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フィンガーズの戦い5

地球から宇宙に旅立った5人の戦いです。

6-4-5 フィンガーズの戦い5


 “彼”に感情があれば、それは「怒り」であったろう。彼はすでに2回攻撃に失敗していた。

 彼に与えられた命令は「敵の戦艦に侵入し、それを破壊せよ」というものである。これまで彼はその命令を易々と達成してきた。手間取り、自爆して相討ちをすることは一度もなかった。それゆえ生存しているわけである。彼はこれまでは、いつも余裕で侵入して、敵艦内で好きなだけ暴れ、そして悠々と逃げ出してきたのだ。いわば歴戦の戦士であった。

 ところが今回は邪魔が入る。敵の戦艦に取り付こうとするといつも妨害者が現れるのだ。それでも彼はもう一度敵の宇宙戦艦に向かって羽ばたいた。

 敵の戦艦(彼はそれを“巣”だと思っているのだが)の後部は膨大な熱量を放出している。機関部と推進部で構成された戦艦の尾部からは侵入できない。彼は推進部の下に潜り込む。船底部分だ。ここは放熱もなく取り付きやすい箇所であるがダメである。装甲が分厚いのだ。彼のアギトで食い破り、艦内に侵入するには不向きである。彼は船体の中央部分近くまで羽ばたきを続ける。そして戦艦の横腹あたりで急上昇する。ちょうど艦橋のあるあたりだ。このあたりで侵入し暴れると、その巣は大混乱し爆発に至る、とこれまでの経験が教えてくれる。よし、今度こそ!!

 しかしその辺りは艦橋の付近であるため、機銃砲座が幾つも待ち構えている。彼は尾部から針を射出して、それらを一つずつ打ち壊していく。数分もたたずに機銃座は全て沈黙した。あとは薄い甲板を咬みちぎり、侵入して暴れるだけである…。敵の巣を潰す快感に彼は打ち震えた。

 その瞬間、それが出現する。灰色の一つ目の機械人形だ。羽根もないくせに、そのロボットは彼の目の前に位置すると、両手で持った武器を向ける。

 しかし彼は余裕を持ってその攻撃を避ける。無駄な動きを一切せず、身体をねじる動作だけでビーム砲の光弾を軽々と避け得るのだ。目の前の一つ目に対して、これまでの怒りをぶつける。それは言葉にすればこんな感じであろうか「キサマに何度も邪魔されてたまるか。今度こそ潰してやる!」

 そして尾部から針を打ち出そうと腹部を折り曲げた瞬間…彼の意識はそこで終わる。あとはもう何もない。

 ガトリング砲から数え切れない弾丸が“彼”=“スズメバチ”の頭部を一撃で粉砕したのだ。それと同時のタイミングで長距離ビーム砲の光跡が“スズメバチ”の腹部を貫通していた。生物?らしい“スズメバチ”は爆発したりせず、その残骸を宇宙にまき散らし、その存在を終えていく。彼の痕跡がデブリになって宇宙空間をさまようだけが、彼の墓標である。

 後に残るのは2体の巨大ロボットとその2体…正しくは5機編隊に守られて進んでいく宇宙巡洋艦だけであった。


「「シュン、大丈夫?」」

 2方向から声を聞き、僕はオープン回線で返事をする。

「ありがとう、僕も機体も傷一つついていないよ。」

 一つの声は随伴してくれている伊庭さん…じゃなくてミキの機体からの通信だ。頭部の一つ目が輝き動き回り、360度監視をしているのがわかる。もうひとつの声は離れたところから警護してくれている“射撃手”ナホさんの機体からの声だ。きっとナホさんも360度監視をしているはずだ。

 この3機から少しだけ距離を置いて、もう2機が滞宙している。一機はマニャの監視型「百目」だ。僕らの機体の数倍の監視能力は広範囲でこの宙域をサーチしていることだろう。(“敵”がまだいればすぐに通信が入るはずだ。)その百目からの情報を同時受信して次の一手を考えているのが、百目の横にいるユカリの白い指揮官機だ。僕たち5機は現在艦隊の護衛任務に就いているのだ。

「みんな、そろそろ弾薬も少ないし、機体の熱も限界よ。一度帰艦しましょう。」

 リーダーのユカリ=村上さんの声に全員が了解の返信をして、僕たちの編隊は母艦へと向かった。

 この戦いも、全員無事に終えられそうだ。


 5機編隊からの着艦要請を受けて、重巡洋艦「ネムルアルカト34」の通信員は了解の返信を送った。そして艦長や艦隊司令に声を飛ばす。

「フィンガーズ、帰還しました。“スズメバチ”の群れを二つ撃滅と、そのあとは“はぐれ”掃討を終了です。戦果は…」

 最後まで聞かず、一人の戦術参謀が嘆息を漏らした。その思いは戦闘艦橋の全ての人員に等しいものである。

「おそるべき子供たちだな。」

 地球年齢の16歳から20歳は、彼ら虎族にとっては子供にしか過ぎない。それなのに彼らは巨大な武勲をあげている。

 巨大ロボット「独眼」は“スズメバチ”との格闘を目的に作られたロボットである。人のサイズのパワードスーツでは巨大な“スズメバチ”に対抗しようがなく、また戦闘機型の艦載機は宇宙空間を羽ばたいて機動する“スズメバチ”に組み付かれると無力であった。(飛行機が格闘できるわけがないじゃないか)それゆえラージスーツは開発されたのだ。そのラージスーツは「“スズメバチ”と格闘機動して交戦する」と誰もが思い込んでいた。そのために作られたわけだし~。その当たり前を、彼らフィンガーズは一変させたのだった。

 まずは射出速度そのままに、5機編隊の一撃離脱戦法で“スズメバチ”の群れに大きな被害を与える。場合によってはそのまま飛び去ることもある。その場合は次の編隊が“群れ”に第2撃を加えることになる。最初の一撃離脱で敵の群れが拡散すれば、その後慎重に“はぐれ”を5機がかりで仕留めていく。1対1の正面からの対決などは一切しない。これは虎族の戦闘の流儀からすれば「男らしくない」戦い方になるのであるが…フィンガーズは5人中4人が女子であった。男のロマンなんて地平線の彼方に捨ててある。(シュンは生き残れればそれでいいというのがポリシーであった。)

 次々と“スズメバチ”を仕留めていく彼らの戦法を他の虎族パイロットたちも見習うほかなかった。そして、みんなが生き残っていった。

 かくして重巡洋艦「ネムルアルカト34」の所属する分艦隊は、一隻も沈むことなく、戦闘速度で航行を続けている。これは驚くべきことであった。全艦無事というのは彼らが所属する艦隊の中で唯一かも知れない。小破した艦艇はあるものの、一艦たりとも脱落することなく、艦隊司令からの「全艦集結せよ」の命に従うべく行動中であった。


 着艦が近づくと僕は「独眼」を支援システム=“妖精”に操作をまかせた。他の兵士の“妖精”も優秀であるが、なぜか僕に憑いてくれた“妖精”=パンダ先生は“妖精”たちの中でも格別の存在だそうで、カタパルトに見事な一点着艦を決めてくれた。(手動操作で着艦作業なんて、一生出来ないと思うぞ)

 格納庫に移動した「独眼」は膨大な水のシャワーに包まれた。機体を冷やすにはこれが一番だそうである。「独眼」のサイズに仕切られたプールの水量がみるみる増えていく。プールの中は機体熱による水蒸気でサウナ風呂のようになっていく。

 僕はコクピットに満ちている“操縦者保護ゼリー”の収納ボタンを押した。これまたあっという間にどこかに吸い込まれていく。ちょっと汚い話だが、パイロットはかなりの確率で「漏らす」らしい。このゼリーはそれを感知すると包み込んで、機体のどこかでリサイクルしてくれる。(そのあとどうなるのかは考えたくないが。)地球の戦闘機のパイロットなんかはどうしているのかなー??

 戦闘中にブンブン振り回される身体を守る、空腹や喉の渇きを癒す、そして脳や神経を妖精とつなぐ“操縦者保護ゼリー”が全て見えなくなったら、やっと操縦席扉を開くことが出来る。が、機体はとっぷりと水の中である。僕は平泳ぎで水面に向かった。泳ぎは苦手なんだ~。「独眼」の頭の先がちょっぴり水面から見えていた。プールの岸に辿り着くとすでに整備員や捕給員の人たちが「独眼」の周囲を囲んでいる。機体が冷えて、水が引いたら即作業開始だ。彼らの戦闘は今から始まるのだ。一機の「独眼」の機体冷却と捕球作業に20人以上が費やされる。戦争は人出がかかる。

「シュン、おつかれさん。今回も生き残ったな。えらいぞ!」

 整備主任が声をかけてくれた。僕はヘルメットのバイザーを開ける。

「ありがとうございます。“一つ目”よろしくお願いします。」

「おう、新品同様に戻してやるから安心しろ。」

 その他何人かの整備士さんたちにも褒められ、返事をしながら僕は浄化室へと向かった。プールで泳いだことで第一次洗浄はすんでいるわけだが、相手は未知の生物“虫”である。対放射能や対化学洗浄も必須である。身体の内部もこのとき同時に検査される。くたくたの身体にムチ打って一つ一つ終わらせていく。パイロットはしんどいのだ…。

 全て終わった僕は兵員食堂に向かった。士官食堂の方がおいしいと噂をきくが、僕の舌には兵員食堂の食事も十分美味しい。虎族の食事は僕の好みが多い。宇宙人であっても、食べ物の好みが似ていれば仲良くなれる気がするのはなぜだろう…しかし今は固形物は喉を通らない。胃がうけつけないよ。

「パンダ先生、スーツの解除おねがい。」

『ホントハ服務規程違反ダゾ。』

 戦闘配備中は、艦内でもスーツ=装甲戦闘服でいなければならない。それはわかっているがひとつの戦闘が終わった後はちょっとリラックスがしたいものである。現に兵員食堂にいるパイロット、2~30人のうち半数は“スーツ”姿ではない。誰もがほんのしばらく、ゆっくりしたいのだ。

 そのパイロットたちの数名が僕に気づいて立ち上がり敬礼しようとしたので、僕は慌ててジェスチャーで「いらない、いらない」と伝えた。宇宙人の虎族に地球、いや日本の身振り手振りが伝わるのは不思議だ。すると彼らは軽く会釈するだけで終わらせ、仲間内の輪に戻っていった。体格のいい虎族のパイロットたちに一目置かれているのは今でも不思議だ。それはともかく、僕はドリンクサーバーに向かった。喉が渇いたからだ。

 探知装置に手のひらをつっこみ、機械にサーチしてもらう。戦闘で使い果たし欠乏した栄養素をジュースに含んでくれるのだ。僕は虎族のある果物ジュースを注文した。(このときも僕は日本語で注文しているはずなのだが、虎族の自販機はきちんと品物を出す。なんでだ?)

 ジュースを口に含んだ頃、女性陣がわらわらと食堂に入ってきた。マニャが「あ、いたいたー」と騒がしくこちらに手を振る。他の虎族のパイロットたちは気のせいか僕に対してよりも嬉々として敬礼や挨拶を彼女たちに投げかけている。虎族にも女性兵士は多くいるが、彼女たちはがっしりしたタイプが多いため、細身の多いこの地球人の4人はめずらしいのだろう。…いや、正直に言います、みんなカワイイです…。

「シュンくん、今回もご苦労様。“スズメバチ”を引きつける役目はしんどいだろう。」

 横に座るなり、年長のナホさんが労ってくれた。彼女は戦場でも常に僕と同伴機の伊庭さんを守ってくれている。僕らが直面した“スズメバチ”に一撃を浴びせたり、それ以外の“スズメバチ”が隙を狙っていれば狙撃するのがナホさんの役割だ。いつも援護射撃をしてくれる頼りになる後衛なのだ。

「シュンの“一つ目”はいつもボロボロになるからね…まぁ無理しなさんなや~」

 そういうマニャは一番低い戦闘力ゆえ、常に守られている立場である。戦場の広範囲を索敵し、近寄る“敵”を探し続けてくれている彼女の“目”が優れているおかげで、フィンガーズは攻撃に余裕が作れている気がする。ホントのことをいうと感謝している。…それはともかく、戦闘直後にスイーツ食べられるのか、コイツは??テーブルに小山になった虎族のスイーツたちはマニャとナホさんの胃袋にすごい勢いで収納されていく。

 ドリンクボトル片手に着席した村上さんは即座に空中に画面を開いている。彼女は指揮官だから戦場の移動が気になるのだろう。気の休まるときがないなー。これまた感謝です。それを横からのぞき込む伊庭さんはソフトクリーム(のようなもの)を手にしている。書道部なのに運動神経の良い彼女は僕と同じように“攻撃係”を務めているが、本来は頭の回転も早い人なので村上さんとも良いコンビである。画面を指さしながら二人でああだこうだと会話が弾んでいる。

「ああー、それにしても戦闘が続くね。ちょっとしんどいわ~」

 マニャがスプーンを舐めながらつぶやいた。「甘みが足りない」の方は無視することにしよう。

「“敵”が予想もしなかった戦法をとった、ってイッセさんが言っていたじゃないか。予定通りなら僕ら艦載機は出番なかったはずなんだろ。」

 ゲート前での艦砲射撃戦闘が中心ならば、艦載機はあまり出番がない。そのはずだったのに・・・

「補給艦隊に直接攻撃されたからね。まぁ実戦は予定通りにいかないものさ。それとも龍族とかの艦隊がとっくに戦場を移動したせいかな。」

 ナホさんも日本では射撃部で全国クラスだけあって、目は行き届いて情報収集に素早い。観察眼は一流の最低条件だそうで、暇なとき僕やマニャは色々な話を聞かせてもらっている。ナホさんはいつも一般パイロットが気にかけないようなこともきちんと覚えている。

 戦場は様々な音声で満ちているのだ。鼓膜が破れないように音量調節はされているが、戦艦の通信員からの命令も次々に飛んでくるし、他の編隊からの救援要請もひっきりなしだ。ぼーっとしていたらこの5人の音声すら聞き落としかねない。戦術戦闘支援の“妖精”がそこらへんは配慮してくれているけど… 僕はなるべく必要なこと以外は「忘れていく」ことにしている。全てを頭に入れていたら脳が飽和してしまうからだ。(脳の容量が人より少ないことを自覚していますので。)その点ナホさんは目だけでなく耳もいいのだろう。命がけの戦場で、直面する事態以外のでも重要な情報を取捨選択している・・・僕には到底出来ないなー。

「シュン、聞いている?またぼーっとして!!。」

 このマニャの指摘はハズレではないということだ。僕の役割は、この4人を守ること。“敵”をなるべく引きつけて、そいつに一撃を加える。今はそれしか考えないようにしている。絶対に5人で地球に帰るのだ。それが僕の勝利条件だ。

「「エッ、うそ!!」」

 隣の席の村上&伊庭コンビが小さな悲鳴を上げた。普段は冷静な二人に不似合いな声と表情に僕ら3人も緊張する。

「何があったの?」

 ナホさんの問いに伊庭さんが答える。村上さんは画面の操作で手一杯だ。僕の隣ではマニャもあわてて戦術画面を起動していた。食堂内のいくつかのグループからも「オオッ」とか「ホントかよ」という声が聞こえだした。僕の顔は伊庭さんに向き直る。

「イッセさんのチームが…2機落とされた…。」

「ホントかい!!」

 日頃のイッセさんは、僕に劣らない「ボーっ」とした人柄である。フー・スーさんにこき使われて「この人ほんとに赤服=特別士官なの?」と思っていたが、コクピットに座ると人格が変わる。紅の彗星とかなんとかいう二つ名は伊達じゃない操縦技術だ。演習では僕たちフィンガーズ5人がかりでもなかなか勝てなかった。そしてそのイッセさんとチームを組んだメンバーも一流ばかりである。

 あのチームはこの分艦隊でも屈指の戦力のはずだ。それが落とされた??

 僕らが帰還したため、彼らは入れ替わりに出撃したはずだ。ブリーフィングでどちらかのチームが戦場に居るよう話し合ったのだ。その交代からまだ1時間もたっていないだろう。

 この宙域の“スズメバチ”はかなりの数の群れを掃討したはずである。残った群れは多くないはずだ。群れからの“はぐれ”にイッセチームがひけをとるとは思えない。イッセさんたちほどの戦士が油断するとは思えないし…。

 ピッ、とマニャの通信機から音が聞こえた。「了解しました。」とマニャが答える。そして僕ら全員に向けて厳しい顔を向ける。

「艦長から直接命令が出たわ。“フィンガーズは至急出撃し、イッセ隊を救出せよ”ですって。」

 そのあと、僕の耳元でパンダ先生がつぶやいた。

『シュン、信ジラレナイ“敵”ガ現レタヨウダ。気ヲ引キ締メルノダ。』

 言われるまでもない。虎族本星に降り立ったときより世話をしてくれたイッセさんを助けなくては!

 僕たち5人は格納庫に向けて駆けだした。

 整備完了していた僕の「独眼」は整備長の言ったとおりピカピカに戻っていた。武器もフル武装である。両手のバズーカ砲が頼もしい。

 しかし僕の「独眼」の雄姿を見たのは、それが最後になった・・・・・。



 日本は宇宙人に侵略されました。

ご訪問ありがとうございます。

脳に沸き上がるストーリーの順に打ち込んでいます。「早く続きを書け」と自分でも思うのですが…なんで迷走するのでしょうか??

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