188 『銀髪』
今回は龍族本星でのお話です。
188 『銀髪』
『“敵”の戦艦、ト呼称シテイマスガ、ソノ中ニ“敵”兵はイマセン。』
銀河宇宙の外縁部を占める龍族。その龍族本星の宇宙軍総司令部司令官専用情報室。
その一室は基本的には一人で試用されている。正しくは一人と…“妖精”で。
広大な…日本でよく使われる換算で言えば「甲子園球場とほぼ同じ」面積がたった一人のため用意されているのだ。
開放感は全くない。ほとんどの空間は隙間なく“画面”が埋め尽くしている。どの画面も厚みはないのが、膨大な圧迫感。
龍族領域全星系の恒星、惑星、衛星の現在情報、銀河宇宙の他部族について可能な限りの最新情報、銀河宇宙の科学力を持ってしても容易には入り込めない暗礁宙域の監視状況、等などが秒単位あるいはそれ以上の早さで新規情報に書き換えられていく。それら全てのデータを分析し、龍族宇宙銀各艦隊の軍事力情報を照らし合わせることで、様々な状況に最善の対応をするべく脳内で神算鬼謀を巡らせている人物。
『音声ハ全てOFFにシテイマス。画面照度も最低レベルに。急激ナ状況変化ガ生ジタ場合ハ画面ガ赤色発光シ拡大シマス。』
「う~ん。それでも、気になるよね。最近あっちこっちで事件が起こっている気がして仕方ないんだ。」
『ソレハ、…アナタガ龍族宇宙艦隊ノ前ニ現レテカラずっとデス。』
「いやいやいや。キミたち“妖精”が銀河宇宙軍…いやこの銀河の人類の目の前に現れたそのときから、じゃないの?」
『ソレヲ言うナラバ、“妖精”ガ物質宇宙ニ復ル以前ニ“敵”ハ人類ノ前ニ出現シテイマシタ。』
「・・・ん、その件はいいや。で、“敵”の戦艦は『一個ノ生命体デアル』の続きだ。』
『ハイ。人類…種族部族が異ナリ…広大ナ銀河ノ様々ナ違ウ条件ノ星々。時間モ空間モバラバラニ誕生し進化シタニモ関ワラズ、人類ニハ共通スル点ガ数エキレナイホドアリマス。ムシロ異ナル点ヲ挙ゲル方ガ早イト言エマス。』
龍族宇宙軍の総司令官室の主はその地位に比べれば質素なソファで身体を横たえている。
空間画面が全て情報切断され空間から消失したとき、この部屋(?)は外縁部を頑丈な金属板=宇宙戦艦の外部装甲と同材質で囲まれた広場に生まれ変わる。広大な面積であるのに“牢獄”のような拒絶感。
内部に居住するたった一人を守るために上下の階には衛兵がぎっしりと待機しており、メインタワーの四方には防衛用軍事ビルが林立していても、この司令官専用情報室内の人物は常に孤独である。
最終決定を下すのは彼一人であるから。
部屋(?)の中央には1セットのビジネスデスクとすぐ後ろにソファがある。日本の某文具メーカーの渾身の製品は身体に優しくかつ機能的であるが後ろのソファは投げ売り家具店で¥8000の超出物であった。空間画面が展開していなければ何かの罰ゲームのようだ。
「むかし、“なすび”とかいう芸能人が一人きりで…テレビに録画されていないだけマシかなぁ?」
ごろん、と安物ソファの肘掛け部分に頭を置いたシヴァイの視線は空中に浮かぶ“妖精”の視線と再度結ばれた。
“銀髪”は瞳の色すら銀色である。地球人類には決して“いない”非人間型の、されど機械的でもない両目は瞬きもしない。
『ナスビ…チキュウ産ノ野菜デスネ。衛兵ニ持ッテ来ルヨウニ命ジマスカ?』
「違う違う。ごめん、話を続けて下さい。」
『・・・。』
“人間”一人の身体の中には100兆を越える菌が存在しています。並べれば地球5周になるほどの菌が体内で休みなく“身体を維持”するために活動しているのです。食物を消化・吸収してエネルギーに転換する。血液を体内に巡らせて酸素と二酸化炭素を身体全体に行き渡らせつつ同時に老廃物を体内から順次排出あるいは再吸収する。体外から病原菌などの雑菌が入り込まないよう表皮常在菌は戦い続け、入り込まれた場合は白血球などが進行を食い止める。“人間”が健康を維持し、思考し行動するために体内では100兆の菌が常時、延々と活動を続けているのです。菌の視点からすれば“人間”は菌という生命体の巣窟、あるいは乗り物であるのでしょう。
「遺伝子の方舟、という表現も聞いたことがあるよ。」
傷口から不要な菌が体内に入り込んだとき、白血球が即座に“迎撃”に向かいます。“戦死”した白血球は次々と外部に吐き出されて固化することで雑菌の“後続部隊”を遮断します。切り傷、擦り傷ならば“カサブタ”というアレになるわけです。皮膚の内側ならば内出血しますが、時間が経てば体内に吸収されます。“アオタン”でしたっけ?
「銀髪…お前のデータって何かヘンだぞ。どこから得た知識だ?」
『正確ヲ期スル場合ハ、ウィ○先生ヲ使ウコトモ辞サズ、トイウ覚悟デス。』
「…あー。…寄付金は龍族から出してもらおう。奮発するようジークに言っておくよ。」
“敵”の戦艦は銀河宇宙の標準人類の数百倍数千倍の規模ですが、“人間”の体内をイメージ出来るという説は古くからありました。“敵”艦の中を異世界の人型の何かが活動している様子は見られません…これまでの長い銀河宇宙軍の戦いで“敵”の戦艦内から“敵”兵士を捕虜にした例はありません。鹵獲した“敵”戦艦はすぐさま自壊作用で消滅していきますが、その過程で調査機械や調査員が突入した場合も、“敵”艦を操作している何らかの生命体らしきものとは全く遭遇例がありません。それでも、“敵”の戦艦は“生命体”のように見えるのです。
“敵”の戦艦は球状と角状が合わさった形態が基本である。球体部分が巨大であったり、角が複数や長短の違いはあれど、スズメバチは角部分から現れ、角を失った戦艦はゲートへと逃げ去っていく。
長きに渡る戦闘の結果、スズメバチの幼体らしきものが球状部分に収納されていること、頭脳あるいは脊髄や神経に相当するような部分が艦体のあちらこちらに散在することなどが確証されてきた。が推進機関の原理や、それを作動させる動力源については皆目見当が付いていない。
「スズメバチなどの様々な“虫”そして蝶々もどき。“敵”艦の外で活動しているあれらは何に例えたらいいんだろう?」
“スズメバチ”は銀河宇宙軍の分類では「“敵”艦載機」となっていますが、その中に操縦者はいません。惑星地上へと降下する“虫”同様“敵”艦から離脱して独立行動していますが、“敵”艦内では幼体あるいは成長過程段階での収納の発見例が多数有ります。蝶型は銀河宇宙軍の戦史において初めて見られたの形態の“虫”です。
『銀河宇宙最古ノ種族デアル【九尾】ノ最奥部電子頭脳中枢ニモ蝶型“虫”ノ情報ハ一切アリマセンデシタ。削除サレタ形跡ハ皆無デシタノデ、前科ノ出現ガ真ニ初見デアッタト高確率デ判断デキマス。』
「【九尾】の極秘データベースに易々と入り込むんだねキミは。“妖精”には隠し事出来ない(…あるいは人類ハ抵抗する気がない?)」
“銀髪”は一度言葉を途切った。
精神生命体と自称している“妖精”が息継ぎをするはずは、ない。
(蝶型ノ出現ハ“敵”ノ成長進化マタハ戦術変化ヲ示スノデアロウか。ソレトモ、このダラシナク寝転ガッテイル“人間”ガ何ラカノ“作用点”トナッタ故ノ状況変化デアルノカ?)
「“敵”艦はそれぞれが一個の生命体のようである、と。だが艦内に生き物の姿は見られたことがない。まぁ人間も体内の菌は普通見えないし。」
『人間ノ排泄物ノ質量ノ半分ハ菌ノ死骸デス。』
「普通は、あんまり直視しない。」
惑星表面上の人間や哺乳類動物などの高等生物を昆虫類が見れば、我々が“敵”艦に疑問に抱くのと同じ感想を抱くかもしれません。銀河宇宙軍は“敵”を社会生物と認識していますが、“人間”も体内、体表面の菌を含めれば立派な集合生命体です。
「でも、身体の外に何かを射出して、それが各個に戦い続けるなんて芸当は無理だなぁ。○○○の鬼太郎さんは髪の毛を打ち出せるけど…←ありゃあ人じゃないか。・・・・“敵”が人類の上位種族である、とは思いたくなんだけど。」
『チキュウノ文献ニヨルト、西遊記のソンゴクウが類似シタ技ヲ使用シテイマス。七星球デハナイ方ノ孫悟空デス。“敵”ガ人類ヨリモ高等生物アルイハ次段階進化生物デアル、トノ証明ハ現段階ノ資料情報デハ判定不能デス。』
「・・・ゆがんだデータだなぁ。」
惑星に降下した“虫”は様々な形態が確認されていますが、その違いの理由も不明です。どの“虫”も惑星の生命体を捕食し同時に重金属や稀少金属を必ず収奪します。口に見える器官から嚥下するように見える場合もあれば、胸部などを開いて胴体部へ直接取り込む型もあり、“敵”の恒星や惑星などへの攻撃理由と推測されていますが理由も方法もまだまだ不明です。
『取リ込マレタ物質ハ、ドコニドウヤッテ送ラレテイルノカ?“虫”ノ体内ニ入ッタ物質ハ消エ失セルトシカ表現出来マセン。“妖精”ノ持ツ知識や能力ヲモッテシテモ、“虫”ノ体内システムハ未知ノ存在ナノデス。』
「そこらへん、もう少し詳しく知りたいんだ。ボクはずっと宇宙艦隊戦を担当しているせいで、惑星上の迎撃戦闘は不勉強だ。本星を始め、龍族各惑星の防衛に関しては先輩提督の皆さんのお力に頼りきりだ。」
『人ハ完全ナ存在デハアリ得マセン。ソレハ“妖精”デアッテモ…』
“人間”とほぼ同じサイズから数倍程度の体積の“虫”が体の内部に小型ワープ機関を装備し、捕食の度に駆動させているとは考えられません。それが可能ならば、“スズメバチ”は現在よりも超技術を駆使した戦闘が可能なはずです。銀河宇宙軍の科学力では超空間跳躍航法には大型推進機関と重厚な艦体装甲が不可欠です。機動巨兵などの艦載機規格のワープエンジンの開発には数百年規模の時間が必要です。
「瞬間物質転送機なしで艦載機がワープして飛んできたら、勝てないよねー。(“妖精”はその超絶技術を知っているのだろうか?)」
有機物あるいは金属を“虫”が捕食する理由も不明です。捕食されたそれらがどう転換され、あるいはそのままの形質で使用されるのか等々全く不明です。体内器官がなく、ケイソのような物質で構成された“虫”やスズメバチ、あるいは“敵”戦艦に有機物が必要な要素は一切ありません。重金属は電導物質として使われている可能性もありますが、彼らの“世界”に同等の材質はあるでしょうし、その補填を行うために異次元から来襲したとは考えがたいです。もっと根源的な“何か”が不足あるいは消滅したゆえ、“敵”からは異次元であるこの銀河宇宙に踏み込んできた、と考えるのが妥当と思えますが…。
「石やガラスで出来た生命体が“人間”や動物、そして黄金や稀少金属を食べる理由か…。ホントに“虫”は取り込んだ生き物や金属を戦艦へと送り込んでいるの?」
それも不明です。“敵”の本来存在している“世界”に直接転送している可能性も高いのです。
「はぁ~。ま、わからないことを延々と悩んでいても仕方がない。今回の投稿が遅れたのも謎を考え続けて耳から煙が出そうだったからだ。」
『?』
「話を戻そう。“敵”の戦術あるいは戦略パターンに大きな変化が生じる可能性をキミ…“妖精”?は心配している。」
『ハイ。コレマデ銀河宇宙軍と“敵”ノ戦闘ハ拮抗シテイマシタ。銀河宇宙デ発見サレタ全種族規模デモ数百年、ソレゾレノ種族ガ各個ニ戦ッテイタ時代を含メレバ千年以上ノ長キニ渡ル“敵”トノ戦イニ大キナ変化ノ兆シが見エル、ト“妖精”ハ推測シマス。』
(日本の歴史で言えば、江戸時代、鎌倉時代をすっ飛んで、平安時代あるいはそれ以前から銀河宇宙軍は宇宙で戦ってきたという。その労力を文明の深化や発展に注いでいたら…隣の銀河に到達する程にはなっていたかもしれないのに。)
『戦略アルイハ戦術ノ大キナ転換ニハ通常ハ新タナ技術革新ガ切ッ掛ケトナルコトガ多イ…ハズデス。』
「地球の歴史で言えば、鉄器の発見、馬の量産、火薬の発明、大型船などによる大量輸送、航空機の発明…そして核兵器。嫌な歴史だ。」
『銀河宇宙軍ハ“敵”ト比較スレバ、宇宙航行ニ勝リ数デ劣リマス。“敵”ハ“ゲート”使用時以外、銀河宇宙軍ノ超空間航法ヲ越エルコトハアリマセン。推進機関ト推進剤ノ科学段階モ銀河宇宙軍ノ艦艇ニ軍配ガ上ガリマス。』
(軍配って…)
『“敵”ノ最大ノ戦力ハ【数】ダッタノデス。ソシテ、現在モ大キナ技術ノ変化、アルイハ生命体トシテノ進化ハ“敵”ニハ見ラレナイ。ソレナノニ“妖精”ハ“敵”ノ戦略思想ノ大キナ変貌ヲ予感シテイマス。』
感情がないと言われている“妖精”、いや『銀髪』の口調に違和感を感じる。“妖精”と銀髪はイコールではないのか。
「黒スズメバチの出現は?」
『アレハ兵士モシクハ戦士ノ特異ナ存在デアル、だけデス。イチ個人ノ驍勇ダケデハ戦況全体ヲ左右スルコトは困難デス。』
「【九尾】と【犬神】の一個艦隊をほぼ潰滅させれば十分脅威なんですが~」
『【九尾】ソシテ【犬神】ハ、支援艦隊ノ即時ソシテ大量投入ニヨッテ黒雀蜂ヲ撃退シマシタ。前回ノ戦闘情報ノ共有ト戦闘パターンノ分析ニヨッテ次回以降、黒雀蜂ノ対応ハ容易ニナルハズデス。』
「・・・・・。」
『“妖精”ガ脅威ト判断シテイルノハ、惑星ヘト降下サセル“虫”ノ巣ノ広域散布トイウ変化。コレマデハ“フクコン”“シュコン”のコノ宇宙ヘノ出現ヲ契機ニ開口サレテイタハズノ“ゲート”ノ開放ガ………異変探知。正面浮遊画面ヲ拡大イタシマス。』
ソファから一動作で立ち上がって正面のモニターを見つめる。
前後左右、いやほとんど全ての浮遊画面が【絶】という文字を発光して消えていく。
一気に広大な面積を感じることになる。ここは、こんなにも広かったのだなぁ。
【状況報告認定】→【外部情報全遮断】→【内部情報異常探索中】→【安全度確認:最上級】→【再検査確認中】→【回線接続】→画面真っ黒。
正しい手順を踏んでの連絡ではなく、どこかをすっ飛ばしての異常事態の報告か。
異常事態に慣れっこ、異常が平常というのはどこか異常ではないのだろうか。それが証拠に画面に映し出された人物の慌てた表情が【いつも通り】と表示されているように見える。
「ジークくん、慌てず騒がず、冷静にどうぞ~」
『シヴァイ閣下、これが慌てずに居られましょうか!!」
彼は本来そういうキャラではないはずなんだがなー・・・冷静沈着な総司令官の最高のサポート役。それが最近ブレてきている。
(これも“敵”の変化による影響か??)
「アフマール様からの緊急呼び出しでしょうか。このシヴァイ、アフマール様の足下にはいつ何時、いかなる状況でも馳せ参じる次第です。」
『は、はい。アフマール総族長からの呼び出しには間違いないのですが…』
いつにない歯切れの悪い物言い。青・緑・黄の各龍族は現在アフマール様のご命令は固く守っている。
猫族、鎧獣族の星系方面の状況変化も十数分前には何も無かったハズ。
考え込むよりも早く、リュトゥー副司令が答えを開陳した。
『た、大変なことです。アフマール様とシヴァイ閣下に…』
「ん、何なに?」
『【九尾】の高官が面談したいとのことです。まだ匿名ではございますが、上大夫…少なくとも正三位以上の貴い方から直接会談の要請でございます。アフマール様とシヴァイ閣下お二人と同時に机を挟みたいと【九尾】から極秘連絡が届きました!!』
まただ。隣に…やや上空に浮かんでいる『銀髪』が感情を表したように見える。“妖精”が??
それはともかく。
「【九尾】星系は遠いんだよね…族長会議にオブザーバーとして参加させられる度に龍族宇宙軍の運営に穴を開けて提督方にご迷惑かけっぱなしなんだよねー。長距離ワープもタダじゃないんだから、ちょっとは考えてもらわないと…」
『シヴァイ閣下、そんな合同演奏会を嫌がるダメ吹奏楽部部員みたいなこと言わないで下さい。族長会議に呼ばれること自体銀河宇宙軍の一卒として最大の光栄です。ましてや【九尾】の貴き方から依頼があるなど、辺境の蛮族と陰口を叩かれてきた龍族を支えてこられた先人の……』
リュトゥーも少しずついつもの調子に戻ってきた、かな。
「はい、わかりました。わたくしシヴァイは直ちに【九尾】へ移動する準備を…」
『あ、違うのです。す、すみません報告が逆になりました・・・』
「逆?」
『き、【九尾】のさる高官は御自ら、この龍族星系に脚を運ばれると…この龍族本星にて総族長と司令長官との会談を希望されているのです…』
あ、そりゃ大変だ。警備も厳重にしなきゃいけないし…。それ以外に何か準備することってあるのかいな?茶菓子??
『あ、あの…シヴァイ閣下…暢気に構えておられるようですが…実は…』
「うん。ゴメン。お茶菓子の選定作業に入りかけていた。」
画面は鮮明に映し出されていたが、リュトゥーとの顔色は青ざめているように見える。青龍族でもないのに。
「何か、慌てる状況でもあるの?」
エム・小山のロールケーキでも日本から取り寄せられないかな、と頭の片隅はまだ茶菓子選考会議を続行しかけている。
リュトゥーの次の一言で目が覚めた。
『【九尾】の御方はすでに到着されています・・・・』
『エッ・・・』
ホントに“妖精”が驚いた。『銀髪』に情報が伝わっていなかった証拠だ。
この司令官専用情報室への外部情報を強力に遮断していたとはいえ、“妖精”通信は人類の情報伝達とは無縁の存在である、ハズだ。
それなのに『銀髪』に連絡もなし。ということか?
慌てて、見える“妖精”を呼び止める。
「“銀髪”。状況が変化していることは認める。だからこそ一つだけ確認しておきたい。あ、いや二つかな。」
『ハ、ハイ。ナンデショウカ。』
彼女の顔も青ざめて見えた。肉体も感情も数千年前に手放して解脱したはずの精神生命体が青ざめるわけないのに。
「“妖精”は本当に銀河宇宙軍の味方なのだよ、ねぇ…?」
『ア、アタリマエデス…。ヨ、“妖精”ハ数百年ノ長キ時間ヲ人類ノタメニ…』
へし折るときは、しっかりと最後まで折りきらなくてはいけない。相手が人間であっても、“妖精”であっても同じだ。
「キミは本当に“銀髪”なんだろうか。」
『ナ…ナゼ、ソンナ…』
そーれ、ポッキリと!!
「“妖精”に【個】がある、とは不明にして知らなかった。それを明確に知らされた人類はボクが初めて、かな?」
『・・・・・“銀髪”…彼女ト“私”ノ何ガ異ナッテイタノデショウカ。アナタガ気ヅカレタ理由ヲオ教エ下サイ・・・』
「この章を読み返してごらん。」
『?』
「いつもと文体が違う。何よりも“銀髪”は饒舌じゃない。ホントは許されていないのかもしれないけれど、“銀髪”は重要な情報は概念伝達で 直接注ぎ込んでくれる。いくら厳重に警戒されたバカ広い室内であっても、“銀髪”は会話をもらすような油断はしない。」
『ソウイウコトデシタカ・・・』
意気消沈する“妖精”を見るってのも貴重な経験であろう。日記にはそう書いておこう。
「話は面白かったし、大変刺激的な内容でした。十分検討させていただきます。」
きちんと起立して敬礼する。
『龍族ノ…イヤ、銀河宇宙軍最高ノ知将ト呼バレル存在ヲ見クビッテイタ。後日アラタメテ謝罪スル。』
“妖精”『銀髪』も地球いや日本式に頭を下げて空間から消失した。
画面の向こうからリュトゥーがようやく声を絞り出した。
『閣下…一体何が起こっていたのですか…。」
ふむ。なんだったんだろう。
「邯鄲の枕…かなぁ?? 」
ご一読いただきありがとうございます。
実は時間がなくて、後半は推敲せずに投稿というバカ野郎です。ごめんなさい。
それと今回も幕間狂言みたいなお話ですみません。




