表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/275

207 “黄金丘陵の戦い” ~転換点~

5人の少年少女は異星の戦いを変えるのか。

207 “黄金丘陵の戦い” ~転換点~


 シュンは考えた。

 初太刀を担当する機体は無理をする必要はない。その一撃が浅くても、あるいは躱されてしまっても、その機体が左右あるいは上に逃げる動作で“虫”の注意を引きつければよいのだ、と。

 1番機の役割は目くらまし機動が主目的であり、あとは自衛に徹すれば良いのだ。

 二撃目を担当する機体は頭部あるいは胴体部への痛恨の一撃…あるいは翅を切り飛ばして虫の動きを止めるのが役割だ。

 必然、接近しての攻撃でありセンスが必要となる。瞬間的な判断力と一定以上の技量が2番機には求められるだろう。

 とどめを刺すのが3番目の機体である。二機目が深手を与えられなかった場合はその役割を引き継ぐこともある。

 可能ならば“虫”を神経節切断によって行動不能の常態まで至らしめてほしい。ようは、「お前で終わらせろ」

 ・・・この三機がかりでの攻撃スタイルはかなり昔から有名である。懐かしのロボットアニメの「黒い三連星アタック」で有名…日本のみならず、欧米圏でも「black-tri-atack」として、ごく普通に使われるようになっている。(2015現在)←ホント?

 だがシュンがパンダ先生という“妖精”の力で可能にしたことは、“3人の連係プレー”というレベルではない。

 例えるならば右手と左手の両方が目や耳と脳を持ち、それぞれが意志を持って攻撃しつつ、頭部の脳が全体を統括する、に近い…だろうか?

(両手の名前はミギーとダリーかな。…考えたら、キングギドラや地獄のケルベロスは3つの頭がそれぞれ意志を持っているのだろうか)

 いや、右手左手どころではない。右足と左足までもが、それぞれに脳と目と耳そして攻撃手段を持てばどうなるだろう。

 いやいや、両手両脚の全ての指の全てが自主戦闘可能な存在となったりしたら!

 ただし、そうなると元の頭部の脳だけで全てを司ることはかなり困難となる。

 あっという間に処理不能でオーバーヒートしてしまうであろう。

 だから、指の一つ一つの「人の脳」&“妖精”が総括役=本部を交代で引き受けたり、支部の役割を行うのだ。

 戦闘に参加している“人”と“妖精”が全て繋がることで、全体は有機的に連動を越えた「一体化」が可能となる…ハズだ。

 

 パンダ先生はフィンガーズが宇宙で戦うことになった際、密かに5人の“妖精”を連係させた。元々4人の女子の“妖精”は自分のコピーだったこともあって、5人は“妖精”通信だけでなく、それぞれが考えた内容≒概念を伝達し、即座に理解するだけでなく、概念そのものを統合させた。それによりフィンガーズは自分以外の目や考察を自己のモノと同一化した。それは画期的な戦果をあげた。

 だが「黒いスズメバチ」によってシュンは瀕死に至る。

 病室で延々とその戦闘を振り返り、次の一手を求め続けたシュンがパンダ先生に可能かどうか尋ねた内容。

「パンダ先生、“妖精”をもっと繋げることは出来ないのかなぁ。」

 その結果が放牧地帯で展開している。


 ミキの率いる病院警備隊、いやBチームが今は“ケイレキ”の群れから逃げ続けている。

 こちらのチームも“妖精服”の人たちがまず全力疾走で走り去り、それを追いかける“ケイレキ”との間に機獣兵が割り込み、バック走で“妖精服”部隊を守りつつ“ケイレキ”に攻撃を加えていく。

 その複合集団の背後からはユカリと利き酒騎士団、いやAチームが襲いかかり、“ケイレキ”をばったばったと討ちとっていく。

(まさか、この一行↑のために「イナゴ」「バッタ」を“ケイレキ”と名称変更したとは誰も思いも付かぬであろう)    

 “ケイレキ”集団の前後はみるみるうちに数を減らしている。

 切れ間のない三連星攻撃、いや二連星になる場合もあれば、五連星のときもある。

 縦横無尽な機獣兵の機動と縦横無碍な攻撃パターンは“ケイレキ”をガラス細工の人形のように撃ち砕いていく。

 その思いもかけない優勢な状況にユカリの考えは乱れていた。

〈ユカリ、大丈夫だよ。きみの思うとおりの戦法を展開すればいい。今のみんなは“一糸乱れず”なんてレベルじゃないから。〉

 ああ、シュンがお膳立てしてくれているんだ。

 ユカリは操縦席の中、コクピット・ゼリーに包まれたまま目を瞑った。ほんのりと微笑んだような唇の動き。楽しい夢の途中の表情。

 ユカリはミキの顔を思い浮かべる。

〈ミキ、小学生のときにプールの授業で大きな渦巻きを作ったことってある?〉

〈…あ、ああ、うん。あるある。プールの中の全員が同じ方向に回るんだよね…そしたら段々と中央に渦ができたっけ…〉

 マニャとナホ、そして病室のシュンにも、ユカリの戦術イメージが明確に伝わった。

 いや、まるで自分自身が考えたかのように、“納得も得心もいく”作戦だった。

 Aチームが逃げ、追いかける“ケイレキ”の背後をBチームが削っていく。

 当初の作戦計画では「長い距離の逃走で時間を稼ぐ」であったが、その戦略プランをユカリは一気に短縮するつもりになったのだ。

 状況の変化を読み、それを自軍の優位に繋げる。千変万化の戦況を正しく読む。それが出来てこそ将の器。

〈ぐるぐる攻撃、開始です!〉


 手術室にいるシュンはベッドからカプセルへと身体を移されていた。

 【虎族】用の回復カプセルはシュンの身体には大きめであるが、たっぷり空いたその隙間にはコクピット・ゼリーとほぼ同じ材質の手術・治療用ゼリーが満たされていた。

 看護師はゼリーが減り、尽きてしまわないよう補充する役割をシュンから依頼されている。 

『パンダ先生、最後の切り札をお願い!』

『ワカッタ。ユカリ、ミキ、ナホ、ジョーの機獣兵ノくろっく・あっぷヲ開始スル。』

 パンダ先生の口調が日頃と違いカクカクしているのは、処理落ちしているためだろうかとシュンはチラと思った。


 イナゴ、あるいはバッタは、跳ねる生き物である。

 虫と類似した異次元生物(?)である“ケイレキ”も地を強力に蹴ることで前面と上空への推進を得ている。

 その上昇、あるいは滑空距離よりも短く、鋭角にユカリ隊もミキ隊も旋回を始めた。突然の変化に戸惑う“虫”の群れ。

 正確には機獣兵だけが“ケイレキ”の集団のフチに沿って機動を続けている。

 “妖精服”部隊はぐるぐると回り始めた人と“虫”の混成物体から距離を取って、狙撃の用意を始めている。

〈全機、戦闘開始!!〉

 ユカリの号令一下、機獣兵は旋回機動しつつ攻撃を始めた。

 機獣兵一機目が“ケイレキ”に傷を負わせる。本能(?)的にその機体を追いかける“ケイレキ”。

 そのがら空きの胴体に二機目の機獣兵がビーム砲を撃ち込む。  

二つの穴からガラスのような粒子をブチまける“ケイレキ”に“妖精服”がとどめの射撃を加える。多少離れた距離であっても“妖精服”部隊は機獣兵の手順を〈知っている〉ため、〈待ってました〉常態で精密射撃が可能であった。

 軍から民間へ“下げ”渡されたオンボロ機獣兵。

 とうに第一線から外された、廃棄寸前の軍用機獣兵。

 戦力的には正規軍にくらべれば一段どころか四、五段は落ちる機体が、まるで演舞か殺陣でもあるかのように次から次へと、“ケイレキ”を斬り倒し、撃ち伏せていく。

 その様子を見守っていたフィンガーズとジョーの機獣兵たち。

 それぞれの機体の両眼部分がふいに発光する。まるで自らの役割を自覚したかのように。

〈クロック・アップ〉

 五頭の虎が全身の筋肉をふりしぼって“ケイレキ”へと突入していった。

 彼らは、今現在【虎族】本星で最速の猛虎たちであった。


 銀河宇宙軍の各部族の宇宙軍艦隊旗艦にしか設置されていない“大妖精”のみが可能な「クロック・アップ」

 それを地上で起動したパンダ先生。

 その傍らにシュンが籠もっている回復ポッドがあった。

 内部の手術・回復用ゼリーがみるみるうちに量を減らしていく。

 言われていたとおりの状況に小さく肯いた看護師は追加のゼリーをどぽんどぽん注入を開始した。

 手術室の一角を大きく占有していたゼリーパックの山を振り返り、彼女は「た、足りるのかな」とつぶやいた。


利き酒騎士団と病院警備兵の機獣兵たちが、ほんの一瞬でも「しまった」と思った瞬間、高空から弾丸が降り注ぐ。

 あるいは、ミキやユカリ、そしてジョーの頼りになる親分…じゃなくて隊長が、一撃で“虫”を切り裂いていく。

 刹那の不安でさえ、繋がった“人”と“妖精”の集団にとっては “無問題”であった。

 混乱する“ケイレキ”の集団。それをさらに押し進める最適の攻撃ポイントを「百目」が見抜く。

 “ケイレキ”の群れは最高に熱したフライパンに垂らした水滴が蒸発するかのように、わずかな時間で存在を失っていった。


 戦闘するフィンガーズとジョーの機体を動かしているのは誰であったのだろう。

 “ケイレキ”と戦いながら、彼ら五人は“妖精”空間という真っ白な部屋に集まっていた。

 いや、5人に加えてシュンとパンダ先生。

〈お前…いや、あんたがシュンか。思っていたのとは違うな。ニュース映像では子供子供していたが。〉

 そう言いながら、シュンに近寄り、ガシッと両肩を掴むジョーであった。

 現在の状況を生み出した一人が間違いなくシュンと理解している。ジョーの脳には“事実”が注ぎ込まれているからである。

〈シュン、ありがとう。〉

 フォンガーズ女子会も異口同音に感謝の意を伝える。

 だが、その表情=感情、が、ふいに驚きへと変化する。

 シュンの傍らにいたジョーまでが口を丸くぽかーんと開ける。

 ジョーは時間をかけて、ようよう声を絞り出す。

〈あ、あんた…いや、パンダ先生、シュン、どちらが考えているんだ……そんなこと思いつくんだ??〉

 その問いに対して、顔を見合わせた一人と一匹(?)は声を揃えて返事した。

〈〈私の相棒は凶暴です〉〉

 概念通信は、まばたきの半分ほどで終わったが、シュンとパンダ先生の提示した内容に5人は

〈おいおい、マジかよ・・・〉

 と完全に概念を同調させていた。


 【虎族】本星の一地方で“虫”の群れがひとつ消滅した。

 状況を確認した軍本部の情報将校は小さな疑問を抱いたが、特に報告することもなく首都付近の情報分析へと意識を切り替えた。

後に彼は上官に叱責されることになるが、この時点で広大な【虎族】本星全域に波及すると思いつく方が無理であろう。


 数時間後。

 事態が完全に終了したと確認したパンダ先生が回復ポッドの中で“落ちて”いたシュンを起こす。  

「う、うーん。」

 ベタな声と共に半身を起こしたシュンはふらつきながら立ち上がろうとした。

 慌てて、それを支える看護師。女性であっても【虎族】の彼女からすればシュンは小柄である。

 しかし、思っていた以上に彼女はシュンの体重を軽く感じる。

「あ、すみません。大丈夫です。自力で立てます・・・。」

 そう言うなり背筋を伸ばし、ついでに「うーん」と伸びをするシュン。

 看護師の目に映るのは、白皙の…ではなく、貧乏をこじらせた引きこもり少年、としか見えない痩せこけたシュンの姿。

手術室のゼリーが空になった回復ポッドから床へと足を下ろしたシュンはつぶやいた。

「おなかペコペコのぺこちゃん飴。」

 宇宙人にぺこちゃんが通じるかぁあああああああ。


 

 日本は宇宙人に侵略されました。


昨日、一昨日と読んで下さった方が予想以上に多くて、嬉しくて投稿です。

「あまりの暑さに眠くなるのは熱中症寸前」ってホントでしょうか?

心当たりが多すぎるのですが・・・

みなさまは、お身体を大切にして下さい~ 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ