虎姫様の憂慮2
虎族の機動兵士「独眼」が宇宙を切り裂く!
6-5-2 虎姫様の憂慮2
補給艦隊とサーナベト艦隊の危急を救ったシヴァイ率いる龍族艦隊(と猫族と鎧獣族と虎族の混成艦隊)は最後にもう一度戦場を駆け巡り、“敵”の残存勢力を掃討した。そして、そのまま留まることなく、再度戦闘中の別の宙域に向かった。
しかしサーナベト艦隊の危機はまだ継続している。“敵”艦隊がすでに出撃させていた艦載機(?)“スズメバチ”である。“スズメバチ”はサーナベト艦隊の艦載機をたやすく撃破し、虎族の戦艦や補給艦にとりつく。そして、侵入した艦の奥深くで自爆攻撃を行うのだ。
“スズメバチ”それは全長20mほどである。銀河宇宙軍の各族艦隊の艦載機よりはやや大きい程度である。が、宇宙空間での運動性能はケタ違いである。どのような運動原理に基づくのか不明の“羽根”のはばたきで、宇宙空間を縦横に移動する。それに対抗して様々な星で人間が乗り込んで操縦する機動兵士が作られたが、“スズメバチ”の格闘能力に匹敵するロボットはまだ一つもない。それゆえ銀河宇宙軍は艦隊の近接戦闘で常に惨敗を喫してきた。長距離での砲撃戦では銀河宇宙軍は有利であるが、艦載機“スズメバチ”を出撃されると次々に戦艦が沈められる。機動兵士2~3体でやっと1匹の“スズメバチ”に対抗できるかどうか、というのが実情である。
その“スズメバチ”がまだ補給艦隊やサーナベト艦隊の艦艇の漂う宙域を飛び交っている。“スズメバチ”は本能に従うかのように“敵”艦隊が滅んだあとも戦場で次の獲物を探している。虎姫様が差し向けた近衛艦隊の機動兵士「臥虎」が数機がかりで懸命に“スズメバチ”と戦おうとするが、“スズメバチ”の強さは圧倒的であった。
虎姫様の乗艦“ネムル・アミーラ”の様々なモニターが戦場の現在の様子を映し出している。“敵”艦隊は完全撃沈や撃沈寸前で宇宙空間を漂っているが、“スズメバチ”は、まだまだ健在である。近衛艦隊所属の真白く塗られた「臥虎」が次々に撃破される様子がいくつもの空間画面で大写しになっている。
そのとき、またまた先ほどの情報官が大声を発した。今日の彼女には何かが憑いているのか、常に誰も気づかない画面に真っ先に気がつく。それゆえ彼女はこの戦いの後、一階級昇進するのであるが…
「“敵”スズメバチ、撃破されていきます!」
「何? 戦場のどの辺りだ?」
情報官の答えた宙域を映し出す画面が最大モニターに切り替わる。そこにいたのは“スズメバチ”の群れとそれに突っ込んでいく量産型機動兵士「独眼」の5機編隊であった。「独眼」5機は“スズメバチ”の群れの中央を外れ、右端をかすめていく。すれ違いざまに数匹の“スズメバチ”がバラバラに引き裂かれる様子が見える。そして、そのまま「独眼」5機は飛び去ってしまう。
「な、なんだ? あの戦い方は。戦うというよりも…」
「単に飛び去っただけじゃないか。どこが撃破しているというのか。」
戦闘艦橋の数名が先ほどの情報官の言葉に不満をもらす。しかし、次の瞬間、彼らの眼は大きく開かれた。
次の「独眼」5機編隊が少しだけ傷ついた“スズメバチ”の群れに向かっていく。そして今度は群れの下部に向けて急降下し、すれ違っていく。無論、数匹の“スズメバチ”を撃ち砕いて飛び去っていくのだ。と、見終わるよりも先に、次の5機編隊が戦場に参入してくる。“スズメバチ”の群れは次々に現れ消え去る「独眼」編隊のどれを戦う相手に選ぶか右往左往しているように見える。その“スズメバチ”たちにまた新手の「独眼」編隊が飛びかかっていく。
みるみるうちに、破れ目が大きくなり、その“スズメバチ”の群れは消滅していった。あと何匹かの“スズメバチ”は生き残ったが、次の「独眼」編隊に全機仕留められるであろう。
「あ…“スズメバチ”の群れが…」
「我が軍の「独眼」が圧勝??」
ネムル・アミーラの戦闘艦橋のあちこちに浮かぶ空間モニターは補給艦隊戦場の各地をそれぞれ映しだしているが、どこの宙域でも“スズメバチ”の群れが虎族機動兵士「独眼」や同じく「緑臥虎」に切り裂かれ、撃ち抜かれ、群れを維持できない数になって、そして全滅していく様子が流されている。ご丁寧に画面の下に“生中継”と書かれてあるので、目を疑うわけにもいかない。
軍配を失った虎姫様は右手こぶしを左手に打ち付けた。そして誰にともなく尋ねる。
「なんで、ウチの機動兵士があんなに強いんだい?」
「わ、わかりません…先ほどまで近衛隊の「白臥虎」は劣勢でありましたが…」
味方が勝ち進んでいるのに、なんで叱られるのか、その理不尽に気づく者はいなかった。
「龍族の“飛龍”や猫族の“猫目”は通常の数機がかりで1匹の“スズメバチ”と交戦し、なんとか互角のようですが…。」
情報官の言葉を裏付けるように、幾つかの画面が切り替わり、龍族や猫族の機動兵士が“スズメバチ”相手に苦戦している様子が映し出された。不幸にも大写しになった途端、撃破される「飛龍」や「猫目」がいくつもある。けっして“敵”スズメバチが弱くなったわけではない。情報官の声がまた響く。
「我が軍の機動兵士隊、サーナベト艦隊と補給艦隊のエリアに到達しました。“スズメバチ”の撃破を継続しています!!」
今度こそ信用したのか、ネムル・アミーラの戦闘艦橋は「おおっ」という喜びの声で満ちあふれた。先ほど、シヴァイ艦隊がサーナベト艦隊を救ってくれたときも安堵の声が大きく吐かれたが、今度は自軍の機動兵士が大活躍しているのである。
どの画面にも“スズメバチ”が手足を吹き飛ばされ、体節で引きちぎられ、複眼の光を失っていく様子が映し出されている。薄緑色をした量産型の「独眼」がこれほど大活躍をするなど、これまで誰が考えたであろうか。
「シュン、あれは艦隊旗艦だ。サーナベト将軍の乗艦だ。」
「あのでっかいのだな。よし、周りの“スズメバチ”を追い払おう。」
5機の「独眼」がスズメバチの群れにトドメをさした後、急転進をする。その大きさや派手な形で目立つ戦艦が“スズメバチ”にまとわりつかれている。あれを助けなければ。ユカリはマニャに指示した。
「マニャ、幾つかの独眼隊を招集して。」
「了解。ウチの編隊のすぐ後ろにいくつもついてきてるから、すぐだよ!」
一番先にフィンガーズが“スズメバチ”の群れに一撃を浴びせ、あわてふためく群れを次々に後続の編隊が一撃離脱を重ねる。その戦法はおもしろいように効果を発揮し、巡洋艦「ネムルアルカト34」の機動兵士隊はまだ一機も失われていなかった。虎族の兵士たちは今ではフィンガーズを戦場の女神のように信じ、ひたすらついていくのであった。そしてフィンガーズを先頭に彼らの進むところ、阻む者はいなかった。
「ミキ、行くぞ!!」
「シュンこそ付いてきなさい!」
先頭を飛び行く二人が的確に“スズメバチ”の密集ポイントに炸裂弾頭を撃ち込む。爆散する“スズメバチ”。生き残った中には、反撃しようとする優秀な個体も存在するが、シュンとミキの後ろを飛ぶナホの「狙撃用独眼」がそれを許さない。そいつは頭部を吹き飛ばされ、たちまち動かなくなる。その後ろのマニャの索敵機とユカリの指揮官機は申し訳程度にビーム銃を乱射するだけであるが、それでも数匹の“スズメバチ”が傷ついていく。
フィンガーズの駆る「独眼」隊が群れをすり抜けると同時に次の「独眼」編隊が切り込んでいく。一つとは限らない、同時に複数の「5機編隊」がスズメバチの群れをティッシュペーパーを引きちぎるかのように、容易く打ち破っていく。
「シュン、ミキ、一度補給しましょう。折角だから、今助けた艦隊旗艦に降りましょう。」
ユカリの言葉と同時に再びマニャが通信を発し、フィンガーズや同僚の編隊の着艦を申し出る。無論すぐさま感謝の言葉と共に乗艦許可の声が返される。
補給艦隊の戦場宙域の“スズメバチ”は、こうして見る間に数を減らしていった。
虎姫様の手元の画面には、虎族機動兵士隊の戦闘パターンが映し出されている。先ほどのシヴァイ艦隊の機動は、Uの文字を基本に戦場を自由自在に飛び交うものであった。それに対して虎族機動兵士の軌道はYの文字で編隊を組んでいる。そのあとの戦闘機動は状況により編隊によって異なったが、共通するのは「急襲一撃、格闘戦は行わない」「一撃離脱後はつぎの“敵”に向かう」に2点である。一編隊の5機の一回の攻撃力は大きくないが、一瀉千里に続けられる連続攻撃は“スズメバチ”の群れを次々に粉砕していくのである。
(こんな戦いは見たこともない、聞いたこともない。)
虎姫様は戦闘艦橋の誰にも、すぐそばで控える侍従兵にも聞こえない小さな声でつぶやく。
「フー・リャン、いるか? あの戦法は誰の発案か調べてまいれ。」
「承知しました。」
これまた虎姫様以外の誰にも聞こえない小さな返事があり、虎姫様の足下の影がゆらめく。それは虎姫様の「影の近衛兵」が出動した合図である。
一時は全滅も覚悟したサーナベト艦隊と補給艦隊がなんとか助かり、そのあとの掃討戦では自軍の機動兵士たちが“スズメバチ”を圧倒している。これまでの銀河宇宙軍の歴史にないほどの“スズメバチ”への勝利に虎族の全将兵は沸き立っていた。冷静なのは虎姫様とごく一部であった。
「ほらね。私が見つけた彼らは“スペシャル”だったでしょ~。」
「はい。あの戦果には正直まいりました。フー・スー様のお目は高い。」
「賭けは私の勝ち。次に地上に降りたら、最高級のディナーを奢りなさいね。」
「えええええ~」
“スズメバチ”撃墜数で他者に初めて敗北した【赤服のイッセ】はフー・スーの食事量を思い出して恐怖した。
日本は宇宙人に侵略されました。
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暑くて頭が回りません~ 誤字が多いのはそのせいです…




