国連会議、今はここまで。
海外旅行をしたことはありませんが、日本人に優しい国も多いようです。
宇宙人は日本以外の国々をどうするのでしょうか。
3-3-②
「台湾、正しくは“臺灣”ですが、日本語で話させていただきます。」
どのような原理かは不明であるが、現地で使用されている“繁体字”と日本での“漢字”の違いまでイメージとして伝わることに、各国の大使は再度驚かされることになった。音声の意味を置き換えているだけでなく、その言葉の持つ意味そのものを正しく伝えているということか。パソコンや携帯端末の翻訳ソフトとはるかに異なる能力の違いに思いをはせる者も少なくなかった。
「台湾の高齢者の方の中には、現在も流暢に日本語を話される方も多いと聞きます。その方々へ一刻も早く我々からのプレゼントをお贈りしたいと思います。また哈日族と呼ばれる日本に対して好意を持って下さった方々や、その下の世代にも、震災時には手厚い援助をいただきました。」
ユラケインは4階席の台湾代表団の位置する辺りに視線を向ける。つられて議場のほとんどの者が台湾席の方を向く。
「それゆえ、本日の緊急総会に台北駐日経済文化代表処の駐日代表を通じて、台湾からも代表団のご出席をいただきました。突然の依頼にご対応いただき、ありがとうございます。」
台湾の代表も起立し、丁寧に一礼を返す。
「我が国と日本との友好関係を大切に思って下さり、深甚の謝意を表します。台湾国民は日本を愛しておりその日本を丁重に扱っている宇宙軍や新生、銀河日本に対しても変わらぬ友好を続けることを誓います。」
さきほどブータン王国の大使が謝礼を述べた後は、幾つかの国から拍手があがった。しかし、台湾代表が着席しかけても拍手は起こらなかった。それは、多くの者が予想したからであり、その予想通りのことがたちまち声と動作で証明された。
「異議あり、チャイニーズ・タイペイは国ではない。既に国連から脱退しており、日本とも国交は断絶しているはずである。チャイニーズ・タイペイを優遇するのであれば、我が国も同様の扱いを要求する。」
大柄な大国の大使が立ち上がり、早口でまくし立てた。議場の多くの大使や随員たちは「やはり…」という表情で、その大使の顔を見つめ、どう対応するのか興味を持って、壇上の美少女に視線を移動した。ユラケインは表情一つ変えず、大国の大使に返答する。
「今回の緊急総会には、通常の国連総会には参加していない方々にもご同席を願いました。後列ではありますが、国連参加国の代表団と同数の参加を認め、このあとの会議においてもオブザーバーではなく正式にご意見をいただく予定になっています。」
国連本部会議場の後方、4階席に多くの者が首を回す。確かに常には見られない名称が机上に置かれている。先ほどの「臺灣」の周囲には「バチカン市国」「マルタ騎士団」「パレスチナ」「クック諸島」「ニウエ」「サハラ・アラブ民主共和国」といった正式には国と言い難い名称の代表団もずらりと並び威儀を正している。台湾一国になら文句を言える大国の大使も他の名称には「出て行け」と言いづらいようであり、無言で着席した。その様子を認めてユラケインは発言を続けた。
「台湾には我々の科学の中で特に医学面をお伝えしたく思います。この地球でも再生医療が進んできたようですが、我が軍は龍族であり、再生医療に関しては銀河宇宙軍でも最新最先端の技術を誇ります。医療班は『首から上が残っていれば、元通りの身体に戻して見せます。』と言い切るほどです。」
議場の各所で「信じられない」「いや、彼らなら」「そうなると大半のケガが…」などの声が上がると同時に、自身の身体の部位にふれる人物も少なからずいた。この長年の苦しみが解消されるのか、と。
「台湾には医療国家になってもらいたいと考えています。その医学力は台湾限定とすれば、世界各国の治療が必要な人やその家族は台湾を大切にすることでしょう。もちろん台湾国民や政府に検討してもらって後にでありますが。医療国になった台湾は銀河日本が最優先に防衛することをブータン王国と同等に誓います。」
「台湾以外の国にはその医療技術は教えてもらえないのですか。」
どこかの大使が思わず発言する。ユラケインは残念な感情をあらわにして返答した。
「私たちの得意とする再生医療に必要な材料が地球にはありません。他の太陽系から運ぶため、大量に輸入できないのです。日本と台湾を輸入の中心地に考えています。」
なぜ台湾なんだ、というつぶやきも各所で聞こえた。自国がその立場になれていたら…。
「再生医療は台湾を中心といたしますが、遺伝子やウイルス、それに地球では原因不明や治療不可能な様々な病気も我々の科学力なら可能なものも多々あるようです。それらの医療施設は日本に友好的であったアジアの各国、フィリピン、タイ、ベトナム、シンガポール、インドネシア、マレーシア などに拠点を置き、東南アジアを地球の病院地域にできないかと我々は考えています。」
続けて名前を挙げられた国々の大使たちが歓声を上げる。自国が日本と親密であることを自覚していたので期待はしていたであろうが、医療国家であれば国民の反対も少なくや国土への影響も少ないと思われる。今すぐにでも政府に伝え、承諾をもらいたいものだ。
「これらの東南アジアの国々は第二次世界大戦後も日本に対して友好的な態度を抱き続けて下さり、また民間交流でも日本人を手厚くもてなしてくださっています。その国民性などを考えて銀河日本は医療国家化を提案いたします。無論各国に持ち帰り、ご検討いただきますが、詳しい内容はこのあと事務官と打ち合わせなどをお願いいたします。」
東南アジアの国々の大使が続々と起立し、満面の笑みで謝意を述べていく。ユラケインは一国ごとに丁寧に礼を返していく。その様子を歯ぎしりしながら見つめる国もあった。
東南アジア各国と挨拶を終えたユラケインは、再度姿勢を正し、マイクに向かう。会議場が沈黙する。次こそ我が国名が呼ばれるはずと期待して。
「東南アジアの近くに『青い海に、黄色の満月』という「日の丸」ではなくて「月の丸」を国旗としている国があります。」
おうっ、と喜びの声が上がる。
「日の丸に気を遣って、丸の位置をずらすほど、日本に対して配慮の厚いその国はパラオ共和国です。」
ユラケインは深々と一礼。パラオ大使も慌てて立ち上がり返礼する。
「パラオ共和国にも銀河日本は最大限の協力や援助を約束いたします。国民のみなさんの日本への感情は台湾に似ているだけでなく、パラオ共和国の国旗のデザイン決定の話には深く感銘を受けました。他国の国旗を踏んだり、燃やすような国には理解できないと思いますが、パラオのみなさんと日本は同じ気持ちを抱けるように思うのです。これからもパラオのお年寄りが日本のことを『内地』と呼んで下さるなら、銀河日本はそれにお応えしなくてはならないと考えています。無論、内政干渉は考えていません。パラオと日本の友好関係をこれまで以上に構築したく思います。」
ユラケインの言葉はゆっくりと染みいるように会議場に広がり、それぞれの大使たちに様々な感傷を与えた。これまで自国や自国民の行ってきたことが頭の中で繰り広げられていく。声には出さないが「馬鹿者どもめ」と口汚く罵る者も少なくなかった。
「予定時間を過ぎてきましたので、次に挙げる国の皆さんには、銀河日本の専門担当官から具体的な協力や援助の説明をこのあと別室で行わせていただきます。トルコ、イラン、ウズベキスタン、ブラジル、チリ、ペルー ナイジェリア、ポーランド 以上の国々も最恵国として扱うことを銀河日本は決定しております。具体的な援助や協力方法は国によって異なりますが、どの国も日本にとって重要国となったことをその他の国々のみなさんにはご記憶願いたく思います。」
会議場は何度目かの騒然とした雰囲気となった。自国名が挙げられた国は即座に政府への報告の準備を始め、名前を呼ばれなかった国は自席からユラケインに切々と訴えた。ユラケイン自身はその特徴的な両目を閉じ、様々な怒声や悲鳴を聞き分けていた。
「静粛に、お静かに、まだ最重要なお話が終わっていません。ここまではまだ前半部のはずです。」
議長の声は何度も何度も繰り返されたが、今度はなかなか静かにならない。圧倒的な宇宙からの科学力という恩恵がもらえなかった立場としては、その怒りの対象は正面のユラケインにぶつけるしかなかった。
議場の最前面の正面に立つユラケインの服装は、宇宙人として見慣れた白を基調に銀のラインで装飾されたものである。ただしユラケインの制服には役職の証であろうか緑のラインも幾本かデザインされている。 日本の侍の正式な服装やキリスト教の法衣をどことなく思わせる、その制服の背後から持ち上がってきたものがある。それは燕尾の部分を持ち上げ、彼女の頭上より高く伸び上がった。そして、ユラケインの立つ壇上の床面をピシリと叩いた。分厚い板が一撃で砕ける音。
爬虫類の尾は時として逃走のために自ら切断され(自切)、後に再生する。(それゆえ宇宙軍の中でも龍族は再生医療に秀でているのである。)しかしワニの尾は殴打用の武器に使われるほどの強さを持っている。
ユラケインの尾は一撃で壇上の床を軽々と突き破った。その轟音にが会場は一気に沈静化した。
「失礼。修繕費は日本宛にお送りください。」
会場の全員は忘れかけていたことをもう一度思い出した。目の前にいるのは、宇宙人である。
「それでは、本題に入ります。地球は滅亡の危機に瀕しています。この地球の全てを守ることは、我々宇宙軍でもかないません。それぞれの国が、各自の努力で自国と自国民を守らなくてはいけないときが来たのです。我が銀河日本も出来る限りの協力はいたします。ですが基本的には各国の戦力で戦ってもらわねばなりません。先ほど挙げた国々は、戦力が乏しいという事情も考慮して日本の防衛ラインに入ってもらおうという意味もあるのです。」
沈黙。それぞれが理解するのに短くない時間が続く。議長がつぶやく。高性能のマイクがそれを拾う。
「地球の滅亡、それは、あなたたち宇宙人以外の存在がもたらすのですか。」
「はい。敵は・・・・・・・・・・・・・。」
国連本会議場での話し合いは、まだまだ終わりそうにない。昼過ぎに始まったが、2日や3日で終わるとは思えない長い長い会議は、そのあと各国にさらに長い討議を発生させ、そして永遠に近い戦いへとつながるのだ。
宇宙人は地球に戦争開始を告げました。
日本に対して、好意をよせてこなかった国は今後どうなるのでしょうか。
まだ具体的に書けないため、じれったいと思われたらすみません。今回もそんな文章を最後まで読んでいただいた方、厚く御礼申し上げます。




