宇宙戦艦に
宇宙戦艦の大きさは、どの程度でしょうか。
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「現在、我々の宇宙艦隊は地球と月の中間地点で待機しています。日本と世界の各地にシャトル=球体状のUFOを降下させていましたが、このシャトルに続いて順次それぞれの所属艦に帰隊する予定です。」
説明する宇宙人も、その後ろに並んでついていく自衛官たちも、全員が装甲戦闘服を着用しているはずであるが、装甲服を不可視モードにしているため宇宙人は白い制服、自衛官たちは隊服のまま歩いているようにしか見えない。当人たちも動作に何の支障もないため、自分たちがスーツを着用していることを忘れてしまいそうになる。
「ホントに戦闘服を着ているんですかね。」
「宇宙服はかなり不便という話を聞いていたが、これは便利だな。」
会話もシャトル内の空気を伝わっているのか、それぞれのマイクとスピーカーで交わされているのか、わからないほどいつも通りである。大きめの声を出せば周囲の者に声が届くし、声を潜めれば隣にしか聞こえない。妖精と呼ばれる制御装置が優秀なのだろうが、万一故障したときは、少し不安を感じる者もいた。
「もうすぐ、艦隊に到着いたします。日本語の明確な区分に自信がないのですが、皆さんには“戦艦”に搭乗していただきます。我が艦隊の中では大きさ、攻撃力が上位の艦艇のことです。」
「それは旗艦なのでしょうか。」
戦艦という単語を耳にした途端、旅行者のような気分が払拭されたようで、一人が即座に尋ねた。やはり海自の制服である。
「いえ、旗艦は最前衛に位置することも多いため、我々艦は、やや後衛に配置される予定の戦艦です。」
その一言にそれぞれが様々な疑問を抱いたが、誰もが躊躇ってしまい、次の質問は続かなかった。しかし、思わず独り言を発した自衛官は驚くことになった。
(旗艦を最前線に配備して大丈夫なのか)
『銀河宇宙軍デハ旗艦マタは旗艦ヲ代行スル戦艦ガ最前線デ戦イマス。ソレはリーダートシテ当然ノ行動デス。』
「うわ、なんだ、なんだ。」
あちこちで驚きの声が上がる。
「ああ、質問があればつぶやいて下さい。みなさんの“妖精”が答えます。機密事項に抵触する場合以外は何でも答えるはずです。」
その声を聞くなり、その場の自衛官全員が一斉に独り言を始めた。結果として全員の足が止まってしまう。説明担当の宇宙人は予想通りの結果に苦笑いを浮かべ、様子を眺め続けた。
銀河宇宙軍第133龍族艦隊旗艦“シヴァイガ”の戦闘艦橋は慌ただしい雰囲気に包まれていた。休暇期間終了にはまだ余裕があり、そのあとは艦や兵の補充そして習熟訓練のはずが突然の戦闘準備・待機命令である。各部署のリーダーが人員の点呼、装備や機器の再確認作業に追われていた。
戦闘艦橋の最前面の座席には大きめの操縦桿がある。その席の横には女性らしい宇宙人が肩の辺りに“妖精”を浮かべて佇んでいる。
「参謀官、出撃予定艦数から計算した航路表を送ります。現地到達までは紡錘陣形で計算しています。」
「ありがとう。戦闘予定宙域での戦術陣形パターンは現地到着前に解錠されますので、そのときに戦闘行動航路の計算をお願いします。」
「はい。シヴァイ司令官の口癖“燃費が良くて横腹をむき出しにしない航路”を計算いたします。」
二人が笑顔になったのは、それが司令官の口癖であったからである。
その航法担当の宇宙人の太い手にはブレスレットのような“妖精”が装着され、参謀官の“妖精”と連絡を取り合っている。
「艦長、戦闘班より報告。本艦の各砲座補給完了。戦闘機の準備も30刻以内に完了いたします。」
「よろしい。他艦の戦闘用補給の進捗も確認しておくように。」
戦闘艦橋の一番後方の中央には艦長席がある。その隣の司令官席と副司令席はまだ空席である。
第133龍族艦隊所属の宇宙戦艦には重力のある場所での着艇のために艦底がある。艦底は装甲も厚く、多数の砲口や補助推進器や監視カメラが各所に設置されている。それらを避ける場所の収納扉が開いていった。球体のシャトルが吸い込まれるように収容されると扉は音もなく閉じていった。
現在は非戦闘時なので艦内は地球と同じ1Gに設定されている。龍族の出身母星は地球とほぼ同じ重力であるため、身長や体重もだいたい似たサイズである。それゆえ、シヴァイは龍族の艦隊に身を寄せることになったのであるが、平均身長よりはやや小さめである。早足で艦橋に向かうと、副官のリュトゥーの方が前を進むことになる。
「エスカレーターか移動用ハンドグリップを設置してほしいなー。」
「ああ、いつぞや見せられたアニメの艦内移動の機器ですね。」
「レールカーで移動するほど巨大戦艦ではないし、でもショッピングモールよりは大きいからなぁ。」
「艦首から艦尾まで一気に移動する機会はあまりないと思いますが、緊急時に早めに移動できると便利とは思います。新規に戦艦を設計する機会があれば、上申してはどうでしょう。」
大股で歩むリュトゥーに遅れないようにするとシヴァイは駆け足に近くなり、少し息が上がってくる。
「最近運動不足だったからなぁ。明日からトレーニング再開するわ。」
「私もです。お付き合いいたします。」
戦闘艦橋のドアの前に到着する。リュトゥーが身を引き、シヴァイが先にドアの前に立つ。ドアの周囲の認証装置が二人を本人であると確認し、扉を開ける。
二人の乗るシャトルの到着時に既にアナウンスがされていたため、戦闘艦橋の全員が入室した二人を拝礼で出迎える。二人も同じ姿勢をとり、礼を返す。
「艦長、全艦に音声放送をよろしいでしょうか。」
「はい。通信班長準備したまえ。」
司令官席に着席したシヴァイは正面のモニターに目を向ける。約500隻の艦隊が映し出されている。出来ることなら全艦欠けることなく戻りたい、といつも思う。
「司令官、準備できました。」
リュトゥーがマイクを手渡す。
シヴァイはいつものように緊張感の欠片もない口調で話し始める。
「連絡します。全艦隊のみなさん、第133艦隊司令シヴァイです。作業をしながら聞いて下さい。我が艦隊は本来ならまだ休養期間であり、艦船の補充も完了していません。しかし、猫族のアシュバス提督の要請を受け緊急出動を決定しました。アシュバス提督の言うようにガネーザ提督の鎧獣艦隊が危険であるならそれを救援するのが目的です。ガネーザ艦隊が無事であるならば、戦闘はありません。しかし万全の準備をお願いします。全艦の準備が整い次第発艦とします。以上連絡終わり。」
シヴァイの右肩の空間に“妖精”が発生する。その銀髪の乙女は楽器のような声でシヴァイに告げる。
『最モ時間ノカカル艦ハ護衛艦230~236デス。デモ地球時間ノ2時間後ニハ全艦発進デキマス。』
目を瞑ってそれを聞く司令官。女神のお告げのように。
「ジークくん。お願いします。」
「はい。全妖精に告げる。総員、各自の担当準備が出来た者から簡易休息。二時間後に発進予定。」
その声を聞きながら、シヴァイの頭の中は“戦い”に切り替わっていった。ほんの少しだけ後悔を残して。
(もう少し日本を楽しみたかったな。)
宇宙人は宇宙に帰りました。地球人を引き連れて。
最後まで読んで下さった方、ありがとうございます。作者は宇宙戦艦には乗ったことはありませんが、旅行で船に乗ったことは何度か経験しています。宇宙戦艦はその10倍以上巨大だろうと設定してみました。イオンくらいのイメージです。




