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虎族星域防衛戦 再見(承前)

この宇宙とは異なる、白い宇宙での物語。

6-3-12  虎族星域防衛戦 再見(承前)


 真っ白な空間、しかしよく見ると所々に色がついていて、その細かい粒がきらめいている。その広がりは底が知れないほどであり、果ては見えない。

 その白い空間を切り取るように、一隻の“敵”戦艦が浮かんでいる。対比物がないためわかりにくいが、その巨大さは旗艦級かそれ以上である。それなのにツノは一本しかない。その見慣れない艦影はシンプル故に恐怖感を抱かせる。銀河宇宙軍龍族戦艦“シヴァイガ”と“アフマルガ”の乗組員は艦内各所のモニターをじっと見つめていた。

 “シヴァイガ”の戦闘艦橋の中央画面は最大限の望遠を行っていた。“敵”艦のツノにたたずむ存在に焦点を絞っている。

 ツノの先端には一匹の蝶が止まっている。漆黒の揚羽蝶…いや、翅の縁は鋭い。特に後翅の尾上突起などは刃物のようでありそれだけを見ていると蝶というよりも悪魔と呼びたくなる。そして身体の部分は上肢が4本、身体を支えている下肢が2本…“虫”である。

(顔は我々人類と似ていますが…あの大きな眼は複眼ですね…。)

 シヴァイはその顔に注目していた。いつ、その口が開かれ言葉を発するか、と。しかしそれは唐突に発生した。

『ヨクゾ辿リ着イタ。黒イ宇宙ノ戦士よ。』

 脳に直接その“意味”が響き渡る。それは“妖精”たちと語るときと同じ感覚。“概念伝達”である。ただし、強烈なプレッシャーを感じる。

 シヴァイは左右を振り返り同僚たちの様子をうかがった。誰もが頭を押さえたり、寝起きのように小刻みに振ったりこめかみを押さえている。真の“妖精”を身につけている者は銀河宇宙軍にも数少ない。概念伝達の経験がない者にとっては今の一言は予想外の一撃であったろう。

 シヴァイはマイクを取り、まずは“アフマルガ”のアシュバスに通信する。

「アシュバス様、しばらく攻撃はお控え下さい。」

 副画面のアシュバスも軽く頭を押さえている。真“妖精”を持つ彼女でもこうなのだ。シヴァイはマイクを持ったまま通信員に命じる。これから話す内容を全回線に開くようにと。うめきながらも通信員はパネルを操作する。

「龍族艦隊司令シヴァイです。丁寧な招待状をありがとう。わかりやすいワープ座標でした。」

 シヴァイはそう語りかけると、しばらく待った。その両目は中央画面に釘付けである。目に映る阿修羅蝶の顔が笑ったように見えたのは錯覚だろうか。

『ヤハリ気ヅイテイタカ。ココ、我ラガ宇宙デアル“白ノ世界”ニ、ヨウコソ。』

 その言葉も“シヴァイガ”“アフマルガ”2艦の全乗員に伝わったようである。再度あちこちから、小さなうめき声が聞こえる。しかし構う余裕はない。“敵”との貴重な接触である。シヴァイはマイクを固く握りしめた。

「言葉が上達したようですね。我々黒い宇宙の人類を学習したのですか。」

『我ハ、お前タチト話スためニ女王ニ作ラレタ…。“妖精”ヲ何匹カ喰ラッタコトで知識ヲ得タ…。』

 その瞬間、シヴァイの傍らの空間に“銀髪”が 湧き出る。いつもの女性形ではなく、銀の龍の形状である。(怒っているのか)とシヴァイは一瞬思う。

『ジジジジジ…“妖精”モ怒リトイウ感情ヲ持ツノカ?ソレも興味深イガ…。今ハお前タチガ先ダ。』

 思ったことがそのまま伝わっている、そう考えたシヴァイは会話に集中することにした。そして疑問を口にしようとしたが、

『ソノ、“阿修羅蝶”トイウのは、我ノコトナノカ?』

 強烈に脳を打撃してくる。だが、慣れてきたため最初ほどの激痛はなくなっている。シヴァイ以外の者も二人の会話に集中してきたようである。

「ああ、はい。地球にはそういう存在がいます。あなたと似ているような似ていないような…。ご不満ですか。」

『気ニ入ッタ。今後我ノ名前ハ阿修羅蝶ト呼称スル。アリガタク頂戴スル。』

「それはどうも。それで、我々人類と何を話したいのですか?」

 そう言い放ったとき、シヴァイの両目は細められていた。相手に目の色を読ませないよう警戒するときのシヴァイの癖である。表面上には出さないが、彼なりに緊張しているのだ。もっともその変化に気づいた者は戦闘艦橋にはいない。

 間。そんなに長くはないはずである。砂時計の落ちていく砂粒を見ているような感覚。この沈黙はいつ破られる…?唐突に脳に概念が入ってくる!


『オマエタチハ、何ダ? 何をスルタメニ黒い宇宙ニ居ルノダ?』


「そういうあなた達こそ何者ですか、そして黒い宇宙に来る目的は何ですか?」

 必殺、質問返し。間髪おかず伝家の宝刀で切り返すシヴァイであった。が、その返答に阿修羅蝶は躊躇いなく答える。

『我々ハ、コノ“白ノ世界”ヲ守ル者、形作ル存在。…黒イ宇宙ニ行くノハ、ソノ時期ガ来タカラだ。』

 しばし、思考してしまうシヴァイであった。これほど即答かつ断言されるとは思いも寄らなかった。

『5000年ノ昔、お前タチ“人類”ハ宇宙ニ出テコナカッタ。1万年前モ…。女王ノ伝達記憶ニ寄レバ、ソレ以前モ“人類”ハ宇宙ニハイナカッタ…』

(白い宇宙の生成、あるいは保持にこの阿修羅蝶や“虫”たちは深く関係があるのか…そのためにこちらの宇宙へ来たのか…。人類ハって?)

『ソウダ。我々ハ、ナゼお前タチ“人類”ガ我々ノ邪魔ヲスルノカ理由がワカラナイ。ソノタメに私“阿修羅蝶”ハ女王ニ生ミ出サレタ…』

「私たち人類や動物、植物全ての有機生命体をお前たち“虫”は奪っていく。最後には恒星の熱エネルギーさえも吸収していく。それは人類とこの宇宙にとって許せないことなのだ。滅びにつながる。だから戦ってきた。そしてこれからも戦う。」

『…お前タチ人類ハ“捕食”はシナイノカ?』

「する。しかし限界を超えれば人類そのものも滅ぶ。…お前たち“虫”の存在を放任しても滅ぶだろう。ならば戦うしかない。」

『…少シ、ワカッタ。………確かニ戦うシカナイヨウダナ…。』

「…他に方法はないのか?この銀河宇宙とは異なる場所や何かから、お前たちの求める物は得られないのか?」

『出来ナイ。』

 阿修羅蝶の、その意思が伝わった瞬間、声を発したのはどちらが早かっただろう。シヴァイとアシュバスは同じ言葉を叫んでいた。

「「全艦、砲撃開始!!」」

 “シヴァイガ”と“アフマルガ”の全砲門から熱エネルギーが放出されていく。ミサイルなど実体弾も全て発射される。その目標は“敵”戦艦の先頭に位置する阿修羅蝶。この白い宇宙にいる人類全員が、その存在を恐怖し、排除すべきと同じ思いを抱いていたのだ。

 爆発、爆炎、爆熱、全ての攻撃が的確に阿修羅蝶またはその足下のツノに命中し、その位置は高熱の炎が渦巻いた。二人の司令官の命令が下るまで、全ての攻撃員は手順を繰り返す、はずであったが…。強烈な思念が脳に響き渡る!

『“人類”も統一サレタ意思ヲ持ツノカ…。お前タチハ強イ。シカシ、我々ノ方ガ強イ。滅ぶガイイ、黒イ宇宙ノ生き物タチヨ!!』

 命令がないにもかかわらず、頭を押さえて攻撃の手を止めてしまった攻撃班員を非難する者はいなかった。シヴァイですら片手で押さえている。

 少しの時間で爆風が消え去ったあとに平然と元通りの姿を現す阿修羅蝶と“敵”戦艦。いや、その姿は徐々に小さくなっていく。

「再度攻撃ニャ!!全砲門開け!!」

 アシュバスのその声は“シヴァイガ”にも届いていた。“シヴァイガ”の戦闘班長も同じ命令を下そうとするが、

「いえ無駄です。アシュバス様、攻撃をおやめ下さい。」

「…そうニャ。うん攻撃中止にゃ。」

 二人の、いや、全艦員の目前から次第に遠ざかる黒い“敵”戦艦。全員が抱いていたのは無力感か絶望かそれとも。

 その瞬間、再度阿修羅蝶の思考が全員の脳を強打した。

『ヤハリ、オマエは違ウ。シヴァイ、オマエは何者ダ??』

「…龍族に所属する、一人の人類だ。阿修羅蝶、お前たちの敵だ。」

『…オマエだけ、何カ違ウ気ガスル…シカシ、ワカラナイ…。マタ会オウ、黒宇宙ノ戦士ヨ…。』

 その最後の阿修羅蝶の“思い”を、2隻の艦員は皆どう受け止めたらいいのか焦慮する。しかし、答えは出ない。シヴァイも、もう何も言わない。

 白い宇宙に遠ざかる黒い艦影。全員が無言で見守る。その艦影が点になるころ、シヴァイの肩あたりで“銀髪”が囁いた。

『コノ“白い空間”ガ滅びカケテイマス。至急、元ノ宇宙ニ回帰ヲ…。』

「そうだな、ここにいる意味はもうない。アシュバス様、我々の世界に帰りましょう。」

 副画面のアシュバスだけでなく、シヴァイガの艦橋員もはっと目を醒ましたような顔つきになる。

(まったく、ここは異空間ですね…二度と来たくない。蝶と夢は組み合わせが良くないですしね。)

 一度だけ、長めに目をつぶったシヴァイは声高く言い放つ

「“シヴァイガ”“アフマルガ”、通常空間に帰還します!!」

「了解にゃ!!!」

 2隻の宇宙戦艦は現れたときと同じように、同時に白い空間からその姿を消した。

その数分後、白い宇宙は砂で作られた像のようにゆっくりと、しかし着実に滅びていった。あとには何も残さず。



 日本は宇宙人に侵略されました。


ご訪問ありがとうございます。

前回は台風の雷鳴がひどくて、急遽終了いたしましたって、今も雷が鳴り出している~

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