フィンガーズの戦い2
戦況は少しずつ、しかし確実に変わっていきます。日本から来た五人の行動は?
6-4-2 フィンガーズの戦い2
「おいおいおいい、ちょっとピンチじゃないの?」
パイロット用のブリーフィングルーム(作戦会議室または待機室)で戦況モニターを見ていたイッセさんがつぶやいた。その声につられて僕もその空間モニターに目を向ける…よくわからない…。僕の気持ちをマニャが代弁してくれた。
「戦況はどうなっているのですか?」
マニャの方を振り返りもせず、目はモニターに釘付けで、イッセさんは口を動かす。
「さっきまでは圧勝だった。“敵”の艦隊はゲートに出現するなり集中砲火を受けて爆発していってたからな。」
「僕ら、機動兵士の出番は一切ありませんでしたからね。」
「ああ、艦砲射撃だけで、“敵”を一掃していたからなぁ。」
イッセさんの口調はそれまでの僕らを接待する口調から、パイロット同士という関係になって微妙に変化している。命をやりとりする場では、礼儀正しい言葉遣いをしていられないのだろうなぁと僕は感じている。
「今、我が軍の補給艦隊に攻撃が加えられた…ゲートを通過した“敵”艦はないはずなのに…どうやって??」
空間モニターの上下には戦況説明の文字が流れ始めた。“妖精”のおかげでそれが読み取れる僕らは必死で目で追った。
「補給中のサーナダベト艦隊も被害甚大…虎姫様の近衛艦隊が迎撃に発進した…おいおいけっこうな大事じゃないか。」
今現在の虎族の陣形はこうである。ゲート前で、この宇宙に出現する“敵”艦隊を出てくるなり撃ち落としているのは若虎ノモゥダベト将軍の艦隊である。僕は一度であったことがあるが、立派な武将だった。その外見に違わず、一歩も引かない剛勇な戦いぶりである。すでに数倍の“敵”艦隊を沈めている。
その後方、次の陣として控えているのは龍族・猫族・鎧獣族の三族艦隊である。虎族戦艦に比べればやや小型な戦艦が多いため、数は少し多めであり、そのおかげでかノモゥ将軍の艦隊と遜色ない戦果をあげている。知将シヴァイという人の戦況に合わせた陣形変形は見事だと戦術戦技教官のケアイダさんも複雑な表情でほめていた。虎族と龍族は微妙な関係があるようで、素直に褒めにくいようだ。ちなみにケアイダさんは高級将校用のブリーフィングルームにいることが多いため、あまり出会えなくなった。残念。彼女は高級機動兵士を愛機にしている。高速移動の際は虎型に変形するラージスーツは、変形なしの僕たちの機体に比べるとかなり強そうでうらやましい。早く乗れる身分になりたいものだ。
戦闘を終えたサーナダベト将軍の艦隊が弾薬や推進剤の補給、機関部と砲身の冷却作業を行っているとき、“敵”艦隊がすぐ横に出現した。無抵抗な戦艦が幾つも沈められ、今現在も“敵”艦の蹂躙を受けている。補給艦隊のさらに後ろに殿軍として控えている虎姫様の直属艦隊から近衛隊が応援に回ったとのことだが、“敵”艦隊は増え続けているようだ。サーナダベト将軍は大丈夫なのだろうか。
「いよいよ私たちも出撃がありそうね。」
ユカリが独り言のようにつぶやいた。いつものように感情のこもっていない他人事のような口調だけど、今は彼女が冷静だと感じてちょっと安心した。
「この艦は今、龍族艦隊と同行しているんでしょ。どっちに向かうのかな。」
ユカリに負けず劣らず頭の回転の早いミキもヘルメットを両手に持って誰にともなく尋ねる声を発した。そう、この巡洋艦「ネムルアルカト34」は虎族から龍族への応援の客将マラッジ提督の艦隊に所属している。このあいだフー・スーさんは「軍監だぞ」とささやいてくれたが。
軍監=軍目付は目付は本陣を離れ、前方の各軍の後ろにいて軍の配備や兵の士気、戦況を冷静に監察・分析して本陣に報告する役目、つまり見張りだ。龍族始め猫族と鎧獣族の戦いぶりを見張らなくてはならない。しかしそればかりに気を取られると“敵”に沈められてしまう。まぁ、このネムルアルカト34が直接見張るわけではないし、僕たちは自分たちが生き残るように、そして母艦が沈められないように頑張ればいいと思っている。
「シヴァイって人はサーナダベト将軍の応援に向かうかしら。」
「でも近衛艦隊が応援に出撃したのでしょ。ノモゥダベト艦隊もそろそろ活動限界が近いはずだし、ゲートで“敵”艦隊の迎撃につくんじゃないの?」
戦況予想は頭脳組に任せて、残りの三人は攻撃フォーメーションをおさらいする。
「私は広範囲監視で“敵”のスズメバチを多く見つける。そして近い順に報告する。」
「その近いスズメバチに接近して足を止めるのが僕の仕事。でも深追いはしないよ~。」
「そうなる前に、私が狙撃して倒すようにする。一瞬動きを止めてくれたら十分だ。」
戦いが始まって集中しているのか、ナホさんの口調はいつもよりさらに言葉少ない。まぁ口の減らないスナイパーなんてイメージに合わないから、冷静沈着でいてもらうほうが頼もしい。
『我が艦は、ノモゥダベト艦隊と交代して、ゲートから出現する“敵”艦隊の撃滅に向かう。前回と異なり、“敵”が一部後方に回り込んでいる。その方法は未確認のため、前方だけでなく周囲の監視を密とせよ。繰り返す、我が艦は…』
三族艦隊はゲートでの戦いになったようである。今まで通りなら、僕たち迎撃機チームにはろくに仕事が来ないはずだが…今度はヤバイかも。
そしてその気分は全員が抱いているようで、ブリーフィングルームの全パイロットが無言で支度を始め、出来た者から自機に向かって行った。
「フィンガーズ、一人もおちるなよ。」
「イッセさんも活躍期待しています。」
僕たち五人は愛機“一つ目”にそれぞれ乗り込んだ。銀色のマニャの機体と黒いナホさんの機体に挟まれて、僕のグレーの機体が細かく振動している。エンジンは快調に回っているようだ。
「いつ出撃かわからないけど、緊張しすぎるなよ。」
「はい、ありがとうございます。」
整備の人が声をかけてくれる。僕の機体の細かい癖を丁寧に教えてくれた人だ。
シートに腰を下ろし、スタートボタンを押すとコックピットにゼリーがせりあがってくる。僕の意思をこの機体に伝達し、生命を維持してくれる特殊ジェルなんだけど、アゴより上に来る瞬間はうっとなって一瞬息をとめてしまう。窒息なんてするはずないのに。しかし頭まで包まれてしまったら、視界は無色透明で、匂いや味はむしろきれいな空気、水として吸えるから不思議だ。緊張して喉がカラカラだと思えば、すぐにドリンクを流し込んでくれる。万一…もらした場合も、一瞬で浄化、リサイクルして純水にもどすとか…それでも、それは飲みたくはないなー などと毎回考えるのはなぜだろう。
こうして、僕たちの戦いがいよいよ始まろうとしていた。
日本は宇宙人に侵略されました。 日本の話とは全然関係ないじゃん。
ご訪問ありがとうございます。
しばらくは宇宙戦闘を続けても良いかなー…と構成を悩んでいます。日本編も書き進めたいことがあるのですが…うーん難しいなー




