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“虫”との戦い 2 狼参戦 承前1

「食いだおれ」の街に暗雲が立ちこめる。

「“虫”との戦い」2 狼参戦 承前1


 観光ガイド雑誌には必ず載っている、有名な屋台の前の行列に並んでいる宇宙人たち。(にしか見えない)私はそろそろ帰りの時間が気になりかけていたけれど、彼らから目が離せなくなった。周囲の雑踏のけっこうな人数も、その三人に注目している。さりげなく撮影したりしている。それくらい非日常の景色なんだけれど、当人たちは全く気がついていないようで、なんか暢気に騒いでいる…。


「もう少しで買えそうですな。若様、あとしばらくお待ち下さいね。」

 三人組の中では比較的日本人っぽい服装の者が子供?若者?くらいの人物に丁寧に話しかけている。日本ではほとんどなくなりかけているが、宇宙では身分や階級が厳然と存在している。(と地球人も理解しかけている)三人の中心にいる子供は身分が高いのであろう。

「それにしても…強烈な香りだな。列の後ろの時は感じなかったが…若、本当に食するのですか?」

 長大な刀を腰に差した巨躯の人物が身をかがめながら子供の顔色をうかがう。その様子からは単なる身分制度だけではない温かみのある関係がうっすらと見える。彼らのつながりが一朝一夕ではないことも言わずとしれる。

「うむ。先程“妖精”で調べたが、この国のこの地方の象徴的な食品だそうな。我らが星では海中の軟体生物を食する機会などめったにない。楽しみじゃ。」

「それはそうですが…。ウシマツ、本当に害のない食べ物であろうな。万一、若様のお腹に差し支えなどあっては!」

 ウシマツと呼ばれたやや年長の人物が首をすくめて小声で返答する。

「実は…私めはもう何度か口にしています。けっこう美味でございますよ。」

「なんと。ウシマツ貴様は先行偵察の任務の身の上であるのに、そのような気ままな行動をいたしておったのか!」

 巨体故にリーチも長い。反対側のウシマツへ易々とと手を伸ばして胸ぐらを捕まえ、軽々と持ち上げる。が、その手を若様と呼ばれる子供がやさしくときほどく。

「まぁまぁ、イチノジョウは堅苦しすぎるぞ。任務中だとて食事はせねばなるまい。現地の食糧状況を調べるのも任務の一つと考えればよいではないか。」

 ぺこぺこと頭を下げ続けるウシマツ。口をへの字にして腕組みするイチノジョウ。左右の二人を見て若様は小さく微笑む。その表情が小さく曇る。

「しかしまぁ、もうすぐ順番が来そうであるが、無事に食べ終えるまで待ってもらえるかのぅ。」

 その若様のつぶやきにイチノジョウの顔が少し引き締まる。

「この強烈な香りの中、お気づきでしたか。さすがでございます。」

「南の海から“虫”が近づいているのは“妖精”から報告があったが、この周囲の剣呑な雰囲気は…匂いよりもカンであろうか。」

 その言葉を聞いて驚くウシマツ。が、周囲を見渡しすような、うかつな行動をするほど彼も愚かではない。何食わぬ顔で素知らぬ態度を続ける。その姿は幾つもの修羅場を経験した余裕が感じられる。そしてこれまた全く緊張していないイチノジョウがウシマツに平然と囁く。

「猿族のそなたと違い、【犬神】の我らには怪しい匂いが先程からプンプン匂っておる。油断するでないぞ。」

 小さく顎を引くウシマツ。その二人のやりとりを目の当たりにして、全く代わりのない態度の若様も只者とは思えない。


 私が周囲の変化、小さな小さなそれに気がついたのはクジコ様のおかげだ。


「戦闘中、目前の相手だけを見るんじゃないよ!」  

世界征服を狙うゾッカーの秘密支部、その地下訓練場でクジコ様は得意のムチを振るいながら私に話しかける。クジコ様のムチは正面左右だけでなく、真後ろや斜め後ろからも私に向かってくるので一瞬たりとも気が抜けない。その合間に話しかけられたりすると私はもう限界~。そんなこと意に介さずクジコ様は攻撃の手をゆるめることなく話しかけてくる。

「敵は一人とは限らない。また獲物もどこから来るかわからない。」

 今の私がその状況だ。クジコ様の両手のムチは高速で弧を描いて迫ってくる。それを躱しながら私も叫ぶ。

「八方眼ってやつですかー?」

「ちょっと違うね!」

 ピシっ、ムチの一撃を食らった。ゾッカー戦闘服に守られていなければ骨に達するくらい肉をえぐられているだろう。痛みがムチの当たった箇所だけでなく全身に響く。電撃はオフになっているおかげで戦闘は続行できる。

「戦闘に入るまでは八方眼でサーチするのが正しい。でも戦いが始まったら自分の相手を中心に据える。」

 肯くように私は首をすくめた。その数ミリ上空をムチがかすめていった。ヒュッという音の方が、後から耳に入った気がする。

「でも、対象物だけに目を取られるんじゃない。相手には援護者がいるかもしれない。逆に味方が来てくれるかも知れない。有利に使える地形や物があるかもしれない。目の前の敵にばかり気を取られていると、外側から来るヤツにやられるよ!」

「あ、はい!」

 と返事はしたものの、クジコ様と両手のムチ、それににプラスして周囲を見る余裕はとても私にはない。でも習ったんだから試しにしてみる…

「ああああ!!」

 痛みと同時にグルングルンと左手首と右脚にムチが絡みついた。カラーーンとダガーナイフを取り落とす。そして無様な格好でひっくり返される私。

「今日はここまで。前よりは耐えたじゃない。エライエライ。」

 クジコ様はニッコリと笑顔。そして真っ赤な唇を付きだして投げキッス。同性の私が見ても惚れそうな美貌…はぁ~。

 そして、私はこんなにも憧れているのにクジコ様はケラケラ笑いながら言った。

「アンタも大好きなケントくんは私の攻撃を15分以上躱しきったよ。彼のパートナーになるにはまだまだネ。一心同体はもっと先ね~♪」

「もう~クジコ様のいじわる!!」 

 その日から私はなるべく視野を広げるよう心がけてきた。


 注目を浴びている三人組。彼らを中心にして屋台や行列は変化がない。行き交う人々もしばらく足を止める場合があるが、しばらくすると動き始める…いや、動かない存在がある。気のせいかと思ったけれど、確かに点在している。三人組からの距離はバラバラだけれど、どれも一定の距離を保ったままいつまでも離れていかない人影がある。ポツリポツリ…けっこうな数だ。

(地球に来るような宇宙人なんだから護衛のSPとかかもしれない)

 そんな考えも頭をよぎったけれど、それにしては離れすぎている気もする。あんな場所からでは何かあったとき間に合わない…何かって、何?

 気がついたら私はタコ焼きの屋台の行列に近づいていた。誰もが三人組を遠巻きにしていたお陰で、私は彼らのすぐ後ろに並べた。三人が話している内容が聞こえる距離。意外なことに日本語だった。

「若様、この“そうす”という味付けタレに複雑な材料を組み合わせているそうでやす。」

 一番年長の人が丁寧に子供に説明している。このおじさんは犬っぽい顔じゃない。むしろその顔つきは私たち地球人に似ている…。でも西洋人でも東洋人でもない感じ。白人、黒人、黄色人種、のどれでもない??

 そんなことを思っていたら、2メートル以上ありそうな巨大な人がこちらを見た。そして私に小声で話しかけた。

「娘ご、出来れば我々から離れていた方がよいぞ。」

 言葉の内容を理解するよりも先に、その顔つきの方が気になった。犬のような…警察犬とか軍用犬といった、戦う目的で訓練された犬…ううん、犬じゃない、この顔つきは狼だ。なのに、親切な言葉をかけてくれた。いい人なのかな???

 そんな埒もない考えが私の頭の中を占めた瞬間、また別の幼い声が耳に入った。

「イチ、ウシマ、もう遅い。ヤツラこちらに向かってくる。」

 さっき、私の目に止まった周囲の幾つかの人影。ううん、いつの間にか倍以上に人数を増やして、それらが迫ってくる。手に持つ獲物は私の知識にない道具…彼らも宇宙人かなー?

 こちらに走ってくる人影たちに突き飛ばされたり、押し倒された通行人の悲鳴があちこちで沸き起こる。それが群衆を押しのけて彼らは私たちにいっそう近づきやすい状況となってしまった。私と三人組にむけて一直線に駆け寄る黒い影たち。悲鳴と怒声を一切気にも留めず、凄まじい速度で接近してくる!


「イチ、ウシマ、戦闘開始だ。存分に戦うがよい。」


 若様の声が凛と響いた。私よりは年下?でもその声は落ち着きはらっていた。それは幼くとも間違いなく“狼”の一吠だった。


 


 日本は宇宙人に侵略されました。  

わざわざお立ち寄りいただき、ご一読いただきありがとうございます。

引越し後のなんじゃかんじゃ、が発生して小説に集中させてもらえません。でも頑張ります。

…いつもの通り、小学生か中学生の文章ダナー

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