戦闘員の日常9
正義と悪の戦いはつづく。
5-6-9 戦闘員の日常9
“玄武伯爵”の手にある武器、それは青龍偃月刀と呼ばれるものであった。伝説の武将が使ったと言われている青龍偃月刀を玄武伯爵は軽々と振り回す。必死になって避け続けるウィーズの動きには先ほどまでの余裕は感じられなかった。しかしなんとか距離を取り、一つ大きな呼吸をする。
「その武器、500kgくらいあるんじゃないの?」
「さすがだな。丁度500kgだ。私はこの青龍偃月刀を爪楊枝のように使いこなせる。逃げても無駄だぞ。」
ウィーズの隙を見て、地獄天使が鞭を足下に打ち放つ。ウィーズの足を絡め取るのが目的だ。動きが止まった瞬間、玄武伯爵の青龍偃月刀はウィーズを唐竹割に斬って落とすであろう。
「じゃあ、攻撃は最大の防御、ウィーズキーーーーーーック!!!!!」
テレビの特撮ドラマのヒーローとは異なり、見得を切ることもなく唐突に繰り出されたハイキックは玄武伯爵の側頭部に見事にヒットした。一瞬ふらつき、青龍偃月刀を地に刺して、身体を支える玄武伯爵。しかし、それだけだった。
「えっ、効かないの?」
「ふむ、私に攻撃を当てるとは…貴様で二人目だ。見事なり。」。
玄武伯爵の身体がふくれあがる。服が内側から破られ、ごつごつした岩石のような皮膚が露出していく。数十秒後には、その名の通りの外見に変化していった。全身を強固な岩で纏った怪人が首をコキコキと鳴らし、再度ウィーズに向き直る。
「へぇ~玄武伯爵様が怪人態になるなんて、ウィーズあんたかなりの腕前って認められたみたいね。喜びなさい。」
妖艶な美女は隙を見ては鞭を放ってくる。その都度サイドステップやスウェーバックで躱しているが、いつまで続くかわからない。これまた強者である。
しかし、地獄天使は何かに気がついたような表情になった。そして
「あら、相棒さんの目が覚めたみたい。ちょっと行ってくるね。」
と言葉を残して立ち去っていく。
「それでは、行くぞ、覆面ライダー“ウィーズ”!!」
「こい、玄武伯爵!」
二人は正面からぶつかった。真っ向から青龍偃月刀を振り下ろす玄武伯爵。その打撃の速さは躱しきれるものではない、そう判断したウィーズは避けるだけでなく、横から青龍偃月刀の刀身に向けてパンチを放つ。青龍偃月刀の軌跡がゆがみ、そのおかげでウィーズは避けることができた。が、そのウィーズの身体に密着して羽交い締めにする玄武伯爵。見かけとは異なり、動きも素早い!!ウィーズは身をよじって抜けようとするが、玄武伯爵の膂力はそれを許さない!
「ぐわーーーっ、な。なんて怪力だ…。」
「ウィーズ、このまま絞め殺してやる。」
玄武伯爵の怪力ならば、それは可能であったろう。しかし、ウィーズが命を絶たれる瞬間はこなかった。背後からウィーズを締め上げている玄武伯爵が小声で囁いたのである。
「ウィーズ、健人くんから離れると約束しろ。そうすれば今回は見逃してやる。」
「…健人くん…やはり彼はゾッカーの一員か。」
「そうだ。しかし改造された怪人ではない。彼はまだ悪事を行ったこともない。貴様らに捕まることなどあってはならないのだ。」
玄武伯爵の締め付けが再度強まった。「グッ、」とウィーズの口からうめき声がもれる。
「健人くんには二度と近寄らないと誓えば、解き放ってやる。」
「…そ、そうは、い、いかない…。彼は、健人くんは日本を、いや地球を救うのに必要な、存在なの…だ。」
ウィーズの途切れ途切れの言葉に、玄武伯爵は訝しげな表情となる。
「健人くんを、ゾッカーの一員だから倒すつもりではないのか?」
「ぎゃ、逆だ。彼には協力を申し出ている…ふぅ・・。」
玄武伯爵は締め付けをゆるめた。ウィーズの言葉にウソが感じられなかったからだ。
そのとき、どこからか後ろ手にされ、身柄を確保された女性が現れた。もがき、逃げようとするが背後の地獄天使の巻き付いた鞭はそれを許さない。
「伯爵様、ウィーズの言っていることは本当のようです。この女も同じことを言っていました。」
ウィーズの相棒、影の狙撃手をちらりと見た玄武伯爵は再度ウィーズに語りかける。
「健人くんを害するつもりはないのか?」
「アンタたちも悪の組織なら、今の日本の状況を知っているのだろう?」
「・・・宇宙人たちがいなくなっていることか?」
「その通りだ。」
突如、地球に現れ、日本を侵略した龍族宇宙人は、彼らの本星が危機に陥り地球を離れていった。かわりに日本にとどまり、降下してくる“虫”を迎撃してくれたのは虎族の宇宙人であったが、彼らもまた本星周辺が危険な状況になったため、急遽地球から離れていった。
ウィーズは四人の雰囲気の変化を悟り、言葉を続けた。
「幸い、宇宙船だけは置いていってくれたので、操作を習っていた自衛隊員が大気圏周辺で“虫”を迎撃している。しかし、宇宙人たちよりもスコアは悪い。この日本は近々、次々と“虫”に襲われることになるだろう。今、現在の“かりそめの平和”は長くは続かない。」
「・・・・・・・そうなの?」
「それほどの状況であったか。」
悪の組織ゾッカーの二人はバカではない。またウィーズが虚言を呈するタイプではないこともすでに見抜いている。ウィーズの話は深刻なものであった。
「降下してくる“虫”と戦うのは高校生や大学生、または中学生たちだけになる。自衛隊の援護は今後期待できない。」
「それと健人くんにどんな関係がある?」
「彼は“妖精”、それも本物の“真妖精”に認められた。単なる“妖精”持ちではなく、合体して一つになれる“妖精”使いになったのだ。」
小さく肯く玄武伯爵。ヒューと行儀悪く口笛を吹く地獄天使。どちらも「健人ならあり得る」と納得したのだ。
「日本中の民間戦闘員が今後の戦いで様々な危機に襲われるだろう。そのとき影から援護する存在…俺たち二人みたいな役割を担ってほしいと依頼した。そして、久良木 健人はそれを承知してくれた。」
ウィーズとその相棒サリーはいつの間にか自由の身になっていた。押さえつけられていた肩を回してほぐすウィーズも変身を解き、サリーも身につけている銃を抜くことはしなかった。悪の組織ゾッカーの幹部二人を話が通じる存在と認めたのである。
「ゾッカーを裏切るわけはないと思っていたけどね…。そういうことだったのか。」
地獄天使がつぶやく。
「それならそうと正直に言えばいいのに。」
「あなたたちは悪の組織を標榜しているが、我々の調査によると、その活動は悪事とは言えない事柄ばかりだった。」
「あなたたちゾッカーの実行している作戦行動は、今の日本では、かけがえのない、人や社会に優しいものが多い。」
ウィーズとサリーのつぶやきに、悪の二人は異なる反応を示した。
「バカにしているの?これから日本は崩壊していくのよ!」
「日本をもっとより良くしてから、丁寧に征服するのだ!」
・・・・・・悪の組織の幹部同士が顔を見合わせる。沈黙が四人を支配した。
あーコホン、とウィーズが話を切り出す。
「というわけで、我々は今ひとつ正体が不明だったが、久良木 健人くんに対して正体不明のままでいいからと“日本の守護神”ガーディアンズに入隊するよう依頼をした。それに対し、彼は条件付きでOKと言ってくれた。」
「どんな条件を出したの?」
地獄天使が興味津々という顔つきで尋ねる。玄武伯爵も心配そうな顔である。
「『今のアルバイトは続けさせてほしい。自分が必要になったら現場に飛んでいくから。』と言っていた。」
四人が同時に頭をかかえこんだ。
「それは…我がゾッカーに所属したまま、日本を、人々を守る役割に就く、ということか。」
「悪の組織の一員が、不定期に正義の味方もするってわけね。」
「悪の組織の正義の味方…彼がゾッカーの一員なんて思ってもいなかったから、承知しちゃったんだけど…」
「もうちょっと身元調査をしっかりしてから話を持って行きなさいよ。」
「あんたら悪の組織だから、調べてもわからなかったんだよ。保育園や多種飲食店や自然保護NPOとか下部組織はどれも上場企業や優良団体ばかりだし。」 なんともいえない空気が四人の肩を重くした。どう決着つければいいのか、誰もわからない。
ウィーズ…今は変身を解いてワタルに戻った男が妥協案を述べる。
「じゃあ、お互いの組織同士は干渉しないということで、健人くんの立場や役割、今後の行動は彼の自主性に任せる…でいいでしょうか?」
「…それしかあるまいな…。くれぐれも危険なことをさせないようにな。」
「いや、多少は…でも彼ならば大丈夫だと信じています。」
“世界の平和と人類の自由を守る戦士”と“世界征服を企てる悪の組織の幹部”の目と目が合った。
「では、彼をくれぐれもよろしくお願いします。」
「こちらこそ、しばらく彼をお借りいたします。」
深く頭を下げ合う二人。それぞれの背後では女性が深い深い溜息をついた。
学校が終わって、いつものようにバイト先に向かう。「未来製作無限会社」と書かれたドアを開けると、昨日とは異なりいつものメンバーが揃っていた。「遅い!!あんたが早く来ないと小腹が空いて仕方ないんだからね。もっと早く来なさい。」
クジコさんがいつもの無茶を言う。
「まぁまぁ、健人くんも大急ぎで来てくれているんだから。」
いつの間にか、事務員さんがお茶を入れてくれている。横に置かれたお茶請けは京都の銘菓だ。「いつもありがとうございます。」とお礼を言いながら着席する。ふと机上を見ると、カードが一枚置かれていた。
「これ、なんですか?」
「タロット・カードのメジャーアルカナ。“ザ・フール”よ。」
昨晩、ワタルさんから“ジョーカー”というコードネームをいただいたオレは、そのカードの意味がわからず、きょろきょろするばかりだった。
日本は宇宙人に侵略されました。 “虫”退治が始まります。
今回もご訪問いただき、ありがとうございます。
引っ越しの準備でてんやわんやですが、書けるときに少しでも話を進めていこうと思っています。
「お気に入り」「評価」お願いいたします~私にエネルギーを…!!




