地下での戦い
日本が宇宙人に占領されて、表面上はこれまで通りの生活が続けられています。しかし、少しずつですが日常は変わっていくのです。
たぶん。
3-7
日本全国にある大型ショッピングセンター「イヲン」。その地階に地下闘技場ならぬ地下ゲームセンターがあったとは、3日前まで全く想像もつかなかった。僕と村上さんはパトカーで運ばれて、その地下の大型ゲームセンターでシミュレーションゲームをすることになった。
お腹が空いたら、1階下にある食堂でバイキング料理が食べられる。和洋中そろっていて、学食やファミレスの料理よりはるかに美味しい。デザートも豊富だ。満腹したら、さらに一階下に自分専用の寝室が用意されている。ベッドとテレビとユニットバスWCだけの部屋。窓はないことで「ああ、地下なんだ」と実感させられる。そこで目覚めるまで寝続けられる。そして再度映画館のような部屋に入るとゲーム再開だ。地形、味方と敵の兵力、補給、季節や風向き、時刻など山のような状況データを検討して、敵と戦闘をする。自軍は小編成の場合もあるし、けっこうな大軍の場合もある。戦車が使える場合や戦闘機やヘリコプターの使える場合もまれにあるが、基本は歩兵とバイクや車程度の軽装甲車レベルまでだ。
これは、何を試そうとしているのか。僕は一体、何と戦っているのか。疑問は尽きないが、家族や学校にまで連絡済みという大きな存在の力を感じると、手も抜けない。まぁ、今のところはゲームだし。
今回もなんとか、勝利条件をクリアして、「勝利おめでとう」と 画面にほめられたので、食事に行くことにした。朝食を少なめにしたのに、長時間戦うことになったので、もうペコペコだ。パスタとおにぎりを選んでいたら、肩を叩かれた。
「瞬くん、ひさしぶり。」
ああ、村上さん。そういえば3日、いやもう4日目か?時間の感覚が曖昧になってきている。
「なかなか会わないから、夜型になったのかと思っていたわ。」
「いや、夜型は結局のところ効率が悪いって、教えてくれたのキミじゃん。」
「そうだっけ?」
二人で小さめのテーブルに移動し、向かい合う。時間がずれているせいで、食堂は空いていた。
「結構しんどいわね。食事と睡眠はきちんと取っているのだけど、お肌に悪いわぁ~」
こんなセリフはこれまで彼女の口から聞いたことがない。身体つきは小柄だが、色白で一部男子からけっこう人気がある彼女の顔をまじまじと見てしまった。
「女子の部屋には基本的なコスメ置いてあったけど、男子の部屋にはあるの?」
「そういうのは、なかったなぁ。」
テレビのチャンネルに特殊な番組があったが、それが男子だけの特権であろうか。
「部屋の電話で私の肌に合う乳液をリクエストしたら、すぐに届いたわ。上から来たのかしら。」
そうか、すぐ上には山のように物資があるわけだ。リクエストし放題か…何を?ジャンクフードでも注文するか。
「村上さんのバトルルームは女子ばかりなの?」
「そう、けっこう年齢の幅は広いわね。…小学生はいないけど、中高生から結構な大人まで。」
「僕の部屋にはいないけど、食堂で小学生の一団を見たことある。」
などと食べながら話をしていたら、人影が二人の間にたたずんだ。二人同じタイミングでその人を見上げる。
「へぇ。トップエース二人が、仲の良い知り合い同士だったんだ。私も同席していいかしら?」
かわいい、や美人とは少し違うけれど、とても爽やかな印象に残る顔つきの女の子。そばかすがあるけど、それも長所になっている。朗らかに笑っているが、とても知性を感じる。
「「どうぞ。」」
またしても二人同時になってしまった。それに気づいてか、彼女は微笑む。あ、何かに似ている…京都の…。
「はじめまして。私の名前は伊庭みき。みきは美しい希望です。」
「あ、王塚俊です。はじめまして。」
「村上由香里です。よろしく。」
フォークを置いて、頭を下げる。3人とも頭を下げ合って、変な感じだ。伊庭さんは高校3年生だそうな。
「ふーん。村上さんは思っていたとおりの雰囲気だけど、王塚くんはちょっと違ってたな。」
ショートヘアーの伊庭さんは、言葉遣いもさばさばした感じ。と言っても男っぽくはなくて…運動部?でも体つきは筋肉質ではない。
それにしても僕はどんな風なイメージで予想されていたのやら。
「あの、さっき“トップエース”て言ってましたけど、人違いではないですか?」
村上さんが首を傾げながら尋ねる。伊庭さんはサンドイッチを飲み込み、アイスティーを口にしてから、村上さんの方を向き直った。彼女もお腹空いていたのかな。
「配られた“妖精”をあけてみて。順位表を見るとわかるわ。」
“妖精”とは、初日に寝室においてあった携帯端末のことだ。スマホよりやや大きめのサイズだが、開くことで2倍の画面サイズになる。
順位表とは、リアルタイムで変動するこの会場でのゲームの戦績データのことだ。恥ずかしながら僕は一度もベスト20に入ったことはない。真ん中辺りををうろうろと。
「私は一度だけ、20位になったことあるけれど、すぐに圏外になって、そのあとは一度も。」
そうか、村上さんはあるのか。やっぱりスゴイなぁ。ん、この伊庭さんって…常に10位前後にいるじゃないか。
「あ、最初に出てくる画面は侵攻の速さや撃破率でしょ。一度全滅して、相手のパターンを見て再チャレンジして勝利するタイプの人がそこには多いのよ。ゲーム慣れしたタイプね。その次のページのランキング画面ひらいて見て。」
あー知らなかった。というかこの端末、そういうことに使うのか。寝室から家や友達に電話しただけでほっぽり出していたからなぁ。
「えーと・・あれ?僕や村上さんが1位になっている。なんで??」
「私は兵員、武器、補給の配備充足率・・ああ、無駄なく配給しているってことかな。」
「王塚君は兵員の生還率でトップね。それと小中部隊編成で不利な状況から逃げつつ、敵に損害を与えるのも常に上位ね。」
うわああああ。チキン野郎丸出しじゃないかぁ~。逃げるのが得意って・・・。ちょっと恥ずかしいぞ。
「村上さんは大部隊編成で、地形や戦力差などの状況に応じた配置と装備が最高の評価をされているわ。私も心がけているけど、あなたには全然かなわない。あなたの部隊の兵隊は安心して戦えると思うわ。」
そうか、この人は一般兵の気持ちで順位ランキングを見ているのか。
「王塚くんの部隊に入れば、負けることはあっても死ぬことは少ない。ということで私の中で、あなたたちはこの会場ではトップエースと見ていたの。その二人が知り合い同士って、意外だったわ。」
そう語る伊庭さんの顔をじっと眺めていた村上さんがぽつりとつぶやいた。
「思い出した。NHKの書道のパフォーマンス番組で見たことがある。」
その一言に伊庭さんのこれまでの大人びた様子は一変した。
「ええええ、うそおおおお。すごい記憶力。さすがだわ。」
「やっぱり~。そうじゃないかとずとお思ってたんです!!」
女の子二人がはしゃぐと、男はついて行けない。僕だけ蚊帳の外だ。蚊帳って何かよく知らないけれど。
「なに、一体なんのこと?」
ちょっとわざとらしく両手で顔を隠すポーズの伊庭さん。初めて僕らと同じ年頃だと感じた。
「ウチの県で有名なI高校の書道部よ。ほら書道甲子園にも出場した。そこの部長さんですよね。」
「…はい。しっかし、たった一度テレビに出ただけなのに、よく覚えているわね。」
ああ、NHKがいろいろなジャンルで高校生の勝負をする番組があったなぁ。新聞部の女子に勧められて見た覚えはあるけれど、この伊庭さんって書道のスゴイ人なのか。
「うん『書道は黒と白の比率の芸術』って言葉が印象に残っていてね。あと袴姿がかわいかった。」
村上さんの褒め言葉に、いっそう赤面する伊庭さんは、登場したときの颯爽感を完全に失ってしまっている。というか、こちらの方が素の伊庭さんなのだろう。でも、初対面時のキリリとした雰囲気は納得した。袴姿で書道パフォーマンスする人たちはみんなカッコイイ。その一人なわけだ。いや、部長だったらなおのことか。
「そんな人がゲームも得意ってことの方が不思議だな。」
「ストレス発散にね。家族にも秘密にしてたんだけど、学校から連れ去られちゃった。」
なんか、すごい人がこの会場にはいるわけだ。もしかしたら、もっと色々な人が集められているのかも。
「あー恥ずかしい。でもまぁいいか。そういうことで、以後仲良くしてほしいの。」
そういうことって? そして、以後って??
僕も村上さんもぽかんとした間抜け面をしていたからだろう。伊庭さんは吹き出してしまい、しばらくケラケラと笑い続けた。
「二人とも、いいキャラしてるわぁ。この会場の人って、ギスギスしたタイプが多いのに。王塚くんも冷たい秀才型と想像してたから、意外すぎてうれしいわ。二人となら良いチームになりそう。」
「チームって、何のこと?」
あ、村上さんの細い眼がさらに細くなった。この目で見下されたい、という級友が数人いるのを僕は知っている。実際にされて見ろ、背筋が氷点下より冷たくなるぞ。攻撃力99のマックスだぞ。
それに対して、伊庭さんも目を細めてにっこり微笑む。ああ、伏見稲荷のキツネのお面に似ているのか。かわいくても魔力ポイント99、これもマックスだ。
僕は二人の間でお地蔵さんのように固まっていた。チーン。
日本は占領されていますが、地下ではこんなことが進んでいます。
今回も最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
なるべく登場人物は増やさないよう心がけているのですが、新しい人名が出てきてすみません。
今後もお時間があるときに、お越し下さい。




