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宇宙艦隊戦 その3

宇宙での戦いは無音だそうです。その冷たく静かなところで日本を侵略した宇宙人たちは戦ってきたのです。



3-5-3  宇宙艦隊戦③


 これまでの敵の行動には一貫した原則があった。生命の繁栄した惑星に突然降下してくる。その後、惑星上の全ての動物を殺し、回収する。次に植物を全て刈り取る。それは地上だけでなく海中にも及ぶ。植物プランクトンなど微生物でさえ全て吸い尽くされ、一見して惑星は土と水だけの存在となる。すべての有人惑星や生物の存在する惑星で作業を終えた後、敵はその惑星系の恒星を吸い込んでいく。恒星の中心核から熱量が全て奪われ、届ける光が消滅し、一つの恒星系はその命を終える。 本来ならば何十億、何百億年と続く営みが敵によって数ヶ月から数年単位で終わらせられるのだった。

 敵の降下作戦段階で銀河宇宙軍が敵艦隊を撃退した例はある。もっと多いのは撃退しきれず、その星系の知的生命体を他の星系に逃す場合だ。出来る限り固有の動物や植物も移送するよう試みるが、敵の侵攻は早く、知的生命体のみを他の星域に避難させるので精一杯ということが多い。それも一つの文明の最後と言えよう。

 それほど敵は圧倒的なのだ。銀河宇宙軍が結成されて千年の長きにわたり、敵とは戦って勝てる存在ではない。いかに被害を少なくするか、どうにかして生き残れないか、という圧倒的な強者の存在であった。  しかし現在、銀河宇宙軍の龍族、猫族、鎧獣族の全艦艇の目前で行われている現象、直接恒星に支配の手を伸ばす様子は、これまで例のないものであり、敵の艦隊を撃退したことを無に帰す現象であった。

「惑星降下戦闘や艦隊戦で撃破すれば、その星系からは撤退するのがこれまでのパターンのはず…。なぜだ。」

 リュトゥーのつぶやきは、艦橋全員の思いでもあった。それは人だけではなかった。


『ソノ通リ我々ガ銀河宇宙軍ニ協力シテ数百年、一度デモ敵ヲ退ケタ星系ハ二度と攻メラレルコトハナカッタ。』


 リュトゥーの肩の上の空間で“妖精”赤龍が答える。彼らの言動にいつもは感情は感じられないが、今は怯えているようにも聞こえる。


『ハイ、私ノデータニモアリマセン。直接、恒星ニ攻撃ヲ仕掛ケタ例 ハ、我々ノ参戦前ニモ検索デキマセン。』


 司令官シヴァイの“妖精”銀髪もいつの間にか現れて、スクリーンを注目しながら言葉をつなぐ。

「どうするにゃ、もう全艦退却するしかないと思うにゃ…。」

 サブスクリーンのアシュバス提督が呼びかけてくる。勝てないと思えば即座に引く、機を見るに敏な猫族の勘が告げているのだろう。

 シヴァイ提督が立ち上がり、マイクを持つ。その動作に艦橋の全員が、いやアシュバス艦とガネーザ艦の全員も注目をした。

「全艦載機、即時帰投。急いで撤収せよ。情報官、護衛艦30から50番台は幾つ残っている?」

 艦隊情報官があわてて画面を操作する。

「38、42、49の三隻が不明です。それ以外は健在。」

「十分だな。では、護衛艦30から50までの総員待避。艦長はプログラムコードのY85EOを入力後退艦するように。周囲の艦船は各護衛艦の船員を回収準備。」

 シヴァイの発令を通信官が何度も繰り返し、情報官は艦隊位置情報などを送信し合う。

「何をなさるおつもりですか。」

「なにをするのにゃ」

『コードY85EOトハ一体何カ』

『・・・・・・』

 シヴァイに向けて、一斉に声がかけられる。出遅れたガネーザ提督は口をつぐんだが、目で語っている。作業の命じられた艦員以外も同じ気持ちで注目する。

「リュトゥー、私が最初に指揮した作戦を覚えていますか。」

「赤の皇子の御座艦での戦いですね。」

「スズメバチどもはワープ空間から戻れるほどの推力はない。では敵の戦艦はなぜ戻って来なかったのか。それをずっと考えていたんだ。ワープ空間に引きずり込まれただけで、撤退したのはなぜか、と。」

 二人の会話に周囲は聞き耳を立てている。その間にも艦載機の回収報告や、護衛艦からの艦員の待避が続々と報告される。

「銀髪、ヤツらは、敵の艦隊はこの宇宙ではないところから来るんだったな。」


『ハイ、コノ宇宙トハ異ナル別次元、虚空間カラ出現シタト予想サレマス。我々精神生命体もコノ宇宙ノ存在デアルコトはアナタタチト同ジ デス。デモ敵ハ違イマス。』


「その判断理由は長くなりそうだから、今度ゆっくり聞くよ。では、ワープ空間とは何だ?」


『“並行宇宙”モシクハ、“ワームホール”ニ移動スルコトデ、通常空間トノ時間ノ流レトハ異ナル…。』


「そこだ、その異空間に、敵のシコンを突っ込ませてやる。」

 シヴァイの声が一段高くなった。それに合わせるかのように、情報官が報告を重ねる。

「護衛艦、総員待避終了。各艦長コード打ち込み後退艦しました。」

 20隻近い護衛艦が機関を全速に上げていく。

「銀髪、護衛艦たちの進路を、シコンが虚空間から通常空間に出てきた先端に設定。護衛艦たちをその一点でワープインさせる。」

 通常空間に出現した敵のシコンは、護衛艦と共にワープ空間に引きずり込まれるのか、護衛官同士は通常空間で激突するのか、ワープ空間で衝突し大爆発を起こすのか。その衝撃はどれほどのものになるのか想像もつかない。わかっているのは、これまで例のない状況を敵にぶつけるという作戦だということである。

「恒星に影響が少ないよう、出来れば爆発はワープ空間で発生させたい。ワープインの時点で護衛艦が小さなブラックホールと化しているならば、通常空間のシコンにも影響を与えるはずだ。他の艦艇は長距離砲撃及び誘導ミサイルの準備。追撃もありえる。」

 シヴァイ艦隊だけでなく、アシュバス、ガネーザの艦隊も攻撃準備に入る。ワープイン攻撃が効果を発揮した場合、3艦隊の総攻撃も続けることを艦隊の全員が理解した。

「効き目がなければ、即時星系民を回収して撤退する。情報官はその準備も計算してくれ。」

 人間が慌ただしく動き始めたのと対照的に、“妖精”はじっと動かない。命令を受けた銀髪だけでなく赤龍も何かを計算しているようだ。


『司令、設定終ワリマシタ。5分後ニ護衛艦ハ恒星表面、同一座標デ、ワープインシマス。通常空間ハ、ワープニヨル爆縮現象、ワープ空間内デハ護衛官同士ノ衝突ニヨル大爆発ガ発生スルハズデス。』


 追撃の準備、撤収の準備の作業を終えた者から、いや途中であっても、全員が手近な画面で遠景を見つめていた。

 恒星に向けて切れ込みのように伸びていく黒い【闇】それに向けて護衛艦が一直線に進んでいく。加速が進むにつれて、護衛艦の周囲に虹のようにワープフィールドが発生する。


『アト10秒デス。』


 【闇】の頂点に向けて護衛艦たちは旅立った。ワープインの輝きが一瞬きらめき、そしてすぐに消滅していく。宇宙であるから爆発音や爆風はあり得ないが、何一つ変化のない様子は不安を高めていく。

「だめか・・・。」

 誰のつぶやきか小さな声であったが、艦橋内にその声は響き渡った。


『イヤ、シコンガ蠢イテイル。小刻ミダガ…。』


 赤龍の声が全員の手を固く握らせる。5秒、10秒、30秒…1分。

「間違いありません。シコンが戻っていきます。虚空間に引き返しています。敵の艦隊も次々に撤退しています。」

 艦外情報官の声は怒鳴り声のようであった。アシュバス艦やガネーザ艦でも大声が響き渡る。シヴァイ艦の戦闘艦橋でも全員の雄叫びが響き渡った。両手を振り上げて、飛び上がって喜びを表現する。

「シコンを打ち払ったぞー。」

「銀河宇宙軍初めての快挙だ!!」

「シヴァイ提督の知謀に万歳。」

 沈黙しているのは司令官自身だけであった。彼は司令官席に座り込むと、他の者同様喜色満面の副官に小さな声で囁いた。

「熱さにびっくりして手を引っ込めただけかもしれない。2回目、3回目の準備をしておこう。」

「は、はい。そうですね。」

 その声にやっと平静に戻ったリュトゥーは情報官に伝達し、そこから少しずつ熱狂が冷めていく。

「すごい、凄いぞ、シヴァイ提督。すごい、いやぁ、まったく凄い。」

「やったにゃぁ~。さすが、シヴァイはやる男にゃぁ。」

 二人の司令官の背景では、情報官同士が連絡し合っているようで、緊張した顔で作業に入っているが、二人の提督は歓喜の表情で叫び続けている。

「いや、続きがあるかもしれません。もう少し様子を見ましょう。」

「そうだにゃ。でもそろそろ…。」

 弾薬も精神力も無限ではない。人間の集中力が切れるように、機械も不調が出てくる。シヴァイとアシュバスの両艦隊は緊急発進してきたので、十分な準備ではなかったこともある。

「我が艦が発した救援要請が届いていれば、応援艦隊が到着するはずなのだが。」

 ガネーザのその声が届いたように、銀河宇宙軍の応援艦隊が到着したのは間もなくのことであった。


つづく

戦艦とか護衛艦とか、もっと細かく書いてみたいのですが…。

今回もお読みいただいた方、ありがとうございます。場面がころころ変わっていきますが、あまり間延びしないよう心がけますのでお許し下さい。

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