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199 虎族星域迎撃戦 ~出陣~

【虎族】白虎将軍ノモゥダベトは戦場を駆ける。

199 虎族星域迎撃戦 ~出陣~


 【虎族】宇宙戦艦艦載機“臥虎”は人型モードと巡航モードに変形が可能である。

 巡航モードの姿はエジプトのフィンクスの姿…ネコで言うところの「香箱座り」に似ている。が、“臥虎”の顔は虎を模しているため可愛いらしさは皆無である。

 純白の機獣巨兵“臥虎”の襟首から背中にかけての位置に操縦席入り口がある。無重力状態の格納庫の壁を蹴ってフワリと移動したノモゥダベトは愛機“フェッダ・イン”の乗り込む前に周囲を見回した。整備員全員が手を止めてノモゥダベトを見つめている。

 ノモゥダベトは無言で片手を上げた。獣人化現象で筋肉が膨張した逞しい巨腕の先端は力強く握り込まれている。

「「「「「うおおおおおおおお」」」」

 ノモゥダベトのその仕草一つで格納庫の全ての人員が沸いた。ノモゥダベトはスルリと操縦席へと滑り込む。

 機獣巨兵の操縦席内には踏ん張るためのフットレバーと「掴むところ必要かな?」と設置された操縦桿もどき、そして簡易通信機が点在している。コックピットゼリーに満たされ、戦闘支援システム“妖精”が起動すればそれだけで全ての用が足りるため、機械的な操縦システムは不要である。その通信機の受信ランプが点滅している。

「ん、誰だ?」

『ノモゥダベト将軍、31番艦隊への通信準備完了いたしました。』

 通信担当官からの報告に返事をしたノモゥダベトは操縦席内へゼリーの注入をイメージする。ノモゥダベトの腰に取り付けられた“妖精”はその思考を正確に受け止め、操縦席を戦闘支援ゼリーで満たした。

(簡易通信機で最後の演説は少し寂しいのでな…)

 肉声でなくなったのを少し残念に思ったが、ノモゥダベトは身体がゼリーに溶け込む感覚が終わるまでの短い時間で息を整える。

 頭の先まで…操縦席全体が思考波電導物質兼衝撃緩衝剤兼生体細胞補助溶剤であるコクピットゼリーで満たされた。透過率100%のこのゼリーは全身の細胞とも入り交じる感覚…お風呂につかっていて、体温と湯温が全く同じ状態になったときの全身が拡散する気分を何十倍にも高く、濃くしたような気分…自我が広がりきって、自分という存在がなくなってしまうのでは、と感じるほどの快感に全身が包まれる。ノモゥダベトは、いや格納庫の全ての“機獣巨兵”の操縦席のパイロットたちは、その絶好の感覚に浸っている。「これから死地に向かう俺たちへの最後のご褒美」という表現はパイロットならば誰もが肯く言葉であった。

 目にも鼻にも口にも耳にもゼリーが充ち満ちて、いや、ゼリーは身体中に染みこんでいく、ハズであるが異物感は全くない。

 ノモゥダベトは全身の感覚が繊細になった瞬間、艦長に通信を試みた。

〈艦長、ノモゥだ。出撃準備は整った。…よろしいか?〉

『はい閣下。・・第31番艦隊全将兵傾聴せよ!繰り返す第31番艦隊全将兵、傾聴――!!』

 一呼吸。そしてノモゥダベトは閉じていた目を開いた。

〈我が31番艦隊の全将兵の諸君、聞かれたし。31艦隊司令のノモゥダベトである。勇敢なる宇宙の戦士諸君、我に付き従って来てくれた日々を深く感謝する。我の“白虎将軍”という名は本来は諸君と先立っていった戦友たちに対する尊称である。今日まで我に白銀の騎士道を歩ませてくれたこと、ありがたく思う。諸君の激戦の記録は【虎族】の碑に永遠に刻まれている。しかし、今より新たなる血文字を刻むこととなる。諸君、準備はよいか。これから先は最大の虎口である。我らが貫くは“敵”の逆鱗ぞ。戦艦は機関焼け付くまで回し続けよ。砲身灼熱破裂するまで撃ち放て。艦載機は剣が折れたれば両の拳で叩き潰せ。全将兵、一駆千里で突撃し、千手の火の矢を撃ち放て!機獣兵は見敵即必殺。“敵”を必殺の鉄槌で粉砕するぞ!第31番艦隊は“敵”艦隊を切り裂き切り拓き、【虎族】星系に安寧をもたらさん!全将兵、覚悟はよいかあああああああああああああ〉

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

『うおぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう』

「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 第31番艦隊全ての将兵が握りしめたコブシを天に突き上げる。歓呼の叫びはいつまでも終わらない。

 し・か・し。

『ノモゥダベトサマ。クロックアップ予定距離までアト1プンデス。』

 “大妖精”の無情な声がノモゥダベトの意志に囁いた。小さく肯くノモゥダベト。

〈兵士諸君、我が艦隊は1分後クロックアップを開始する。体感時間で約15分後、“敵”艦隊に突入する。最後の準備にかかれぃ!〉

 ノモゥダベトの声を最後まで聞かず、全ての乗組員は己の役割を再開した。

 ノモゥダベトは思考する。

 一分後、31番艦隊はクロックアップ。“大妖精”から支援を受けた各将兵の“妖精”はそれぞれの支援対象の人間の能力を向上する。神経伝達電流の速度を向上させ、心臓以下の内臓器官の強化。筋肉繊維は柔軟かつ強靭に質的変化。無論、その人間を包む宇宙服兼用の“妖精服”も高速化に対応させる。

 戦艦内の人間だけが高速化するわけではない。各戦艦はワープ寸前とほぼ同じ速度で機動し、船殻は対衝撃バリアーで包まれる。ワープならば目的宙域到達まで一瞬で終わる感覚ですむが、クロックアップ戦闘時では戦艦内の人間の意識は覚醒したまま継続する。ただし今回は推進剤が枯渇寸前であるため、現地到着後の戦闘機動はほとんど不可能。停止して、砲台と化して撃ちまくる他に戦いようはない。

 戦艦を運用する乗務員は一分後からクロックアップを開始するが、艦載機“臥虎”と“独眼”の操縦者は離艦ギリギリまでクロックアップを待機する。艦載機は発進後、体感時間で30分、実際の時間では3分程度が戦闘継続時間の限界である。戦艦の乗務員は現着までの15分、戦闘突入15分だけがクロックアップ可能時間である…実際の時間では現着後1分30秒で戦艦は操艦も攻撃も“妖精”と電脳機器に委ねるしかない。“臥虎”と“独眼”の操縦者も現実時間の3分後にはクロックオーバーでほとんどの者が意識を失い、身体は動かせなくなる。

 艦隊の砲撃は1分30秒、艦載機の攻撃は3分。クロックアップで10倍の行動時間が得られても、異次元か異空間からの“敵”のゲート前に展開している膨大な“敵”戦艦を全て撃破するのは不可能な時間である。

 それゆえ、31番艦隊はクロックオーバーと同時に自爆ワープを敢行、“敵”艦隊混乱を生じさせ、後続の四将軍の艦隊の善戦を期待する。(最後の戦術がこのような稚拙な特攻にすぎぬとはな。31番艦隊を命名して下さった虎姫様に激怒されても仕方なし。)

 自分の思考を一瞬で終えたノモゥダベトの耳に周囲の雑音が入ってくる。クロックアップまで1分でも、艦載機の搭乗者と整備員たちにはまだ余裕が感じられる。

『従兵機、“独眼”は全てショーイして“臥虎”の背嚢に密着せよ』

 ノモゥダベトの愛機“フェッダ・イン”以下、「臥虎」たちのシッポがクイッと折れ曲がり、その先っぽが後頭部に接近する。そのシッポをショーイした3機の“独眼”の腕で作られた輪が包み込む…輪投げの輪のように“独眼”の腕たちがシッポをくぐっていく。

「独眼が手を繋ぎ合うことをショーイって言うのはなぜなんだ?」

「昔からそう言うんだろ。それより質量と推力は変わらないのになんで手を繋ぐのかなぁ。」

「“臥虎”が耐デブリ障壁を張ってくれるから“独眼”は無駄なエネルギー使わなくてすむんだろ。」

 戦闘前の不安からか、従兵機“独眼”に搭乗する“騎士見習い”の兵たちが“かまびすしい”。それに対して怒鳴り声が炸裂する。

『ヒヨッコども、背負い物は完璧だろうなっ。「忘れました」なんてぬかしやがったら戦場を横断させるぞ、ワハハハ!』

 “臥虎”の操縦士、小隊リーダーが叱る半分、緊張感を弛緩させる冗句半分の大声で雰囲気を吹き飛ばす。

 ノモゥダベトは愛機の後ろに固まった自分の従兵たちに話しかける。

『カシュウ、キリョウ、シッコウ、そなたらは緊張してはいないようだな。』

 3人のノモゥダベト付きの従兵は流石に他の小隊の“独眼”乗りたちよりも優秀である。

「白虎将軍に付き従って戦うのは男の本懐にございまする。これまでの戦の全てが良き経験であり、成長の機会を前にに緊張などありえませぬ。」

 リーダー格のカシュウの言葉からは落ち着き以上の何かが感じられる。

 この3人は既に騎士に取り立てられるだけの功績を十分積んでいる。が、ノモゥダベトの従兵の役割を後輩に譲ろうとはしなかった。戦闘を前にして小隊隊長と同様のゆとりが感じられるのはそれゆえである。

(この戦いも彼らにとって“経験”の一つにしてやりたかったものだが…)

 ノモゥダベトは彼ら3人、いや、それ以外の年若い従兵たち一人一人の顔を思い出し、固く目をつぶる。すまない、と思っても口には出せない。将は兵の生命を駒にせねばならぬのだ。兵の命も将の命も、無論自分の命も勝利のために捧げなくてはならない。

 自分やスィーバ、あるいはダカッオの頃に比べれば覇気がない、と言われる若い従兵機乗りたち。無邪気にも通じるほどの純粋さとひたむきさは微笑ましくあるが、確かに少々物足りない感もある。

(いや…フィンガーズの…シュン、あやつはもっと覇気がない風情であった。だが…)

 ノモゥダベトはシュンと“黒いスズメバチ”の激闘を何度も何度も見直していた。ノモゥダベトだけではない、【虎族】の騎士が、従兵が、いや【犬神】や【九尾】の戦士たちもシュンと“黒いスズメバチ”の戦闘記録映像を見たはずである。

 ノモゥダベトは、目に焼き付くほど繰り返し見た戦闘記録と実際に出会った生身のシュンとの落差を思い出した。

『従兵たちよ、フィンガーズのシュンを思い出せ。“黒いスズメバチ”を落としたあの若者をこの戦いで越えるのだ!そなたたちの前にも騎士の道が頂へと拓いている。虎姫様と【虎族】の人々全てに勝利を捧げようぞ!!』

「「「「「「「「「「「「「「はいっ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」

 従兵たちの返事が終わるや否や、“大妖精”の無感情な声が耳に、いや脳に直接鳴り響いた。


〈クロックアップ開始デス〉


 【虎族】第31番艦隊は光速を越え、ワープに達する寸前の速度で“敵”艦隊前面めがけて突進を始めた。



日本は宇宙人に侵略されました。

  

目に止めていただき、読んで下さったかた、ありがとうございます。

少し間があいたのは、我が家のネコが腎臓病かもしれなくて、夜中に何度も起こされるため、頭がぼーっと…すみません。

【猫族】は人類の支配者であり、抗うことは難しいですが、頑張ります。


次回、200回。ネタばらしを敢行いたしますが、知っている方がどれほどいるのやら??

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