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211 “黄金丘陵の戦い” ~転戦~

チキュウ出身の少女達が【虎族】本星を駆け巡る。

少年はイメージだけ、駆け巡る。

211 “黄金丘陵の戦い” ~転戦~


 【虎族】本星の一地方で“虫”の群れがひとつ消滅した。

 状況を確認した軍本部の情報将校は小さな疑問を抱いた。

「あれ、カンダリ地区の“バッタ”の群れが消えたぞ。」

 隣にいた同僚が画面を見ることもなく返事する。

「近くの群れに合流したんだろ。…そこって確か軍病院の近くだったよな。おエライさんに何かあったら大事になるぞ。」

 画面を見ていた将校は病院ポイントに異常はないことを確認。

「病院は無事だな。」

「じゃあ気にするなよ。本星全域が大混乱中なんだ。サボっていたら後できつく叱られるぞ。」

「そうだな。」

 上官に報告することなく画面を首都付近に切り替える将官。

 後に彼は叱責されることになる。


 フィンガーズと軍病院警備兵それに病院前商店街の傭兵…と自称する荒くれ男たち。

 15機にも満たない機動歩兵=機獣兵が【虎族】本星の荒野を疾走している。

『“妖精服”のケガした人たちは無事に病院へ入りました。それ以外の“妖精服”隊も商店街の人たちに合流完了です。』

 マニャの報告にホッと一息つくユカリ。

『怪我をしたヤツらも自力で歩ける程度だったんだ。念のためにってアイツらを病院と店主たちの警備に回したのは勿体ないなぁ。』

 傭兵の一人の思念が全員に伝わる。が、すぐさまジョーが否定する。

『隊長の決定に逆らうな。俺たちは手足になればいいんだ。それともお前も今から病院に帰るか?』

『と、とんでもねえ。こんな戦いから外されたら男の名折れだ。ユカリ隊長、俺をこき使ってくだせえ。』

『『『おまえ、そういう性癖持っていたのか』』』

 やや下卑たツッコミが多数入ったが、フィンガーズもそれに微笑んだのでジョーは安心した。

 他愛ない馬鹿な会話であるが、戦闘の合間にこういうことは必要である。

 精神の緩急は重要なのだ。人の心はずっと緊張状態ではいられない。張り詰めた糸は切れやすい。

 と思った瞬間、マニャからの新しい報告が全員に伝わる。即座に張り詰める雰囲気。

 ジョーは久々のこの瞬間を歓喜した。このメンバーは最高だと感じる彼の片目は微笑んでいる。

『クロップス子爵領…すぐ近くの街から救援要請がバンバン入ってくる。』

 全員の脳裏に地図がイメージされる。食肉鳥“でかキウイ”の牧畜丘陵の終了地点は川になっていて、その向こうに大きめの街が広がっている。【虎族】本星に多い、低い城塞に囲まれた街。

『街の護衛軍は…まだ全滅はしていない。でも中心部の避難用建物を守るので精一杯みたいだね。』

『地球、いや日本のシェルターみたいな感じ?』

 宇宙人に侵略されて以降、日本は“虫”対策に学校体育館や繁華街の地下施設をシェルター化した。地下、あるいは頑丈な箱型の施設はしばらくは“虫”から人々を守ってくれる。一時避難に有効なシステムである。

『…あ、これって、本来は気象操作施設なんだ。そうか、精密機器が多いから“虫”に狙われたときの対策をしてたのね。そこに市民を誘導しただけだから水や食糧の備蓄は少ないってデータが入ってきたわ。』

 フィンガーズの会話にジョーの思念が割り込む。

『すまねえな。食肉鳥の命すら大切に思うチキュウ人には理解出来ないかもしれないが、この【虎族】本星の自然は厳しいんだ。天候変更操作の施設とそれを維持する電子頭脳は最重要視されている。それも人を守るためなんだ。』

 応えようがないフィンガーズの脳裏に巨大なタワーのイメージが想起される。(←馬から落馬、再び)

『『『『ば、バベルの塔…』』』』

 日本人であっても何かの物語で見たことのある、聖書に登場するあの有名な、台形的な円錐のタワーに似ている。

 そこに貼り付いて齧り付いたり、体当たりで壁を崩して中に侵入を狙うイナゴあるいはバッタに似た異次元からの侵入者“虫”の群れ。

 タワーの2/3以上が“虫”の体色であるクリアーイエローに包まれている。

『一刻の猶予もないわね。ナホは先行して“ケイレキ”に攻撃を開始して頂戴。マニャはその援護の偵察と周辺調査。あとで“ケイレキ”を誘導する方向を検討しておいて。』

『『了解!』』

 クン、と進行方向を正面から上空に変更した2機が加速する。

 重力制御装置で“前方へと落ちていく”状態から“斜め上空へ落下(?)”にベクトル変更。同時に推進剤も最大噴出を2機は開始したのだ。 その姿を確認したユカリは戦略プランを構想し始める。

 “ケイレキ”どもをあの塔から引っ剥がして、街の外で全滅させるのが勝利条件。

『アイツラは今、捕食のことで頭が一杯なんでしょ。それを邪魔すれば、またこっちに向かってくるって。・・・やり直し。かの“虫”たちはお食事で胸一杯になっていると思えるわ。そこにお邪魔するのはマナー違反なので、きっと彼らも気を害するかと思いますわ。』

 ミキの意見には同意するユカリ。

 でもそのキャラ付けは如何なものかと首を傾げる。

 それはともかく、機獣兵が一丸となって、“ケイレキ”を攻撃&退避という作戦でいい、のかな?

『シュン、あなたはどう思う?』

『ミキに賛成。ぱんだ先生も肯いている。』

 だんだんと遠く離れていく病室内からのシュンの思考。1秒も遅延せずに返ってくる思考。“妖精”通信おそるべし。 

 ユカリがシュンをイメージしたとき、病室内で天手古舞いしている看護師と主治医が視野に入ったが…。今はそれどころではない。

『じゃあ、フィンガーズとその仲間たち、攻撃準備開始いぃ。』

 きりり、と前方を見つめるユカリの細く吊り上がった目は勝利を確信している。

 

 丘陵地帯の果てを疾駆する機獣兵たちを思考で追走していたシュンは看護師に声をかけた。

「大丈夫ですか?けっこう重いですよね・・・ホントにすみません。」

 この軍病院の看護師はみな優秀で、彼女もその一人のはずであるが、すでに息切れしてゼーハゼーハと喘いでいる。

 出自が虎の人類らしく、口を大きく開けて舌を垂れている様子はシュンには目新しい。

 彼女が従事しているのは、まるで沈没船の船底で進入してくる水を汲み出すかのような作業であった。

 結構な重量の治療用特別組成ゲル物質を彼女は容器から延々と“汲んでは注ぎ”“注いだら汲みに行く”を繰り返しているのだ。

 ヘルプを要請した主治医は病院のあちこちから追加を持ってきているが…次々になくなっていく。

〈シュン、栄養分ノ蓄積ヲ開始シテイルガ、コレダケデハ長時間ノくろっく・あっぷハ無理ダ。ソレト【虎族】軍ニハ極力隠シタイノダ。〉

〈わかっているよパンダ先生。今回もフィンガーズとジョーに限定しよう。また10%以下なら目立たないだろうし。〉

〈ウム。ソレナラバ気ヅカレマイ。時間的ニモ保ツダロウ。〉   


 バベルの塔もどきに齧り付く“ケイレキ”。宇宙戦艦の装甲版クラスの外壁であっても異次元生物(?)のアギトは防ぎきれず、次第に食い破られてゆく。それにしても、喰われた金属はどこに行くのだろう。

 “バッタ”の中でも特に頭を深くめり込ませ、内側への進入まであと一歩となった幾匹かの“ケイレキ”たち。

 突然、そいつらの頭部が次々に爆ぜていった。

 パンパンパン、と音が聞こえればさぞ軽快な音程であろう見事な爆発ぶりである。

 【虎族】本星の空は青い。日本の真夏以上の暑い暑い空。その空に黒い一直線が刹那で現れ、そして消え去る。

 どこからか飛来してくる黒い弾丸は“ケイレキ”の命(?)を一撃で、着実に終了させていく。

『ビームだと貫通しちゃうところなのよねー。やっぱ実体弾はいいわぁ~。実弾サイコー♪』

 パンパンパン、パパンパンパン。パンパンパンのパンパンパン。

 次々に“ケイレキ”の頭部が砕け散って、体液のようなガラスの粉が飛散したことで一部の“ケイレキ”が動きを止めた。

 周囲を見回すように頭部を上げ、触角のようなものを動かしたり、複眼のような箇所をグルリと巡らせる“ケイレキ”も現れ始める。

 だが、注意深い個体には構わず、黙々と壁を食い破ろうとする個体優先で、ナホは狙撃し続けた。

 バベルの塔にとって危険な“ケイレキ”順に、マニャはナホの機体に数字アイコンを付けたデータを送り続けている。

 その概念同調に忠実に従って、ナホは完璧なスナイプを繰り返していく。

『うわぁ、ナホさんってスゴイ。もう、20匹目!あっ、21、22、23、24、25っ。…全然外さない~・・・』

 徐々に、しかし確実に増えていく頭部を失った“ケイレキ”たち。

 残された胴体部が壁からゆっくり剥がれ、その後地上へと落下する様子が続いて、クロップ市警護部隊はやっと気づき始めた。

「な、なんで“バッタ”が落ちてくるんだ?」

「どれも頭が吹き飛んでいる・・・神の雷なのか??」

「見ろよ。“虫”どもが、まるで右往左往しているようだぞ。」

 最後の言葉の通り、しばらくは蠢いていた“虫”たち。そして気象操作タワーへの侵入をほとんど同時にとりやめた。

 “ケイレキ”たちを統率する個体がいるかのように、一糸乱れぬ動きが見られた。

 群れが、一斉に同じ方向へと頭部を向ける。

 街の東門から入ってくる機獣兵。

 たった十数機でしかないのに、“虫”どもはなぜそちらを向くのか。威嚇するように翅を広げたのはどうしてなのか。

 何匹もの“バッタ”が壁を蹴り、翅を大きく振るって、機獣兵たちに飛びかかっていく。

 その数はみるみるうちに増えていく。

 飛んでいく“バッタ”たちは一本の黄色いラインを形成し、それはたちまち黄色い面へと太っていった。

「アイツら、何に攻撃しようとしているんだ…?」

「同じ機獣兵だよ…な…。」

「我らクロップ騎士団の機獣兵を歯牙にもかけなかった“バッタ”が怯えているようだ…。」

 その理由がバベルの塔へと辿り着いた。

 戦闘の機体から大音量が響き渡った!


『フィンガーズ、見参!!!』

 

 まだ少女と呼べる四人のイメージがクロップ市警備隊全員の、いや塔に退避している市民全員の脳裏を駆け巡る。

 それに続くのは、オッサンや若造、老兵と新兵の混成部隊。

 だが、只者でないことはメンバーの誰もが風貌に余裕があることで覗える。

 片目の男がコブシを突き上げて轟いた。

『我ら“でかキウイ騎士団”推参!!!』

 

 この後、十数機の機獣兵たちは“バッタ”の群れを「飢えた虎の前に置いた肉塊」のように平らげていくのである。


遠く離れた病院の一室で概念同調を開始したシュンはズッコケた。

〈で、でかキウイ・ナイツ って~そのセンスっぅうう~誰が名前を決めたんだ~?〉



 日本は宇宙人に侵略されました。


暑い日が続きますが、読者の皆様方はお元気でお過ごしでしょうか?

日中の気温は気がふれているとしか思えません。太陽はもう少し遠慮すべきではないでしょうか?(←コイツこそ気がふれています)


お盆も投稿を頑張りたいところなんですが・・・「小説家になろう」夏季休業のお知らせ???

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