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「通信」

今回の舞台は龍族本星の某所です。

「通信」


 あまり広くない部屋。正面の壁にはさほど大きくない画面。様々な機器が部屋の左右や後方に整然と密集している。それらは宇宙戦艦の通信担当者には見慣れた装置ばかりである。が、実はそれぞれの機材には戦艦級以上の性能が備えられている。高機能そして大出力。通信担当官や情報担当官が見れば一目で目を回す品々である。

 その部屋のドアが無音で開く。白色を基調に銀と赤のラインで装飾された軍服の人物は手慣れた様子で装置を立ち上げていく。正面のスクリーンが一瞬発光した。そしてすぐさま黒色に戻る。その中央あたりには【【音声限定】】という文字が点滅を始めた。

「龍族の文字のハズなのに、日本人の私に一目で理解出来るというのは、いくら慣れても不思議だね~」

 独り言のあと、彼は微笑んでいるような細い目を一瞬だけ輝かせ、相手が出てくるのを待った。そして映るはずのない画面を見守り続ける。

 十、いや五を数える間もなく、画面に【【通信開始】】という文字が表れて数回点滅する。その文字が消えるやいなや彼は口を開いた。

「もしもし、ユラケインさんですか?聞こえていますか。」

「はい。シヴァ・イ司令閣下、ご無沙・汰していま・す。」

 銀河宇宙軍、龍族筆頭「赤龍族」の軍事の最高位であるシヴァイがこっそりと直接通信機器を操作して会話しなければならない人物はユラケインであった。

 日本侵略時に龍族の地球派遣軍艦隊と同行した赤龍族外交官首席のユラケインは本来は地球の各国と龍族とのパイプ役のはずであった。しかし国連総会での彼女の演説以降は世界各国代表を相手にして一歩も引かない強面の女傑と世界中から認識されている。彼女の尾の一振りは国連本会議場議壇を物理的にブチ割り、その後に放たれた彼女の寸鉄は反日国の代表の精神面に突き刺さったままである。彼女は新しい日本の顔となり、同時に宇宙人の代表として知られるようになった。

 今は画面に映っていないが、その顔と声は地球で一番有名な宇宙人かも知れない。地球侵略軍司令官であったシヴァイ以上の認知度、そして畏怖。日本では「宇宙時代の卑弥呼」というよくわからないアダナさえつけられている。

「あー、顔が見えなくて、ちょっと安心した。目が合った瞬間に叱られそうな気がしていたからね~。」

「ふふ、自覚はさ・れてい・るのですね。私を・だまし討ちにし・たこと・の。」

「いやー、ごめん、ごめん。キミしかいなくてね。僕の無茶ぶりに応えてくれそうな人って、他に思いつかなかった。」

画面の向こうでは苦笑が浮かんでいるのだろう。

「閣下にそ・こまで信頼し・ていただ・き光栄です。でも、確・かに難・題でござ・います。」

「そうだろうね。」

「後・進惑星の観・測員程度・の役割と聞い・ていたのに、現・地到着後・は第一内政官を・押しつけ・られ、さらに・銀河日・本の外交代・表まで。」

「そこにさらに密命をお願いしたのだから、どれだけ恨まれても仕方ないと思っているよ。ユラケインすまん!!」

「ふふふ・。かまいま・せんよ。龍族を・支え・て下さっ・ているシヴ・ァイ閣下・のご命・令なればこ・そ。」

今現在、シヴァイのいる場所と地球とはワープ数十回分の距離が存在している。それを考えれば、ほとんど時差の生じていない会話の成立は驚異である。この通信の根底にある科学力は地球では考えられない。中継している多数の通信艦がそれぞれワープ時以上の出力をふりしぼってデータを送受信している。さらに、この通信は極秘回線でもあった。複数のポイントの中継通信艦を短時間ごとに無作為で入れ換えてデータの送信ラインを複雑化している。銀河宇宙軍最高度に暗号化された圧縮データ化された音声は発信側にも受信側にも往路復路がわからないようになっている。データを受信した側が即座に解凍してほぼリアルタイムの通信が成立しているのは科学なのか魔法なのか。

 そんな複雑なやりとりを感知せず、シヴァイの顔は生々しい複雑な表情になっていた。そうそれはテストを返却される生徒の顔つきに似ている。

「ユラさん、調査は順調ですか?」

「いえ、な・かなか成・果はでませ・ん。担当・者は皆努・力して・くれてい・るのです・が…。」

 日本上空を、そして世界各地を銀河宇宙軍龍族の戦艦が覆い尽くした日から、ユラケインは即座に活動を開始した。

 国連総会で世界各国の代表に状況を認識させ、硬軟の政略を押し進めて龍族支配下となった新しい日本の立ち位置を揺るぎないものとさせながら、水面下では“調査”も行っていたのである。

「シヴァ・イ閣下がお・っしゃった・ように、“反日・国には一切援・助をしない出来ない余裕がない”と・いう通達は絶・大な効果があ・りました。」

「そりゃあ、よかった。」

「おかげ・で、地球上・の世界各・地のどこに派・遣しても日・本の自衛隊はスムーズに受・け入れられ・ました。歓迎に近・い状況で・す。」

 第二次世界大戦における【日本軍】というのは複雑な存在であった。侵略戦争の行使者であるのはもちろんであるが、一方ではアジア各国を支配していた欧米戦力を払拭することにもなった。結果的にそうなっただけ、という見方も正しいが、日本が欧米に屈服していたらアジアの歴史はどのようなになっただろうか。(もしも明治維新時に英仏のどちらかに日本が侵略されていたら~?などなど)

 それゆえ自衛隊は生まれたときから内外から常に厳しい視線を注がれ、それに屈することなく慎重に年輪を重ねてきた。侵略戦争は行わないが、侮られない戦力は保持する。すると隣国からは指弾される。といって戦力を減じて良いのか?無限ループである。海外に派遣時にはPKOという珍妙な造語と混乱した行動規範を携える。自衛隊員が決定したことではない指針であるのに、非難されるのは当事者たちである。大小災害時には大活躍であるのに…。

 その自衛隊が世界各国から歓迎される。日本人に頭を垂れるのではなく、宇宙人に下げるのだ、という世界各国は心の内で考えているとしても“自衛隊が外国に”は複雑な思いを抱かせる事柄である。それは裏返せば世界各国がどこも“虫”に滅ぼされかねないという状況を突きつけているのだが。

「自衛隊が来れば少なくとも駐留している間は“敵”=“虫”が現れた際に守ってもらえる。または親交を強めるきっかけ作りもあるかも、と。」

「それもあって、どの国も古代遺跡の調査や発掘物の研究にとても協力的です。どの国も反日国認定はされたくない。友好国に、出来れば親日国になりたいとどこも首脳部は担当者や組織に、最大限の協力を惜しむな、と通達しているようです。」

「…それでも、調査は芳しくない、か。」

「…すみません。」

「キミや部下達のせいじゃないよ。僕の注文が曖昧模糊で奇妙奇天烈な内容だからね。」

 二人とも無言になる。この間も暗号回線は次々と入れ替わっているはずであるが、その徴候は全く感じ取れない。

 ユラケインが声をひそめて会話を再開させる。

「日本のように古き神々の伝説が残っている地域…一神教からの支配をはねのけたり、避けきった国々だけでもけっこうな範囲でございます。」

「うん。それにブラック・マリアのように一神教の懐に潜んで生き残る例もある。あるいはアメリカのクトゥルーのように神話が突然産まれることもある。宇宙のように広い条件の中から探し出してくれとお願いしたんだ、こちらこそ簡単じゃないことは承知しているよ。」

「そう言っていただければ…。それと“虫”の降下や潜伏も拡大傾向にあります。地球への隕石落下は増える一方です。」

「それもあったな。三族の新兵の練習場所に地球宙域を設定して、落下物を減少させる計画が遅れ気味でね。族長のみなさんに繰り返しお願いするよ。」

「ありがとうございます。虎族の駐留艦隊も最近減ってきていて、地球そのものの防備が手薄になることが常に心配です。」

 地球のある太陽系からそう離れていない空間に、“敵”の“シコン”が確立してしまったのだ。“シコン”からは四方八方に“虫”の塊が放出される。それは地球にのみ向けられているわけではないが、熱エネルギーや有機物の存在する惑星は限られている。“虫”の塊は“巣”を惑星に落着させようと意思があるように進路を定めていく。地球への隕石が日々増えているのは事実であり、避けられない問題であった。

「対象物は日本神話なら、“鏡・剣・玉”なんだけどね。」

「龍族の神話では“青瞳・紅爪・緑黄翼”でございます。…銀河の各種族によって伝説や神話が無数に存在します。それらも考慮して調査をしています。」

「ホント、ありがとうね。内政官をしながらの極秘調査。キミがいてくれて良かった。」

「最高の褒め言葉をありがとうございます。ああ、そろそろ時間ですね。」

「ああ、それじゃまた。」

「失礼いたします。」

 画面には【【回線遮断】】の文字が点滅している。

 シヴァイは微動だにしない。ここは龍族最高級の通信設備であるはずだ。それなのに…。

(途中からユラさんの会話がスムーズになった。誰かが盗聴のためにブースターを入れたのだろうなぁ。そのせいでこちらは気づいた…いやいや“我々はしっかり聴いているぞ”というわかりやすいアピールかも知れない。それは“敵”か他の部族か??あーコワイコワイ。)

表情には一切出さず、小さく頭を振って思考を切り替えるとシヴァイは全ての機器の電源を切る。きちんと声だし&指先確認まで行い一巡して深く肯く。その後ドアを開けて通路に出る。特別通信室が薄暗かったためか、まぶしさがシヴァイの目に差し込んだ。

 そして同時に飛び込んだ人影に腕を取られる。

「シヴァイ捕まえたニャ!!」

 がっくりとうなだれるシヴァイ。

「逃げませんって。僕をちっとも信用していないんですね~。」

 シヴァイの腕に自分の両手をからませるだけでなく、しっかりと爪を立てて(軍服に穴があく…)ホールドしているアシュバスは小刻みに首を振る。

「族長会議に出席を命じられたのに、自分の“妖精”を代理に立てて逃げ出した前科者の言葉が信じられると思うニャ?」

 再度うなだれるシヴァイ。

「…はい…。これで用事は全て終わりましたから、族長会議に出席いたします。“シヴァイガ”でも“アフマルガ”でもどちらでも連れて行って下さい。」

「にゃあ~。それじゃ、旅のあいだはシヴァイの部屋でげーむをするニャ。あたしとお付きたちは“シヴァイガ”に世話になるニャ。」

 何気ない一言であるが、いつまでも赤龍族族長艦を借りていられないという配慮を感じてシヴァイはアシュバスに無言で頭を下げる。

「落ちモノ系は跳びかかりたくなるから駄目ニャ。それ以外で勝負ニャ!!」

「はいはい。」

「こらっ、ハイは一回、気持ちよく、ニャ!!」

…こういうことも宇宙共通なのかと、ふと考えるシヴァイであった。


 日本は宇宙人に侵略されました。


立ち寄って、ご一読いただきありがとうございます。

あいだが開いた分、がんばってポチポチ作文頑張ります。

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