の器官に貯蔵していく。

 白いテーブルの上でコーヒーを満たしたカップを倒したときのように、“敵”の広がる速度はあっという間で、平和を満喫していた大都市の繁華街の住民や、学校や病院と思われる建物からも全ての住民は捕まえられ、喰らわれるか殺されていった。

 この星の警官や軍らしき存在が個々や組織だった銃撃で抵抗を行ったが、まったく通用せず、彼らも同じ運命を辿っていった。

 環境が似ているゆえか、一目で戦闘機と思われる飛行体が攻撃を開始したとき、国連会議場の何人もの大使が歓声を上げた。ネズミから進化したとはいえ、彼らは痛みに涙し、赤い血を流していた。首を刈られ、胴や脚部を無造作に切断される映像を見続け、地球人たちはネズミ人たちに同情をしていた。戦闘機の爆撃で焼き払ってくれ、各国の国連大使たちはこぶしを握り応援した。しかし。

 “昆虫類”は飛翔した。雲霞の群れの中心を一発のミサイルが通り過ぎ、地表で爆発をした。それだけだった。飛行する“昆虫類”は戦闘機の翼や尾翼、コクピットに群れて、自らの武器を振りかざした。包み込まれた戦闘機は次々にビルに激突していった。

 海では高速艇の砲撃を、信じられない速度で躱し、船底に鋏を突き入れる巨大“甲殻類”が何隻もの戦艦を真っ二つにし爆沈させていった。

 地球より進んだ攻撃兵器がまったく通用しない様子がまざまざと映し出されていた。

「彼ら、ラタ族は日頃は温厚ではありますが、戦闘時は闘志溢れる民族でした。それゆえ、まだワープ航法には至っていませんでしたが、銀河宇宙軍の一員に迎え入れようとしていた矢先でした。“敵”の侵攻はわずか数ヶ月でラタ族をほとんど回収し、銀河宇宙軍が救出できたのは数千人だけでした。」

 映像はコンクリートに似た瓦礫と岩や砂だけの星の映像に切り替わった。植物も存在しない、水すら吸い尽くしたのか、何もない星がそこにあった。

「このラタ星は“敵”の侵攻ルートからはかなり外れた地点にありました。“敵”の偵察部隊か補給部隊の活動で、一つの太陽系国家が消滅したわけです。」

 国連総会議場は長い沈黙に包まれた。

今回も読んで下さった方、ありがとうございます。

日々寒くなってまいりますが、体調にはご注意下さい。

今年の風邪も、けっこうしんどいですから。コホンコホン。

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