「大阪府大阪市浪速区日本橋西あたり…電気街を背後に守る感じで」
宇宙局遊撃班の戦いです。
「大阪府大阪市浪速区日本橋西あたり…電気街を背後に守る感じで」
「「「変身!」」」
全然揃っていない、3つのかけ声が夜の大阪上空に響き渡った。
スカイバイク「竜巻号」と名付けられたタイヤのないオートバイに跨る3人は一瞬で姿を変えた。
装甲戦闘服=スーツ姿の3人の見た目は革に似た材質の黒い上下姿。バイク乗りかスキー・スノボ姿と遠目には変わらない。
しかし腰部には太めのベルト。“妖精”が中央に位置取られたそのベルトはとても眼を引く。
【ウィーズ】の腕と足には細めの2本の銀ライン。【ウェーバー】の腕と足には太めの1本銀ラインが装飾されている。識別用であろうか。もう一人の【ジョーカー】にはライムグリーンの太いラインが腕と脚部にある。なぜか彼だけ手袋が赤い。二人は濃いめの緑なのに。
(ワタルさんとサリーさんのデザインがペアルックなのはいい。ただオレの色遣いはもう少しどうにかしてもらいたい)
【ジョーカー】の不満に気づきもしない、リーダー【ウィーズ】から“妖精”通信が入ってくる。
『僕は竜巻号のバイクモードで試験戦闘を行うので、二人はアレでよろしく』
短く間があいて…
『はいはい。…あなた自身が“男のロマン”とやらを引き受ければいいのに』
サリー、いや【ウェーバー】の不満声は【ウィーズ】に笑い飛ばされる。
『ははは、“男のロマン”はジョーカーに任せた!頼んだぞ。』
「…はい。アイハブコントロール、OK」
その返事を合図に、3機のスカイバイクは距離を取った。“虫”の群れは大阪南西部から上陸したはずであるが、群れからはぐれたゲンゴロウはどこから飛来するかわからない。わかっているのは。精密機器に使われている金やレアメタルを目指して、この電気街が襲われる危険が高いこと。
『ゲンゴロウ接近。群れからの“はぐれ”か、海から直接来たのかわからないけど、10数匹来るわよ』
狙撃手であるサリーの機体【ウェーバー】機は索敵能力は他の機体よりも高いようである。
「モード変更…変形します。変身!!!!」
オレがつぶやく、いや意識したと同時にスカイバイクは変形を開始した。
バイク状態で機首、フロントカウルだった部分がオレの胸部と胴体に密着する。シート部分は谷折りして、背中の装甲になる。
スカイバイクの後部に集中していた推進器が肩とふくらはぎに移動。手足の末端が太く逞しくなる。細マッチョ体型だ。
底部にあった重力制御装置は二つに折れて股間部をガードする。安心なような不安なような。
バイクにまたがって飛行していた【ジョーカー】と【ウェーバー】は、あっという間に人型=パワードスーツ状態に変形を完了した。
龍族の【機甲兵】のように操縦席で座り込むタイプではなく、生身の身体の全身が装甲されている。(これが本来のパワードスーツだっけ?)
頭部ははオートバイのフルフェイス型のままであるが、首の後ろから両肩にかけて“妖精”が位置移動しているため、緊急時は“妖精”が防御してくれるはずである。【ウェーバー】だけは装甲戦闘服のときよりもアンテナが増えているように見える。
空中に浮遊する変形した2機は“妖精”から変身する装甲戦闘服=スーツを重武装させた外見である。殻付きピーナッツに手足が付いたような自衛隊の機動歩兵よりもスタイルが「人」に近い。いや推進器が大きな分、脚が長く見えてジョーカーは喜んでいた。不格好な【機甲兵】の容姿が気に入らなかったのだ。
(でも、関節部は装甲が薄いんじゃないかな?スーツのときと大差ないくらいかな?)
命を守る武装に不満が尽きることはない。が、
〈〈コクピットゼリーが全身をまとっている。機体全身を充填しているので衝撃などは緩和されるハズだ〉〉
心の中の疑問に対して、すぐに回答が思い浮かぶ。“妖精”モップが自分の中にいる感じだ。当意即妙である。
【ジョーカー】と【ウェーバー】が手足をながめたり、動かしている間に変形していない【ウィーズ】がゲンゴロウの群れに向かって行く。
スカイバイクの戦闘速度にウィーズは振り落とされそうになる。
(中型バイクに初めて乗ったときのようだ…ヤマハのRZだっけ…)
一息で日本橋の最南部まで移動し、目の前に屯するゲンゴロウの群れ、その先頭の一匹に攻撃を開始。
「とーーうーー」
スカイバイクを蹴り出し、その反動でゲンゴロウにウィーズキックの一撃…いや、
「蹴り蹴りけり蹴りけり蹴り!!」
【ウィーズ】の乱れ蹴りを受けたゲンゴロウは地面、日本橋のメインストリートに墜落していく。
ゲンゴロウの自重プラス乱れ蹴りの衝撃力で、胴体の1/3ほどが、道路の中央に深くめり込む。
しばらくは翅をバタつかせていたが、すぐに力なく停止する。
蹴り終えたウィーズは最後の蹴りを反動に空中に高く跳び上がり、大きく背面回転。その真下にスカイバイクが滑り込み、ウィーズはストンと着席する。アクセルを回す動作もなく、スカイバイクは次のゲンゴロウへと飛びかかっていく。
ウィーズの攻撃に間を置かず、残る2機も攻撃を開始した。
【ウェーバー】のスカイバイクの機首にあった二つのビームキャノン(横長の六角形で内側には放射状のスリット入り)は人型に変形したことにより、両腕に装備されている。太くて長い、ビームキャノン「ハード砲」である。
『最大出力だと一撃で急速冷却が必要。近接砲撃だと6射で冷却開始。左右に備えているのは交互に使うため、か。』
【ウェーバー】の言葉は独り言ではなく、他の二人に伝える目的もあるのだろう。
『ビームには散弾モードもあるのか。撃ってみるわ。』
飛来する3匹のゲンゴロウに躊躇いもなく急接近するサリー。一気に3匹の下に回り込む。【ウェーバー】は両腕を構えた!。
「いっけーーー」
道路を背にしたパワードスーツの両腕から吹き出し花火のようにビームの弾丸が放射される。小さな弾なのでゲンゴロウの甲皮を貫通する力はないが羽ばたいている翅は全て粉砕されていく。空中をよたよたとフラめくゲンゴロウ。
【ジョーカー】の機体が音もなくよろめくゲンゴロウの背後に貼り付いた。そしてそのまま地上へと頭から突っ込んでいく。ゲンゴロウの自重プラス機体の推進器の加速で、捕らえられたゲンゴロウは胴体半ばまで地面にめり込んでしまう。埋まらなかった胴体の半分は激突の衝撃で粉々になる。 残りのゲンゴロウは【ウェーバー】自身の再砲撃とウィーズキックで空中で粉砕されつつあった。
二人とも地上やビルに被害がないよう攻撃位置を細やかに配慮している。
『ジョーカーのワザって“飯綱落とし”かな?シブいねー』
『すみません、わかりません。』
ウィーズからの通信は若いジョーカーには意味が伝わらなかったようである。
またたくまに10数匹を透明なカケラに変えた3人は「日本橋3」の信号あたりの上空で待機する。
次のゲンゴロウまで間がある。
『というよりも道頓堀の方にゲンゴロウが集まっているみたい。こちらに来ないのはなぜかしら。』
【ウェーバー】機の索敵能力は宇宙人の偵察衛星とリンクしている。さらに自衛隊の索敵ヘリ“ニンジャ”の情報もインターセプトしている。
『…その集まったゲンゴロウたちは次々堕とされているねぇ。自衛隊の機動歩兵科かな。なかなかやるねぇ』
二人の通信の間に、ジョーカーはあることに気づいた。
(道頓堀のゲンゴロウを退治している部隊の中に、ゾッカー戦闘員シグナルを発している者がいる。)
ジョーカーは体内に埋め込まれたゾッカー装置で解析を始めた。
(戦闘員番号【??特??AAA????】なんだこりゃ。特別コード…秘密戦闘員なのか?)
次の瞬間、【ジョーカー】=秘密組織ゾッカー戦闘員班長グレイ=久良木健人の脳裏にピキーンと走る“何か”があった。
それは宇宙人の機動歩兵の情報機器の能力ではなかった。“妖精”それも真妖精=モップの特別な力でもない。
久良木健人という人間の持つ力であった。
こういう場合はほとんど的中する、あの勘が閃いたのだ。
たいていは“悪い予感”と呼ばれるあの勘である。
『あ、ジョーカーどこに行く?』
ウィーズの静止に返事する間もなく、【ジョーカー】は機体の全てのスラスターを最大噴射していた。
その地点へ向けて。
『は、速い~。この変形式機動歩兵って、あんな高速機動が出来るんだ。』
あきれたように【ジョーカー】の光跡を眺める二人。
『いや、【ウェーバー】機が砲撃とそのための索敵に特化した機体であるのと同様に、【ジョーカー】機もスペシャルのハズだ。』
しばらく考え込むサリー。
『高速移動、高機動戦闘って感じ、かしら?ワタルの機体よりも速いの?』
その疑問への回答は予想外のものであった。
『ゴメン。よく知らないんだ。五島さんの話をちゃんと聞いてなかった。ホントごめん。』
「はぁ~」
こういう人である。と、十分承知しているはずのサリーであるが、ときどき疲れる。
(でも、出会ったときからそうだった。)
『こっちは僕たちで処理しよう。サ…【ウェーバー】は次々撃ち落としておくれ。ゲンゴロウの墜ちる先は僕が蹴りで向きを変えるから。』
『了解。なるべくビルに被害が出ないようにして撃ちまくるわ。』
【ウェーバー】は両手を揃えて、近づいてくるゲンゴロウの群れに砲口を向ける。
「拡散ハード砲、発射!!」
十数匹の“虫”の群れが、それ以上の肉塊、いやガラス塊に粉砕されていった。
「せいや、せいや、せいや、せいやーーー」
大きな塊から順に大通りの中央付近へと向けて蹴り出していく【ウィーズ】はまるで空中の階段を蹴り昇っていくように見えた。
それは一瞬の油断であった。
イチノジョウは道頓堀川を中心に、飛来する“虫”から順に一刀両断、あるいは返す刀で瞬く間に三つ以上に分断していく。
“黒蒲公英”は“虫”の動きを止めていく。一瞬ではあるがその能力は空中の広範囲に及び、ゲンゴロウの群れは彼女を中心とした半球のエリアに一歩も立ち入れない。“バンザイ男の看板”のあるビルの屋上は半球状バリアに守られているかのようである。
動きを止めたゲンゴロウは若様とウシマツが次々に頭部を斬り飛ばし、あるいは打ち砕いて、とどめを刺していく。
4人は急ごしらえとは思えない息のあった連係で道頓堀川をゲンゴロウの半透明な死体で埋め尽くしていった。
【ゲンゴロウ】データ:
成虫は水の抵抗の少ない流線型の体型、効率よく水を掻くことのできる毛の生えた長く太い後脚、水中呼吸用の空気を溜める構造など、遊泳に非常に適した体を持つ。水生昆虫の中でも特に遊泳能力に優れており、獲物を求めて活発に泳ぎ回る。
飛翔能力はごく一部の種を除いて退化しておらず、夜間活発に飛び回り水系間を移動する。飛翔に関してはほとんどの種はいったん上陸してからでないと飛び立てないが、例外的に汎世界分布種のハイイロゲンゴロウは【遊泳中に水面から直接】飛び立つことができる。
道頓堀川を泳いできた一匹のゲンゴロウ。そいつは感覚器を用いてか、あるいは思考能力があるのか、空を飛ばずに泳いで近づいてきた。
“虫”の大好物のソレに最接近するまで、その一匹はゆっくりと、しかし着実に水の中を進んできたのだ。
そして、バンザイ男の看板の真下にそのゲンゴロウは辿り着いた。
仲間の死体が川に氾濫しているのも幸いした。そのゲンゴロウは4人に全く気づかれることなく、真下に来られたのだ。
目標の真下。水面下でゲンゴロウは何を思考したか。
太い脚がグイっ水中を搔き、バシャンと水面を叩く。大型バスサイズのゲンゴロウが弾丸のように水中から発射された。
その勢いは衰えず、翅を全開に広げ一息でビルの屋上にドサリと乗りあげる。
ゲンゴロウの目の前には“黒蒲公英”の姿があった。
“黒蒲公英”の手が届く距離に、無機質のように半透明な物質、無表情な“虫”の頭部が出現した。
離れてしまっていたウシマツはその光景に息をのんだ。
「これじゃない」とでも言うように、ゲンゴロウはその強力な前脚を一振り。
ウシマツ同様、“黒蒲公英”から離れてしまっていた若様の目は見開かれた。
丸太のようなゲンゴロウの前脚が“黒蒲公英”の身体をなぎ払う様子が凍り付いたようにその網膜に映った。
日本は宇宙人に侵略されました。
今回もご訪問頂きありがとうございます。
大阪の戦いもようやく後半戦…かなぁ??
早く宇宙艦隊戦をしたいです。




