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序章 決戦、関ヶ原

小説を書くことの難しさがほんの少しわかりました。

序章  ちょっとだけ未来の一場面。 



 輝く銀髪の女性。遠くを見つめているように見えるが目は閉じられている。

唐突に、整った唇から言葉が紡ぎ出される。


『司令、各部隊カラ連絡。全テ戦闘準備完了トノコトデス。』


今の彼女の役割は事実を告げるだけ。見る、聞く、そして事実だけを告げる。

そして役割を終えた彼女は虚空に消えていく。


 中央のシートに座ってた男が立ち上がる。先ほどの彼女と同様、感情を込めず声を発する。


「各隊、戦闘開始。」


 言い終わった司令官の表情は陰鬱であり、その理由を十分理解している部下たちの復唱は、努めて機械的であった。





 俺たち、兵士の目の前にいるのは巨大な蟷螂である。よく見れば身体各部位はまるっきり違っているが、全体像は地球の昆虫、カマキリとしか思えない。

ただし大きさは人間よりやや大きめ。体長、いや高さは2mを越える程度。頭ひとつ分、上から見下ろされるわけだ。色は毒々しい紫色が主色。あちこちに黄色の斑模様。

昆虫と同じような進化を辿ったらしい特徴的な両手の鎌。その刃の最細線の部分は単分子構造体で、腹立たしいことに地球のほとんどの物質を易々と切り裂いていく。データをいやってほど見せられた。ゆえに我々の装甲服はコンマ数秒しか持ちこたえられない。

 

 そんなヤツラが地の果てまで埋め尽くしている。ヤツラと地上面の比率は・・言いたくもない。ここはぐっと睨みつけて戦意を高めたいところだが、ヤツラの顔らしき部分は昆虫と爬虫類を足して不気味さを追加した作品。その肖像画に題名を付けるなら「キショク悪い」しか考えられない。

 

 正直、一刻も早く、戦闘開始の指示を出してほしい。こうやって待機していたら、その分テンションが下がる一方だ。右肩下がりではなく急降下。線グラフが下まで行っちゃったら、俺はここから逃げ出してしまう。

 だから俺たち兵士は一人残らず、不安が高まって高まって、キョロキョロと落ち着きがない。こういうのを挙動不審と言うのか…と思いつつ、気がついたら俺の目もある人を捜している。

 

 いる。いつも通りの目立つ“服装”の彼は数m後方に屹立していた。偉大なる我らの隊長。彼の装甲服の頭部は透明化されているため、外部から落ち着いた表情もはっきり見て取れる。

 軽く目をつぶっているのは精神集中しているのだろう。その様子を見ているだけで、こちらも心拍数が平常に戻る気がする。訓練でいつも見せられた、隊長のバケモノじみた、いや常軌を逸した強さを思い出し、少し安心する。なんだ、班長の俺も兵士たちと同じじゃあないか。顔を前に戻して、そのときを待とう。大丈夫だ、あの人と一緒なら俺たちは勝てる。そう思い続けた。

 俺が納得した瞬間、隊長の背後から“白い猫”が浮かび上がった。大きさから言えば猫よりも獅子に近いサイズであるが、ほっそりした体つきはどう見ても猫だ。


 その“白い猫”から巨大な声が聞こえた。いや、全て聞き終える前に、俺を含めた兵士達は全員が前へ飛び出していった。


『各隊、戦闘開始。』


 電子音声に続いて、俺たちが最大限の信頼を寄せている隊長の割れ鐘のような声も装甲服のヘッドフォンから耳に突き刺さってきた。音量の自動調節がなければ耳が壊れていたろう。


「柔道部、空手部、レスリング部、ボクシング部、相撲部、その他格闘部軍団、真っ先に突っ込めぃ。おぬしらの男を見せよ!」


 巨大な筒を左右の肩に装備した、装甲服。“ガン・カノン”というあだ名で呼ばれる戦闘服を身に纏った猛者たちが先頭を切って駆けていく。

 ほんの一年前、強面の彼らに俺は適度な距離を置いていた。学校内の強面たち。しかし今ではとても頼りになる、そして重要な仲間だ。彼らに遅れを取らないよう、俺も全力で地を蹴りつける。

 100mを五秒以内。たった一歩で数mの歩幅。地上2m以上は滑空して跳んでいるはずだ。ぴょんぴょんではなく、狼や豹が獲物に向かうときのように。その姿は俺一人だけではない。

くそ重いカノン砲と重火器を装備している格闘部連合部隊もほぼ同じ速度だ。そういう調整がされているからだが、耐えられる身体を作ってきたから可能な戦闘行動だ。

 俺の所属する部隊も誰一人遅れることなく突っ走っている。これまた銀河連合製・装甲戦闘服の性能と日頃の訓練の賜物だ。ところがその性能をもってしても隊長には追いつけない。

 上空から見れば、不定形に密集したカマキリどもの群れに、二つの山が突き進むように見えているだろうか。二つの山は重なり合い、「M」の字に見えるかもしれない。

その二つの頂点部分で独走しているのは当然二人の隊長だ。一人は擦り切れまくった着物と袴姿で野武士のような我が隊長。もう一人は粋な羽織袴姿、美丈夫の二番隊長。


「我は、宮本武蔵!! 蟷螂ども我の刃を喰らえ!!」

左右の二刀流が不規則に乱れ回る。風刃乱舞。そのたびに巨大カマキリどもは吹っ飛び、関節バラバラに砕け散る。切るというよりも砕くと表現した方が近い。


「佐々木小次郎参上。一匹たりとも、容赦はいたさぬ。覚悟いたせぃ!!」

身長の三倍近い長刀を両手で支え、最上段から一気に振り下ろす。正面のカマキリは唐竹割に真っ二つになる。いやその後ろの数匹も手足を切り飛ばされ、左右に倒れていく。


 二人の太刀は、どちらが速かったか。日常では全く息が合わない二人であるのに、ほぼ同時に目にも止まらぬ速さで初太刀を繰り出していた。のけぞるカマキリどもには目もくれず、間髪おかず次のカマキリに斬りかかる姿まで鏡写しであった。どちらがより多く敵を倒すか、賭けでもしているんじゃないか。

 爆進する隊長二人を孤立させまいと、必死で追いつく格闘部連合の両肩が火を噴く。細い細い糸で構成された白い弾丸がカマキリ達の頭上で音もなく広がり、降下してヤツラを包み込む。打ち上げ花火の枝垂れ柳のようだ。ただし花火とは違い、瞬時に消えていったりはしない。逆だ。固着していくのだ。ヤツラの全身を覆うほどではないが、粘性物質は頭部に降りかかるとヤツラの視界を防ぐ。

 上からだけではなく、低い姿勢をとった格闘部員から撃ち放たれたスプレー弾はヤツラのカマや足にべっとりと粘着して絶対に離れない。蜘蛛の巣のようにまとわりつき空気に触れて強度を増していく。

 次々に打ち出される糸玉は蜘蛛の巣を広げ、カマキリ同士を捕縛していく場合もある。また木工用ボンド程のネバネバ具合のそれはすぐに垂れていき、関節に染みこんでいく。ヤツラの自慢の両手のカマも狙いであり自慢の切れ味を着実に奪っていく。大量に受け止めた個体なんかすでにミイラのようになっている。一匹一匹の動きが緩慢になり、そのせいで隣の群れとぶつかり合うこととなる。そしてカマキリどもの群れ、全体の動きも停滞させていった。

 

 両手、あるいは片手のカマを白い糸で包まれたカマキリどもを仕留める俺たちの部隊の仕事だ!! 目の前には薄紫色の腹部がむき出しで迫っている。そう認識した瞬間、装甲服のヘルメットのディスプレイに優先順位が表示された(…気がする)。実際には視神経と聴神経の双方よりも先に、脳に直接データが送り込まれているらしい。装甲服の全てを司る“妖精”からの戦闘命令だ。今は検討する暇も必要もない。

 指示通りに左手の銃口からエネルギー弾を発射(…するよう意識する)。思うことがトリガーを引く動作なのだそうな。思ったときには音の数十倍速く、数千度の高温の熱球が放たれていて、意識した位置に命中する。

 カマキリ野郎の腹部は、衝撃を受けてパリンと割れるようにドス青い結晶をまき散らした。あの結晶がヤツラの血漿だそうな。超硬ガラスの体組織をへし折られて、どうっと横倒しになるカマキリ野郎。

 その姿を確認し勝利を味わう間も与えられず、“妖精”様から命令。次の個体をロックオン。超高熱球は腹部より細めの胸部に吸い込まれ、両肩からカマが左右に飛び散った。

 今、この瞬間は“妖精”の言うことに間違いはないはずだ。生き残りたい。みんなと共に生き残るために、撃って撃って撃ちまくる・・・・・。

 

 兵士たちが一匹ずつ仕留めている間にも、宮本武蔵は左右のヒート剣を振り回し、数匹をまとめて薙ぎ倒しながら縦横無尽に突き進んでいく。運良く蜘蛛糸玉を躱したのか素早い動きのカマキリもいたが、まるで相手にならない。一般兵士の装甲服に装備されている物よりはるかに高出力の左右の剣はカマキリどもの刃ですら、豆腐のように切り裂いていく。雑なように見えるが、意識的に関節を狙い、最初に戦闘力を着実に削いでいく。動きが止まった個体は周囲の部下に任せ、武蔵自身は指揮官らしき個体や他よりも強そうな個体を選んで屠り、戦闘力を奪うなり、とどめを刺さずに、次の獲物に斬りかかっている。

 作法は異なるが、もう一人の隊長も破壊力は勝るとも劣らない。佐々木小次郎のヒート剣は武蔵の物よりも長く、高出力に調整設定されている。その一閃は大地ごと切り裂くようだ。“物干し竿”を一振りするごとに数匹が身体のどこかを切り飛ばされ、のたうち暴れ、陣を乱していく。その混乱を広げていくことで、カマキリどもの連携や統一した行動が取られないよう群れそのものにくさびを打ち込んでいく。

 暴れ独楽のように戦場を自由自在、殺戮縦横無尽な二人の隊長の動きに追いつき、二人を孤立させないよう、運動部連合は必死で走り続ける。それぞれの装甲服の“妖精”からの指示に従い、臨機応変に陣形を変化させて指示されたポイントへ援護射撃を行う。

 宮本隊と佐々木隊の二つの山は徐々に間隔を開けていき、カマキリ群の密集陣を外側から半包囲しつつ、確実に切り崩していく。

 

 カマキリの死骸が山を気づき、その周囲を人の骸が取り巻いていく。

 兵士たちの誰もが、長い長い時間が過ぎていったような気分であったが、ここまではまだまだ緒戦でしかなかった。




管制センター


『宮本・佐々木、隊ノ西部方面部隊は膠着状態中。シカシ宇宙カマキリ群ニ対シテ半包囲態勢は、ホボ完成。』


 銀髪の女性の細い指が空中にくるりと輪を描く。シャボン玉のように輪が広がりながら離れ、空から眺めたリアルタイム映像が画面に現れる。すぐに“敵は紫色、味方は橙色”の簡略画面に切り替わる。敵と味方の損耗率が画面下に表示される。

 彼女は同じような行動を続けて三度繰り返した。橙色が矢のように切り込んでいる映像には北と表示されてある。西部方面部隊と似ているが、さらに広がり既に半包囲を完成させた映像には東という文字が映し出される。

 銀髪女性の前には黒髪と紅茶色の髪の男性が二人立っていて、それらの画面を食い入るように見つめる。司令と呼ばれる彼の目は意図的に細められている。感情を他人に見せたくないときの彼の癖だ。


「司令、どの部隊も損耗率は想定通りです。ただし沖田・土方部隊は進行速度が早い分、兵に負担がかかっています。装甲服の活動限界時間が予定より短くなります。」

 紅茶色の髪の長身の男性が、手元に浮かんだ情報画面と比較しながら報告をする。操作する彼の肩には、小さな赤いワイバーンが留まっている。時折耳打ちするような仕草をするたびに、長身の男性は軽く肯く。

 彼とワイバーンが司令に歩み寄る様子を見せたため、銀髪の女性はやや小さくなり、司令の頭上に、つっと浮上する。ワイバーンが軽やかに羽ばたきし、彼女の横に位置する。ガラスを叩き合うような、チっチっチっと小さな音が響き渡った。


「キミの守護妖精とウチの妖精はどんな会話をしているのかねぇ。」

司令と呼ばれた黒髪の男性は情報画面から片時も目を離さず、つぶやいた。そのあと彼自身もひとつの情報画面を開く。荒れた海が映っている。

「世界各国に見せつけるには、圧倒的な勝利がいいか、少ない出血がいいか、どっちかね?」

「理想は、無傷で完全勝利です。」

「そうなんだよねー」

 副官の言葉に無言で肯く。そうなるよう何度も検討を重ね、偵察を繰り返し、兵の練度を上げた。戦場の狂気も今はプラスに働いている。しかし戦争で犠牲者なしはあり得ない…。


『戦場ガ、ドウ展開スルカ、ソノ予測ハ宇宙最高ノ情報処理推論存在がアッタトシテモ完璧ニハ出来ナイ。』

『ダカラ、私タチハ アナタタチ人間に協力を依頼シマシタ。』


機械的なのではなく、ただ感情がない声。それが男声と女声に聞こえてるのは、聞き取る側の思い込み、と言われたが…。時折冷たく聞こえるのもこちらの受け取る感情ゆえか。


「拙速は巧遅に勝る、だったっけ…。“受け”が得意な十兵衛殿に負担をお願いしましょう。やや“引き”ながら戦線維持を命令して下さい。」

 副官の両手の指先がピアニストのように動く。ほぼ同時に十兵衛の“眼帯型妖精”が作戦変更命令を受信しているはずだ。そしてそれは十兵衛の脳に直接表示されることも示している。 

「黒猫には、少し落ち着くようと伝令。兵士の休息や補給を念押しして下さい。北からの“押し”はすでに期待以上とそえて。白猫には現在の戦線維持を伝令。」

 副官の両手はいっそう激しく乱舞する。背後に浮かぶ赤龍と銀髪もそれぞれ自分の周囲に情報画面を開き、新たな作業に没頭している。

「各隊長の“妖精”に特令。全隊、二時間後ゆるやかに戦線を後退。ただしカマキリどもが調子に乗らない程度に徐々に。戦闘地域全体の密度を薄めていく。」  

「司令、自衛隊の投入時期はいかがされますか。」

「海・空は警戒を継続。万が一にでも二つ目、三つ目の巣を落とされたら困るからね。もしそれが起こったら大気圏突破後すぐに迎撃破壊して海上に突き落とす、を最優先。陸は御子神の白虎隊と同時に戦線投入。」

 副官の手が止まり、即座に振り返り司令顔を見つめる。眉がひそめられ「なぜですか?」と意思表示。空中の赤龍と銀髪もぴたりと動きを止める。


「なんか、いや~な予感がするのよ。でも・・・今回は“勘”は外れてほしいなー。」

その呟きに納得したのか、副官無言のまま作業に戻る。


ワイバーンが司令の近くにふわりと降りてくる。肩に留まることはしない。


『本来、“勘”トハ、過去ノでーたカラ推測サレル可能性カラ優先的ニひとつヲ選択スルコトニ過ギナイ。ドノでーたガ、ソノ予測ヲ導イタノカ、教エテモライタイ。』

 赤いワイバーンの声にあせりの感情の色がほんのりと滲み出ていた。そんなことがあるわけないのに。


 司令官も忙しそうに手を止めず、振り返りもせずにつっけんどんに返答する。

「そんなの、わっかんないよ。勘はカンだ。」

 空中の二体は絶句したのか、しばし間があく。


『・・・・・・・。』

『イツモノ非論理的発言。ワタシは少シ慣レマシタ。』



序章 終

はじめまして。

文章を連ねるのは難しいと思います。

第一作ですので、優しい目で読んでいただけるとうれしいです。

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