「そうだ、大阪に行こう!」
緊迫する大阪はさておきまして…。
「そうだ、大阪に行こう!」
『第2宇宙港』は南伊豆の弓ヶ浜の沖合に作られた。
明治維新で開港した下田港と奇しくも似た状況ゆえである。
大きく異なっているのは入港する“船”のサイズである。ペリーの乗ってきた黒船と宇宙戦艦では大きさだけでなく周囲に与える影響もケタ違いである。 東京湾内には連絡シャトル用の『第1宇宙港』が作られた。それとは別に巨大な宇宙戦艦=恒星間ワープが可能なサイズ、が直接停泊可能な港も必要とされた。東京湾では緊急時の急速離着港の取り回しが不可能なことに加え、周辺地域に膨大な負荷がかかるため、この地が選ばれた。
あってはならないことであるが、地球表面上でエンジン最高出力し、ワープを開始すればどうなるか。
宇宙戦艦がワープ空間に突入する際、数値化困難なほどの重力が発生する。光速以上の運動エネルギーが物体に生じるため、その質量は月の数倍から何十倍にふくれあがる。理論上は宇宙戦艦を包み込む『バリア』が重力波も遮断しているはずであるが、何事も常に計算通りイカナイのは地球だけでなく宇宙でも共通であるようで、惑星上でのワープ突入は厳禁とされている。
ちなみにその宇宙戦艦を包み込む『バリア』の存在がワープ空間への突入と通常空間への復帰を可能とした一面もある。もしもワープイン・ワープアウト時にデブリが戦艦と接触したならば…?対消滅反応に匹敵する大爆発が広大な空間を無に変えてしまう。宇宙戦艦を覆い守る『バリア』は戦闘時だけ必要な物ではないのである。
などなど、万一の危険を念頭に置きつつ、日本上陸への利便性を考慮した結果、伊豆半島と新島の中間付近に『第2宇宙港』が急遽建造された。無論海流や自然への影響は大きかった。宇宙人の科学力による調査は数多くのマイナス要素項目を上げていったが、それでも『第2宇宙港』は伊豆沖合に浮かび上がることとなった。また新島を含めた周辺の島々にも様々な施設が作られ、軍事拠点化していっている。日本政府と宇宙人は島民達に最大限の好条件を与えたが、生まれ育った故郷を失った人の数は多く、その無念は計り知れない。
海陸の周辺環境への悪影響、国民への膨大な負担があっても巨大宇宙港を設置した理由はただ一つ。“虫”の侵略である。
「伊豆って有名な観光地なんですよね。…ゆっくり来たかったなー。」
いつものようにワタルさんに呼び出されたオレは不満タラタラである。『伊豆宇宙港』の広大な施設内では指定された喫茶店を探し出すのも大変であった。そして『宇宙港』らしい飲み物を注文してしばらくしたとき、サリーさんが自動ドアをくぐってきた。いつも一緒の二人にしては珍しく一人である。彼女はオレのお向かいに座り、ブルーベリーヨーグルトジュースを注文した。スナイパーは目を大切に、ですね。
「久良木くんってあんまり旅行とかしないの?」
「貧乏学生ですからね。それに休日もガンガン、バイト入れてましたんで…。」
しかーーーし、現在オレのサイフは少しふくらんでいる。バイト先の南部叔父さんがこれまで通り月々のバイト料を振り込んでくれているからである。
宇宙局に“出向”という変な立場となったオレにはその宇宙局から結構な額のバイト料が支払われている。(早朝、残業、深夜手当が毎回きちんと計上され、現場によっては僻地手当や危険手当も付いている!宇宙人の給与支払いはブラックの反対、ホワイトどころかプラチナシルバーと言えよう。)それに加えてこれまでのバイト料まで加算されているのだ。間違いではないかと叔父さんに連絡したのだが、
「なんかね、宇宙人じゃなくて宇宙局か、そこからウチの会社に『協力費』ってのが入金されるようになったのよー。だから健人くんにもお裾分けってわけ。無駄遣いなんてしないで~、って健人くんなら大丈夫かぁ。」
と首を傾げる内容を叔父さん、もとい南部支部長から説明されたわけであるが…。世界征服を目論む“悪の秘密結社『ゾッカー』”宛に日本、いや実質的には世界を侵略している宇宙人から毎月きちんと振り込みされるのってどうなの?
「それ、どこかの星のジュース?」
オレの回想をサリーさんの好奇心が断ち切った。卓上の白紫で満ちたドリンクの反対側にある黄緑色の飲料にサリーさんが注目している。
某男性の言葉によれば、この女性はコンビニで新製品飲料を見つけると必ず購入する“チャレンジャー”らしい。
「虎族星系の星が原産の野菜ジュースって説明でした。肉食の虎が野菜ってナニ?と思って買ってみたんですが…。」
「一口いい?」
オレが最後まで話しきる前に彼女の手が伸びてきた。
「トラッド13ドリンク、だそうです。で、でも…」
サリーさんはためらいなくストローに口をつけた。
(あ…間接キス…)とかは思わない、みたい。オレとは4、5歳くらいの年齢差のはずだが、日数以上に“大人”を感じるときがある。
中学の時や今の高校生活では年の差なんてめったに実感しない。せいぜい先輩後輩と先生くらい。ほんの数年の違いのはずなのに自分とは大きく異なる距離感、そして自分の小ささ。アルバイト程度であるが社会に出ると自分の経験値の少なさが情けなくなることがある。
「…マズい。」
人の気も知らず、サリーさんの顔は盛大にゆがんでいた。
「やめた方がいいですよ、って言う前にグラス掴むんだから~。(小声で→)宇宙人って味覚が全く違うか、それとも味音痴なんでしょうか?」
「いや、それワザとなんだってよ♪」
オレとサリーさんの間の空間に、ニュっと顔が突き出された。そして、ストローを咥えて一気に吸い込む。
「うびゃあ~。やっぱりマズイわ。」
サリーさんの彼氏であるワタルさんとガーディアンズの隊長である五島さんが並んで立っている。トラッドドリンクを飲んだのは当然ワタルさんである。謹厳実直、品行方正な五島隊長が他人のジュースを半分以上飲むなんてするわけがない。
で、宇宙原産のジュースを飲んだ当人は…さきほどのサリーさん以上に顔をしかめている。この世の物とも思えない味…地球外産だから当たり前か…を知っていながら大量に飲むってのはどういうコトなの。
「これ、日本で言えば青汁どころかウナギサイダーやキムチコーラの扱いだって。口の中でハジけるし、喉ごしは悪いし、ホントにもう。」
淡々と説明する五島隊長も微妙な顔つきである。この人も飲んだことあるのか!
「宇宙規模の罰ゲームドリンクじゃね?って、のんびりしている時間はないんだ、二人とも急ごう。」
オレはトン、と卓上に置かれた黄緑飲料のグラスから目を逸らす。(食べ物飲み物を残すと両親に厳しく叱られたもんだけど…今回はゴメン)顔を上げ、ワタルさんと五島隊長の顔を交互に見回す。
「遅れてきたのはワタルじゃないの。」
「いいから早く。急いで急いで~。」
ブツブツつぶやきつつも素早く立ち上がるサリーさん。負けじとオレも立ち上がり…ついトラッド13をグイッと飲み干してしまった。
「ぶひゃあぁ~。ああーマズい。」
「…なんで飲みきるのかねぇ?」
ワタルさんのつぶやきに五島さんが応じてくれた。
「しつけがいいんだよ。」
オレもサリーさんもカバンの類は持っていない。必要最小限の持ち物はいつも身につけてある。常在戦場。
「一堂さん達とも打ち合わせしていたんだよ~。終わったからすぐ出発ね。」
言い捨てるや、自動ドアが開くのももどかしい素振りでワタルさんは店を出て行く。
一堂さんってたしか…ガーディアンズ第2班の隊長だったよな。と早足でワタルさんを追いながら思い出す。五島さんと同じく警視庁から宇宙局へ移動したとか…。あ、狙撃の名手だっけか。いつだったかサリーさんが、
「私は火力重視だからけっこう大雑把な狙いでも撃っちゃうけど、一堂さんは連射良し、長射程良しの一発必中だから尊敬するわ。」
って言ってたような。
オレとサリーさんが自動ドアをくぐると同時にちいさな“チン”という音。手持ちの“妖精”から料金が引き落とされたことをしめす音である。紙幣と貨幣は宇宙人に関係する施設では使用頻度が減少している。
ごく普通の宇宙人の“一般市民”が地球に来ることはまだない。「戦地」であるからだ。どういう理由でか宇宙人のジャーナリストってのも来ていないようである。
宇宙人の“軍人”は全員が“妖精”を身につけているので、経済活動にリアルマネーはほとんど不要のハズである。例外は…余暇時間の賭博行為だそうな。そのときだけは銀河宇宙共通の紙幣や各星系や惑星の貨幣が乱れ飛んでいるらしい。
「仲の悪い【九尾】と【虎族】と【犬神】であってもサイフの中では種族差別は一切ない。」
オレに親しくしてくれる数少ない宇宙人、事務書類を書いたり出すときにお世話になっているゴットバームさんはそう言って複雑な笑みを浮かべていた。【龍族】である彼は地球人の目では年齢不詳であるが、オレから見れば立派な大人である。
広い宇宙港のあちこちに移動用のマシンが置かれている。
21世紀のはじめ頃一部地域で流行したセグウェイに似ているが、フワリと浮かび上がる重力制御装置を備え、他のマシン、通行人や運搬物などに衝突することは絶対にない。
宇宙人の超科学を体感できる一つがこの浮上移動ビークル「マシン」である。(手近にあるのが当たり前すぎて名称は「マシン」である。自転車のことを「チャリ」とか「ケッタ」と一言で呼称するようなものである)
この「マシン」が宇宙人社会で当たり前に普及しているお陰で、日本の民間戦闘員(社会人と学生、生徒の中で運動能力に秀でた者は日常的に対“虫”戦闘訓練を積んでいる。そして戦闘時には一般市民の避難誘導や自衛隊を補助する活動を行う。)彼らが現地に緊急移動するために貸与されている浮遊ビークル“ヤクトル”は「マシン」をほんの少し改良しただけであった。
オレたち四人は広い宇宙港をのんびり歩くわけにいかないようなので「マシン」を最高速度で移動させることになった。
五島さんが“妖精”を4機のマシンにタッチするだけで特別機扱いとなる。(五島さんはエライのだなぁ)
発光部分が赤く点滅している「マシン」は“急行中”であり、人間の歩行レーンや運搬レーンよりも「上」の飛行が許可されている。
マシン4機は宇宙港の一角にある「軍事用格納庫」へと無音で急行する。
「あれ?“機甲歩兵”の駐機場に行くんじゃないんですか?」
目的地だと思っていた場所とは違う方向のレーンパイプを進み始めたマシンの機上でオレは先頭のワタルさんに呼びかける。
オレは「新しい武器が到着した」か、「機種改造により可能になった新機動」を試すために呼ばれたものと思い込んでいたからである。…いつの間にやら機甲歩兵の実験用人材という根性が身についてしまったらしい。悪の組織の一員としては非常に情けない。
「ふふふふふふふふふふふふ。」
先頭を走るマシンから不気味な笑い声が響き渡った。
オレの後ろの機体から少し遅れて大きなため息。そう、サリーさんのマシンからだ。
「また、くだらないこと考えているんでしょワ・タ・ル!」
その叫び声には答えず、ワタルさんはオレのマシンの横に滑り込んできた。
「久良木くん、関西方面に旅行の経験は豊富かな?」
唐突な、そして意味のわからない質問。
「えーと、中学の修学旅行で京都と奈良と大阪に行ったくらいですね。」
「ふふふふふ。よかったね、二度目の“浪速への旅”だ。」
沈黙。
それを最初に、しかし声をひそめて破ったのはサリーさんだった。
「今あちらは大変なんでしょう?和歌山沖に“虫”が大量発生中って聞いたわよ。一般人へのくわしい説明はまだだけど各交通機関はとっくに遮断されているし、通信とかも制限が出始めているって。関東や中部地方にも“虫”対策注意報は発令しているでしょ。」
「そして何よりも自衛隊の緊急連絡がとてつもなく活発になってますよね。」
宇宙局特別警備部隊“ガーディアンズ”なんて部署に出向中のお陰でオレの“妖精”は特殊通信を自動受信してくれる。自衛隊間での緊急通信をインターセプトしたという「お知らせランプ」がこの数時間点灯しっぱなしなのだ。
「ふふふふふ、正義の味方に休日も遠路も関係ない。助けを求める人がいれば、すぐさま駆け付ける。それが覆面レイダーなのだ。」
宮沢賢治の方が休めそうな気がする。
オレたちのマシンの後方からため息混じりの声が聞こえてくる。
「正義の味方が行くか行かないかは好きにしてもらって構わないが、サリーさんと久良木くんには正式依頼が出ている。」
お仕事というわけですね。大阪かぁ~。仕事が無事解決したら、美味しいものが食べられるかな。
暢気なオレと異なり、サリーさんは五島さんの発言に違和感を感じ取ったらしい。
「ガーディアンズの私たちに“出動命令”じゃないんですか。“依頼”って…どこから?」
五島さんはサリーさんに向けて「ほぅ」と感心した表情。すぐさま答えを明かしてくれる。
「宇宙局の技術開発局と防衛省の技術研究本部の合同研究班から、だ。」
ギジュツギジュツと早口言葉みたいだ。五島さんは噛まずに続ける。
「宇宙技術を応用した新型の高速戦闘ビークルの最終テストを、関西で発生が予想される“虫”の来襲を撃退することで実行してもらいたい。」
・・・・・・はぁ? テストを実戦でって、出来るわけないでしょ。β版の状態に生命をかけられますか???
オレはポカンと間抜けな顔だったろう。戦闘時にテストしてくれって暴言に対するサリーさんの表情は露骨に嫌悪感剥き出し。それをチラ見して、“言いたくない言葉を仕事だから口にしたのだ”と渋い顔つきの五島隊長。三者三様。
そこに、まったく空気を読まない人物が暢気な声を放つ。
「大丈夫だって。その新型ビークルを一目見れば安心するよ。うん。“そうだ、大阪に行こう!”を実行しましょ~♪」
「新型って…どんなのですか?」
オレの疑問にワタルさんは苦笑いをする。
「話が長くなってきたから、お披露目は次回ね。」
日本は宇宙人に侵略されました。
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うれしいです。
せめてものご奉公に明日も更新予定です~。




