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海賊船「ドンテン」入港

そのころ、宇宙のかたすみでは…

海賊船「ドンテン」入港


「こちら、猿族星系、惑星アイアイ所属の民間輸送船『曇天丸』。龍族星系惑星への入港を求む。繰り返します。こちら、猿族星系惑星アイアイ所属の民間輸送船『曇天丸』。龍族星系惑星への入港を求む。」


 民間輸送船『曇天丸』の艦橋に艦長は不在であった。現在は副長が最高責任者である。

 日頃は半袖軍服姿の副長であるが、今はごく普通の船員服の半袖であった。適温に保たれている艦内以外でも彼女は半袖。ポリシーである。

「副長、自動返信来ました。」

 明るい緑色の水夫服の通信員が副長を呼び出す。彼女の眼鏡にはガラスが4枚。腕時計は4つ。

「なんか変わったこと言ってる?」

「いえ、通常の『入国目的と入港希望惑星を3つあげよ。』だけです。」

 少しぶ厚めの下唇を人差し指で軽く弾く仕草をする副長。

「んんん~。『目的は貴星域の商社“ダン&ドラ・カンパニー”との商談。希望入港先は…本星から近い順に3つ』で返事して。」

「了解しました。返信っと。でも、ウチみたいなド田舎船籍の中古輸送船は端っこの惑星の港に回せれるんでしょ。」

 通信員は左手にはめた4つの腕時計型情報端末を視線入力で開いていく。

 【龍族】の支配星系は【犬神】や【虎族】ほど数は多くないが、領地は広大である。【虎族】星系側から入ってきた『曇天丸』としてはあまり遠方の惑星への入港は避けたいところだ。通信員の端末は【龍族】の辺境惑星のデータを表示していく。

 副長は通信員をまじまじと見つめて言った。

「ド、は余計だ。…マイコは知らないのか?」

「え、何をですか?」

 マイコ通信員は艦橋のメンバー中では“入りたて”に近い。4枚の情報画面眼鏡をクイッと直しながら回転椅子を回して副長に向き直る。

「猿族星系の惑星アイアイはウチの艦長の母星だよ。」

「え、そうなんですか!…でも艦長って猿族でしたっけ?」

「うんニャ。混じりすぎていて自分でも何族かわからないらしい。母星といっても、生まれた星くらいの認識さね。」

 ピン。

 音がするなりマイコは自分の担当機器に向き直る。思ったより返信が早い。

「副長…返信来ました。」

「あいよ。向こうさんは、どこに行けって言っている?」

「それが…自動返信ではなく管制官からの直接回線です。」


「えー。それじゃ【龍族】本星系の第五惑星に入港できるの~。」

 副長にたたき起こされた艦長は、いつもの自慢のメイクなしで艦橋にたどりついた。自慢の化粧術といっても流行から二世代は古い。

「【龍族】の中心部近くの太陽系に入港できればオンの字だと思っていたら、本星の二つ隣の植民星港への停泊が許可されました。」

 副長は(スッピンの方がかわいいのに、なんでヤマンバみたいな化粧をするのだろう)と考えながら報告する。

「んーと、んーと、前回情報をあげたから信用されているのかな?」

「その分結構な料金が支払われました。艦長も“うわぁ蛮族のくせにハリ込んだなぁ”って驚いていたじゃないですか。」

(なんで、吸血鬼の家政婦みたいな真っ黒のヒラヒラに白がチラ見えするドレスを着るのだろう。…全然似合っていない!)

「あ、そうだっけ。じゃ、じゃあ、今回の情報がスゴイのかな。」

「まだ何も伝えていません。せっかく得た情報を通信で送ったりしたらインターセプトされるにきまってるでしょうが。」    

 高度に複雑暗号化した上で超圧縮してデータ転送したとしても、【九尾】や【猿族】の高性能索敵艦に傍受されれば即刻解読されてしまう。

 何よりもこの銀河宇宙には“妖精”という存在がいる。“妖精”は記号化された「情報」ならば手で触れるように知覚が出来る。精神生命体である彼らは物質宇宙とは異なる別空間の知性体であるため距離や時間の概念からは完全に外れている。さらに貴重な「情報」には好奇心旺盛である。

宇宙空間を飛び交うデータは全て“妖精”の目にふれるのだ。

「じゃあ、なんでこんな“ド”田舎のオンボロ輸送船を一族の本星のすぐ近くまで迎え入れてくれるのよ!!!」

 副長の身長は180cmちょうどである。その副長を見下ろして怒鳴る艦長の顔はとても小さい。

 高2まで銀河宇宙芸能界有数の学生モデルだった艦長の顔は整っている。

 しかし頭の中は空っぽ。副長はため息しか出ない。

(なんで海賊船の船長なんかしているんですか?芸能界に戻れば今の数倍は楽勝で稼げるでしょうに。)

 副長は思い出す。この艦長の作った募集文句を。

  

  【[ 求む海賊船乗務員。現在全職可能です。当方は艦長。戦艦を持っている方=超優遇!! ]】

 

 あまりのヒドさに興味をそそられ、こっそり覗きに行った副長は集まっていたメンバーのさらに途方もなさに、つい声をかけてしまったのだ。

 その結果、その場で経験者とばれて、あっという間に副長のポジションを拝命した。

(やっとのことで半人前の海賊家業ができるようになったと思ったら…)

 操艦と戦闘担当だけは副長のツテで“本物”を用意した。

 『全員女性の海賊船ってヨクね?』という艦長のバカな発言とそれに『うんうん、それで行こう』とノった首脳部の開催したオーディションに旧友たちを参加させるのに副長は全財産を投入するほどの一苦労があった。いや一つや二つではきかない。山ほどの苦労であった。

 かくして、ガールズ海賊船は誕生した。


「艦長、【龍族】はつい最近まで大変な内乱があったことはご承知ですよね。…星系全域まだまだ警戒は相当厳重なはず。それなのに…。」 

「うーん。たしか総族長が五体バラバラにされて…死んじゃったんだっけ。」

 両手の人差し指で左右のこめかみを押さえつけ、頭を斜めに落とすポーズは、ホントーーーにバカっぽい。副長は目を逸らす。

「生きてます。いや生き残ったんです。部下が頭部だけを必死で守りきって……。確か、その部下って猿族だったはず…。」

「じゃあ、ウチが猿族船籍だから本星にご招待されたんだ~。よかったよかった。」

 副長は心の中で軽機関銃を艦長のドテッパラに撃ち尽くす想像する。全弾撃ち切ってやっと副長は心の平静を呼び戻す。弾倉を三回交換したが。

「あー。フクチョー。お楽しみのところすみませんが、そろそろ入港審査電波の範囲です。席にお戻り下さい。」

(だ、誰が楽しんでいるって・・・)

 古くからの知り合いで、しかも無理矢理ガールズの“メンバー”に入れた情報担当マサコの言葉に両手をワキワキさせながら副長は自分のシートに座る。「この年齢でガールズって。あんた自身も無理があるだろ」というマサコのセリフは今も刺さったまんまだ。 

 本星星系内の宇宙港への接舷が許されたのだから入港審査はきちんと総員配置で受ける義務がある。

 半袖を隠すために上着を引っ掛ける副長の後ろ=艦長席から「どんな審査かなワクワク」というつぶやきが聞こえたような…「水着審査なら自信あるんだけどな~」いやこれも気のせい!全て妖怪のせいだ!

 艦橋正面の一番大きな画面が開く。整った顔立ちの管制官がニッコリと微笑んでいる。銀河宇宙標準、以上のハンサムな彼であったが、両の瞳を見ると「ああ、龍だな」と納得する。哺乳類出自でないその縦長の虹彩はゾクリと恐怖心を呼び起こす。

 艦長の顔がようやく引き締まる。遅いわ。

『輸送船“曇天丸”のみなさん、遠路ご苦労様です。早速ですが誘導ビーコンに従って御入港下さい。【龍族】星系を満喫されますように。』

 画面は唐突に切れた。

「えっ、あれだけ?」

 艦長のつぶやきにマサコ情報員が返事をする。

「ものっスゴイ数の索敵電波が艦内をスキャンしました。たぶん艦載情報機器は全て“まるハダカ”にされてますね。」

「いや~ん」

 あえぎ声を無視して副長は自分の“妖精”を確かめる。

「上位の“妖精”が近くにいた…いる?……“妖精”がまだ艦内に居座っている…か。」

 修羅場経験のある副長や旧友たちは慣れたものであるが、艦長と同期の艦橋クルーは驚きの声を上げたり、思わず周囲を見渡す。

「“妖精”が見えるわけないだろ。それよりも…マサコ…外にはアレいる?」

 艦外情報を仕入れていたマサコはため息混じりに小さく肯く。

「な、何がいるの…もしかして幽霊…? 今って、お昼どきよね?」

 艦長は幽霊が大好きである。銀河宇宙の超科学技術をもってしても、幽霊や妖怪の存在は失われなかった。UFOという言葉も健在である。

「宇宙に夜も昼もありません。幽霊もいません。」 

 そういうのが嫌いな副長は言いながら指で↓と左右を艦長に示す。きょとんとする艦長に情報官が解説する。

「曇天丸はタグボートならぬ戦闘艦艇に誘導されています。」

 マサコが続ける。ベテランの保健室の先生のようなマサコは艦長には親身になってくれている。

「3隻とも【龍族】の標準的な駆逐艦です。1隻だけでも戦闘力は本艦の5倍以上。3隻全てから強力な誘導ビーコンが放たれています。あはは、“曇天丸”は鹵獲した“敵”戦艦並の扱いですね。こりゃあ、逃げも隠れもできません。」

 艦橋は沈黙に支配される。

 マイコ通信員が手を挙げる。「どうぞ」と艦長。なんなんだ。

「もしかしてだけど、もしかしてだけど、ひろーいところに連れて行かれてビームでボッカーーン、はい終了ってことは…(半泣き)」

 その泣きそうな声を聞いて無口な操舵手のマキコが珍しく声をかける。彼女も副長が苦労して入れた一人である。こけしのような髪型ではあるが艶やかな黒髪は年齢を曖昧にしている。

「ん、確かに広いところに連れて行かれてる。」

「前方はだだっぴろーいエリアみたい。うん、あそこならば撃ち放題だね。」

 マキコの配慮をマサコが台無しにする。

 ひええええええ。と声にならない声があちこちから立ち上る。それらが消えきる前に機関主任のマミコが手を挙げる。艦長がどうぞ、と。

「エンジン強制停止されました。部下たちはさっきから天手古舞いです。あーどーしようもないですね。…両手両脚しばられた感じ。以上。」

 マミコが言い終えるのを待っていたかのように、艦橋の、いや艦内全ての情報画面が空間からフッと消え失せる。独立しているはずのマイコの腕時計型情報端末も全て終了していく。

「ああー、まだ復活の呪文メモしていないのにぃ~」

 意味がワカラナイ。

「…両手両脚しばった上に目隠しまでする、こりゃあ立派な、ドS行為ですなぁ。」

 マサコは形だけ機器を操作してみるが、全く反応がない。

「艦長、情報・探索・探知全てのシステムが十重二十重に完っ璧にしばられてます。こういうプレイはお好きですか?」

 問われた艦長はアゴを両の手のひらの上に…物思いに耽っているのではなく、全ての指を歯でかみしめていた。ガジガジガジと。

「ふ、副長~ぅ。どうしたらいい…?私たち、“まな板の上の恋”←ラブ&ピースよ~」

 こいつ、まだ余裕あるな。

 副長は心の中で重機関銃を艦長に撃ち込む用意を始める。よっこいせー。


 輸送艦『曇天丸』いや海賊船“ドンテン”は大理石よりもなお白い、磨き抜かれた宇宙港第一ドッキングポートに着底した。

いや、させられた。船員30人弱の運命やいかに。


 日本は宇宙人に侵略されました。

 

ご訪問、ご一読いただきありがとうございます。

なんか…出てきました。勝手に話がすすんでいきます。

誰だこいつら、何をするつもりだ?って感じで話が浮かび上がってくるのは楽しいのですが。

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