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205 “黄金丘陵の戦い” 「コンジキ」

地上での戦い…いつまで続く?

205 “黄金丘陵の戦い” 「コンジキ」


 シュンが静養している病院近くにも“虫”は落下してくるはず。「済み」

 【虎族】宇宙軍教導部隊の許可を得て、フィンガーズは独自行動。「済み」

 病院警備部隊をミキが掌握。病院裏商店街の人たちの避難。「済み」

 町の傭兵たちの協力を得たのは予定外。

 “虫”は病院へ接近。病院前に広がる牧畜地帯の「でかキウイ」で“虫”を誘導。…「失敗」

 マニャの機獣兵「百目」がミサイル全放出。“虫”は「百目」を追走。「軌道修正」

 ナホの機獣兵が「百目」の援護開始。「百目」は本来の任務に復帰。「済み」


 空中に跳び、「百目」を攻撃していた“ケイレキ”はナホの狙撃によって、次々に撃ち墜とされていく。

 それによって離脱する時間と空間の余裕が与えられた「百目」は飛翔高度を上げていく。

 接近するユカリの機獣兵から引き継ぎの“妖精”通信が得られたゆえのマニャの行動であった。

バッタに近似した“虫”は飛翔し続けることは出来ない。一度着地し、目標に向けて地を蹴る必要がある。

 だが、高空へと離脱した「百目」は既にその姿を蒼天に消して、スナイパーであるナホは影も形も見えない。

 “虫”の感覚器がどのようなものか未解明であるが、それを凌駕する隠形能力をナホとその機獣兵は備えているようだ。

 ナホは“ケイレキ”への攻撃を未だに止めてはいない。

 小型バスほどの大きさである“ケイレキ”の胴体に砲丸サイズの実体弾が貫通していく。

 あるいは炸裂弾が命中し、“ケイレキ”の頭部をコンクリに落としたガラスコップのように易々と砕いていく。

 人ではない。生き物とも言えない“ケイレキ”の群れがナホの狙撃で「右往左往」しているようにしか見えない状況であった。


「ユカリ隊長、バッタ…じゃなくて“ケイレキ”は地上に貼り付いているぜ!」

 その通信と同時にガシャコン、と金属の大きな音が聞こえた。旧式機獣兵の武装準備の印だ。

「お見事ナホさん。さて、ジョーさん。機獣兵は全機“ケイレキ”の群れに突っ込むわよ。」

「おう。“妖精服”ども、テメエらは少し離れたところから援護射撃だ。合図を絶対に聞き逃すなよ!」

「「「「ガッテン承知の助」」」」

 “妖精”通信の必要がないほどの密集隊形でユカリ隊は“ケイレキ”に突っ込んでいった。

 その一部分が離脱し、人間に可能な数倍の速度で“ケイレキ”の群れの周囲を窺う。

 ユカリの機獣兵がビーム砲を連射。貫通したビームは大気で減衰するまで複数の“ケイレキ”の身体の一部を砕き進む。

 その衝撃でバランスを崩した個体にジョー以下、町の傭兵たちの機獣兵が突撃していく。

 それは、押し寄せる波に向けて水鉄砲を撃つよりも「か細い」攻撃であった。

 だがしかし。

 水鉄砲から放たれた「機獣兵」たちは、大波に飲み込まれることなく、それを貫いていく。

 機獣兵が走り去るその左右の“ケイレキ”は粉微塵に砕き尽くされて緑の牧草に上にクリアイエローの残骸を巻き散らかしていく。

「鎧袖一触」

 四文字熟語の通りの状況が、ユカリ隊の目前に広がっていく。

『な、なんだ、なんだ?ジョーのアニキ、いってえ何をしたんですか~』

 援護射撃するべき“妖精服”の連中があっけにとられている。

 いや、それは当のユカリやジョーたちも同じであった。

『か、完璧な連係だ…ゆ、ユカリ、これはお前たちの力なのか?』

 10機に満たないユカリたちの機獣兵が、圧倒的な破壊力で一撃離脱攻撃を成し遂げている。

 さらに、お互いの死角を補い合っているため被害も全くない。

『ジョーたちの腕前じゃないの・・・』

『身体や心がポンコツになって軍をやめた俺や、町の不良上がりにこんな芸当できるわきゃねーだろ!!』

 二人の指揮官が戸惑っている間も、部下たちは“ケイレキ”を撃ち砕き、切り刻んでいく。

 いや、ユカリとジョーも何かに導かれるように機体を縦横無尽に機動して、“ケイレキ”の群れを破壊し続けている。

 ユカリは気づいた。

(これは…マニャからの情報。ううん、それだけじゃない!)

 あの宇宙での戦い。思い出されるのはフィンガーズの5人が繋がった感覚。

『そうよユカリ。マニャの「百目」が四方八方上下左右全方位からあなた達を見守っている。そして“ケイレキ”一匹一匹全ての動きを予測して、最適な対応行動を“妖精”に伝えているの。』

 ユカリ隊の超常的な攻撃だけではなかった。それを支援する狙撃が右から左から高空から魔弾のごとく放たれ続けている。

 広大かつ緻密な認識能力。

 その情報から瞬間的に考察して立案する攻撃手順。

 そして、それを瞬時に全ての機獣兵に伝播する方法。

 そんな高度な能力をマニャがこれまでに示したことはなかった。

 疑念は増え続ける一方であるが、ユカリは部下たちと“ケイレキ”を減らすことに意識を傾注することにした。  


マニャからの情報で、数百の“ケイレキ”がたちまちガラス屑に変わり果てる様子がミキ隊にも伝えられた。

(ユカリ個人の戦闘能力はそんなに高くないはず…町の傭兵たちってそんなにスゴ腕だったのかしら)

(ユカリたちは“ケイレキ”の群れに十分に意識付けられたはず。“ケイレキ”はユカリたちを追いかける!)

 ミキの思考は並列。そして、部下たちに指示を下した。

『“ケイレキ”どもはユカリ隊に釣られましたわ。私たちは後背から“ケイレキ”を削りに向かいます。準備はよろしいですか。』

 その言葉が合図になったかのように、ユカリ隊の“妖精服”たちが撤退を始める。

 彼らを守る形でユカリたちの機獣兵は背面飛行を始めた。

『ミキ隊、行きまーーーーーす!』

『『『おおおおおおおおおおおおおお』』』

 数分後、ミキ自身も自機と部下たちの攻撃力の高まりに驚き、疑問を抱きつつ戦い続けることとなる。


 病院の自室を避難してきた人たちに譲ったシュンは手術室にいた。

 暗~い。狭~い。コワ~イ。いや、それどころじゃない。

「ぱんだ先生、みんな…すごいね・・・・」

『チキュウでも2015年に既にBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)の研究は行われていた。ラットやアカゲザルでさえ有機脳の並列演算や運動・感覚の共有が実証されたのだから、“妖精”と装着者の脳を介した並列情報処理と解析能力による機械学習アルゴリズムは「超近似解法」と呼べる。いや、それ以上の超高速演算処理が可能であり、経験の増加により予測係数の加速は想定値の設定画不可能なほどだ。』

 目をつむって、うんうんと肯くシュン。

「なるほど!」

『チットモワカッテイナイコトハワカッテイルゾ。』

「……それを実現させたのはパンダ先生の“妖精”力でしょ?」

 ぱんだ先生は沈黙する。過程を跳躍して正解に辿り着く能力は「人」だからこそ可能な「力」なのか。

 シュンは「概念同調」の可能性に、いつ気がついたのか。

 パンダ先生は感情のない声(?)を放った。

『だが、“ケイレキ”は圧倒的な数だ。このまま時間が経てば機獣兵の機械的限界値が破綻する。・・・・次の一手に進もう。』

「ん。」

 シュンとその枕元に置かれたパンダのぬいぐるみが会話しているなどと考えるわけもなく、看護師や介助士あるいは専門の医師たちは様々な機材と薬品そしてアレの満たされた巨大な容器を手術室に運び込んでいる。 


 ユカリ隊を追い続けた“ケイレキ”の群れは少しずつであるが、後部集団が数を減じていることに気がつきだした。

 “虫”の群れに統率者はいない。(と推測されている)本能に近い何かが全ての“虫”を動かしているだけである。

 捕食しようと思った「でかキウイ」が散らばるや、突然爆撃を受けた。

 その攻撃者を撃退しょうとしたら何者かに邪魔をされた。

 邪魔者の位置を探っていたら、違う複数の攻撃者に群れが損害を受けた。

 そいつらが逃げ出したので追いかけていたら・・・・後ろからも。

 “虫”の思考があるならば、この程度であろうか。

 “虫”たちには複数の選択肢があったはずだ。

 1、このままユカリ隊を追い続ける。

 2、反転してミキ隊に攻撃を転じる。

 3、前後で集団を二分して、それぞれが正面の敵を追いかける。

 ユカリは「3」はないと考えて作戦を立てていた。

 これまでの“虫”の侵攻記録がそれを裏付けていた。“虫”は数こそが力と知っている、と。

それゆえ、「1」か「2」であると信じたユカリは狙われた部隊が“虫”を病院や避難民から遠ざけるという消極的な作戦案を採用した。

 最終的には【虎族】の正規軍の応援を期待する、城と籠のない「籠城戦」のつもりであった。(なんやそれ)

 ところが、現在ユカリ隊は予想以上の戦果を上げ、無事に撤退戦へと移行している。

 “ケイレキ”集団後背を攻めているミキ隊も密集する“虫”の塊に巨大な穴を穿っている。

 ユカリは悩んでいる。

 最初の作戦案通りに進めるべきか。

 2つの部隊を合同して“ケイレキ”の群れと対峙すべきか。

 機獣兵と“妖精服”による想定以上…考えもしなかった戦果がユカリを悩ませていた。

 次の瞬間、ユカリの意識は真っ白な空間へと飛翔し滑降していった。

〈ホント、ユカリは考えるのは得意なのに、決断は苦手なんだよなぁ~〉

〈シュン?〉


 病院の受付担当の女性は見慣れぬ軍用通信機の前でやきもきしていた。

 病院警備兵たちからの連絡は全くない。戦闘中であるのでこちらから呼びかけが出来ないのはわかっている。

 だが、この小部屋の外の廊下には避難民や入院患者たちでみっしり、だ。(ほう~っ)

 彼らの不安は囁きというレベルではとどまらず、悲鳴や泣き声という域に達している。

 非常灯すら消している暗い廊下が怖くないはずがない。

 外はどうなっているのか。

 この【虎族】本星や他の居住惑星はどうなるのか。いや、自分たちの命はどうなるのか。

「ザザザ・・・・ガガガガガ・・・ピピピ・・・」

 通信機が音を発した。彼女は即座にヘッドホンを耳に当てる。

「・・・ザザザ・・き・・聞こえるか・・ザザザザ・・・・」

「はい、こちらパルファーム地区軍病院です。ど、どなたですか。」

「ガガ・・ビ・・・びょ・・・病院裏の町の者だ・・・ザザザ。」

 病院裏の商店街は彼女もよく利用している。そこの住民たちの安否も心配の一つだった。

「町のみなさんは大丈夫なんですか?“虫”は攻めてきていないのですか?」

「ガガガガガ・・・ピピピピー・・・・ま・・・窓・・・見てみろ・・・」

 それを聞くなり、彼女は勢いよく立ち上がり、部屋のドアを開けた。

 廊下に密集している人たちの顔が一斉に自分を見つめている。

「すみません、ちょっと通して下さい。」

 うかつに希望を持たせると、逆の場合にショックが大きい。

 病院関係者である彼女は事務的に、いつものように顔の表情を消して前に進んでいく。

 エレベーターは使えない。電力をある一箇所に集中させているためだ。彼女は階段を駆け上がった。

 非常ドアを幾つも解錠し、重い扉を開けて、上階へと進む。

 そして、とうとう1階に辿り着いた。天井付近の採光窓からは午後の陽射しがあふれている。暗い階段を駈けのぼった目にはまぶしい。

 彼女は身長ほどの高さの窓にゆっくりと近寄り、そっと目を窓に近づけた。

 病院の前に広がるのは小さな密林と、その先に広がる牧草地帯のはず。

 見慣れた濃い緑色と柔らかな黄緑色のコントラストがそこに・・・・なかった。


 遠くへ、出来る限り遠くへ逃げろと命じられた院前町商店街の店主たちやその家族の歩みは止まっていた。

 これ以上前に進んでいいのだろうか。異なる“虫”の群れと遭遇したりはしないのか。

 誰からともなく上がった声への賛同者が増え、誰からともなく足が止まり、彼らは振り返ったのだった。

「・・・・おい・・・あれ、見ろよ。」

 さっきまで真上から注いでいた陽射しは、その光源を斜めに変えている。そのせいで先ほどまでとは景色が違って見える。

「・・・利き酒騎士団の連中・・・。」

「おいおい、タダ酒飲みのゴロツキ連中に騎士なんていねえって知ってんだろ。」

 そう返した男も振り返るなり、常とは違う色合いに息をのんだ。

 どこまでもどこまでも単調な黄緑色の牧草地帯。それがいつもの、何年も何年も彼らが見続けた、この一帯の景色。

 その緑色に、黄色の縞模様がいくつもいくつも走っている。

 黄色い帯は延々と続き、その先端は一つの丘の頂上へと上り詰めている。

「あれって・・・“虫”の色だよ・・なぁ・・」

「あの黄色…動いてない…倒したのか、あいつらが。」

「ヤツラが…フィンガーズと一緒に連中が戦ってくれているんだ・・・・。」

 広大な黄緑色の大地。どこまでも突き抜ける青い空。

 それに挟まれた一角だけが太陽の陽射しを反射して金色に輝いていた。



 日本は宇宙人に侵略されました。 


ご訪問ありがとうございます。


この話の後が【202“黄金丘陵の戦い”「涙」】になる…のかな、と構成に迷って右往左往しました。

お暇のある方は、逆に呼んで見てくださ…あんまり変わりないと思います


お気に入りが増えて…・・・・・明日も投稿できるようがんばります。

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