「大阪府大阪市浪速区日本橋西あたりの上空で」
それぞれの点が結ばれていきます。
「大阪府大阪市浪速区日本橋西あたりの上空で」
「ノータム、何それ? 美味しい?」
「…飛行通知書のことよ。五島さんがワタルに出しとけよって言ってたじゃない!」
え、…オレたちの飛んでいる空域って…この高度だと航空路に重なるんじゃないかな~(冷汗タラリ)
「うわ、忘れてたぁ。これは、あとで怒られるなー」
ワタルさんは後で五島さんに叱られるよりも、後で「も」サリーさんに叱られ方がいいと思う。
こちらが“バードアタック”のバード扱いされたらどうするんだ、この人はホントに…。
自衛隊某所防空監視所情報室。
「な、なんて速さだ…」
「どうした?」
「はい。大阪方面に高速で飛行する物体を複数確認しました。」
室内は静かであるが一気に緊張感が高まるのが誰にもわかった。
日頃は10人ほどしか詰めていない情報室内は“虫”の侵攻に対するため今は満員=全ての椅子が埋まっている。
現在、“大進攻”時よりは少ないものの、群れの襲撃としては最大規模の“ゲンゴロウ”が大阪を目指している。
迎撃に失敗すれば“虫”の大群が大阪中を食い荒らし、そのあとは京都か神戸か、あるいは名古屋方面へと延伸する可能性は高い。また“虫”の大群が拡散すれば殲滅のため関西全域で市街戦が想定される。人口密集地での甲虫との戦闘後はどれほどの廃墟が広がることか。
そんな不安が充ち満ちた状況下での高速物体の確認である。
室内の全ての人間が天秤はかりが悪い方へ傾いた気分となった。
「“虫”か? 数はどのくらいだ。」
「えっ、いや“虫”…ではないようです。こんな速度の“虫”はこれまで例がありません。…数は3です。」
すでに他の隊員が別の画面で確認作業を開始している。その隊員も「えっ」と驚きの声をあげる。
「こんな速度って…ええっ、空自の“心神”改、いやそれ以上の速度じゃないか!!」
別の隊員がやや大きめの声を発した。彼は冷静に自らの任務を務めていたのだ。
「識別コード発信しています。【ウィーズ】【ウェーバー】【ジョーカー】を確認。…宇宙局ガーディアンズ所属です!」
室内の全員が安堵のため息をいっせいにもらす。どれもが深く、長いものだった。
そのあと聞こえてきた誰かのつぶやきは全員の思いを代弁していた。
「宇宙人のヤツら、いっつもルール無視だ…。」
実際は宇宙人が悪いのではなく、正義の味方【ウィーズ】が悪いのだった。
オレたちは伊豆沖から海上を一直線に飛んだ。関西圏内までほんとに30分かからなかった。
この新型スカイバイク「竜巻号」の飛行性能は申し分ない…って言っても今のところ直線飛行だけだが。
不可視バリアと装甲戦闘服のおかげで風圧や衝撃はほとんど感じなかったし、左右や上下への微調整も思った通りにしっくりくる。
オレの愛車「轟天号」(自転車)と比較するのはアレであるが実戦で最終テストをするだけあって念入りに仕上げてくれたのだろうか。
「大阪府内上空まであと数分だ。到着したらそれぞれ予定の行動をよろしく!」
オレたちは遊撃班と呼ばれることが多いが、班長の指示はこのようにぞんざいである。
子供向け特撮番組の主人公が、予定はいきあたりばったり、進行はおおざっぱ、ってのは納得いくような・いかんような複雑な気分。
ましてや本来オレは敵側の一員なのである。悪の組織が周到に計画・準備した作戦を偶然や幸運、いきおいだけで阻まれて…。
(でも、この人「運」のパラメーター高そうだしなぁ。敵に回したら一番面倒なタイプが正義の味方か~)
などと考えている内に3機の機体は大阪府内に入ったと脳に連絡が来る。
その連絡には愛犬“モップ”が前足を揃えて立ち上がり、オレに抱きついてくる感触に似た優しい気持ちがともなっている。
“モップ”のことは戦闘支援“妖精”よりすごい【真妖精】だって説明されたけれど、オレには亡くなったモップが生まれ返ってくれたとしか思えない。
(モップ、準備はいいか?)
〈ハッ、ハッ、わんっ。〉
オレたちは大阪にたどりついた。あっという間に。
中学の時の修学旅行の往路の楽しく長い時間とえらい違いだ。何かわからないけど「返せ~~~」気分。
大阪南港上空に現れた“虫”の大群、中型サイズの“ゲンゴロウ”の群れは陸上自衛隊のパワードスーツ隊に誘導されていた。
先頭を走る“機動歩兵”が抱え持つのはボールサイズの金塊。“虫”の最頻捕食接収対象物=好餌である。加えて各機動歩兵は絶妙の距離を保って“虫”の群れを引きつけていた。
“虫”の群れは大阪港区から大正区や此花区へと導かれ、さらにそれぞれ二つに、計4つに分散されつつあった。
しかし、集団に従わない、あるいは意図的に離脱していく個体も少なくない。それらは金塊という餌を見失ったあと、自身で捕食対象をさがし直したようで、それぞれが人々の避難しているシェルターや家電量販店、貴金属店などを襲撃していく。
各地で装甲戦闘服、通称“妖精服”へと変身した陸上自衛隊普通科隊員やシェルターに入りそびれた人々の中にいた(最後尾を守っていた)民間戦闘員が“ゲンゴロウ”と戦いを開始した。
“妖精服”姿の自衛隊員が大阪のあちこちでゲンゴロウに立ち向かっていく。周辺施設への被害も考慮しつつ最大の戦果を得なければ行けない。隊員たちは最善を尽くす。街中でりゅう弾砲を撃ちまくるわけにはいかず。携行火器で火力を集中し、一匹一匹と殺虫していく。
民間戦闘員はゲンゴロウをひきつける者、一般人を避難誘導する者、と即座に“妖精”通信で打ち合わせ、行動を開始していた。
“虫”を倒すのではなく、自衛隊員が来るまでの時間稼ぎ。勝利条件はあくまでも自分と周囲の人命である。
装甲戦闘服は装着した人間の身体能力を数倍から十数倍に引き上げ、ビーム銃とビーム剣は“虫”の体皮を容易に貫く…はずであるが甲虫であるゲンゴロウはやっかいな“敵”であった。
大阪のあちこちで火の手が上がり始めていた。長い長い夜はまだ始まったばかりである。
「牙閃真空剣!!!」
ビルの屋上から空中の高みへと一直線に跳び上がりながら、男は大剣を振り回し、すぐに鞘に収める。
抜刀術、もしくは居合は、鞘から抜き放つ動作で一撃を加えるか相手の攻撃を受け流し、二の太刀で相手にとどめを刺すのが本来の形である。しかし男の腰の刀は巨大である。長い、ではなく、大きい、のだ。一動作で抜ける代物ではないはずだ。
戦国時代の日本刀は敵を切るよりも殴り殺すことを主眼においており、肉厚の刀が使われていたという話がある。戦場で敵は鎧に身を包んでいる。(ふつう裸で戦場には行かない)敵を切り倒した後は刃こぼれや人の脂で切れ味が落ちる。(←カルビ肉斬ってみ)そのため“切る”を目的とせず“完全な打撃兵器”として使われた、あるいは作られた日本刀もある、ということだ。
戦場刀としては、巨大な刀は理にかなっているであろう。しかし男は目にも止まらぬ居合の早業を足場のない空中で駆使し、しかもゲンゴロウの硬い甲皮をものともせず、縦に真っ二つ、あるいは上下への二閃で団子のような3つの塊を次々と量産していく。
しかも、切られたゲンゴロウは全て道頓堀川にドボンドブンと一直線に沈んでいくのだ。
おかげで道頓堀川を挟む店や建物への被害は最小限ですんでいる。
それでも、かなりの数のゲンゴロウがイチノジョウを迂回して大阪道頓堀の戎橋…バンザイ姿の大看板のある建物の屋上へと向かっていく。真空波でゲンゴロウを片っ端から斬り捨てていくイチノジョウと逆方向から飛来するゲンゴロウもかなりの数だ。しかし
「行け綿毛たち!忌まわしき思い出と共に!」
少女が小声でつぶやくと、言い終えるとほぼ同時に飛来してきたゲンゴロウたちは一斉に動きを止める。
その数、一〇匹?いや二〇匹?まるで時間を止めたように、ビルの屋上に立つ少女の前方上空のゲンゴロウたちは羽ばたきすら出来ない。 そのゲンゴロウたちが落下するよりも早く、二つの影がビルからビルへと飛び交う。
一つの影は両手の武器、七節棍をムチのようにしならせ、あるいは槍のように一直線に変化させて、動きを止めたゲンゴロウの頭部を粉砕していく。
ボコンボコンと無造作に、しかし全てが的確な一撃である。
通勤通学バスほどの大きさのゲンゴロウである。頭部もけっして小さくはない。小学生の運動会の「大玉ころがし」ほどはある。
それなのに江戸時代の町人のような姿…いや、今は足軽のような装甲をいつの間にか装着しているウシマツは飄々とした見かけとは裏腹に「大玉」サイズのゲンゴロウ頭部を軽々と砕いていく。
「お嬢さんのおかげで、“目隠しナシの西瓜割り状態”ですなぁ。感謝感謝~」
軽口を叩きながらも、両手の旋風は片時も休まない。しかも驚いたことにウシマツに頭部を破壊されたゲンゴロウもイチノジョウに斬られた“虫”同様、まっすぐに道頓堀の川面へと吸い込まれていくのだ。
「ふふふ、オジサンも只者ではないですね。」
“黒蒲公英”は相変わらず無表情であるが、心中にはさざ波が立っている。護衛のイチノジョウは予想していたがウシマツの戦闘力も尋常ではない。そして何よりも、二人に守られる立場はずの若様、である。
“貧乏旗本の三男坊・徳田新之助”のように“上物”の着物・袴姿だった若様は“妖精”によって戦闘スタイルに身を変じていた。
その姿は、むかしばなし絵本「うしわかまるとべんけい」のそれであった。←もちろん、牛若丸の方である。
男子の平安装束である水干、いや狩衣にそっくりな姿。それを薄く透明な羽衣がふわりと浮かんで纏っている。
いや違う、羽衣が若様の身体を空へと浮かべているのだ。(…素直に天の羽衣と言えばいいのに)
ちなみに、さすがに笛ではなく若様は刀を振るっている。
イチノジョウの大刀に比べれば五月人形の弓太刀のように、か細い刀である。
(若様の刀は…日本刀っていうよりもフェンシングの剣みたい。大きな針のようだわ)
“黒蒲公英”の目に映るその剣は“切る”ではなく、“刺す”ための武具にしか見えない。だが、若様が牛若丸のようにひらりひらりと宙を舞うごとに、ゲンゴロウの頭部はすっぱりと切り落とされていく。
イチノジョウやウシマツに比べれば若様にとってはゲンゴロウの頭部は巨大である。それが舞うような軽やかな一振りで「大玉ころがし」頭部がすぽんすぽんと斬り飛ばされていくのだ。
かつ従者二人と同じく、若様に斬られたゲンゴロウの頭部も胴体も道頓堀川へと正確に水音高く落下していく。
【鎧袖一触】、全て【一刀両断】のイチノジョウ。
ましらのごとく【柔能制剛】のウシマツ。
若様の振るう【三尺秋水】は月光に輝く。
そして“黒蒲公英”の黒綿毛は全てのゲンゴロウの弱点を【天元突破】していく。
[正しい四文字熟語でないのはどれでしょう?]
大阪・道頓堀川に架かる戎橋は「ひっかけ橋」と呼ばれることもあるが、今はゲンゴロウたちが次々と「落ちて」いた…。
大阪日本橋。「東のアキバ、西のポンバシ」あるいは「日本三大電気街のひとつ」(もう一カ所はどこ?)と呼ばれるこの地は『オタロード』を構成するマニアックなお店もひしめき合い、日頃はけっこうな夜遅くまで煌々とした輝きが絶えない。人の数も田舎者から見れば「今日はお祭り?」と思うほどであり、歩いているだけで楽しくなる大通りである。
だが現在の状況は“虫”特別警戒警報発令中である。天災に準ずるとして“虫”警報は気象庁が発表しているが、実際は戦争状態である。 近隣の人々は全てシェルターに逃げ込み、遅れた人はこの街から一歩でも全力で遠ざかっているはずである。
3機のスカイバイクは闇に閉ざされ、風の吹きすさぶ音以外聞こえない大阪日本橋上空に到着した。
「ふむ、自衛隊は善戦しているようだね。“虫”を上手に誘導しているようだ。」
自衛隊からか宇宙局からか、どちらからにしてもかなりの重要情報データに軽々とワタルさんはアクセスしている。そのデータはすぐにオレとサリーさんに転送される。信用されているのか、大雑把なんだか。
その作戦案を脳が認識した途端、声がもれた。
「えっ」(…こんな作戦って…あり?)
サリーさん、もとい作戦行動を開始したので【ウェーバー】も同じ思いを抱いたようだ。
「自衛隊がこんな大胆な作戦を執るって。意外だわ。」
二人の驚きに比べ、最初から平然としていた【ウィーズ】はこともなげに口を開く。
「せいぜい協力をしましょ。まぁ最初は伊豆からここに来るまでに打ち合わせたとおりに。」
「「…了解…」」
オレはひっじょーーに、非常に不本意であるが、小さな声でつぶやく。
「変身っ!」
【ウェーバー】も複雑な表情でつぶやく。あー女性だからオレ以上に嫌かも。
「へん…しん…。」
「ダメ、やり直し!きちんと漢字で言わなきゃ♪」
うれしそうな【ウィーズ】の顔。これってDVにならないかな。どこかに訴えられないものか!
「変身!」
女性に嫌がることを強いる正義の味方が目の前に存在した。
スカイバイク「竜巻号」3機の戦闘モード起動認証は登録された各機の搭乗者本人の音声のみ。
しかも「変身」以外の単語や音に登録変更は不可、と事前に整備員に根回しし、プログラミングしているとは。
正義の味方の熱意は方向性を間違っている。そしてオレは再度認識した。
悪の組織の一員として倶に天を戴かず=【不倶戴天】と。 セクハラすんな!
日本は宇宙人に侵略されました。
ご訪問ありがとうございます。
早く戦闘場面に行きたい~というストレスでいっぱいでございます。
次の更新は早く出来るよう頑張ります。
【天元突破】は新造の四字熟語のようですが…それとも本当は何か出典がある四字熟語でしょうか??




